第6節 バックエンドプロセス加速化に向けた取組
1.核燃料サイクルの推進に向けた取組
2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」でも示されているとおり、日本では、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針としています。核燃料サイクルに関する諸課題は、短期的に解決できるものではなく、中長期的な対応を必要とします。また、技術の動向、エネルギー需給、国際情勢等の様々な不確実性に対応する必要があることから、対応の柔軟性を持たせることも重要です。
〈具体的な主要施策〉
(1)六ヶ所再処理工場・MOX燃料工場の竣工に向けた取組
核燃料サイクルの中核となる日本原燃の六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場については、安全性の確保を大前提に、関係事業者による支援も受けながら、施設の竣工と操業に向けた準備を官民一体となって進めています。
六ヶ所再処理工場については、2006年3月より実際の使用済燃料を用いた最終的な総合試験(アクティブ試験)を開始し、2013年5月に、使用前事業者検査を除く全ての試験を終了しました。また、2013年12月に施行された新規制基準に適合する必要があることから、日本原燃は、2014年1月に原子力規制委員会に対して再処理事業の変更許可申請を行い、2020年7月に許可を取得しました。さらに、2022年12月には、再処理施設に関する「設計及び工事の計画の変更」(第1回)の認可を取得し、「設計及び工事の計画の変更」(第2回)の申請を行いました。
MOX燃料工場については、2010年10月に着工しました。その後、東日本大震災の影響により、建設工事を一時中断していましたが、2012年4月から工事を再開しました。また、2013年12月に施行された新規制基準に適合する必要があることから、日本原燃は、2014年1月に原子力規制委員会に対して加工事業の変更許可申請を行い、2020年12月に許可を取得しました。さらに、2022年9月には、MOX燃料加工施設に関する「設計及び工事の計画の変更」(第1回)の認可を取得しており、建屋の建設が進行するとともに、完成した階層への大型機器の搬入が進められています。
2024年1月に開催した第7回使用済燃料対策推進協議会では、齋藤経済産業大臣から、「核燃料サイクルの中核である六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場の竣工と、その安定操業の実現は極めて重要」との発言があり、日本原燃に対しては、再処理工場の竣工に向けて全力で取り組むよう要請し、電力各社に対しては、業界全体として、メーカーやゼネコンを含むオールジャパンの体制の下、さらなる人材確保を進める等、あらゆる面から日本原燃へのさらなる支援強化に取り組んでいただくよう要請しました。
(2)プルサーマルの推進に向けた取組
2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、「平和的利用を大前提に、核不拡散へ貢献し、国際的な理解を得ながら取組を着実に進めるため、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持し、プルトニウム保有量の削減に取り組む」としています。これを実効性のあるものとするため、2018年7月に原子力委員会で決定された「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」を踏まえ、プルトニウムの回収と利用のバランスを十分に考慮しつつ、2016年に新たに導入した再処理等拠出金法の枠組みに基づく国の関与等により、プルトニウムの適切な管理と利用を行っています。
電気事業連合会は、2020年12月に、基本的なプルサーマル導入の方針を示す「新たなプルサーマル計画」を公表しました。この中では、地元理解を前提に、稼働する全ての原子力発電所を対象にプルサーマルの導入に向けた検討を進め、2030年度までに少なくとも12基の原子力発電所においてプルサーマルの実施を目指す計画が示されました。さらに、電気事業連合会は、2022年12月に、プルサーマル計画の推進に係るアクションプランを「プルサーマル計画の推進に係る取組の強化について」として公表し、地元理解に向けた取組や事業者間の連携・協力を進めることで、プルサーマル実施に向けた取組を強化しています。具体的には、地元理解に向けた各社の取組の情報共有や知見の共有、自社で保有するプルトニウムは自社の責任で消費することを前提に事業者間でプルトニウムを交換すること等を計画的に進めています。
また、国としても、プルサーマルを新たに推進する自治体向けの支援策として、2023年6月に「プルサーマル交付金」を創設しました。
(3)使用済燃料対策
今後も安定的かつ継続的に原子力発電を利用していく上で、使用済燃料の貯蔵能力の拡大は重要な政策課題となっています。政府では、2015年10月の最終処分関係閣僚会議において、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」を策定しました。このアクションプランに基づき、原子力事業者は「使用済燃料対策推進計画」を策定し、2020年代半ばには計4,000トン程度、2030年頃には計6,000トン程度の使用済燃料の貯蔵容量を確保することを目指しています(2015年11月計画策定、2024年1月改訂)。
また、2024年1月には、第7回使用済燃料対策推進協議会を開催し、齋藤経済産業大臣から事業者に対して、使用済燃料対策等について要請を行いました。
①使用済燃料の貯蔵能力拡大に向けた取組
2015年10月に策定した「使用済燃料対策に関するアクションプラン」に基づき、貯蔵能力の拡大に向けた具体的な取組が進展しています。
2020年の秋以降、四国電力伊方発電所や九州電力玄海原子力発電所の発電所構内における乾式貯蔵施設が、原子力規制委員会から規制基準に基づく許可を取得しました。また、2023年8月にリサイクル燃料貯蔵は、建設を進めているむつ中間貯蔵施設について、原子力規制委員会から保安規定の変更認可を取得しました。2024年1月にリサイクル貯蔵燃料は、むつ中間貯蔵施設の貯蔵計画を原子力規制委員会に提出し、2024年度上期の事業開始を念頭に、準備を進めています。
さらに、2023年8月には、中国電力が山口県上関町において、中間貯蔵施設の立地可能性調査を開始しました。2024年2月には、東北電力が宮城県並びに女川町、石巻市に対して、東北電力女川原子力発電所2号機における乾式貯蔵施設の設置に係る事前協議の申入れを行いました。
②使用済MOX燃料の処理・処分に向けた取組
2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、使用済MOX燃料の処理・処分について、「使用済MOX燃料の発生状況とその保管状況、再処理技術の動向、関係自治体の意向などを踏まえながら、引き続き2030年代後半の技術確立を目途に研究開発に取り組みつつ、検討を進める」としています。
2023年5月3日には、西村経済産業大臣がフランスのパニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣と会談を行い、使用済MOX燃料の再処理に係る技術協力についての合意を含む、日本とフランスの協力関係をさらに深めるための共同声明に署名しました。こうした状況を踏まえ、同年5月19日に、電気事業連合会は、フランスにおいて使用済MOX燃料の再処理実証研究の実施に向けた取組を進めることを公表しました。
③放射性廃棄物の減容化に向けたガラス固化技術の基盤研究委託事業【2023年度当初:11.5億円】
2024年度までに、MOX燃料を含む様々な種類の使用済燃料の再処理により発生する放射性廃液を安定的かつ効率的にガラス固化する技術を確立することを目指し、ガラス原料の基礎特性の評価やガラス溶融炉のモニタリングの開発等を実施しました。さらに、使用済MOX燃料を安全かつ安定的に処理するため、施設の安全性や処理性能の向上を図るための基盤技術の開発にも取り組んでいます。
(4)核燃料サイクル政策の理解促進に向けた取組
2023年2月に閣議決定された「GX基本方針」や同年7月に閣議決定された「GX推進戦略」では、原子力について、「地域の実情を踏まえた自治体等の支援や避難道の整備など防災対策の不断の改善等による立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーションの深化・充実等に、国が前面に立って取り組む」とされました。
また、同年6月には原子力基本法が改正され、国の責務として、「原子力施設が立地する地域及び電力の大消費地である都市の住民をはじめとする国民の原子力発電に対する信頼を確保し、その理解と協力を得るために必要な取組並びに地域振興その他の原子力施設が立地する地域の課題の解決に向けた取組を推進する責務を有する」旨が明記されました。
これらを踏まえ、核燃料サイクル政策の理解促進を図るため、核燃料サイクル関連施設の立地地域等において、原子力を含むエネルギー政策、核燃料サイクルの意義や仕組み、核燃料サイクル関連施設の現状や安全対策、放射線の基礎知識等について、科学的根拠や客観的事実に基づく情報を提供しています。2023年度は、定期刊行物の発行や、地域住民が多く訪れる場所や各種イベントを活用した広聴・広報活動を実施しました。
また、核燃料サイクル施設や原子力発電所等の原子力施設が集中する青森県の立地地域において、国や立地自治体、事業者等が一体となり、地域と原子力施設が共生していく将来像について共に考え、共に築き上げていくための場として、2023年11月に「青森県・立地地域等と原子力施設共生の将来像に関する共創会議」を立ち上げました。この会議体を通じて、20年後から30年後を見据えた立地地域等の将来像と、その実現に向けた取組等について検討を深めていきます。
(5)高速炉サイクル技術の研究開発【2023年度当初:252.3億円】
高速炉サイクル技術の研究開発として、放射性廃棄物の減容化・有害度低減に資するため、マイナーアクチノイドの分離技術やマイナーアクチノイド含有燃料製造技術等の基盤的な研究開発に取り組みました。また、これまでの高速増殖原型炉もんじゅの研究開発で得られた知見を活かし、多国間協力や二国間協力による国際協力を進め、シビアアクシデント発生時の高速炉の安全性向上に向けた研究開発等に取り組みました。
2.廃炉の円滑化に向けた取組
日本では、2024年3月時点で、計24基の商業用原子炉が廃止措置中となっており、廃炉の安全かつ円滑な実施が重要な課題となっています。2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」でも示されているとおり、原子力事業者が能動的に取組を行う前提で、政府には、必要な制度措置を講じることが求められています。
2023年5月に成立したGX脱炭素電源法により、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(平成17年法律第48号)」が改正されました。これにより、「使用済燃料再処理機構」が行う業務に、全国の廃炉のマネジメント、廃炉に関する研究開発や設備調達等の共同実施、廃炉に必要となる資金の管理等の廃炉推進業務を追加し、機構の名称も「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」に改めることとしました。加えて、同機構が行う廃炉推進業務に必要な費用に充てるため、実用発電用原子炉設置者等に対し、廃炉拠出金を同機構に納付することを義務づけることとしました。政府では、2024年4月に施行されたこの新たな制度に基づき、日本の廃炉が円滑かつ着実に進むよう、使用済燃料再処理・廃炉推進機構や原子力事業者に対して、必要な指導・監督を行っていきます。
また、廃炉等に伴って生じる放射性廃棄物の処分については、発生者責任の原則の下、原子力事業者等が処分場確保に向けた取組を着実に進めることを基本としつつ、放射性廃棄物の処分の円滑な実現に向けて、政府としても、必要な研究開発を推進する等、安全確保のための取組を進めています。
加えて、クリアランス制度の確認を受けたもの(廃炉等に伴って生じる廃棄物のうち、放射性物質の放射能濃度が極めて低く、人の健康に対する影響が無視できるレベル以下のものであるとして、原子力規制委員会の確認を受けたもの)については、廃炉の円滑化や資源の有効活用の観点から、さらなる再利用先の拡大を推進するとともに、今後のフリーリリースを見据えて、クリアランス制度の社会定着に向けた取組を原子力事業者等と連携して進めています。
〈具体的な主要施策〉
低レベル放射性廃棄物の処分に関する技術開発委託費【2023年度当初:2.2億円】
原子力発電所の解体に伴って発生する低レベル放射性廃棄物のうち、放射能レベルが比較的高い廃棄物を対象とする中深度処分(地下70m以上の深さで実施)に関して、大規模な坑道や地下空洞型処分施設等を建設する上で必要な、岩盤にかかる圧力(地圧)の三次元的な分布を把握するための技術開発を継続しました。
また、クリアランス制度の社会定着に向けた取組として、建材加工を想定した資材等へのクリアランス金属の加工実証及びクリアランス金属の取扱いにおける留意事項の検討を行いました。
3.最終処分の実現に向けた取組
過去半世紀以上にわたって原子力を利用し、使用済燃料が既に存在している以上、高レベル放射性廃棄物等の最終処分は、必ず解決しなければならない重要な課題です。
日本では、原子力発電で使い終えた燃料を再処理してウランやプルトニウムを取り出し、再び燃料として使うこととしています。そして、この過程で残った廃液をガラス固化したもの(ガラス固化体)及び再処理の過程で発生するTRU廃棄物の一部については、人間の生活環境から長期間にわたって隔離するために、地下深くの安定した岩盤中に処分する「地層処分」をすることにしています(第346-3-1)。
【第346-3-1】高レベル放射性廃棄物の地層処分
【第346-3-1】高レベル放射性廃棄物の地層処分(ppt/pptx形式:264KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
2000年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成12年法律第117号)」(以下「最終処分法」という。)に基づき、高レベル放射性廃棄物等の最終処分の実施主体である「原子力発電環境整備機構」(NUMO:ニューモ)が設立されるとともに、文献調査・概要調査・精密調査の段階的な調査が定められました。
2013年12月には、高レベル放射性廃棄物の最終処分の問題について、将来世代に負担を先送りせず、国が前面に立って解決するべく、政府としての新たな取組方針を検討し、関係行政機関の緊密な連携の下、これを総合的かつ積極的に推進するため、「最終処分関係閣僚会議」を設置しました。2015年5月には、最終処分法に基づく「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」を改定(閣議決定)し、自治体からの応募を待つといったそれまでの方式を改め、地層処分に関する国民の関心や理解を深めるため、科学的により適性が高いと考えられる地域を提示する等、国が前面に立って取組を進めてきました。そうした中、2020年11月に、北海道の寿都町及び神恵内村において文献調査を開始しました。さらに、2024年4月には、佐賀県玄海町において、町内の団体から提出された文献調査への応募に関する請願が町議会で審議され、採択されました。そして、同年5月に経済産業省が玄海町に文献調査実施の申入れを行い、町長が当該申入れの受諾を表明しました。
こうした状況の中、文献調査プロセスの丁寧かつ着実な実施、文献調査の実施地域の拡大に向けた基本方針の改定(閣議決定)、最終処分事業の理解促進、研究開発、調査、国際連携等、最終処分の実現に向けた取組を進めています。
〈具体的な主要施策〉
(1)北海道寿都町及び神恵内村における文献調査プロセスの丁寧かつ着実な実施
北海道寿都町及び神恵内村における文献調査は、全国初の調査です。2023年11月には、NUMOによる文献調査報告書の作成の基礎となる「文献調査段階の評価の考え方」を、資源エネルギー庁がとりまとめました。この「文献調査段階の評価の考え方」は、資源エネルギー庁の審議会において、関連学会から推薦・紹介された専門家を中心に技術的・専門的な観点から議論を行い、土地利用制限等、経済社会的観点からの検討の考え方も整理してとりまとめた上で、パブリックコメントを経て、策定したものです。
2024年2月には、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会特定放射性廃棄物小委員会地層処分技術ワーキンググループにおいて、NUMOが作成した北海道寿都町及び神恵内村に関する文献調査報告書の原案が公表されました。このワーキンググループでは、文献調査報告書の原案が「文献調査段階の評価の考え方」に基づき適切に作成されているかについて、議論が進められています。
また、文献調査報告書の作成と並行して、2021年に文献調査の実施地域である北海道の2町村に設置された「対話の場」では、中立的な立場のファシリテーターの進行により、参加者の意向を尊重しつつ、公平性・中立性を担保しながら、対話活動に取り組んでいます。当初は、地層処分事業や文献調査の進捗状況等が主な議題となっていましたが、徐々に町や村の将来のまちづくりに関する議論も行われています。また、「対話の場」から派生した取組として、北海道幌延町の「幌延深地層研究センター」や青森県六ヶ所村の核燃料サイクル関連施設の視察、まちの将来に向けた勉強会、専門家を招いた住民向けシンポジウム等の活動も行われています。
(2)特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定
北海道寿都町及び神恵内村における文献調査の開始後、他の地域での調査実施に向けて、全国での対話活動等に取り組んできましたが、最終処分事業に関心を持つ地域が限定的であり、調査実施自治体が出てきていませんでした。
こうした中、文献調査の実施地域の拡大に向けて、2023年4月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」を改定(閣議決定)し、下記の取組を盛り込みました。
- 関係府省庁の連携体制を構築するとともに、国・NUMO・事業者による合同チームを新設し、少なくとも100以上の自治体を個別に訪問すること
- 関心や問題意識を有する自治体の首長等との協議の場を設置し、最終処分をはじめとする原子力を巡る課題と対応について、国と地域でともに議論・検討すること
- 従来の公募方式と市町村長への調査実施の申入れに加え、関心のある自治体の実情に応じて、地元の経済団体や議会等に対し、国から様々なレベルで段階的に、理解活動の実施や調査の検討等を申し入れること
- 文献調査の受入自治体や関心を持つ自治体に対して、政府一丸となった支援体制を構築すること 等
(3)最終処分事業の理解促進に向けた取組等
多くの方々に最終処分事業への理解を深めていただくため、全国各地での対話型全国説明会の開催、自治体向けの説明会の開催等の対話活動に取り組んでいます。2023年4月に改定した「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」に基づく取組強化策として、文献調査の対象地域や関心地方公共団体等の関心や意向を的確に受け止め、関係府省庁の連携の下、当該地域の将来の持続的な発展に向けて取り組むため、同年5月に「関係府省庁連絡会議」を設置及び開催しました。さらに、同年6月には、地域ブロック(北海道、東北、関東、中部、北陸、近畿、中国、四国、九州・沖縄)ごとに、「地方支分部局連絡会議」を設置及び開催しました。今後、この連絡会議の場等を活用しながら、関係機関の連携を図っていきます。
また、国・NUMO・事業者による合同チームを地域ブロックごとに新設し、同年7月から全国の自治体を個別訪問する全国行脚を開始しました。その後、2024年3月末時点で計102市町村の首長を訪問し、当面の目標としていた100自治体を達成しました。さらに、47都道府県の東京事務所長や全国原子力発電所所在市町村協議会の担当課長に対し、最終処分に関する最新情報の提供や、全国行脚への理解と協力のお願いに関する説明を行いました。全国の町・村等に毎週発行されている全国町村会の週報においても、最終処分関連の情報発信を行いました。
加えて、地層処分事業が長期にわたる事業であることを踏まえ、次世代層の関心喚起のための広報活動を実施しました。具体的には、大学生が主体となって同世代への理解促進を図る「ミライブプロジェクト」、次世代層を対象にしたシンポジウム「大切なエネルギーと紡ぐ私たちの未来〜どこかの誰かだけの問題じゃない地層処分〜」、文献調査実施自治体と他の原発立地自治体等の高校生の交流事業を実施しました。
(4)研究開発及び調査に関する取組
1999年に核燃料サイクル開発機構(現在の日本原子力研究開発機構(以下「JAEA」という。))が公表した「地層処分研究開発第2次取りまとめ」では、日本においても、地層処分を事業化の段階に進めるための信頼性のある技術基盤が整備されたことが示されました。その後も、引き続き、地層処分事業の技術的信頼性のさらなる向上を図るための技術開発を行ってきており、2018年11月には、NUMOが、どのようにサイト選定の調査を進め、安全な処分場の設計・建設・操業を行い、閉鎖後の長期にわたる安全性を確保しようとしているのかについて、これまでに蓄積されてきた科学的知見や技術を統合して包括的に説明し、事業者の立場から技術的取組の最新状況を示すことを目的に、「包括的技術報告書(レビュー版)」を公表しました。その後、2019年12月に公表された日本原子力学会の「NUMO包括的技術報告書レビュー特別専門委員会」によるレビュー結果を受け、2021年2月に、NUMOは包括的技術報告書の改訂版を公表しました。さらに、同年11月からは、同時期に公表された包括的技術報告書本編の英語版に対する経済協力開発機構原子力機関(以下「OECD/NEA」という。)による国際レビューが行われ、2023年1月にその結果が公表されました。NUMOでは、地層処分研究開発調整会議が同年3月に策定した「地層処分研究開発に関する全体計画(令和5年度〜令和9年度)」で示された研究開発項目を踏まえ、文献調査の着実な実施、地層処分技術の継続的な信頼性向上等を目的とした技術開発を進めています。
また、資源エネルギー庁では、「地層処分研究開発に関する全体計画(令和5年度〜令和9年度)」に基づき、地下数十kmのマグマの分布を把握するための技術開発や、処分場閉鎖後に坑道が水みちにならないように埋め戻すための技術開発、廃棄体の回収可能性を確保するための技術開発、廃棄体-人工バリア-岩盤-生活圏土壌における核種移行の現象理解に関する技術開発等を2023年度に実施しました。
①高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発委託費【2023年度当初:37.0億円】
高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術の信頼性と安全性のより一層の向上を目指すため、火山や断層、地震等の自然事象の影響を評価する技術、沿岸部の地質環境調査や設計手法に関する技術、処分施設の施工・操業に関する技術、人工バリアの長期的な挙動や放射性核種の移行を評価する技術、直接処分等の代替処分オプション技術に関する研究開発を実施しました。
②放射性廃棄物共通技術調査等委託費【2023年度当初:2.2億円】
放射性廃棄物の処分については、諸外国においても、処分地の選定や処分方法の検討等、日本と共通する課題を抱えていることから、それぞれの国で行われている調査・分析・研究開発等の内容や動向を調査しました。また、放射性廃棄物の処分に関する研究者・技術者の人材確保・育成の一環として、公募型の研究開発や、効果的な人材育成プログラムの構築を実施しました。
③深地層の研究施設を使用した試験研究成果に基づく当該施設の理解促進事業費補助金【2023年度当初:1.6億円】
深地層の研究施設を活用した成果を通じて地域に貢献し、深地層研究に対する地域の理解を促進するため、深地層の研究施設を有効に活用した学術的研究として、堆積岩中の微生物に関する研究、微生物の働きによりCO2をCH4(メタン)に変換する技術の開発等を実施しました。
(5)国際連携に関する取組
最終処分の実現は、原子力を利用する全ての国にとって共通の課題であり、長い年月をかけて地層処分に取り組む各国政府との国際協力を強化することが重要です。こうした観点から、2019年6月のG20軽井沢大臣会合において、世界の原子力主要国政府が参加する初めての「国際ラウンドテーブル」を立ち上げることについて合意しました。同年10月と2020年2月には、「最終処分に関する政府間国際ラウンドテーブル」が開催され、最終処分に関連する政府の役割、国民理解活動、研究開発、各国が重視する考え方やベストプラクティス、国際協力を強化すべき分野等について、活発な議論が行われました。
また、国際ラウンドテーブルの報告書において掲げられた、国際協力を強化すべき分野の具体化に向けた議論を行う場として、2022年11月に、「国際ワークショップ」をJAEAの幌延深地層研究センターで開催しました。このワークショップでは、各国の現状についての情報交換に加え、地下研究所を活用した協力体制のあり方について、パネルディスカッション及びグループ討議を通じて議論しました。
さらに、こうした議論と並行して、JAEAは、OECD/NEAの協力を得て、幌延深地層研究センターを活用した国際共同プロジェクトを2023年2月に立ち上げました。このプロジェクトには、日本をはじめ、豪州、ブルガリア、ドイツ、韓国、ルーマニア、台湾、英国の11の機関が参加しています。このプロジェクトにより、国内外の機関で協力しながら、地層処分技術に関する国際的に関心の高い項目についての研究開発の成果を高めていくとともに、次世代を担う国内外の技術者を育成することを目指します。