第1節 エネルギー需給の概要
1.エネルギー消費の動向
高度経済成長期に、日本の最終エネルギー消費は国内総生産(GDP)よりも高い伸び率で増加しました。しかし、1970年代の二度の石油危機を契機に、製造業を中心に省エネルギー(以下「省エネ」という。)が推進されるとともに、省エネ型製品の開発も盛んになり、こうした努力の結果、エネルギー消費を抑制しながら経済成長を果たしてきました。その後、1990年代には原油価格が低水準で推移する中で、家庭部門、業務他部門を中心にエネルギー消費は増加しましたが、2000年代半ば以降は再び原油価格が上昇したこともあり、2005年度をピークに最終エネルギー消費は減少傾向にあります。2021年度は新型コロナ禍からの経済回復等により、実質GDPが2020年度比で2.6%増加し、最終エネルギー消費は同1.6%増加しました。
部門別のエネルギー消費を見ると、1973年度から2021年度までの伸びは、企業・事業所他部門が0.9倍(産業部門10.8倍、業務他部門2.0倍)、家庭部門が1.8倍、運輸部門が1.5倍となりました。企業・事業所他部門では第一次石油危機以降、経済成長する中でも製造業を中心に省エネが進んだことから同程度の水準で推移した一方、家庭部門・運輸部門ではエネルギー利用機器や自動車等の普及が進んだことから、大きく増加しました。その結果、日本の最終エネルギー消費に占める企業・事業所他、家庭、運輸の各部門のシェアは、第一次石油危機当時の1973年度の74.7%、8.9%、16.4%から、2021年度には63.5%、14.6%、21.9%へと変化しました(第211-1-1)。
【第211-1-1】最終エネルギー消費と実質GDPの推移
(注1)J(ジュール)=エネルギーの大きさを示す単位。1EJ(エクサジュール)=1018J=0.0258×109原油換算kl。
(注2)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降の数値について算出方法が変更されている3。
(注3)産業部門は農林水産鉱建設業と製造業の合計。
(注4)1979年度以前のGDPは日本エネルギー経済研究所推計。
【第211-1-1】最終エネルギー消費と実質GDPの推移(xls/xlsx形式85KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」、内閣府「国民経済計算」、日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」を基に作成
日本のエネルギー効率(GDP1単位を生み出すために必要な一次エネルギー供給量)の推移を見ると、1973年度の70PJ2/兆円から、2021年度には35PJ/兆円に半減する等、大きく改善していることもわかります(第211-1-2)。
【第211-1-2】実質GDPとエネルギー効率(一次エネルギー供給量/実質GDP)の推移
(注1)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降の数値について算出方法が変更されている。
(注2)1979年度以前のGDPは日本エネルギー経済研究所推計。
【第211-1-2】実質GDPとエネルギー効率(一次エネルギー供給量/実質GDP)の推移(xls/xlsx形式24KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」、内閣府「国民経済計算」を基に作成
COLUMN
日本のエネルギーバランス・フロー概要
日本ではエネルギーがどのように供給、消費されているかについて、大きな流れを見てみましょう。エネルギーは、生産されてから使用されるまでの間に様々な段階、経路を経ています。具体的には、原油、石炭、天然ガス等のエネルギーが生産され、電気や石油製品等に形を変える発電・転換部門(発電所、石油精製工場等)を経て、私たちが最終的に消費するという流れになっています。この際、発電・転換部門で生じるロスまでを含めた全てのエネルギー量を「一次エネルギー供給」といい、最終的に消費者が使うエネルギー量を「最終エネルギー消費」といいます。エネルギーが最終消費者に届くまでには発電や輸送中のロス等が生じるため、一次エネルギー供給からこれらのロスを差し引いたものが最終エネルギー消費になります。2021年度は、日本の一次エネルギー供給を100とすると、最終エネルギー消費は約66であり、約34が発電等の段階で損失していることになります。
一次エネルギー供給は、石油や天然ガス、石炭、原子力、太陽光、風力等といったエネルギーの元々の形態ですが、最終エネルギー消費では、私たちが最終的に使用する石油製品(ガソリン、灯油、重油等)や都市ガス、電力、熱等の形態に転換されています。一次エネルギーごとにその流れを見ると、原子力、再生可能エネルギー(以下「再エネ」という。)等は、その多くが電力に転換され、消費されました。一方、天然ガスについては、電力へ転換されるだけではなく、熱量を調整した都市ガスへも転換されており、都市ガスとしての消費も大きな割合を占めました。石油については、電力への転換の割合は比較的小さく、その殆どが石油精製の過程を経て、ガソリン、軽油等の輸送用燃料、灯油や重油等の石油製品、石油化学原料用のナフサ等として消費されました。石炭については、電力への転換及び製鉄に必要なコークス用原料としての使用が大きな割合を占めました(第211-1-3)。
【第211-1-3】日本のエネルギーバランス・フロー概要(2021年度)
(注1)本フロー図は日本のエネルギーの流れの概要を示すものであり、細かなものは表現していない。
(注2)「石油」は、原油、NGL・コンデンセートのほか、石油製品を含む。
(注3)「石炭」は、一般炭・無煙炭、原料炭のほか、石炭製品を含む。
【第211-1-3】日本のエネルギーバランス・フロー概要(2021年度)(xls/xlsx形式67KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
2.海外との比較
世界各国における1単位の国内総生産(GDP)を産出するために必要なエネルギー消費量の推移を見ると、日本は世界平均を大きく下回る水準を維持しています。2020年における日本の実質GDP当たりのエネルギー消費は、インド、中国の4分の1から3分の1程度の少なさであり、省エネが進んでいる欧州の主要国と比較しても遜色ない水準です。現在の日本のエネルギー利用効率が高いことがわかります(第211-2-1、第211-2-2)。
【第211-2-1】実質GDP当たりのエネルギー消費の主要国・地域比較
(注1)一次エネルギー消費量(石油換算トン)/実質GDP(千米ドル、2015年基準)。
(注2)出典が国際エネルギー機関(IEA)の表(IEA資料)については、IEAとの合意に基づいて提供されます。IEA資料の使用には、http://www.iea.org/terms/rightsにあるIEAの利用規約が適用されます。IEAの利用規約で許可されていないIEA資料の使用について、IEAから個別の許可を取得したい場合は、IEAのrights@iea.orgまでご連絡ください。本注記は、本グラフ以降のグラフについても同様です。
【第211-2-1】実質GDP当たりのエネルギー消費の主要国・地域比較(xls/xlsx形式47KB)
- 資料:
- IEA「World Energy Balances 2022 Edition」、World Bank「World Development Indicators」を基に作成
【第211-2-2】実質GDP当たりのエネルギー消費の主要国・地域比較(2020年)
(注)一次エネルギー消費量(石油換算トン)/実質GDP(米ドル、2015年基準)を日本=1として換算。
【第211-2-2】実質GDP当たりのエネルギー消費の主要国・地域比較(2020年)(xls/xlsx形式21KB)
- 資料:
- IEA「World Energy Balances 2022 Edition」、World Bank「World Development Indicators」を基に作成
3.エネルギー供給の動向
日本のエネルギー需要は、1960年代以降急速に増大しました。それ以前は、国産石炭が日本のエネルギー供給の中心を担っていました。その後、国産石炭が価格競争力を失う中で、日本の高度経済成長期をエネルギー供給の面で支えたのが、中東地域等で大量に生産されている石油でした。日本は、安価な石油を大量に輸入し、1973年度には一次エネルギー供給の75.5%を石油に依存していました。
しかし、1970年代の二度の石油危機によって、原油価格の高騰と石油供給断絶の不安を経験した日本は、エネルギーの安定供給を実現させるため、石油依存度を低減させ、石油に代わるエネルギーとして、原子力、天然ガス、石炭、再エネ等の開発を加速させていきました。その結果、一次エネルギー供給に占める石油の割合は、2010年度には40.3%と、第一次石油危機時(1973年度)の75.5%から大幅に低下し、その代替として、石炭(22.7%)、天然ガス(18.2%)、原子力(11.2%)の割合が増加することで、エネルギー源の多様化が図られました。
しかし、2011年に発生した東日本大震災とその後の原子力発電所の停止により、原子力に代わる発電燃料として化石エネルギーの消費が増え、減少傾向にあった石油の割合が、2012年度には44.5%まで上昇しました。その後は、発電部門で再エネの導入や原子力の再稼動が進んだこと等により、石油火力の発電量が減少傾向にあります。その結果、一次エネルギー供給に占める石油の割合は9年連続で減少しており、2021年度には1965年度以来最低の36.0%となりました(第211-3-1)。
【第211-3-1】一次エネルギー国内供給の推移
(注1)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値について算出方法が変更されている。
(注2)「再生可能エネルギー等(水力除く)」とは、太陽光、風力、バイオマス、地熱等のこと(以下同様)。
【第211-3-1】一次エネルギー国内供給の推移(xls/xlsx形式56KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
一次エネルギー供給に占める化石エネルギーの依存度を世界の主要国と比較すると、2020年の日本の依存度は88.9%でした。原子力の比率が高いフランスや、再エネの導入を積極的に進めているドイツ等と比べると高い水準です(第211-3-2)。
【第211-3-2】主要国の化石エネルギー依存度(2020年)
(注)化石エネルギー依存度(%)=(一次エネルギー供給のうち、原油・石油製品、石炭、天然ガスの供給)/(一次エネルギー供給)×100。
【第211-3-2】主要国の化石エネルギー依存度(2020年)(xls/xlsx形式20KB)
- 資料:
- IEA「World Energy Balances 2022 Edition」を基に作成
さらに、日本はその化石エネルギーの殆どを輸入に依存しているため、化石エネルギーの安定的な供給は日本にとって大きな課題です。特に石油については、1960年代後半から安定的な供給に向けた取組が進められた結果、中東への依存度が1980年代中頃にかけて減少に向かいました。しかしその後は、インドネシア、メキシコ等の非中東地域の石油生産国において国内需要が増えたことで石油の輸出が減少し、その結果、日本は再び石油の輸入を中東に頼らざるを得なくなりました。2010年度以降にロシアからの輸入が増える等、中東への依存が下がった時期もありましたが、2021年度の石油の中東依存度は92.5%と高いままです(第213-1-4「原油の輸入量と中東依存度の推移」参照)。
二次エネルギーである電気は、長期的には多くの分野で使う場面が増えており、1970年度には12.7%であった電力化率4は、右肩上がりに増加し、2020年度には27.2%に達しました。2021年度は新型コロナ禍からの経済回復により、最終エネルギー消費量は1.6%増加しましたが、電化率はほぼ横ばいでした(第211-3-3)。
【第211-3-3】電力化率の推移
(注1)電力化率(%)=電力消費/最終エネルギー消費×100。
(注2)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値について算出方法が変更されている。
【第211-3-3】電力化率の推移(xls/xlsx形式21KB)
- 資料:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
4.エネルギー自給率の動向
国民生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、自国内で確保できる比率をエネルギー自給率といいます。1960年度には石炭等の国産エネルギーで一次エネルギーの58.1%を賄えていましたが、日本では、高度経済成長期にエネルギー需要が大きくなる中で、供給側では石炭から石油への燃料転換が進み、石油が大量に輸入されるようになったこともあり、それ以降はエネルギー自給率が大幅に低下しました。
その後、原子力の導入等によりエネルギー自給率は改善傾向にありましたが、2011年以降は原子力の発電量が減少し、原子力の発電量がゼロになった2014年度のエネルギー自給率は、過去最低の6.3%にまで落ち込みました。2015年以降は、再エネの導入や原子力発電所の再稼動の進展によりエネルギー自給率は上昇を続け、2020年度は原子力の定期検査が長引き一時的に低下したものの、2021年度は再び上昇に転じ13.3%となりました(第211-4-1)。
【第211-4-1】一次エネルギー国内供給構成及び自給率の推移
(注1)IEAは原子力を国産エネルギーとしている。
(注2)エネルギー自給率(%)=国内産出/一次エネルギー供給×100。
【第211-4-1】一次エネルギー国内供給構成及び自給率の推移(xls/xlsx形式31KB)
- 資料:
- 1989年度以前はIEA「World Energy Balances 2022 Edition」、1990年度以降は資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
- 1
- 産業部門は農林水産鉱建設業と製造業の合計。
- 2
- 1PJ=1015J
- 3
- 旧総合エネルギー統計は、「エネルギー生産・需給統計」を中心に販売側の統計に基づいた算出が行われていましたが、政府統計の整理合理化対策の一環として石炭・石油製品の販売統計調査が2000年を最後に廃止されたこと等から、継続して作成することができなくなりました。このようなことから、新しい総合エネルギー統計では、石油等消費動態統計・家計調査報告や自動車燃料消費調査等の消費側の各種統計調査を中心とする算出方法に変更されています。よって、1990年度の前後の比較に当たっては留意する必要があります(以下「総合エネルギー統計」に係る比較についても同じです)。
- 4
- 最終エネルギー消費に占める電力消費の割合を示します。