第10章 戦略的な技術開発の推進
多くの資源を海外に依存せざるを得ないという、我が国が抱えるエネルギー需給構造上の脆弱性に対して、エネルギー政策が現在の技術や供給構造の延長線上にある限り、根本的な解決を見出すことは容易ではありません。さらに、パリ協定を踏まえた「地球温暖化対策計画」では、「我が国は、パリ協定を踏まえ、全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す。このような大幅な排出削減は、従来の取組の延長では実現が困難である。したがって、抜本的排出削減を可能とする革新的技術の開発・普及などイノベーションによる解決を最大限に追求するとともに、国内投資を促し、国際競争力を高め、国民に広く知恵を求めつつ、長期的、戦略的な取組の中で大幅な排出削減を目指し、また、世界全体での削減にも貢献していくこととする。」としています。
こうした困難な課題を根本的に解決するためには、革命的なエネルギー関係技術の開発とそのような技術を社会全体で導入していくことが不可欠となりますが、そのためには、長期的な研究開発の取組と制度の変革を伴うような包括的な取組が必要です。
一方、エネルギー需給に及ぼす課題は様々なレベルで存在しており、短期・中期それぞれの観点から、エネルギー需給を安定させ、安全性や効率性を改善していくことが、日々の生活や経済の基盤を形成しているエネルギーの位置付けを踏まえると、極めて重要な取組となります。
したがって、エネルギー関係技術の開発に当たっては、どのような課題を克服するための取組なのか、まずその目標を定めるとともに、開発を実現する時間軸と社会に実装化させていくための方策を合わせて明確化することが重要であるとの認識の下、そうした様々な技術開発プロジェクトを全体として整合的に進めていくための戦略をロードマップとして、「環境エネルギー技術革新計画(2013年9月総合科学技術会議決定)」等も踏まえつつ、「エネルギー関係技術開発ロードマップ」を2014年12月に策定しました。
また、2016年4月には、2030年のエネルギーミックスの実現を図るため、省エネルギー、再生可能エネルギーをはじめとする関連制度を一体的に整備する「エネルギー革新戦略」を策定するとともに、現状の温室効果ガスの削減努力を継続するだけでなく、抜本的な削減を実現するイノベーション創出が不可欠であるとの認識の下、2016年4月に「エネルギー・環境イノベーション戦略」を策定しました。さらに、本戦略において特定した有望な革新技術の研究開発の推進を図るため、2017年9月に技術ロードマップを策定・公表するとともに、優先的に取り組むべきボトルネック課題の抽出のための検討会を立ち上げ、温室効果ガスの抜本的な排出削減を実現するイノベーション創出に向けた取組を推進しました。
2018年7月に閣議決定した「エネルギー基本計画」においても、技術開発の推進の重要性等について明記されており、引き続き、技術開発に資する施策を推進していくこととしています。
<具体的な主要施策>
1.生産に関する技術における施策
(1)再生可能エネルギーに関する技術における施策
①洋上風力発電等のコスト低減に向けた研究開発事業
(再掲 第3章第4節 参照)
②福島沖での浮体式洋上風力発電システムの実証研究事業
(再掲 第3章第4節 参照)
③地熱発電技術研究開発事業
(再掲 第3章第4節 参照)
④バイオ燃料の生産システム構築のための技術開発事業
(再掲 第3章第4節 参照)
⑤太陽光発電のコスト低減に向けた技術開発事業
(再掲 第3章第4節 参照)
⑥再生可能エネルギー余剰電力対策技術高度化事業
(再掲 第3章第4節 参照)
(2)原子力に関する技術における施策
①廃炉・汚染水対策事業【2017年度補正175.6億円、2018年度補正165.2億円】
「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(2017年9月26日廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議決定)に基づき、廃炉・汚染水対策を進めていく上で、技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要のある研究開発を支援するとともに、廃炉作業に必要な実証・研究を実施するため、モックアップ試験施設や放射性物質の分析・研究施設の整備・運用を進めました。
②発電用原子炉等安全対策高度化事業
(再掲 第4章第3節 参照)
③高速増殖炉サイクル技術の研究開発
(再掲 第4章第4節 参照)
④高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発【2018年度当初:15.3億円】
水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発を推進しました。具体的には、JAEAが所有する高温工学試験研究炉(HTTR)の運転再開に向けた準備を進めるとともに、水素製造に関する要素技術開発を推進しました。また、2017年5月にJAEA及びポーランド国立原子力研究センター間で締結された「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」に基づき、高温ガス炉の設計、材料、安全評価等に関する協力を推進しました。
⑤ITER計画をはじめとする核融合に関する研究開発の推進【2018年度当初:219.4億円】
核融合エネルギーは、エネルギー問題と環境問題の根本的な解決をもたらす将来のエネルギー源として大いに期待されています。我が国の核融合研究開発は、国際協力を効率的に活用しながら、量子科学技術研究開発機構(QST)、核融合科学研究所、大学等が、相互に連携・協力して推進しています。
国際熱核融合実験炉(ITER)計画は、核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性の実証を目指した国際共同研究開発プロジェクトであり、現在、日本、EU(ユーラトム:欧州原子力共同体)、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7つの国と地域によって進めています。また、ITER計画を補完・支援する先進的研究開発プロジェクトとして、幅広いアプローチ(BA)活動を日欧協力により、我が国で実施しています。
両事業において、我が国は調達を担当する機器の製作を進めるとともに、核融合の最先端研究開発などを本格的に進めています。
核融合分野における二国間協力では、米国、EU(ユーラトム)、韓国、中国と核融合研究協力の実施取決めの下、年に1度会議を開催し、両国における研究交流活動について議論しています。また、多国間協力では、IAEAやIEAにおける各種国際会議へ参画するとともに、8つのIEA実施取決めの下、積極的に研究協力や研究者の交流を実施しています。
(3)化石燃料・鉱物資源に関する技術における施策
①メタンハイドレート開発促進事業
(再掲 第1章第3節 参照)
②海底熱水鉱床採鉱技術開発等調査事業
(再掲 第1章第3節 参照)
2.流通に関する技術における施策
(1)革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発
(再掲 第2章第1節 参照)
(2)大型蓄電システム緊急実証事業費補助金
(再掲 第3章第4節 参照)
3.消費に関する技術における施策
(1)産業部門に関する技術における施策
環境調和型製鉄プロセス技術開発
(再掲 第2章第1節 参照)
(2)運輸部門に関する技術における施策
輸送機器の抜本的な軽量化に資する新構造材料等の技術開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
(3)消費全般に関する技術における施策
①高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
②超低消費電力型光エレクトロニクスの実装に向けた技術開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
③省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発
大きな省エネ効果が期待される窒化ガリウム(GaN)等の次世代半導体を用いたパワーデバイス等の2030年の実用化に向け、理論・シミュレーションも活用した材料創製からデバイス・システム応用までの次世代半導体に係る研究開発を一体的に推進しました。
④未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業【2018年度当初:25.0億円】
本事業では、民生・業務部門を中心にライフスタイルに関連の深い多種多様な電気機器(照明、パワコン、サーバー、動力モーター、変圧器、加熱装置等)に組み込まれている各種デバイスを、高品質GaN(窒化ガリウム)半導体素子を用いることで高効率化し、徹底したエネルギー消費量の削減を実現するための技術開発及び実証を行っています。2018年度には、マイクロ波を選択的にターゲットに照射できる省エネ電子レンジの開発・実証等を行いました。
4.水素に関する技術における施策
水素利用技術研究開発事業
(再掲 第8章第3節 参照)