第3節 “水素社会”の実現に向けた取組の加速
水素は、我が国の一次エネルギー供給構造を多様化させ、大幅な低炭素化を実現するポテンシャルを有する手段です。2017年4月に開催された「第1回再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」における安倍首相からの指示をふまえ、産学官の有識者から構成される「水素・燃料電池戦略協議会」における議論等を経て関係府省庁が案を取りまとめ、水素基本戦略として、同年12月に開催された「第2回再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」で決定されました。
水素基本戦略は、個別技術の導入・普及に係る既存の水素・燃料電池戦略ロードマップの内容を内包しつつ、水素を脱炭素化エネルギーの新たな選択肢として位置づけ、政府全体として施策を展開していくための方針です。世界に先駆けて水素社会を実現するため、水素基本戦略や水素・燃料電池戦略ロードマップに基づき、供給・利用両面の取り組みを進めていきます。
水素の本格的な利活用のためには、水素をより安価で大量に調達することが必要となります。このため、海外の褐炭や原油随伴ガス等の未利用エネルギーを水素化し、国内に輸送する国際水素サプライチェーンの実証を進めています。また、大量に水素を消費する水素発電については、2018年1月より神戸市において実証を開始し、同年4月には市街地における水素燃料100%のガスタービン発電による熱電供給を世界で初めて達成しました。更に、高効率な水素ガスタービンの燃焼技術等の開発も進められています。また、再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化に資する技術として、太陽光発電といった自然変動電源の出力変動を吸収し、水素に変換・貯蔵するPower-to-gas技術が注目されており、2018年7月には浪江町において、再生可能エネルギーを利用した世界最大級となる1万kWの水素製造装置を備えた水素エネルギーシステム「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の建設工事を開始しました。このほか、未利用となっている国内の地域資源(再生可能エネルギー、副生水素、使用済みプラスチック、家畜ふん尿等)から製造した水素を地域で利用する低炭素な水素サプライチェーン構築の実証等も進めています。
モビリティでの水素利用については、2013年から燃料電池自動車の市場投入に向けた水素ステーションの先行整備が開始され、2019年3月末までに約100箇所の水素ステーションが開所しました。2018年2月には、自動車会社やインフラ事業者、金融投資家など水素関係企業の協力の下、水素ステーションの戦略的整備を進めるための新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)」を設立し、2018年度から2021年度の4年間で80箇所の水素ステーションの整備を目指しています。燃料電池自動車については、2014年12月に国内初の市販が開始されたことに続き、2016年3月には2車種目の燃料電池自動車の販売が開始され、我が国では世界に先駆けて市場展開が進んでいます。更に、2016年度には燃料電池バス及び燃料電池フォークリフトが市場投入されました。今後は、燃料電池自動車や水素ステーションの普及に向け、低コスト化に向けた技術開発や、規制の見直し、水素ステーションの戦略的整備を三位一体で進めるとともに、燃料電池バス及び燃料電池フォークリフトの導入拡大、トラック等の大型車両や船舶、鉄道車両など、他のアプリケーションの燃料電池化に向けた取り組みを進めていきます。
また、2009年に世界に先駆けて市場投入された家庭用燃料電池(エネファーム)については、技術開発によるコスト低減や性能向上、導入支援による普及初期の市場の確立などを通じて、2019年3月には約27.1万台が普及しました。2017年に市場投入された業務・産業用燃料電池についても導入支援による普及を図るとともに、発電効率向上に向けた機器開発、実装を進めていきます。
さらに、水素がビジネスとして自立するためには国際的なマーケットの創出が重要です。そこで、2018年10月に経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催して、世界で初めて水素社会の実現をメインテーマとした閣僚レベルが議論を交わす「水素閣僚会議」を東京で開催しました。21の国・地域・機関から閣僚等が集まり、水素に関する国際連携の重要性やグローバルな水素利活用に向けた政策の方向性を共有するとともに、その成果を議長を務めた世耕経済産業大臣より「Tokyo Statement(東京宣言)」として発出しました。今後はTokyo Statementに基づいて各国と連携を進めていきます。
2019年2月には、新たに水素・燃料電池戦略ロードマップを策定(改定)しました。水素基本戦略や第5次エネルギー基本計画で掲げた目標の実現に向けて、必要な要素技術のスペック及びコスト内訳を明確化するとともに、今後実行すべきアクションプランを記載しています。定期的なフォローアップを実施し、水素社会実現に向けた取組を着実に進めていきます。
<具体的な主要施策>
1.クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金
(再掲 第2章第1節 参照)
2.燃料電池の利用拡大に向けたエネファーム等導入支援事業費補助金【2018年度当初:76.5億円】
省エネルギー及びCO2削減効果が高い家庭用燃料電池(エネファーム)のさらなる普及の促進を図るため、設置者に対し導入費用の補助を行いました。その際、エネファームの早期の自立的市場の確立を目指すべく、事業者に機器価格の低減を促す補助スキームを導入しています。また2017年から、業務・産業用燃料電池の導入費用の補助も開始しました。
3.次世代燃料電池の実用化に向けた低コスト化・耐久性向上等のための研究開発事業【2018年度当初:29.0億円】
固体高分子形燃料電池(PEFC)及び固体酸化物形燃料電池(SOFC)のさらなる普及拡大に向けて、高効率・高耐久・低コストの燃料電池システムを実現可能とする技術開発を行うとともに、大量生産可能な生産プロセス及び品質管理等の技術開発、業務・産業用燃料電池の技術実証を行いました。
4.超高圧水素技術等の社会実装に向けた低コスト化・安全性向上等のための研究開発事業【2018年度当初:24.0億円】
水素ステーション整備・運営等のコスト低減に向け、金属の代わりに炭素繊維を用いた複合容器の開発や、低コスト鋼材の使用の前提となる性能や安全性に関する評価・検査手法の開発などを行いました。
5.燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金【2018年度当初:56.0億円】
燃料電池自動車の普及促進のため、四大都市圏を中心に民間事業者等の水素ステーション整備費用及び水素ステーションを活用した燃料電池自動車の新たな需要創出等に必要な活動費用の補助を行いました。
6.未利用エネルギーを活用した水素サプライチェーン構築実証事業【2018年度当初:89.3億円】
水素サプライチェーンの構築に向けて、海外の未利用エネルギーを活用して水素を製造し、当該水素を安価で安定的に供給する輸送手段の実証を行うとともに、将来の水素利用形態である水素発電に係る技術実証や再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化に資する技術として、太陽光発電等の自然変動電源の出力変動を吸収し、水素に変換・貯蔵するPower-to-gas技術の実証を実施しました。
7.水素エネルギー製造・貯蔵・利用に関する先進的技術開発事業【2018年度当初:9.0億円】
水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発や、大規模化・高効率化を目指したエネルギーキャリア転換・貯蔵技術開発、低NOxな水素専焼発電技術等を行いました。
8.再エネ等を活用した水素社会推進事業【2018年度当初:34.8億円】
地方自治体との連携による再生可能エネルギー、未利用エネルギー(家畜ふん尿、使用済プラスチック、副生水素)等の地域資源を活用した低炭素な水素サプライチェーンの実証等を行いました。
9.CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業【2018年度当初:65.0億円の内数】
早期の社会実装を目指したエネルギー起源CO2の排出を抑制する技術の開発及び実証事業として、高密度・高出力の燃料電池を搭載した産業車両、燃料電池小型トラック、安価な水素吸蔵合金などの技術開発・実証を行いました。
10.戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)エネルギーキャリア【2018年度当初:28.5億円】
水素社会の早期実現に向けて、水素を効率的に輸送・貯蔵・利用するためのアンモニア関連技術の開発等を行い、太陽光発電と水電解により製造した再生可能エネルギー由来の水素を原料としたCO2フリーアンモニアの製造、およびそのアンモニアを用いた発電から成る世界初のCO2フリーアンモニアバリューチェーンのモデル実証を行いました。
11.未来社会創造事業(大規模プロジェクト型)【2018年度当初:55.0億円の内数】
水素発電、余剰電力の貯蔵、輸送手段等の水素利用の拡大に貢献する高効率・低コスト・小型長寿命な革新的水素液化技術の研究開発を開始しました。