第10章 戦略的な技術開発の推進
多くの資源を海外に依存せざるを得ないという、我が国が抱えるエネルギー需給構造上の脆弱性に対して、エネルギー政策が現在の技術や供給構造の延長線上にある限り、根本的な解決を見出すことは容易ではありません。さらに、その多くがエネルギーに由来する温室効果ガスの排出量を大幅に抑制することを同時的に達成していくことも求められています。
こうした困難な課題を根本的に解決するためには、革命的なエネルギー関係技術の開発とそのような技術を社会全体で導入していくことが不可欠となりますが、そのためには、長期的な研究開発の取組と制度の変革を伴うような包括的な取組が必要です。
一方、エネルギー需給に及ぼす課題は様々なレベルで存在しており、短期・中期それぞれの観点から、エネルギー需給を安定させ、安全性や効率性を改善していくことが、日々の生活や経済の基盤を形成しているエネルギーの位置付けを踏まえると、極めて重要な取組となります。
したがって、エネルギー関係技術の開発に当たっては、こうした多面的な視点を踏まえて、課題を達成する目標、開発を実現する時間軸と社会に実装化していくための方策を戦略的に設定し、推進していくことが必要です。
2014年4月に閣議決定された第4次エネルギー基本計画では、①我が国エネルギー需給構造の脆弱性の解決には、革命的なエネルギー関係技術の開発と社会全体における導入のため、長期的研究開発と制度変革を伴う取組が必要、②エネルギー需給に影響を及ぼす課題は、日々の省エネルギー化や安全性改善等、様々なレベルで存在しており、短期・中期それぞれの観点から、エネルギー需給を安定させ、安全性や効率性を改善していく不断の取組が重要であるとしています。この基本的方向性を踏まえ、短期・中期・長期それぞれの観点から技術課題を俯瞰するとともに、③どのような課題の克服が目標とされる取組なのか、④開発を実現する時間軸と社会実装化のための方策といった観点を踏まえて、2014年12月にエネルギー関係技術ロードマップを策定しました。
長期的にはCOP21を前にした2015年11月26日の地球温暖化対策本部での安倍総理の指示に基づき策定された「エネルギー・環境イノベーション戦略」(平成28年4月19日総合科学技術・イノベーション会議)に基づき、2050年頃を見据えて世界全体で温室効果ガスの抜本的な排出削減を実現するイノベーションの促進をはかります。「エネルギー・環境イノベーション戦略」では、エネルギーシステム全体が最適化されることを前提に、システム統合技術や次世代パワーエレクトロニクス等のコア技術を柱として、現在は利用できていない深層の超臨界地熱資源を利用した次世代地熱発電、低コストで1回の充電で乗用車の走行距離700km以上を実現する次世代蓄電池など、温室効果ガス排出削減ポテンシャルやインパクトが大きな有望な分野を特定し、革新的技術の研究開発を重点的・集中的に進めていきます。
<具体的な主要施策>
1.生産に関する技術における施策
(1)再生可能エネルギーに関する技術における施策
①洋上風力発電等技術研究開発
(再掲 第3章第2節8. 参照)
②浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業
(再掲 第3章第2節12. 参照)
③地熱発電技術研究開発事業
(再掲 第3章第2節17. 参照)
④戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業
(再掲 第3章第3節19. 参照)
⑤太陽光発電システム維持管理及びリサイクル技術開発
(再掲 第3章第3節33. 参照)
⑥海洋エネルギー活用促進のための安全・環境対策
(再掲 第3章第3節38. 参照)
(2)原子力に関する技術における施策
①廃炉・汚染水対策事業
【2014年度補正:231.1億円、2015年度補正:156.5億円】
2015年6月に改訂された「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」に基づき、廃炉・汚染水対策を進めていく上で、技術的に難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要のある研究開発を支援するとともに、廃炉作業に必要な実証・研究を実施するため、モックアップ試験施設や放射性物質の分析・研究施設の整備・運用を進めました。
②発電用原子炉等安全対策高度化事業
(再掲 第4章第3節1.(1) 参照)
③高速増殖炉サイクル技術の研究開発
(再掲 第4章第4節2.(3) 参照)
④高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発【2015年度当初:12.7億円】
水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発を推進しました。具体的には、JAEAが所有する高温工学試験研究炉(HTTR)の運転再開に向けた準備を進めるとともに、水素製造に関する要素技術開発を推進しました。
また、2014年9月に文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力科学技術委員会高温ガス炉技術研究開発作業部会において取りまとめた報告書「高温ガス炉技術開発に係る今後の研究開発の進め方について」に基づき、2015年4月に「高温ガス炉産学官協議会」が発足し、高温ガス炉の実用化像やそれに向けた課題等について議論しています。
⑤ITER計画をはじめとする核融合に関する研究開発の推進(ITER計画及びBA活動に関する経費)【2015年度当初:220.7億円】
核融合エネルギーは、エネルギー問題と環境問題の根本的な解決をもたらす将来のエネルギー源として大いに期待されています。我が国の核融合研究開発は、国際協力を効率的に活用しながら、JAEA、核融合科学研究所、大学等が、相互に連携・協力して推進しています。
国際熱核融合実験炉(ITER)計画は、核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性の実証を目指した国際共同研究開発プロジェクトであり、現在、日本、EU(ユーラトム:欧州原子力共同体)、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7つの国と地域によって進めています。また、ITER計画を補完・支援する先進的研究開発プロジェクトとして、幅広いアプローチ(BA)活動を日欧協力により、我が国で実施しています。
両事業において、我が国は調達を担当する機器の製作を進めるとともに、核融合の最先端研究開発などを本格的に進めています。
核融合分野における二国間協力では、米国、EU(ユーラトム)、韓国、中国と核融合研究協力実施の取決めを結んでいます。また、多国間協力ではIEAにおいて8つの核融合協力実施取決めを結ぶとともにIAEAの核融合協力に関する活動にも積極的に参画する等、我が国は、世界そしてアジアの拠点として、研究協力や研究者の交流を実施しています。
(3)電力に関する技術における施策
①先進超々臨界圧火力発電実用化要素技術開発
(再掲 第5章第1節1.(1) 参照)
②高効率ガスタービン技術実証事業費
(再掲 第5章第1節1.(6) 参照)
(4) 化石燃料・鉱物資源に関する技術における施策
①低品位炭利用促進技術開発等事業
(再掲 第1章第2節(5) 参照)
②メタンハイドレート開発促進事業
(再掲 第1章第4節2. 参照)
③海底熱水鉱床採鉱技術開発等調査事業
(再掲 第1章第4節4. 参照)
2.流通に関する技術における施策
(1)革新型蓄電池先端科学基礎研究事業
(再掲 第2章第1節2.(28) 参照)
(2)大型蓄電システム緊急実証事業費補助金
(再掲 第3章冒頭3. 参照)
3.消費に関する技術における施策
(1)産業部門に関する技術における施策
①革新的低消費電力型インタラクティブディスプレイプロジェクト
(再掲 第2章第1節1.(18) 参照)
②環境調和型製鉄プロセス技術開発
(再掲 第2章第1節3.(12) 参照)
③重質油等高度対応処理技術開発委託費
(再掲 第5章第2節1.(3) 参照)
(2) 家庭・業務部門に関する技術における施策
①高効率ノンフロン型空調機器技術の開発
(再掲 第2章第1節1.(20) 参照)
③リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発
(再掲 第2章第1節2.(29) 参照)
(3)運輸部門に関する技術における施策
①高度道路交通システム(ITS)の推進
(再掲 第2章第1節2.(8) 参照)
②革新的新構造材料等技術開発
(再掲 第2章第1節2.(27) 参照)
(4)消費全般に関する技術における施策
①超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発
(再掲 第2章第1節1.(17) 参照)
②戦略的省エネルギー技術革新プログラム
(再掲 第2章第1節3.(6) 参照)
③次世代パワーエレクトロニクス技術開発プロジェクト
(再掲 第2章第1節3.(7) 参照)
④次世代エネルギー技術実証事業
(再掲 第2章第2節1. 参照)
4.水素に関する技術における施策
○水素利用技術研究開発事業
(再掲 第8章第3節4. 参照)