第4節 対策を将来へ先送りせず、着実に進める取組
1.高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組
(1)最終処分法に基づく基本方針の改定
高レベル放射性廃棄物の処分については、2000年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」に基づく処分事業の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)が、2002年から法定調査の受入れ自治体の公募を開始しましたが、現在に至るまで法定調査の最初の調査である文献調査の実施に至っていません。
【第344-1-1】高レベル放射性廃棄物の処分方法
こうした状況を反省し、2013年から、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)や最終処分関係閣僚会議において、最終処分に向けた取組の見直しについて議論を開始し、そうした議論を踏まえ、2015年5月、最終処分法に基づく基本方針を7年ぶりに改定(閣議決定)しました。改定のポイントは以下のとおりです。
基本方針改定のポイント
①現世代の責任と将来世代の選択可能性
- 廃棄物を発生させてきた現世代の責任として将来世代に負担を先送りしないよう、地層処分に向けた対策を確実に進める。
- 基本的に可逆性・回収可能性を担保し、将来世代が最良の処分方法を選択可能にする。幅広い選択肢を確保するため代替オプションを含めた技術開発等を進める。
② 全国的な国民理解、地域理解の醸成・最終処分事業の実現に貢献する地域に対する敬意や感謝の念や社会としての利益還元の必要性が広く国民に共有されることが重要。
- 国から全国の地方自治体に対する情報提供を緊密に行い、丁寧な対話を重ねる。
③国が前面に立った取組
- 国が科学的により適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を提示するとともに、理解活動の状況等を踏まえ、調査等への理解と協力について、関係地方自治体に申入れを行う。
④事業に貢献する地域に対する支援
- 地域の主体的な合意形成に向け、多様な住民が参画する「対話の場」の設置及び活動を支援する。
- 地域の持続的発展に資する総合的な支援措置を検討し、講じていく。
⑤推進体制の改善等
- 事業主体であるNUMOの体制を強化する。
- 信頼性確保のために、原子力委員会の関与を明確化し、継続的な評価を実施する。原子力規制委員会は、調査の進捗に応じ、安全確保上の考慮事項を順次提示する。
- 使用済燃料の貯蔵能力の拡大を進める。
【第344-1-2】高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定
(2)全国的な対話活動の実施
基本方針の改定後、地層処分の必要性や基本方針改定の背景・考え方等について広く全国の国民と対話活動を行うため、2015年5月から6月にかけ、地域ブロック毎に全国9 ヵ所でシンポジウムをNUMOとともに開催しました。また、こうした国民との対話活動とあわせて、全国の自治体にも情報提供を緊密に行うことを目的に、都道府県毎に説明会を開催しました。
同年10月には、当該一ヶ月を「国民対話月間」と定め、さらに広く国民の理解を得るべく全国的な対話活動を実施しました。具体的には、同年5月から6月にかけて実施したシンポジウムにおいて、地層処分の安全性や処分地選定の進め方に関する関心が多く寄せられたことを踏まえ、処分地に求められる適性や段階的な選定の進め方を中心のテーマとしたシンポジウムを改めて全国9 ヵ所で開催しました。
また、こうした大規模なシンポジウムとあわせて、全国の各地域に根ざした活動を行っているNPO法人等と連携し、地層処分に関する様々なテーマについてグループワークなどを行う、少人数規模のワークショップも実施しました。
こうした対話活動の実施を踏まえ、2015年12月に開催された最終処分関係閣僚会議において、今後の取組方針を以下のとおり決定しました。
(今後の取組方針)
① 地層処分の推進について、更に幅広い国民の理解と協力を得られるよう、関係行政機関の緊密な連携の下、国民理解の醸成、地域対応の充実、科学的有望地の検討を積極的に進める。
② 原子力委員会に体制を整え、上記の取組の進捗につき、評価を行う。
③ 上記①及び②を通じ、科学的有望地について、地層処分の実現に至る長い道のりの最初の一歩として国民や地域に冷静に受け止められる環境を整えた上で、2016年中の提示を目指す。
(3)科学的有望地の要件・基準等に関する議論
2014年9月に開催された最終処分関係閣僚会議における決定を踏まえ、国が提示する予定の科学的有望地の要件・基準等について、同年10月以降、地球科学的観点及び社会科学的観点の両面から、総合資源エネルギー調査会の下に設置された放射性廃棄物WG及び地層処分技術WGにおいて、専門家による議論を開始しました。
地層処分技術WGでは、地球科学的観点を中心とした安全性の観点から、①地下環境の安定性(埋設後長期の安定性)、②処分施設の安全性(建設・操業時の安全性)、③廃棄物の輸送時の安全性、について議論が進められ、2015年12月に中間整理が行われました。本中間整理については、学術的知見及び利用する文献・データの妥当性等について精緻化を進めるため、2016年1月から4月にかけ、関係学会に所属する会員等への説明・照会が行われました。
また、社会科学的観点の扱いについては、これまでの対話活動において様々な意見が出ていることを踏まえ、今後さらに対話活動を通じて国民の声を聴きつつ、放射性廃棄物WGにおいて慎重に検討することとしています。
【第344-1-3】科学的有望地の要件・基準に関する審議会での検討状況
(4) 放射性廃棄物の処分に関する調査・研究【2015年度当初:34.5億円】等
高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術の信頼性と安全性のより一層の向上を目指すため、海域における地質環境の評価技術開発や、深地層の研究施設等を活用した地質環境調査技術、操業技術等の工学技術及び安全評価技術の信頼性向上を図るとともに、TRU廃棄物処理・処分技術の高度化等を行いました。加えて、廃棄体の回収可能性の維持が安全性に与える影響調査や、使用済燃料を直接処分する際の技術的課題に関する調査研究等を行いました。また、原子力発電所の廃炉に伴い発生する低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分について、実物大の地下空洞を利用して、埋戻し等の閉鎖技術に関わる施工試験を実施し、施工された埋戻し材の初期性能や埋戻しに伴う周辺の岩盤への影響等について評価・検討を行いました。さらに、原子力発電所の解体により生じるクリアランスレベル以下の金属廃棄物の有効利用に向け、余裕深度処分で使用する廃棄物の容器として再利用するための調査・研究を行いました。
2.核燃料サイクル政策の推進
エネルギー基本計画において決定したとおり、我が国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本方針としています。
核燃料サイクルに関する諸課題は、短期的に解決するものではなく、中長期的な対応を必要とします。また、技術の動向、エネルギー需給、国際情勢等の様々な不確実性に対応する必要があることから、対応の柔軟性を持たせることが重要です。
<具体的な主要施策>
(1) 次世代再処理ガラス固化技術基盤研究事業【2015年度当初:8.0億円】
原子力発電所等の操業・廃止時の除染等により発生する低レベル放射性廃液等の組成にあったガラス固化技術の確立を目指し、各々の組成に対応した「ガラス」及び「ガラス溶融炉の運転制御技術」に関する試験等を実施しました。
(2) 高速炉等技術開発委託費【2015年度当初:46.1億円】
高速炉の高い安全性を実現するため、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)の枠組みによる国際協力の下での国際的な安全設計基準の策定に向けた取組を実施しました。また、放射性廃棄物の有害度の低減及び減容化等に資する高速炉の研究開発を、日仏間の国際協力(ASTRID 開発協力)を活用して実施しました。
(3) 高速増殖炉サイクル技術の研究開発【2015年度当初:291.6億円】
高速増殖炉サイクル技術については、放射性廃棄物の減容・有害度低減に資するため、マイナーアクチニドの分離技術やマイナーアクチニド含有燃料製造技術等の基盤的な研究開発に取り組みました。また、これまでの「もんじゅ」の研究開発で得られた知見を生かし、ASTRID開発へ協力するとともに、米国や仏国等との国際協力を進め、GIFの枠組みにおいて、シビアアクシデント発生時の高速増殖炉の安全性向上に向けた研究開発等に取り組みました。「もんじゅ」については、エネルギー基本計画に定められた方針に従い、実施体制の再整備等について対応を行いました。しかし、2015年11月に原子力規制委員会より日本原子力研究開発機構に代わる新たな運営主体を求めるなどの勧告を受け、有識者による「もんじゅの在り方に関する検討会」を開催し議論を進めています。「常陽」については、計測線付実験装置(MARICO-2)試料部の切り離し失敗によるトラブルからの復旧作業を完了しました。
(4)日仏高速炉協力
2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、「米国や仏国等と国際協力を進めつつ、高速炉等の研究開発に取り組む」とされているところ、2014年5月の安倍総理訪仏の際に、日本側の経済産業省と文部科学省、仏側の原子力・代替エネルギー庁が、フランスのナトリウム冷却高速炉の実証炉開発計画である第4世代ナトリウム冷却高速炉実証炉(ASTRID)計画及びナトリウム冷却炉の開発に関する協力取決めに署名し、日仏間の研究開発協力を開始しました。
この日仏ASTRID開発協力に関して、2015年には、ASTRIDの概念設計取りまとめに反映するための研究開発協力や今後の試験計画の立案等に取り組みました。
なお、2015年10月に、安倍総理とヴァルス仏国首相の出席を得て開催された原子力分野における日仏協力に関する会合において、ASTRID計画等の第四世代の高速炉に関する協力の深化について話し合われました。
(5)再処理積立金法の運用【制度】
使用済燃料の再処理やこれに伴い発生する低レベル放射性廃棄物の処分等の事業は、長期にわたる事業であることから、これに必要な費用を計画的かつ確実に確保するため、「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」(平成17年法律第48号)に基づき、電気事業者等が必要な費用を確保し、外部の資金管理法人に積み立てることとされました。同法に基づき、必要な費用の積み立てが行われています。
(6)使用済燃料対策
原発の再稼働や廃炉が進展する中、使用済燃料対策は喫緊の課題と考えています。このため、昨年10月の最終処分関係閣僚会議において、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」を策定しました。本プランに基づき、昨年11月、電力事業者から「使用済燃料対策推進計画」の報告を受けました。同計画によれば、事業者は、2020年頃に計4,000トン程度、2030年頃に計6,000トン程度の使用済燃料の貯蔵容量を確保することを目指すこととしています。今後とも、貯蔵能力の拡大などの使用済燃料対策について、事業者の計画を適切にフォローアップするなど、国もこれまで以上に積極的に関与して進めてまいります。