第1節 水素・アンモニアの普及拡大に向けた技術開発・社会実装
水素が日常生活や産業活動で普遍的に利用される「水素社会」を実現するためには、水素等を新たな資源と位置づけ、様々なプレイヤーを巻き込み、社会実装を進めていく必要があります。日本では、2023年6月に改定した「水素基本戦略」を具体化する形で、2024年5月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(令和6年法律第37号)」(以下「水素社会推進法」という。)が成立し、同年10月に施行されたほか、2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」においては、水素社会推進法に基づき、低炭素水素等の大規模サプライチェーンの構築を強力に支援していきながら、諸外国や企業の動向も踏まえて、国内外を含めた更なる低炭素水素等の大規模な供給と利用に向けて、規制・支援一体的な政策を引き続き講じ、コストの低減と利用の拡大を両輪で進めていくこととしています。また、地方創生にもつながる地域資源を活用した水素等の利活用も進めていくこととしています。
インフレによる開発費の増大等による困難も生じていますが、世界では、技術開発支援にとどまらず、水素等の製造や設備投資等に対する大胆な支援策が始まりつつあります。また、豊富で安価な再エネや天然ガス、CCS適地などの良質な環境条件や、水素関連技術の優位性など、各国が、自国の強みをいかした産業戦略を展開し、資源や適地の獲得競争が起こり始めています。
日本は水素製造や輸送技術、燃焼技術など複数分野における技術で世界を先導してきています。「技術で勝って、ビジネスでも勝つ」べく、引き続きNEDO等と連携しながら、グリーンイノベーション基金等で世界に先行した技術開発により競争力を磨くとともに、世界の市場拡大を見据えて先行的な企業の設備投資を促していきます。
<具体的な主要施策>
1.クリーンエネルギー自動車導入促進補助金
(再掲 第2章第1節 参照)
2.クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金
(再掲 第2章第1節 参照)
3.商用車等の電動化促進事業
(再掲 第2章第1節 参照)
4.水素社会実現に向けた革新的燃料電池技術等の活用のための研究開発事業
【2024年度当初:78億円】
燃料電池や水電解装置の更なる普及拡大に向けて、高効率・高耐久・低コスト化等を実現するために、部素材等の要素技術開発や、評価・解析手法の標準化に向けた研究開発を支援しました。また、今後活用が見込まれる商用車用燃料電池の革新的な材料に関する研究開発についても支援しました。
5.競争的な水素等サプライチェーン構築に向けた技術開発事業
【2024年度当初:86億円】
水素等の供給基盤を構築し、コストの低減と供給の安定化を実現すべく、水素を製造・貯蔵・輸送・利用するための設備や機器、システム等の更なる高度化・低廉化・多様化につながる研究開発等を支援するとともに、一連の水素サプライチェーンにおける規制の整備や合理化、国際標準化のために必要な研究開発等を行っています。2024年度からは、高圧水素パイプラインに関する研究開発やMCHの海上輸送量規制の緩和に向けた検討等を新たに行っており、国内標準化や基準の適正化を目指していきます。
6.産業活動等の抜本的な脱炭素化に向けた水素社会モデル構築実証事業
【2024年度当初:59億円】
地域における水素の利活用の促進に向けて、コンビナートや工場、港湾等の地域特性に応じて、発電、熱利用、運輸、産業プロセス等の多様な需要で水素を利活用するモデルを構築するための調査や技術実証を支援しました。
7.大規模水素サプライチェーンの構築
(再掲 第5章第1節 参照)
8.再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造
【グリーンイノベーション基金:国費負担上限722億円】
余剰再エネ等を活用した国内での水素製造基盤の確立や、先行する海外市場の獲得を目指すべく、水電解装置の大型化・モジュール化等の技術開発や、水電解装置の性能評価設備の構築等を支援しています。今後も、水電解装置のコストの一層の削減(事業開始時である2021年の最大6分の1程度)や、水電解装置の性能評価基盤の確立を目指していきます。2024年3月には、アルカリ型水電解装置をモジュール化した際の制御技術等を検証するパイロット試験設備が完成し、2024年度から本格的に検証を開始しています。
9.地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業
【2024年度当初:50億円の内数】
早期の社会実装を目指したエネルギー起源CO2の排出を抑制する技術の開発及び実証事業として、地域における水素の利活用を推進するための高効率・高耐久な水素SOFCシステムの開発や、地域資源である余剰再エネ電力、副生水素及び未利用CO2を有効活用するためのe-methane製造コストの低減及び環境価値提供システムの開発を行いました。
10.脱炭素社会構築に向けた再エネ等由来水素活用推進事業
【2024年度当初:48億円の内数】
地域資源である再エネ等を活用し、地産地消型の地域水素サプライチェーンモデルを構築することを目的に、既存のインフラを活用した水素供給の低コスト化に向けたモデル構築の実証事業等を行いました。また、水素の需要拡大につながる設備導入等の支援を行いました。
これまでの取組の1つとして、2022年度から北海道室蘭市において、祝津風力発電を用いて製造した水素を、低圧で配送可能な水素吸蔵合金タンクに貯め、既存のLPガス配送網を活用して需要先で使用する実証に取り組んでいます。
11.未来社会創造事業(大規模プロジェクト型)
【2024年度当初:86億円の内数】
水素発電、余剰電力の貯蔵、輸送等における水素利用の拡大に貢献する革新的水素液化技術の研究開発を推進しました。
12.革新的GX技術創出事業(GteX)
【2022年度補正:496億円の内数】
2050年カーボンニュートラル実現等への貢献を目指し、水電解システム、燃料電池システム、水素貯蔵システムについて、材料等の開発やエンジニアリング、評価・解析等を統合的に行うオールジャパンのチーム型研究開発を推進しました。
13.燃料電池自動車の普及・拡大に係る規制見直し
燃料電池自動車の普及拡大の実現に向けて、水素燃料電池自動車に関する世界技術基準(GTR13)1及び水素燃料電池自動車の相互承認のための協定規則(UNR134)2において、圧縮水素タンクの寿命を15年から25年に延長すること等の改正に合意したことに伴い、2024年6月に高圧ガス保安法容器保安規則等の一部改正を行いました。圧縮水素スタンドに関する技術基準等については、業界内での検討状況を踏まえつつ、安全性に係る検証に取り組んでいます。
14.化石燃料のゼロ・エミッション化に向けた持続可能な航空燃料(SAF)等の生産・利用技術開発事業
【2024年当初:89億円の内数】
アンモニアについては、2030年頃のサプライチェーン構築を目指し、燃料として利用するアンモニアの裾野拡大や、低コストの安定供給に向けて、工業炉におけるアンモニア利用や天然ガス由来のアンモニア製造工程における省エネ化、CO2削減に資する製造技術の開発・実証を行いました。
15.燃料アンモニアサプライチェーンの構築
(再掲 第5章第1節 参照)
16.水素等の製造・資産買収等事業に対する出資金
(再掲 第5章第4節 参照)
17.GXサプライチェーン構築支援事業
【2024年度当初:548億円の内数 国庫債務負担含め総額:4,212億円の内数】
GX実現にとって不可欠となる水電解装置、燃料電池等の国内製造サプライチェーンを先駆けて構築するべく、これらの関連部素材や製造設備についての大規模な投資を支援しました。