第1節 安定供給を大前提とした火力発電の着実な取組
火力発電は、温室効果ガスを排出するという課題がある一方、足下で電源構成の約7割を占めるなど電力需要を満たす供給力、再エネ等による出力変動や周波数変動を補う調整力、系統の安定性を保つ慣性力・同期化力等として重要な役割を担っています。
足下では、再エネの導入拡大に伴い、火力発電全体の稼働率が低下し、収益性の低下や燃料の安定的な確保の難しさが増すことなどによって安定的な稼働が難しくなり、休廃止に向けた動きが徐々に進展していますが、変動性再エネの発電量が少ない状態が長く続きやすい冬の悪天候時などを念頭に置くと、再エネ及び蓄電池によって火力を完全に代替することは難しいと考えられます。また、データセンターや半導体工場の新増設等による将来の電力需要の増加を見据える必要もあります。
こうした中、2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」においては、火力全体で安定供給に必要な発電容量を維持・確保しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量を減らしていくこととしています。具体的には、水素・アンモニア、CCUS等を活用した火力の脱炭素化、非効率な石炭火力のフェードアウトの促進等に取り組むこととしています。
水素・アンモニア、CCUS等を活用した火力の脱炭素化については、技術開発やコストなどを踏まえて時間軸や排出量にも留意しつつ、事業者の予見可能性を確保しながら進めていきます。長期脱炭素電源オークション等を通じて火力の脱炭素化を促進するとともに、水素・アンモニアを活用した発電について、燃焼器の技術開発や発電実証をグリーンイノベーション基金も活用しながら進めており、国内外の市場獲得も睨みながら社会実装を目指していきます。また、脱炭素化を見据えた次世代の高効率石炭火力発電や脱炭素燃料との混焼による脱炭素型の火力発電への置き換えに向けた技術開発に加え、CO2を資源として捉えて再利用するカーボンリサイクルの技術開発に取り組んでいます。さらに、再エネの大量導入に向けて、負荷変動に対応するための火力発電技術の研究開発等も進めています。
また、2016年2月に発足した「電気事業低炭素社会協議会」は、2022年6月に、「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」に基づく日本全体の排出係数である0.25kg-CO2/kWhの実現を目指すこととしました。この目標達成に向けては、省エネ法や「エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成21年法律第72号)」(以下「高度化法」という。)に基づく政策的対応により、電力自由化の下で、電力業界全体の取組の実効性を確保するとともに、進捗状況を評価することとしています。
さらに、「第7次エネルギー基本計画」に基づき、非効率な石炭火力について、省エネ法や容量市場等の制度的枠組みを活用し、引き続き、事業者の自主的な取組によるフェードアウトを促進することに加えて、電力需要の増加の見通しや脱炭素電源をはじめとした供給力の状況も見ながら、制度的な措置の強化を検討していきます。
また、国が整理・公表している「最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況(BATの参考表)」については、毎年度見直し、必要に応じて随時公表しています。
<具体的な主要施策>
(1)大規模水素サプライチェーンの構築
【グリーンイノベーション基金:国費負担上限3,245億円】
大規模水素サプライチェーン構築と需要創出を一体的に進めつつ、コスト低減を図るべく、液化水素運搬船を含む輸送設備の大型化等の技術開発や大規模輸送実証、水素発電における実機での燃焼安定性に関する実証(混焼・専焼)を進めています。2024年7月末には、これまで整備を進めてきた液化水素関連機器の研究開発を支える材料評価基盤について、材料評価試験設備が竣工しました。
(2)燃料アンモニアサプライチェーンの構築
【グリーンイノベーション基金:国費負担上限713億円】
燃料アンモニアの大規模な需要創出及びコストの低減や供給の安定化に向けて、既存のアンモニアの合成方法である「ハーバー・ボッシュ法」と比べて低温・低圧でより効率的なアンモニア合成の実現に必要となる新触媒の開発や、石炭ボイラやガスタービンでのアンモニア高混焼・専焼に向けたバーナーや燃焼器の開発などを行いました。今後も、アンモニア製造の高効率化・低コスト化から利用拡大までの技術的な課題を解決し、需要と供給が一体となった燃料アンモニアサプライチェーンの構築を目指していきます。
(3)先進的CCS支援事業
【2024年度当初:12億円、2024年度補正:320億円】
将来のCCS事業の普及・拡大に向けて、横展開が可能なビジネスモデルを確立するため、2030年度までの事業開始を目標とした事業者主導による「先進的CCS事業」について、2024年6月に改めて9件のプロジェクトを採択し、これらのプロジェクトに対して、先進的CCS事業に係る設計作業等の支援を行いました。また、国内での新たなCO2貯留適地及び貯留ポテンシャルを確認する目的で、九州北西部海域において、海底下地質の調査等を実施しました。
(4)カーボンリサイクル・次世代火力発電の技術開発事業
【2024年度当初:166億円】
火力発電の脱炭素化に向けて、燃焼時にCO2を排出しない燃料であるアンモニアの混焼試験を実施しました。また、次世代の高効率石炭火力発電技術として開発してきた石炭ガス化複合発電(IGCC)について、2024年9月21日から石炭とバイオマスの混合燃料によるガス化技術開発の実証試験を開始し、バイオマス混合比率50%の混合ガス化を達成しました。
加えて、高効率化しても排出されてしまうCO2については、安価に分離回収することも重要であることから、排出されるCO2を固体吸収材や分離膜の活用により分離回収する技術の実証試験等を進めました。さらに、回収したCO2を利活用する技術の開発も推進しています。例えば、回収したCO2と水素を利用してメタンを合成する「メタネーション」の技術や、ペットボトルや繊維の原料となるパラキシレンの製造技術、CO2から高付加価値な炭素材料を製造する鉱物化等の開発を実施しました。