第1節 東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故への取組
1.廃止措置等に向けた中長期ロードマップ
廃炉・汚染水対策については、関係省庁等において定めた「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下、「中長期ロードマップ」という。)に基づき、取組を進めています。中長期ロードマップについては、2017年9月に、燃料デブリ取出し方針の決定を含む形で改訂しました。引き続き、国も前面に立って、現場状況や研究開発成果等を踏まえ、中長期ロードマップに継続的な検証を加えつつ、必要な対応を安全かつ着実に進めていきます。
【第111-1-1】中長期ロードマップ改訂(2017年9月)のポイント
- 出典:
- 経済産業省
- 出典:
- 経済産業省
2.汚染水対策等
原子炉建屋内では、原子炉に水をかけて冷却を続けることで、低温での安定状態を維持していますが、この水が建屋に流入した地下水と混ざり合うことで、日々新たな汚染水が発生しています。このため、2013年9月には、原子力災害対策本部において「汚染水問題に関する基本方針」が決定され、①汚染源に水を「近づけない」、②汚染水を「漏らさない」、③汚染源を「取り除く」という3つの基本方針に沿って、予防的・重層的に対策を進めているところです。
汚染源に水を「近づけない」対策は、汚染水発生量の低減を目的としており、建屋への地下水流入を抑制するための多様な対策を組み合わせて進めています。具体的には建屋山側でくみ上げた地下水を海洋に排出する地下水バイパスを2014年5月から運用していることに加え、建屋のより近傍で地下水をくみ上げ、浄化して海洋に排出するサブドレン及び地下水ドレンの運用を2015年9月から開始しました。サブドレンについては、地下水くみ上げ能力の強化にも取り組んでいます。また、2016年3月に凍結を開始した凍土方式の陸側遮水壁(凍土壁)について、2018年3月に各分野の専門家で構成される汚染水処理対策委員会において、深部の一部を除き造成は完了しており、遮水効果が現れていると評価されました。なお、深部の一部についても、2018年9月までにすべて凍結を完了しています。さらに、雨水の土壌浸透を防ぐ広域的な敷地舗装(フェーシング)についても、施工予定箇所の9割以上のエリアで工事を完了しています。これらの対策により、汚染水発生量は、対策実施前(2014年5月)の540㎥ /日程度から、2018年度平均(2018年4月~ 2019年2月)で180㎥ /日程度まで低減しました。
- 出典:
- 経済産業省
- 出典:
- 経済産業省
汚染水を「漏らさない」対策は、海洋へ放射性物質が流出するリスクの低減を目的としています。2015年10月には、建屋の海側に、深さ約30m、全長約780mの鋼管製の杭の壁(海側遮水壁)を設置する工事が完了したことで、放射性物質の海洋への流出量が大幅に低減し、港湾内の水質の改善傾向が確認されています。また、多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System )等により浄化処理した水については、鋼板をボルトで接合するフランジ型タンクに貯水していた水の移送等を進め、2019年3月に漏えいリスクの低い溶接型タンクで全て貯水しています。さらに、万一の漏えいにも備え、タンクから漏えいした水が外部環境に流出しないようにタンク周囲における二重の堰(二重堰)の設置や1日複数回のパトロールなどを実施しています。
汚染源を「取り除く」対策としては、多核種除去設備をはじめ、ストロンチウム除去装置などの複数の浄化設備により汚染水の浄化を行い、タンクに貯水しているストロンチウムを多く含む高濃度汚染水の処理については2015年5月に一旦完了しました。また、原子炉建屋の海側の地下トンネル(海水配管トレンチ)に溜まっていた高濃度汚染水については、万一漏えいした場合のリスクが大きいため、2014年11月からポンプで汚染水を抜き取り、トレンチ内を充填・閉塞する作業を進めてきました。2015年12月には、高濃度汚染水の除去・トレンチ内の充填を全て完了し、リスクの大幅な低減が図られました。さらに、建屋からの汚染水の漏えいリスクを完全になくすためには、建屋内滞留水中の放射性物質の量を減らす必要があるため、建屋内滞留水の除去や浄化を進めています。具体的には、1号機のタービン建屋について、2017年3月に建屋内の最下階エリアまでの滞留水の除去を完了しました。これに加え、2017年12月には、震災直後に貯留した復水器内の高濃度汚染水の抜き取りを完了するとともに、滞留水の水位低下により1,2号機間の滞留水連通部の切り離しを達成し、2018年9月には、3,4号機間の切り離しを達成しました。
これらの予防的・重層的な取組により汚染水対策は大きく前進していますが、汚染水問題の最終的な解決のため、引き続き次の対策に取り組んでいます。多核種除去設備等で浄化処理した水の取扱いについては、有識者からなる「汚染水処理対策委員会」の下に「トリチウム水タスクフォース」を設置し、その取扱いに関する様々な選択肢について、技術的な評価結果を2016年6月に取りまとめました。また、当該取りまとめの中で、風評に大きな影響を与えうることから、今後の検討にあたっては、成立性、経済性、期間などの技術的な観点に加えて、風評被害などの社会的な観点等も含めて、総合的に検討を進める必要があるとの示唆があり、2016年9月には、「汚染水処理対策委員会」の下に「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」を設置して検討を行っています。
【第111-2-3】鋼管製海側遮水壁
- 出典:
- 東京電力ホールディングス
3.使用済燃料プールからの燃料取出し
当面の最優先課題とされていた4号機使用済燃料プールからの燃料取出しについては、2014年12月22日に燃料1,535体全てを共用プール等へ移送しました。
1号機については、2018年1月からオペレーティングフロア北側のガレキ撤去を進めています。2号機については、原子炉建屋上部解体に先立ち、解体時の放射性物質飛散防止対策の検討、解体作業計画の立案等を行うため、2018年6月からオペレーティングフロア内の汚染状況調査等を進めています。また、オペレーティングフロアの調査やガレキ撤去を行うため、建屋西側に開口部の設置作業を進めています。3号機については、2018年2月に燃料取り出し用カバーの設置を完了しました。また、燃料取扱設備の試運転を開始したところ複数の不具合が発生したことから、2018年度中頃に予定していた燃料取り出しを延期しました。不具合の原因究明・対策及び設備の潜在的な不具合を洗い出すための安全点検等を行い、2019年4月に取出しを開始しました。
- 出典:
- 東京電力ホールディングス
4.燃料デブリ取出し
(1)原子炉内部の様子
燃料デブリのある1 ~ 3号機の原子炉建屋内は放射線量も高く、容易に人が近づける環境ではないため、遠隔操作機器・装置等による除染や調査を進めています。
- 出典:
- 国際廃炉研究開発機構の図を元に経済産業省作成
1号機では、2017年3月に線量計と水中カメラを搭載したロボットを、ペデスタル(原子炉圧力容器を支える台座)の外側に投入して調査を実施しました。調査の結果、1階足場や原子炉格納容器底部において、放射線量や画像データを取得することができ、原子炉格納容器内部の損傷状況や、原子炉格納容器底部の堆積物を確認できました。
2号機では、2018年1月に原子炉格納容器底部の様子を調査するため、先端にカメラや線量計などの測定器を搭載した棒状の調査装置を2号機のペデスタル内側に挿入しました。、調査の結果、原子炉格納容器底部において、炉心に存在する燃料集合体の一部と思われる落下物を確認しました。このことから、その付近には燃料デブリと思われる堆積物が存在していると考えられます。2019年2月には、2018年1月の調査装置を改良し、原子炉格納容器内の堆積物に接触させ、硬さなどの情報を取得するとともに、小石状の堆積物をつかんで動かせること等を確認できました。
3号機では、原子炉格納容器内の水位が高く、1階足場及び原子炉格納容器底部が水中下にあるため、2017年7月に水中遊泳ロボットによる調査を行いました。ペデスタル内側の1階足場および原子炉格納容器底部を調査した結果、原子炉圧力容器の直下の部品(CRDハウジング支持金具)が複数個所損傷していることや、ペデスタル内側の原子炉格納容器底部に、落下したと思われる1階足場の金具や炉心部の部品のほか、燃料デブリの可能性がある溶融物等を確認することができました。
なお、いずれの調査においても、周辺環境に影響は生じておらず、放射線モニタリングデータに有意な変動はみられていません。
【第111-4-2】原子炉格納容器内部調査の様子と調査装置
- 出典:
- 東京電力ホールディングス
(2)廃炉に向けた研究開発
廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、2016年4月から、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として日本原子力研究開発機構(JAEA)の「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県双葉郡楢葉町)が、本格運用を開始しました。また、2018年3月には、燃料デブリや放射性廃棄物などの分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」(福島県双葉郡大熊町)の一部施設が運用を開始しました。
また、国内外の英知を結集し、廃炉に係る基礎的・基盤的な研究開発や人材育成に取り組む拠点として、2017年4月から、廃炉国際共同研究センター国際共同研究棟(福島県双葉郡富岡町)の運用が開始されました。
【第111-4-3】モックアップ設備を有する楢葉遠隔技術開発センターと試験設備
- 出典:
- JAEA楢葉遠隔技術開発センター
研究開発の実施にあたっては、有望な技術を有する海外企業も参画できるようにするなど、国内外の叡智を結集するための取組も進めています。2015年度以降、燃料デブリ取出しのための基盤技術や燃料デブリの性状把握の研究開発に、フランスやロシアの企業が参加しています。
5.労働環境の改善
長期にわたる東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業を円滑に進めていくため、作業に従事するあらゆる方々が安心して働くことができる環境を整備することが重要です。
事故直後は、発電所構内全域で全面マスクと防護服の着用が必要であり、全面マスクについては装着すると息苦しい、作業時に同僚の声が聞こえづらい、防護服については動きづらい、通気性がなく熱がこもるといった課題がありました。これらは、作業時の大きな負担になるとともに、安全確保にあたっての課題ともなっていました。また、食事については、十分な休憩スペースもなかったことから、冷えたお弁当を床に座って食べるというような環境でした。
そのため東京電力は、福島第一原子力発電所の労働環境改善に継続的に取り組んできました。例えば、除染、フェーシング作業による環境線量低減対策を行うことで、全面マスクと防護服の着用が不要なエリアは、構内面積の96%まで拡大しました。さらに、1 ~ 4号機を俯瞰する高台について、マスクなしで視察が可能となる運用を開始しています。あわせて、ヘリポートを設置し搬送時間を短縮したことで緊急時の医療体制を強化するなど、健康管理対策も充実してきました。また、食堂、売店、シャワー室を備え、一度に約1,200人を収容可能な大型休憩所を設置しました。食堂では、発電所が立地する大熊町内の大川原地区に設置した福島給食センターにおいて地元福島県産の食材を用いて調理した、温かくて美味しい食事を提供しています。
長期にわたる廃炉作業を着実に進めていくため、引き続き安全でより良い労働環境の整備に努めていきます。
【第111-5-1】構内面積96%まで拡大した一般作業服等エリアと1,200人を収容可能な大型休憩所
【第111-5-1】構内面積96%まで拡大した一般作業服等エリアと1,200人を収容可能な大型休憩所(ppt/pptx形式:672KB)
- 出典:
- 経済産業省
【第111-6-1】福島の現状を伝える動画「廃炉のいま 2018春」とパンフレット「廃炉の大切な話 2019」
- 出典:
- 経済産業省
6.国内外への情報発信
長期にわたる廃炉作業は、帰還・復興が進展する周辺地域において住民の安心・安全に深く関わるものです。また、今もなお風評被害が根強く残っています。このため、国内外に対し、福島第一原子力発電所の現状についてわかりやすく正確な情報を発信するとともに、地域・社会の不安や疑問に応えていくことが重要です。
地元を中心とする国内への情報発信としては、周辺地域の首長や関係団体等が参加する廃炉・汚染水対策福島評議会を開催し、廃炉・汚染水対策の進捗をお伝えしているほか、対策の進捗を分かりやすく伝え、様々な不安や疑問にお応えしていく動画・パンフレットの作成などに取り組んでいます。また、情報発信に際しては、双方向のコミュニケーションを意識し、住民との直接対話・地元でのイベントへの廃炉関連ブースの出展や、コンテンツ制作における地元の方々の意見の事前聴取・内容への反映などの取組を進めています。東京電力も、2018年11月に東京電力廃炉資料館(福島県双葉郡富岡町)を開館し、事故当時の状況や廃炉・汚染水対策に関する情報発信を行っています。
また、国際社会とのコミュニケーションとしては、2018年9月にウィーン(オーストリア)において開催された国際原子力機関(IAEA)総会において、福島第一原発廃炉に係るサイドイベントを開催しました。プレゼンテーションや動画の上映等を通じて、福島の現状について理解の促進を図りました。福島の現状や福島第一原子力発電所で行われている取組を紹介する映像の上映・紹介を行うことで、世界の原子力関係者へ理解の促進を働きかけました。同年11月に福島第一原発の廃炉に係るIAEAレビューミッションを受け入れ、2019年1月に最終報告書を受領しました。なお、IAEAに対して定期的に福島第一原発に関する包括的な情報を提供しています。さらに、原子力発電施設のを有する国との二国間関係としては、政府や産業界などの各層において協力関係を構築しており、継続的に情報交換を行っています。
東京電力福島第一原子力発電所事故の発生から8年が経過しました。政府は2015年6月、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を改訂し、国として取り組むべき方向性を提示しました。その後、福島の復興・再生に向けた取組は着実な進展を見せています。
一方で、復興の進捗にはいまだばらつきがあり、長期にわたる避難状態の継続に伴って、新たな課題も顕在化してきました。住民の方々が復興の進展を実感できるようにするためには、被災地域の実情を踏まえて、対策をさらに充実させていく必要があります。このような状況を踏まえ、原子力災害からの福島の復興・再生を一層加速していくため、2016年12月に「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」を閣議決定し、必要な対策の追加・拡充を行うこととしました。具体的には、早期帰還支援と新生活支援の両面の対策のより一層の深化、事業・なりわいや生活の再建・自立に向けた取組の拡充等を行うこととしています。また、帰還困難区域については、可能なところから着実かつ段階的に、政府一丸となって、一日も早い復興を目指して取り組んでいく方針を示し、特定復興再生拠点の整備に向けた制度の構築を行うこととしました。