第2節 再生可能エネルギーの長期電源化に向けた取組

再エネの技術自給率を向上させ、より強靱なエネルギー供給構造を実現していくためには、次世代型太陽電池である「ペロブスカイト太陽電池」や浮体式洋上風力発電等における技術の開発・実装を進め、再エネ導入に向けたイノベーションを加速させていく必要があります。

また、再エネの主力電源化を進めるためには、再エネを電力市場へ統合していくことも重要です。2022年度からは、FIT制度に加えて、市場連動型のFIP制度が導入されています。FIP制度では、発電事業者自身が卸電力取引市場や相対取引で売電を行うため、必要な環境整備、特にアグリゲーターの活性化が重要です。こうした状況を踏まえ、電力市場への統合を通じた再エネの導入拡大と新たなビジネスの創出を図るべく、FIP制度の詳細設計とアグリゲータービジネスの活性化に向けた検討を一体的に行いました。加えて、FIT・FIP制度に基づき国民負担による支援を受けて導入された電源が、調達期間又は交付期間の終了後も、次世代にわたり長期安定的に事業継続されるよう、2024年度に「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」で議論を行い、関係事業者等の行動指針を整理しました。これに基づき、再エネ発電事業に対する再投資やリパワリングを促すとともに、長期安定電源の担い手として責任あるプレイヤーを長期安定適格太陽光発電事業者として認定する制度を創設し、同事業者への事業集約を推進していきます。

さらに、分散型エネルギーリソースも柔軟に活用する電力システムへの変化が進む中、家庭や企業、公的機関、地域といった需要の範囲ごとに、自家消費や地域内系統の活用を含む需給一体型の再エネ活用モデルをより一層普及させるため、分散型エネルギーリソースの更なる導入促進や分散型エネルギーリソースを活用する事業の構築支援、関係するプレイヤーの共創の機会創出等の事業環境整備を進めています。

加えて、導入拡大の可能性、コスト競争力のある電源及び経済波及効果が期待される洋上風力発電については、再エネ海域利用法の着実な施行により案件形成を進めるとともに、洋上風力関連産業の産業競争力の創出に向けた取組を進めています。

1.認定案件の適正な導入と国民負担の抑制

(1)新規認定案件のコストダウンの加速化

日本における再エネの発電コストは、国際水準よりも依然高い水準にあり、FIT制度に伴う国民負担の増大をもたらしています。日本における再エネの発電コストが高い原因としては、例えば、陸上の平地面積が小さく、洋上は急峻な海底地形であるといった地理的制約による工事費の増加等が挙げられます。

再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立を図るため、FIT制度では、入札を通じて調達価格を決定することが国民負担の軽減につながると認められる電源については、入札対象として指定することができるとしています。2024年度までの調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、2025年度における入札対象は、事業用太陽光発電(屋根設置区分を除く250kW以上)、陸上風力発電(50kW以上)、着床式洋上風力発電(再エネ海域利用法適用外、50kW以上)、一般木材等バイオマスによるバイオマス発電(10,000kW以上)及びバイオマス液体燃料によるバイオマス発電とすることとしました。

(2)住宅用太陽光発電設備の意義とFIT買取期間終了後の位置づけ

太陽光発電は、温室効果ガスを排出せず、日本のエネルギー安全保障に寄与するとともに、火力発電等とは異なり燃料費が不要であり、また、自家消費を行い、非常用電源としても利用可能な分散型電源となり得る等の特徴があります。一般家庭が太陽光発電設備を設置する理由は様々ですが、光熱費の節約や売電収入を得るといった経済的な理由だけでなく、自ら発電事業者として再エネの推進に貢献することを目指している場合もあります。一般に、太陽光パネルは20年以上にわたって発電し続けることが可能であり、特に住宅に設置された太陽光パネルは、住宅が改築・解体されるまで稼働し続けることが期待されます。

2009年11月に開始した余剰電力買取制度の適用を受けた住宅用太陽光発電設備については、2019年11月以降、固定価格での調達期間が順次満了を迎えています。その規模は、2023年までの累積で約135万件、約819万kWとなっており、今後も2025年までの累積で約200万件、約860万kWに達する見込みとなっています。しかし、これはFIT制度という支援制度に基づく10年間の買取が終了しただけに過ぎず、その後も10年以上にわたって、自立的な電源として発電していく役割が期待されています。

10年間にわたる調達期間終了後の円滑な移行に向けて、現行の買取事業者からは、買取期間の終了が間近に迫った世帯に対して、調達期間終了日等が個別に通知されています。また、資源エネルギー庁のホームページ上にも情報提供ページを開設しており、調達期間終了後の選択肢の提示や、電気の買取を希望する事業者情報の提供等を行っています。

2.需要家主導による再生可能エネルギーの導入

DXやGXの進展、多発する自然災害を踏まえた電力供給システムの強靱化(レジリエンス向上)への要請、再エネを活用した地域経済の活性化等への注目等、様々な変化が生じています。

こうした中で、「大手電力会社が大規模電源と需要地を系統でつなぐ従来の電力システム」から、「分散型エネルギーリソースも柔軟に活用する新たな電力システム」への大きな変化が生じつつあり、自家消費や地域内系統の活用を含む、需給一体型の再エネ活用モデルをより一層促進することが求められています。

再エネ電源を自律的に活用する地域における需給一体的なエネルギーシステムは、エネルギー供給の強靱化(レジリエンス)や、地域内のエネルギー循環・経済循環等の点で有効です。また、自営線を活用した分散型エネルギーシステムの構築により、災害等による大規模停電時に、既存の系統配電線と地域にある再エネや分散型電源を活用することで、自立した電力供給が可能となる「地域マイクログリッド」の構築が進められています。2024年度は、岩手県金ケ崎町及び静岡県静岡市において、地域マイクログリッドの構築に着手しました。

3.立地制約克服に向けた取組

(1)洋上風力を巡る世界の動き

洋上風力発電には、陸上風力発電と比較して様々な特徴があります。まず、洋上は陸上よりも風況が比較的優れているため、設備利用率をより高めることが可能(世界平均では陸上が約30%、洋上が約40%)です。また、輸送制約等が小さく、大型風車の設置が可能であり、建設コスト等を抑えることができるため、コスト競争力のある再エネ電源といえます。さらに、事業規模が数千億円に至る場合もあり、部品数も数万点と多いため、部品調達・建設・保守点検等を通じて、地元産業を含めた関連産業への波及効果が期待されます。

このような特徴を持つ洋上風力発電は、近年世界で飛躍的に導入が拡大している再エネ電源の1つであり、世界風力エネルギー協会(GWEC)によると、世界の洋上風力発電の導入量は2013年以降毎年増加しており、2023年には約10.9GWが導入され、2023年末の累積導入量は約75.2GWとなっています。

(2)日本の状況と再エネ海域利用法の運用

洋上風力発電は、「第7次エネルギー基本計画」において、「今後コスト低減が見込まれる電源として、日本の電力供給の一定割合を占めることが見込まれ、急速なコストダウンと案件形成が進展する海外と同様、日本の再エネの主力電源化に向けた『切り札』である」と明記されています。再エネ海域利用法では、経済産業大臣及び国土交通大臣が、自然的条件が適当であること、漁業や海運業等の先行利用者に支障を及ぼさないこと、系統接続が適切に確保されること等の要件に適合した区域を「促進区域」として指定し、公募による事業者選定を行うことが規定されています。選定された事業者は、促進区域内で最大30年間の占用許可を受けるとともに、再エネ特措法に基づく認定を得ることができます。長期的・安定的・効率的な事業実施の観点から最も優れた事業者を公募で選定することにより、コスト効率的かつ長期安定的な洋上風力発電の導入を促進する仕組みとなっています(第232-3-1)。

【第232-3-1】再エネ海域利用法の手続の流れ

232-3-1

【第232-3-1】再エネ海域利用法の手続の流れ(pptx形式:46KB)

資料:
経済産業省作成

2024年9月には有望区域として9区域、準備区域として11区域を整理しました。また、促進区域のうち「青森県沖日本海(南側)」、「山形県遊佐町沖」については、2024年1月より事業者選定のための公募を開始し、2024年12月に選定を行いました。これらにより、2025年3月時点で、10の促進区域を指定しており、合計で約4.6GWの案件を形成しています(第232-3-2)。

【第232-3-2】再エネ海域利用法の施行状況(2025年3月時点)

232-3-2

【第232-3-2】再エネ海域利用法の施行状況(2025年3月時点)(pptx形式:157KB)

資料:
経済産業省作成

こうした領海及び内水の案件形成が進む中、その加速化に向けては、EEZにおける案件形成にも取り組むとともに、海洋環境等の保全の観点から適正な配慮を行う必要があります。現在の再エネ海域利用法では、その適用対象を「領海及び内水」としておりEEZについての定めがないことから、EEZにおける洋上風力発電設備の設置に係る制度を創設し、海洋環境等の保全の観点から適切な配慮を行うため、促進区域等の指定の際に、国が必要な調査を行う仕組みを創設する改正法案「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が2025年3月7日に閣議決定され、第217回通常国会に提出されました。

(3)洋上風力関連産業の産業競争力強化に向けた取組

2020年12月に策定された「洋上風力産業ビジョン(第1次)」では、「魅力的な国内市場の創出」、「投資促進・サプライチェーン形成」、「アジア展開も見据えた次世代技術開発と国際連携」といった基本方針に基づき、方策等についての一定の方向性を取りまとめました。政府としては、年間100万kW程度の区域指定を10年継続し、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500万kWの案件を形成する目標を掲げています。

この政府目標の達成に向けた案件形成を加速するためには、まず、「セントラル方式」によるサイト調査や、対象区域における合理的な系統接続の方針整理等を進めていく必要があります。そのため、案件形成の初期段階から政府が主導的に関与し、より迅速かつ効率的に調査等を実施する「セントラル方式」の一環として、JOGMECが担い手となり、風況や海底地盤といった洋上風力発電事業の検討に必要な調査を実施していくことにしており、2024年度からは、北海道岩宇・南後志地区沖(浮体)、北海道島牧沖(浮体)及び山形県酒田市沖の3海域において、調査を実施しています。

また、電力の安定供給や経済波及効果といった観点からは、産業競争力があり、強靱なサプライチェーンを形成することが重要です。足下では、JFEエンジニアリングのモノパイル製造工場の建設や、石狩湾新港洋上風力発電所における日鉄エンジニアリングのジャケット及び清水建設のSEP船(自己昇降式作業台船)の活用等、「着床式」の洋上風力発電を中心としたサプライチェーンの構築が進んでいます。

洋上風力の産業競争力を強化するためには、国際連携を図ることも重要です。このため、洋上風力の先進国である英国と日本政府は2025年3月に、洋上風力に関して、公的金融機関の支援を通じた企業への協力促進、研究機関間における共同技術開発や、洋上風力のサプライチェーン構築等の連携を記載した協力覚書を締結しました。同時に、研究機関同士、企業同士でも協力覚書を締結しました。

加えて、長期的、安定的に洋上風力発電を導入・普及させていくためには、風車製造関係のエンジニア、洋上工事や調査開発に係る技術者、メンテナンスを担う作業者等、幅広い分野における人材が必要です。2022年度からは、大学・高等専門学校等や企業が洋上風力発電に係る人材育成のために提供するカリキュラムの作成や、風車設備のメンテナンスや洋上作業に係る訓練を行うための訓練設備整備費の補助を開始しました。2024年度には、産業界と教育・研究機関が連携して人材育成を進めるための枠組みとして、洋上風力人材育成推進協議会(略称:ECOWIND)が立ち上がりました。

また、浮体式洋上風力の海上施工等に関する諸課題について、官民が連携し横断的な議論を促進することを目的とした「浮体式洋上風力発電の海上施工等に関する官民フォーラム」を2024年5月に設置し、2024年8月に取組方針を取りまとめました。2025年3月には、この取組方針に基づき、海上施工においてボトルネックとなり得る点を具体化した「海上施工シナリオ」を策定したところです。加えて、設置や維持管理に必要な関係船舶の需要見通しや求められる性能等の検討等を行っています。

このような取組が進む一方で、サプライチェーンのひっ迫やインフレ等による事業環境の変化等を原因として、世界では事業の中断や撤退が発生しています。このような事業環境下であっても、洋上風力発電に係る電源投資を確実に完遂させる観点から、2024年9月より、「総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会洋上風力促進ワーキンググループ」「交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会」合同会議において制度検討を進め、2024年11月に取りまとめを行いました。その後パブリックコメントを経て、2025年1月にはリスクシナリオへの対策の重点評価、主要製品に係る計画変更要件の整理、セントラル方式によるサイト調査の基本化等の方針を盛り込む形へ「一般海域における占用公募制度の運用指針」を改訂しました。

(4)洋上風力発電の導入促進に向けた港湾法に基づく基地港湾の指定

洋上風力発電設備の設置及び維持管理に利用される基地港湾においては、重厚長大な資機材を扱うことが可能な耐荷重や広さを備えた埠頭が必要であり、参入時期の異なる複数の発電事業者間の利用調整も必要となります。

基地港湾制度に基づき、2024年4月に新たに青森港及び酒田港を基地港湾として指定し、これまでに指定済みの基地港湾は計7港となりました。指定済基地港湾のうち、2024年9月には秋田港に続いて北九州港において「港湾法(昭和25年法律第218号)」に基づく海洋再エネ発電設備取り扱い埠頭に係る賃貸借契約を締結し、発電事業者への貸付を開始しました。整備中の基地港湾については2024年度も引き続き地耐力強化等の必要な整備を実施しています。また、2025年2月には、基地港湾の一時的な利用に関する協議を行うための協議会制度等の創設等を位置づけた「港湾法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、第217回通常国会に提出しました。

(5)従来型及び次世代型の地熱発電の開発加速化に向けた取組

地熱発電の導入促進に当たっては、目に見えない地下資源を調査・開発することによる事業者のリスクやコストを低減すること、その上で温泉事業者等を中心とした地元関係者の理解醸成や数多くの関連規制に対応すること等が重要です。これらの課題や問題を解決し、これまで以上に地熱発電の開発を加速化するため、2024年9月に官民関係者による「地熱発電の推進に関する研究会」を設置し、地熱発電の開発促進に向けた政策について、計3回にわたって議論を進め、2024年11月に今後の地熱発電の開発促進に向けた方針として「地熱開発加速化パッケージ」を経済産業省と環境省の連名で取りまとめました。

同パッケージでは、従来型地熱発電については、地熱発電開発の中で大きな課題の1つである初期段階の開発リスク・コストについて、これまでのJOGMECによる助成金等の支援に加えて、JOGMEC自らが噴気試験を通じて蒸気の有無まで確認を行い、それらの調査結果や坑井などを提供することを通じて国・JOGMECがさらに前に出て支援を実施することとし、事業の着実な開発段階への移行につなげていくこととしました。また、環境省や林野庁等の関係省庁と連携して、許認可手続の円滑化に向けて具体的な課題等を扱う地熱連絡会を立ち上げることとし、2024年12月に「令和6年度第1回地熱連絡会」を開催しました。これらの取組を通じて、国内に残る自然公園内などの有望地域において、発電規模を確保した従来型地熱発電の開発を促進していきます。

また、次世代型地熱発電については、現在、超臨界地熱発電やクローズドループ地熱発電などの次世代型地熱発電技術に関する実証・実用化の動きが欧米を中心とした世界で活発になっています。そのため、地熱事業者や金融機関、研究者等による官民協議会を立ち上げ、官民全体で次世代型地熱発電技術に関する機運を高めつつ、国内における有望技術を議論し、その後の事業化に向けた実証事業への支援へとつなげていく予定としています。