第1節 適正な事業規律の確保

再エネの最大限の導入を促すためには、再エネが地域で信頼を獲得し、地域社会と一体となりつつ、責任ある長期安定的な事業運営が確保されることが不可欠です。こうした問題意識の下、これまでも、安全の確保や地域との共生、太陽光発電設備の廃棄対策等に取り組んできています。他方で、FIT制度の導入を契機に急速に拡大してきた太陽光発電事業を中心に、再エネ発電事業に対する地域の懸念は依然として存在しており、こうした懸念を払拭して、責任ある長期安定的な事業運営が確保される環境を構築していく必要があります。こうした地域の懸念の解消に向けて、2024年4月に改正再エネ特措法を施行し、地域住民等への事業内容の事前周知の要件化や、関係法令に違反する事業者に対するFIT・FIP交付金による支援の一時停止といった事業規律の強化を行いました。

また、再エネの導入は、太陽光発電が先行している中、エネルギー安定供給の観点からは、洋上風力発電や地熱発電等、立地制約による事業リスクが高い電源も含めて、バランスの取れた形で導入を促進することも重要です。特に洋上風力発電は、大きな導入ポテンシャルとコスト競争力をあわせ持っており、再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立に向けて重要な電源として位置づけられます。洋上風力発電のための海域利用ルールの整備として、2019年4月に再エネ海域利用法を施行し、先行利用者との調整の枠組みを明確化するとともに、事業予見性の確保及び事業者間の競争を促してコストを低減する仕組みを創設しました。今後も適切な法律の運用を通じて、洋上風力発電の導入促進を図っていきます。

1.再生可能エネルギーの主力電源化

日本では、2012年7月のFIT制度の開始以降、再エネの導入が急速に拡大してきました。2023年度の電源構成に占める再エネの割合は、22.9%に達しています。引き続き、FIT・FIP制度をはじめとしたあらゆる政策を総動員して、再エネの導入拡大に取り組んでいきます。更なる導入拡大に向けては、エネルギー政策の原則である「S+3E」を大前提に、地域との共生と国民負担の抑制を図りながら、再エネの主力電源化を徹底することが重要です。主力電源化とは、発電量において再エネが電源構成の相当割合を占めることのみを目指すものではなく、FIT・FIP制度等の政策支援から自立して導入が進むようになるとともに、一般の発電事業と同様に、発電事業者自らが発電計画を策定し、電力市場の需給に応じた供給を行う電源となるなど、質においても再エネ電源が高度に進化していくことが重要です。電力市場への統合に向けて、揚水発電や蓄電池の活用などの調整力の確保と系統整備に伴う社会全体での統合コストの最小化を図るとともに、再エネの長期安定電源化に取り組みます。また、イノベーションの加速とサプライチェーンの構築を戦略的に進め、国産再エネの普及拡大による技術自給率の向上を図るとともに、使用済太陽光パネルへの対応等を講じていきます。

更なる導入拡大に向けて、公共部門や工場、倉庫等の建築物への太陽光発電の導入強化、地球温暖化対策推進法や「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律(平成25年法律第81号)」(以下「農山漁村再エネ法」という。)に基づく各省連携による再エネの導入促進、再エネ海域利用法に基づく着実な洋上風力発電の案件形成に加え、グリーンイノベーション基金等を活用した、次世代型太陽電池や浮体式洋上風力発電の技術開発等に取り組んでいきます。また、太陽光発電を中心とした再エネの導入拡大に伴い、安全面や防災面、景観や環境への影響、将来の設備廃棄等に対する地域の懸念や、調達期間又は交付期間の終了後に事業継続や再投資が行われず、持続的な再エネの導入・拡大が停滞することへの懸念が高まっています。こうした懸念に対応するため、事業規律の強化等にも取り組んでいます。

2.地元理解の促進に向けた取組

地域が再エネ発電事業の情報を把握するための仕組みとして、2017年の再エネ特措法の改正法の施行以降、発電設備の識別番号、認定事業者の名称、発電設備の出力等の情報を、経済産業省のホームページ上で公表しています。2022年度からは、事業者の適正かつ地域の理解を得た事業実施を、地域住民等への更なる情報提供等によって促すため、公表する情報を拡大し、運転開始年月や太陽光事業の積立方法等の情報も公表しています。

また、FIT制度の開始以降、再エネ設備が大量に導入されたこともあり、地方自治体による調和的な条例やガイドラインの策定数が増加しています。例えば、市町村等が制定する条例の中で、再エネ発電設備の設置に関する条例の数は、2016年度までと比べ、2024年度までに約12倍に増加しています。こうした状況を踏まえ、再エネ特措法においては、条例を含む関係法令の遵守を認定基準としており、地域の実情に応じた条例への違反に対しても、再エネ特措法に基づく指導や改善命令、さらに必要に応じて、FIT・FIP交付金の一時停止や認定取消が可能となっています。また、全国の地方自治体の再エネ発電設備の設置に関する条例等の制定状況や、その内容に関するデータベースを構築し、各地方自治体における地域の実情に応じた条例等の策定等を後押ししています。

さらに、再エネ特措法の施行に当たっては、地域の実情を理解している地方自治体との連携が重要です。そのため、2018年より、全都道府県を集めた地域連絡会等を定期的に開催しています。条例による取組やグッドプラクティスの横展開を行うに当たっては、引き続きこの枠組みも活用し、地方自治体との連携の強化に取り組んでいくとともに、自治体との情報連携をより迅速に行い、違反の未然防止や早期発見につなげていきます。

加えて、2021年に改正された地球温暖化対策推進法において、地域における円滑な合意形成を図りつつ、適正に環境に配慮し、地域に貢献する再エネの導入を促進する仕組みが設けられました。環境省をはじめとする関係省庁が連携してこの仕組みの活用を進めるとともに、人材・情報・資金の観点から、国が継続的・包括的に地域の取組を支援するスキームを構築し、環境への影響や地域とのコミュニケーション等にも配慮しつつ、地域と共生した再エネの導入を進めていきます。

また、こうした取組に加えて、2023年5月には、再エネの導入拡大に伴う安全面・防災面等に対する地域の懸念を解消するため、説明会の開催等の周辺地域への事前周知をFIT・FIP制度の認定要件とする措置や、関係法令に違反した場合等にFIT・FIP交付金を一時停止する措置等を盛り込んだ再エネ特措法の改正を含む「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(令和5年法律第44号)」(以下「GX脱炭素電源法」という。)が成立し、2024年4月に改正再エネ特措法が施行されました。説明会制度においては、再エネ発電事業と地域の共生を実現するために説明が必要な事項を定めた「説明会及び事前周知措置実施ガイドライン」を策定し、ガイドラインに則った説明会及び事前周知が実施されることを認定の要件としています。また、森林法、農地法等の関係法令違反等が確認された太陽光発電事業計370件に対し、交付金の一時停止措置を実施しました。

3.事業実施各段階からの制度的対応

再エネ発電事業が、地域に根差した長期安定的な事業として定着し、地域からの信頼を確保するためには、開始から終了までの一貫した適正な事業実施を担保することが必要です。再エネ特措法では、2017年4月の改正法の施行以降、認定事業者に対して、設置する設備に標識・柵塀等の設置を義務づけています。2018年11月及び2021年4月には、標識・柵塀等の設置義務について注意喚起を行ったほか、資源エネルギー庁に対して標識・柵塀等が未設置との情報が寄せられた案件については、その都度、必要に応じて口頭指導や現場確認を行っています。しかし、依然として標識・柵塀等の未設置に関する情報が資源エネルギー庁に寄せられていることから、より多くの事案に対応するため、通報案件への対応体制を強化しています。また、太陽光発電設備の適正廃棄に向けた廃棄等費用の積立てを担保する制度も措置されています。

4.安全の確保

FIT制度の開始以降、再エネ発電設備の導入数は急速に増加し、設置形態も多様化しました。しかし、そのことに伴い、再エネ発電設備に係る公衆災害のリスクが懸念されています。そこで、再エネ発電設備に係る安全を確保するため、再エネ発電設備の安全規制や立地規制等の関連法令遵守の徹底等の取組を進めています。

具体的には、2024年4月に施行された再エネ特措法の改正法では、説明会等の事業内容の事前周知をFIT・FIP制度の認定要件とし、適切かつ十分な事前周知がなされない場合には、認定を行わない措置を講じています。また、2023年10月からは、法改正を待たずに、災害の危険性に直接影響を及ぼし得るような土地開発の許認可について、FIT・FIP制度の認定申請前に許認可の取得がない場合には、認定を行わないこととしました。なお、「電気事業法(昭和39年法律第170号)」においても、2024年4月1日から、工事計画の届出や使用前自己確認の結果届出の際に、土地開発の許認可手続が適切に実施されていることを確認する措置等を講じています。また、低圧の太陽電池発電設備に関する侵入及び接触防止措置については、発電用太陽電池設備に関する技術基準の一部を改正することとし、2024年4月1日に公布し、同年10月1日に施行しました。

5.再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルへの対応

2012年7月に導入されたFIT制度により導入量が急速に拡大した太陽光発電設備については、その適正な廃棄の在り方に関して様々な懸念が広がっています。特に、事業終了後に太陽光発電事業者の資金力が不十分な場合や、太陽光発電事業者が廃業した場合には、太陽光パネルの放置や不法投棄の懸念があります。

こうした懸念を払拭するため、再エネ特措法では、10kW以上の事業用太陽光発電設備について、調達期間又は交付期間の終了前の10年間にわたり、原則、認定事業者が受け取る収入の中から廃棄等費用を源泉徴収的に差し引く形で外部積立てを行うこととしています。

また、2030年代後半以降に排出量の顕著な増加が見込まれる太陽光パネルについては、適正なリユース・リサイクル・廃棄を確実に行うことが必要です。このため、2024年9月から、経済産業省及び環境省が共同事務局となって「産業構造審議会イノベーション・環境分科会資源循環経済小委員会太陽光発電設備リサイクルワーキンググループ」と「中央環境審議会循環型社会部会太陽光発電設備リサイクル制度小委員会」の合同会議を開催し、2025年3月に「太陽光発電設備のリサイクル制度のあり方について」が取りまとめられました。この報告書を踏まえ、具体的な制度設計について検討を進めるとともに、リサイクルを促進するための環境整備を進めていきます。

6.既認定の未稼働案件がもたらす問題と対応

高い調達価格・基準価格を保持したまま運転を開始しない案件が大量に滞留することで、将来的な国民負担の増大の懸念、新規開発・コストダウンの停滞、系統容量が押さえられてしまう等の課題が生じます。こうした未稼働案件に対しては、これまで累次の対策を講じてきましたが、2022年度から、認定取得後、一定期間を経過しても運転が開始されない場合には認定を失効させる制度を新たに開始し、2025年3月時点で約8万件/約7GWが失効となりました。