第4節 次世代電力ネットワークの形成

日本の電力系統(送配電網)は、これまで主に大規模電源と需要地を結ぶ形で形成されてきました。しかし、再エネ電源の立地ポテンシャルのある地域とは必ずしも一致しておらず、再エネの導入拡大に伴い、系統制約の問題が顕在化しつつあります。2023年2月に閣議決定された「GX基本方針」においても、中長期的な対策として、再エネの導入拡大に向けて重要となる系統整備及び出力変動への対応を加速させることが示されており、2030年度の電源構成に占める再エネ比率36%〜38%の確実な達成や、2050年カーボンニュートラルの実現、自然災害に対するレジリエンスの強化に向けては、送配電網をバージョンアップする必要があり、「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」の早期の具体化、分散型リソースの活用や「日本版コネクト&マネージ」等による系統運用の高度化が重要となります。

また、2018年10月には、九州エリアにおいて本土初となる再エネの出力制御が行われ、その後、2022年度には新たに5エリア、2023年度には新たに3エリアにおいて、それぞれ初めてとなる再エネの出力制御が行われました。太陽光や風力といった出力が天候等によって変動する再エネの導入拡大に伴い、その出力変動を調整しうる「調整力」を効率的かつ効果的に確保することが、国際的に見ても、大量の再エネを電力系統に受け入れるための課題となっています。

1.系統制約の克服

(1)既存系統の最大限の活用

日本のこれまでの制度では、電源を新規に系統に接続する際、系統の空き容量の範囲内で先着順に受け入れを行い、空き容量がなくなった場合には、系統を増強した上で追加的に受け入れを行うこととしていました。一方、欧州においては、既存系統の容量を最大限活用し、一定の条件付での接続を認める制度を導入している国もあります。系統増強には、多くの費用と時間が必要となることから、まずは既存系統を最大限活用していくことが重要です。このため、系統の空き容量を柔軟に活用する「日本版コネクト&マネージ」を具体化し、早期に実現するための取組を進めています(第334-1-1)。

【第334-1-1】日本版コネクト&マネージの進捗

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【第334-1-1】日本版コネクト&マネージの進捗(ppt/pptx形式:242KB)

資料:
経済産業省作成

①想定潮流の合理化

過去の実績を基にして、実際の利用率に近い想定を行い、より精緻な最大潮流を想定して送電線の空き容量を算出する「想定潮流の合理化」については、2018年4月から全国的に導入されています。広域機関では、想定潮流の合理化の適用による効果として、全国で約590万kWの空き容量の拡大が確認されています。

②ノンファーム型接続及び系統利用ルール

再エネの導入拡大の鍵となる送電網の増強には一定の時間を要することから、早期に再エネの導入を進める方策の1つとして、2021年1月より、全国の空き容量のない基幹系統において、送電線混雑時の出力制御を条件に新規接続を許容する「ノンファーム型接続」の受付を開始しました。加えて、再エネの主力電源化に向けて、基幹系統よりも下位のローカル系統等についても、2023年4月よりノンファーム型接続の受付を開始しました。また、配電系統への適用については、分散型エネルギーリソースを活用したNEDOプロジェクトにおいて、必要となる要素技術等の開発・検証を進めており、この結果を踏まえて、社会実装に向けた方向性を検討していく予定です。

ノンファーム型接続の電源の増加が予想される中で、従来の「先着優先ルール」を前提とした場合、新規に参入したノンファーム型接続の電源は、系統の空き容量がない時間帯において、従来から接続している石炭火力等より先に出力制御を受けることになります。そのため、ノンファーム型接続の適用に当たっては、再エネが石炭火力等より優先的に系統を利用できるように、「S+3E」の観点から、CO2対策費用、起動費、系統安定化費用といったコストや、運用の容易さを踏まえた順番で制御を行います。その方法として、例えば基幹系統においては、送配電事業者の指令により電源の出力を制御する「再給電方式」を導入しています。将来的には、メリットオーダーを追求した市場を活用する新たな仕組み(市場主導型:ゾーン制やノーダル制)への見直しを含め、既存系統の最大限活用のための方策を検討していきます。また、上位系統の容量制約への対策として、DR等、同地域内の分散型エネルギーリソースの有効活用を進めていきます。

③N-1電制

落雷等による事故時に電源を瞬時に遮断する装置(電制装置)を設置することを条件に、緊急時用に確保している送電線の容量の一部を平常時に活用する「N-1電制」については、2018年10月から先行適用3が実施され、2022年7月に本格適用4を開始しました。広域機関では、「N-1電制」の適用による効果として、全国で約4,040万kWの接続可能容量が確認されています。

(2)出力制御の予見可能性を高めるための情報公開・開示

系統制約が顕在化する中で、発電事業の収益性を適切に評価し、投資判断と円滑なファイナンスを可能とするため、事業期間中の出力制御の予見可能性を高めることが、既存系統を最大限活用しながら再エネの大量導入を実現するために極めて重要です。一方で、発電事業者等の事業判断の根拠となる出力制御の見通しを一般送配電事業者が示そうとすると、安定供給を重視して万全の条件とする、見通しよりも高い出力制御が現実に発生する事態を確実に避ける、といった観点から、見通しの算定自体が過大となるおそれがあります。

このため、一般送配電事業者が基礎となる情報を公開・開示し、その情報を利用して、発電事業者等が出力制御の見通しについて自らシミュレーションを行い、事業判断・ファイナンスに活用できるよう、需給バランス制約による出力制御のシミュレーションに必要な情報と、送電容量制約による出力制御のシミュレーションに必要な情報(「需要・送配電に関する情報」及び「電源に関する情報」)について、新たな情報公開・開示の運用を開始しています。

(3)ネットワーク改革等による系統増強への対応

再エネ電源の大量導入を促しつつ、国民負担を抑制していくためには、電源からの要請に都度対応する「プル型」ではなく、再エネをはじめとする電源のポテンシャルを考慮し、一般送配電事業者や広域機関等が主体的かつ計画的に系統形成を行っていく「プッシュ型」で、再エネ主力時代に応じた次世代の系統形成を進めていく必要があります。

このプッシュ型の考え方に基づき、広域機関においては、中長期的な系統形成についての基本的な方向性となる「広域系統長期方針」や、B/C分析(費用対効果分析)のシミュレーションに基づき、主要送電線の整備計画を定める「広域系統整備計画」を定めることとしています。再エネの大量導入とレジリエンス強化に向けて、全国大の送電ネットワークの将来的な絵姿を示すマスタープランを2023年3月に策定し、計画的に系統整備を進めていきます。また、特に再エネの導入を加速化する政策的な観点から、東地域(北海道〜東北〜東京間)、中西地域(関門連系線、中地域)については、マスタープランの策定に先行して、2022年7月から、広域機関において計画策定プロセスを開始しました。

また、プッシュ型の系統形成に当たり、特に、地域間連系線等を増強することには、広域メリットオーダーや再エネの導入による環境負荷の軽減、燃料費用の削減といった効果があり、こうした効果については、全国規模で需要家に裨益するものと考えられます。しかし、従来の費用負担の考え方では、地域間連系線等の増強費用は増強する連系線の両側の地域が負担することが原則であり、今後、再エネの地域偏在性によって、地域間で系統増強に係る負担格差が生じるとの懸念がありました。このため、連系線等の増強に伴う便益のうち、広域メリットオーダーによりもたらされる便益分については、受益者負担の観点から原則全国負担とし、特に、再エネへの導入促進効果が認められる範囲で、全国一律の賦課金方式を活用することや、連系線の送電容量が不足していることで市場分断が生じて発生する卸電力取引市場の値差収益を活用するための制度整備を行いました。加えて、系統整備に必要となる資金調達を円滑化する仕組みの整備も進めることとしています。今後、こうしたプッシュ型系統形成に向けて、関係機関とも協力しながら、さらに取組を進めていきます(第334-1-2)。

【第334-1-2】電力系統の増強

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【第334-1-2】電力系統の増強(ppt/pptx形式:181KB)

資料:
経済産業省作成

2.調整力の確保・調整手法の高度化

(1)出力制御

太陽光発電や風力発電といった再エネ電源は、天候や日照条件等の自然環境によって発電量が変動する特性があるため、地域内における発電量が需要量を上回る場合には、電力の安定供給を維持するため、発電量の制御が必要となります(第334-2-1)。

【第334-2-1】再エネ発電量と出力制御の関係

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【第334-2-1】再エネ発電量と出力制御の関係(ppt/pptx形式:125KB)

資料:
経済産業省作成

こうした場合、再エネ特措法施行規則や広域機関の送配電等業務指針で定められた優先給電ルールに基づき、火力発電の抑制、揚水発電の汲み上げ運転による需要創出、地域間連系線を活用した他エリアへの送電を行います。それでもなお、発電量が需要量を上回る場合には、再エネの出力制御を実施することとしており、2018年10月には、九州エリアで本土初となる再エネの出力制御が行われました。その後、2022年4月には四国・東北・中国エリアで、同年5月には北海道エリアで、2023年1月には沖縄エリアで、同年4月には中部・北陸エリアで、同年6月には関西エリアで、それぞれ初めて再エネの出力制御が行われました。こうした再エネの出力制御は、社会的コスト全体を抑制するとともに、電力の安定供給を維持しつつ、再エネの最大限の導入を進める上で必要な取組です。スペインやアイルランドといった再エネの導入が進んでいる国においても、発電量が変動する再エネは無制限に発電しているわけではなく、適切な制御を行うことで、再エネの導入と電力の安定供給を図っています。

一方で、再エネの導入拡大に伴い、足元の出力制御量が増加傾向にあることを踏まえ、出力制御を抑制するための取組として、2023年12月に新たな「再エネ出力制御対策パッケージ」をとりまとめました。このパッケージでは、需要面での対策により、出力制御時における需要家の行動変容・再エネ利用を促しつつ、供給面での対策により、再エネが優先的に活用される仕組みを措置することとしています。また、系統増強等により、再エネ導入拡大・レジリエンス強化の環境を整備する等、切れ目のない対策を講じることとしています。発電した電気を有効活用するためにも、再エネの出力制御が必要最小限のものとなるよう、制度環境の整備を進めるとともに、需要家の行動変容を促すことにより、再エネのさらなる導入拡大を進めていきます。

(2)グリッドコードの整備

発電量が変動する再エネの導入拡大に伴い、急激な出力変動や小刻みな出力変動等に対応するための「調整力」の必要性が高まり、電力システムで求められる対応も高度化することから、今後、制御機能や柔軟性を有する火力発電・バイオマス発電の「調整力」としての重要性が一層高まっていくことが予想されます。そこで、日本においては、実効性や手続の適正性が担保されている「系統連系技術要件」をグリッドコードの中心に位置づけ、発電機の個別技術要件については、原則として「系統連系技術要件」に規定していくこととしました。また、個別技術要件の具体化については、機能性・適切性・透明性を確保しつつ、包括的かつ実効的な審議が可能な枠組みの中で実施すべく、広域機関を中心に検討を進めていくこととなりました。

これを踏まえ、2020年9月に、広域機関において「グリッドコード検討会」が設置されました。この検討会では、日本における再エネの導入拡大に伴う系統連系等に関する課題と解決策について検討を行い、再エネの導入比率に応じて「フェーズ1」〜「フェーズ4」に分けて、必要な技術要件の議論を行っています。フェーズ1(再エネ比率:22%〜24%(旧想定値)に対応)については、2023年4月に要件化を行いました。また、フェーズ2(再エネ比率:36%〜38%に対応)については、2024年3月に検討を完了し、2025年に要件化を行う予定です。フェーズ3(再エネ比率:50%〜60%を想定)、フェーズ4(継続検討)については、今後、要件候補や審議時期を整理し、具体的な要件内容の検討を進めていきます。

3
事故時には自らが電制されることを条件に、緊急時用に確保している送電線の容量に新規電源を接続できる仕組み。
4
ノンファーム型接続が開始されたことに伴い、系統混雑を緩和し系統の有効利用を図る仕組み。