第1節 エネルギー需給の概要等

1.エネルギー需給の概要

世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)は経済成長とともに増加を続け、石油換算で1965年の37億トンから年平均2.3%で増加し続け、2020年には133億トンに達しました。ただし、2020年世界のエネルギー消費量は、新型コロナウイルス感染症の影響で前年比4.3%減少し、1945年以降最大の減少となりました。2000年代以降、アジア大洋州地域は新興国がけん引して消費量の伸びが高くなっています。一方、先進国(OECD諸国)では伸び率は鈍化しました。経済成長率、人口増加率が途上国と比べ低いことや、産業構造の変化や省エネルギーの進展が影響しています。この結果、世界のエネルギー消費量に占めるOECD諸国の割合は、1965年の70.6%から2020年には39.0%へと約32ポイント低下しました(第221-1-1)。

【第221-1-1】世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー)

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(注)1984年までのロシアには、その他旧ソ連邦諸国を含む。
(注)1985年以降の欧州には、バルト3国を含む。

【第221-1-1】世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー)(xls/xlsx形式40KB)

資料:
BP「Statistical Review of World Energy 2021」を基に作成

ここで1人当たりのGDPとエネルギー消費量の関係を見てみましょう。一般的に経済成長とともにエネルギー消費が増加するため、今後途上国の経済が成長することでエネルギー消費も増えていきます。一方、ドイツとカナダを比較してみると1人当たりのGDPはほぼ同じですが、1人当たりのエネルギー消費量は大きく異なることも分かります。国によって気候や産業の構造が違うので一概には言えませんが、エネルギー効率の違いがこの差を生みだす原因の一つになっています。現在主流の化石エネルギーは無尽蔵ではなく、また化石エネルギーを大量に消費すると二酸化炭素の排出量も増えてしまいます。そのため、特に今後エネルギー消費量が大きく増えることが予測されている途上国では、エネルギー効率を高めていくことがとても重要であり、また日本を含む先進国がそれを手助けしていくことが求められています(第221-1-2)。

【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2020年)

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【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2020年)(xls/xlsx形式24KB)

資料:
BP「Statistical Review of World Energy 2021」、世界銀行「World Bank Open data」を基に作成

次に、世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)の動向をエネルギー源別に見てみます。石油は今日までエネルギー消費の中心となってきました。発電用を中心に他のエネルギー源への転換も進みましたが、堅調な輸送用燃料消費に支えられ、石油消費量は1965年から2020年にかけて年平均1.8%で増加し、依然としてエネルギー消費全体で最も大きなシェア(2020年時点で31.2%)を占めています。ただし、2020年世界の石油消費は、新型コロナウイルス感染症の影響で前年比で減少しました。石炭は、同じ期間に年平均1.7%で増加し、特に2000年代において、経済成長が著しい中国等、安価な発電用燃料を求めるアジア地域を中心に消費量が拡大しました。しかし、近年では、中国の需要鈍化、米国における天然ガス代替による需要減少などが原因となって2015年以降前年比で減少する年もあり、石炭消費量は伸び悩んでいます。この結果、石炭シェアは27.2%(2020年時点)となっています。天然ガスは、同じ期間に石油と石炭以上に消費量が伸びました。天然ガスは、特に気候変動への対応が強く求められる先進国を中心に、発電用や都市ガス用の消費が伸びました(年平均増加率3.2%)。2020年世界の天然ガス消費は、新型コロナウイルス感染症の影響で前年比で減少しましたが、一次エネルギーに占める天然ガスの割合は、過去最高の24.7%に達しました。同じ期間で伸び率が最も大きかったのは、原子力(同8.7%)と風力、太陽光等のその他再生可能エネルギー(同12.5%)でしたが、2020年時点のシェアはそれぞれ4.3%及び5.7%と、エネルギー消費全体に占める比率はいまだに大きくありません。しかしながら、2020年は気候変動問題を背景にした取組や設備価格等が低下し続けていることなどを背景に、他再生エネルギー消費は、前年比で増加しました。近年は太陽光発電や風力発電のコストが低下しており、今後再生可能エネルギーの比率は更に拡大すると予想されます。また、2015年12月に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、2020年以降、パリ協定が採択され、産業革命前と比べた気温上昇を2度より低く抑えること、さらに1.5度までに抑えるよう努力することが盛り込まれました。その後、各国においてパリ協定の締結が順調に進み、2016年11月に発効しました。さらに、2018年12月に開催されたCOP24(国連気候変動枠組条約第24回締約国会議)では、2020年以降のパリ協定の本格運用に向けパリ協定の実施指針が採択されました。パリ協定の発効、実施指針の採択は、世界の多くの国が温暖化対策に積極的に取り組んでいることを示す象徴的な出来事と言えます。ただし、2017年1月に発足した米国のトランプ政権は、2017年8月にパリ協定からの脱退方針を国連気候変動枠組条約事務局に通知しました。パリ協定の規定では、パリ協定発効日から3年経過後に脱退通告が可能になり、脱退が効力を有するのは脱退通告から1年後となっています。米国のトランプ政権は、パリ協定発効の3年後にあたる2019年11月4日に、国連にパリ協定からの脱退を正式に通告したため、2020年の11月4日にパリ協定を正式に離脱しましたが、2021年1月に発足した米国バイデン政権は2021年2月19日にパリ協定に復帰しました。また、2021年10月31日から11月13日の間に国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催され、パリルールブックが完成しました。1再エネのコスト競争力の高まりとともに、米国での導入量も大幅に増加しています。温暖化対策はエネルギーの選択に大きな影響を及ぼすため、今後もその動向を注視していく必要があります(第221-1-3)。

【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー消費量)

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【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー消費量)(xls/xlsx形式40KB)

資料:
BP「Statistical Review of World Energy 2021」を基に作成

世界の最終エネルギー消費は、1971年から2019年までの48年間で約2.4倍に増加しました。部門別では、鉄鋼・機械・化学等の産業用エネルギー消費は2.1倍、家庭や業務等の民生用エネルギー消費は2.0倍であるのに対して、輸送用エネルギー消費は3.0倍に増えました。輸送用が大きく増えた背景には、この間に世界中でモータリゼーションが進展し、自動車用燃料の需要が急増したことがあると考えられます。この結果、最終エネルギー消費に占める輸送用のエネルギー需要の割合は1971年の22.7%から2019年には28.9%へと約6ポイント増加しました(第221-1-4)。

【第221-1-4】世界のエネルギー需要の推移(部門別、最終エネルギー消費量)

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(注1)端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある。
(注2)消費量合計が前表より少ないのは、主に本表には発電用及びエネルギー産業の自家使用が含まれていないためである。

【第221-1-4】世界のエネルギー需要の推移(部門別、最終エネルギー消費量)(xls/xlsx形式26KB)

資料:
IEA「World Energy Balances 2021 Edition」を基に作成

COLUMN

エネルギー需給の展望

ここでは、将来の世界のエネルギー需要予測を、国際エネルギー機関(IEA)のデータを用いて見てみます。IEAではいくつかの将来シナリオを想定していますが、これらを2020年の実績と比較してみます。公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario)は、セクター別政策の評価をベースに世界中の政府が発表した現在の政策を反映したケース、表明公約シナリオ(Announced Pledged Scenario)は、国が決定する貢献(NDC)や長期的なネットゼロ目標を含む、世界中の政府による全ての気候変動への取組が完全かつ期限内に達成されることを前提としたケース、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオ(Net Zero Emission by 2050 Scenario)は、地球の気温上昇を1.5℃に抑え、その他のエネルギー関連の持続可能な開発目標を達成するための、狭いながらも達成可能なケースです。パリ協定では、産業革命前からの気温上昇幅2℃の目標が設定され、1.5℃に抑える努力を追求することが定められました。その後、2℃では甚大な影響が免れず、1.5℃に抑えるべきという声が高まりました。そしてIEAは2021年5月に気温上昇を1.5℃に抑えるシナリオを発表し、2021年秋に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、日本も1.5℃を提案し、公式文書にも1.5℃を追求することが折り込まれました。

2050年の世界の一次エネルギー消費量は、公表政策シナリオでは、2020年比で約1.26倍の石油換算178億トン、表明公約シナリオでは2020年比約1.14倍の石油換算161億トンになる見通しです。これに対して、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは2020年比で約0.92倍と一次エネルギー消費量は石油換算130億トンまで減少します。公表政策シナリオ(2020年比1.26倍)及び表明公約シナリオ(2020年比1.14倍)と、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオ(2020年比0.92倍)との差は歴然としており、世界の国々が現在掲げている政策目標や表明している公約では、「1.5℃の追求」に届かないことが分かります。

次にエネルギー源別に見てみましょう。IEAのシナリオでは、公表政策、表明公約、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現の順に気候変動対策が強くなります。気候変動対策が強くなるほど、低炭素なエネルギーや技術がより多く利用されるようになるのは容易に想像できると思いますが、シナリオ分析の結果はまさにそのようになっています。

化石エネルギーで最も大きな影響を受けるのは石炭と見られています。2020年の石炭消費量との比較では、公表政策シナリオでも0.76倍、表明公約シナリオでは0.50倍、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは0.11倍まで減少します。石油も同じような傾向にありますが、2020年の石油消費量との比較では、公表政策シナリオでは1.16倍に増加しますが、表明公約シナリオでは0.86倍に減少、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは0.25倍まで減少します。このように、石油の消費量の減り方は石炭のそれよりも緩やかです。これは、石炭と石油では主な用途が異なるためです。石炭は主に発電や産業用に使われており、これらは比較的容易に天然ガスや再生可能エネルギーに置き換えていくことが可能です。一方の石油は主に自動車用の燃料として使われていますが、これを他のエネルギーに変えていくのは容易ではありません。そのために、石油の方が消費量の減り方が緩やかになっています。化石エネルギーの中で、一番減り方が緩やかであるのは、天然ガスです。石炭や石油と比較してクリーンであるため様々な分野で利用が行われると見られており、2020年の天然ガス消費量との比較では、石油と同様に公表政策シナリオでは1.26倍に増加しますが、表明公約シナリオでは0.96倍に減少、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは0.44倍に減少します。

炭素排出の非常に少ない水力を含む再生可能エネルギーや原子力は、いずれのシナリオでも増える見通しになっています。なかでも風力や太陽光を中心とした再生可能エネルギーの増加見通しが顕著です。公表政策シナリオでは2.26倍、表明公約シナリオでは2.87倍、ネット・ゼロ・エミッション2050年実現シナリオでは3.91倍まで増加すると予測しています。

将来は不確実であり、これらのシナリオはあくまでも一定の前提に基づいた試算に過ぎません。このようなシナリオ分析を行いながら、将来のよりよいエネルギーのあり方について考えていくことが何よりも重要です。

【第221-1-5】世界のエネルギー供給展望(エネルギー源別、一次エネルギー供給量)

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(注)他再生可能は、風力、太陽光、地熱、バイオマス等の再生可能エネルギーである。

【第221-1-5】世界のエネルギー供給展望(エネルギー源別、一次エネルギー供給量)(xls/xlsx形式23KB)

資料:
IEA「World Energy Outlook 2021」
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交渉結果等の詳細は、外務省「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)、京都議定書第16回締約国会合(CMP16)、パリ協定第3回締約国会合(CMA3)等(https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page24_001540.html