第10章 戦略的な技術開発の推進

多くの資源を海外に依存せざるを得ないという、我が国が抱えるエネルギー需給構造上の脆弱性に対して、エネルギー政策が現在の技術や供給構造の延長線上にある限り、根本的な解決を見出すことは容易ではありません。さらに、その多くがエネルギーに由来する温室効果ガスの排出量を大幅に抑制することを同時的に達成していくことも求められています。

こうした困難な課題を根本的に解決するためには、革命的なエネルギー関係技術の開発とそのような技術を社会全体で導入していくことが不可欠となりますが、そのためには、長期的な研究開発の取組と制度の変革を伴うような包括的な取組が必要です。

一方、エネルギー需給に及ぼす課題は様々なレベルで存在しており、短期・中期それぞれの観点から、エネルギー需給を安定させ、安全性や効率性を改善していくことが、日々の生活や経済の基盤を形成しているエネルギーの位置付けを踏まえると、極めて重要な取組となります。

したがって、エネルギー関係技術の開発に当たっては、こうした多面的な視点を踏まえて、課題を達成する目標、開発を実現する時間軸と社会に実装化していくための方策を戦略的に設定し、推進していくことが必要です。

エネルギー基本計画では、①我が国エネルギー需給構造の脆弱性の解決には、革命的なエネルギー関係技術の開発と社会全体における導入のため、長期的研究開発と制度変革を伴う取組が必要、②エネルギー需給に影響を及ぼす課題は、日々の省エネルギー化や安全性改善等、様々なレベルで存在しており、短期・中期それぞれの観点から、エネルギー需給を安定させ、安全性や効率性を改善していく不断の取組が重要であるとしています。この基本的方向性を踏まえ、短期・中期・長期それぞれの観点から技術課題を俯瞰するとともに、③どのような課題の克服が目標とされる取組なのか、④開発を実現する時間軸と社会実装化のための方策といった観点を踏まえて、2014年12月にエネルギー関係技術ロードマップを策定しました。

また、パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く抑え、1.5℃までに制限する努力を追求すること等を目的とし、この目的を達成するよう、世界の温室効果ガスの排出のピークをできる限り早くするものとし、人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を今世紀後半に達成するために、最良の科学に従って早期の削減を目指すとされています。

こうした中で、2016年5月に閣議決定された地球温暖化対策計画においては、「我が国は、パリ協定を踏まえ、全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す。このような大幅な排出削減は、従来の取組の延長では実現が困難である。したがって、抜本的排出削減を可能とする革新的技術の開発・普及などイノベーションによる解決を最大限に追求するとともに、国内投資を促し、国際競争力を高め、国民に広く知恵を求めつつ、長期的、戦略的な取組の中で大幅な排出削減を目指し、また、世界全体での削減にも貢献していく。」としています。

例えば、総合科学技術・イノベーション会議で2016年4月に決定した「エネルギー・環境イノベーション戦略(NESTI2050)」において特定した有望な革新技術の研究開発の推進を図るため、2017年9月に技術ロードマップを策定・公表するとともに、優先的に取り組むべきボトルネック課題の抽出のための検討会を立ち上げ、温室効果ガスの抜本的な排出削減を実現するイノベーション創出に向けた取組を推進しました。

<具体的な主要施策>

1.生産に関する技術における施策

(1)再生可能エネルギーに関する技術における施策

① 洋上風力発電等技術研究開発

(再掲 第3章第2節 参照)

② 福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業

(再掲 第3章第2節 参照)

③ 地熱発電技術研究開発事業

(再掲 第3章第2節 参照)

④ 戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業

(再掲 第3章第3節 参照)

⑤ 太陽光発電システム維持管理及びリサイクル技術開発

(再掲 第3章第3節 参照)

⑥ 海洋エネルギーの活用促進のための安全・環境対策

(再掲 第3章第3節 参照)

(2)原子力に関する技術における施策

① 廃炉・汚染水対策事業【 2016年度補正161.0億円、2017年度補正175.6億円】

「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(2017年9月26日廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議決定)に基づき、廃炉・汚染水対策を進めていく上で、技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要のある研究開発を支援するとともに、廃炉作業に必要な実証・研究を実施するため、モックアップ試験施設や放射性物質の分析・研究施設の整備・運用を進めました。

② 発電用原子炉等安全対策高度化事業

(再掲 第4章第3節 参照)

③ 高速増殖炉サイクル技術の研究開発

(再掲 第4章第4節 参照)

④ 高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発【2017年度当初:12.7億円】

水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発を推進しました。具体的には、JAEAが所有する高温工学試験研究炉(HTTR)の運転再開に向けた準備を進めるとともに、水素製造に関する要素技術開発を推進しました。また、2017年5月には、高温ガス炉の研究開発に係る新たな国際協力として、EUの多国間高温ガス炉研究開発プロジェクトGEMINI+にJAEAが参加しました。さらに同月、新たな二国間協力として、JAEAは、英国URENCO社及びポーランド国立原子力研究センターのそれぞれと「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」を締結し、高温ガス炉の設計、材料、安全評価等に関する協力を開始しました。

⑤ ITER計画をはじめとする核融合に関する研究開発の推進(ITER計画及びBA活動に関する経費)【2017年度当初:225.3億円】

核融合エネルギーは、エネルギー問題と環境問題の根本的な解決をもたらす将来のエネルギー源として大いに期待されています。我が国の核融合研究開発は、国際協力を効率的に活用しながら、量子科学技術研究開発機構(QST)、核融合科学研究所、大学等が、相互に連携・協力して推進しています。

国際熱核融合実験炉(ITER)計画は、核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性の実証を目指した国際共同研究開発プロジェクトであり、現在、日本、EU(ユーラトム:欧州原子力共同体)、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7つの国と地域によって進めています。また、ITER計画を補完・支援する先進的研究開発プロジェクトとして、幅広いアプローチ(BA)活動を日欧協力により、我が国で実施しています。

両事業において、我が国は調達を担当する機器の製作を進めるとともに、核融合の最先端研究開発などを本格的に進めています。

核融合分野における二国間協力では、米国、EU(ユーラトム)、韓国、中国と核融合研究協力実施の取決めを結んでいます。また、多国間協力ではIEAにおいて8つの核融合協力実施取決めを結ぶとともにIAEAの核融合協力に関する活動にも積極的に参画する等、我が国は、世界そしてアジアの拠点として、研究協力や研究者の交流を実施しています。

(3)化石燃料・鉱物資源に関する技術における施策

①メタンハイドレート開発促進事業

(再掲 第1章第3節 参照)

② 海底熱水鉱床採鉱技術開発等調査事業

(再掲 第1章第3節 参照)

2.流通に関する技術における施策

(1)革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発

(再掲 第2章第1節 参照)

(2)大型蓄電システム緊急実証事業費補助金

(再掲 第3章冒頭 参照)

3.消費に関する技術における施策

(1)産業部門に関する技術における施策

① 環境調和型製鉄プロセス技術開発

(再掲 第2章第1節 参照)

② 石油精製高付加価値化技術開発委託費

(再掲 第5章第2節 参照)

(2)家庭・業務部門に関する技術における施策

リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発

(再掲 第2章第1節 参照)

(3)運輸部門に関する技術における施策

革新的新構造材料等技術開発

(再掲 第2章第1節 参照)

(4)消費全般に関する技術における施策

① 超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発

(再掲 第2章第1節 参照)

② 戦略的省エネルギー技術革新プログラム

(再掲 第2章第1節 参照)

③ 次世代パワーエレクトロニクス技術開発プロジェクト

(再掲 第2章第1節 参照)

④ 省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発

電力消費の大幅な効率化を可能とする窒化ガリウム(GaN)等を活用した次世代パワーデバイス等の実現に向け、理論・シミュレーションも活用した材料創製からデバイス化・システム応用までの次世代半導体に係る研究開発を一体的に推進しました。

⑤ 次世代エネルギー技術実証事業

(再掲 第2章第2節 参照)

4.水素に関する技術における施策

水素利用技術研究開発事業

(再掲 第8章第3節 参照)