第2節 石油産業・LPガス産業の事業基盤の再構築

1.石油産業(精製・元売)の事業再編・設備最適化

我が国の国内石油需要は、ピークである1999年度に比べて2016年度では約3割程度減少しており、「平成29~平成33年度の石油製品需要見通し」によれば、向こう5年間は年平均で約1.5%の割合で需要が減少していく見込みです。こうした需要減少局面にある我が国の石油産業(精製・元売)の収益率は低迷しています。また、アジア新興国においては、顕著な需要増加とあわせて輸出志向の大型で最新鋭の石油コンビナートが次々に建設されており、アジア地域への石油製品の輸出環境は厳しさを増しています。今後も国内石油需要が減少していく見通しの中、全国的な石油サプライチェーンを維持し、平時・有事を問わずに石油安定供給を確保するためには、大胆な事業再編を進めて、経営基盤を強化していく必要があります。

具体的には、①石油・石油化学需要の増大が見込まれるアジア新興国における石油精製元売・石油化学事業への参画、②資源開発事業への参画、③国内の電力・ガスシステム改革に対応した電力・ガス事業強化・拡大等の事業戦略を展開していくことが期待されますが、そのためには、十分な投資体力を確保すべく、国内石油事業の収益性回復を図ることが必要です。

このため、石油コンビナートに立地する製油所・石油化学工場等について、「資本の壁」や「地理的な壁」を超えた統合運営・事業再編を通じ、石油製品と石油化学製品等の柔軟な生産体制の構築等による高付加価値化や、設備の共有化・廃棄等による設備最適化、製造原価の抑制に向けた取組を支援するなど、総合的かつ抜本的な生産性向上を進めるための施策を講じました。また、中長期的に原油調達の多様化が必要になることを想定し、非在来原油も含む重質原油の最適処理を可能にする技術開発も促進しました。

<具体的な主要施策>

(1)エネルギー供給構造高度化法(以下「高度化法」という。)による原油等の有効利用の促進【法律】

原油一単位あたりから精製されるガソリン等石油製品の得率を向上させ、余すところなく原油を利用する(原油の有効利用)体制を強化すべく、高度化法に基づく石油精製業者向け判断基準(以下「告示」という。)を示し、国内精製設備の最適化等を促進してきました。具体的には、2010年7月に施行した一次告示により、我が国製油所全体の「重質油分解装置の装備率」の装備率の向上を義務付け、対象となる各石油精製業者は常圧蒸留装置の能力削減及び重質油分解装置の新設・増強の組み合わせで対応しました。これにより、我が国製油所全体で重質油分解装置の装備率は10%程度(告示制定時)から13%程度(2013年度末)へと改善され、国内の精製能力は過去10年間の最大である489万BDから約2割削減されました。

また、2014年7月に施行した二次告示では、更なる原油の有効利用を進める観点から、我が国全体の「残油処理装置の装備率」の向上を義務付け、各石油精製業者は常圧蒸留装置の廃棄または公称能力の削減及び残油処理装置の新設・増強の組み合わせで対応しました。これにより、我が国全体の残油処理装置の平均装備率は45%程度(告示制定時)から50.5%程度(2016年度末)へと改善し、二次告示開始当時の395万BDから約1割削減されました。

こうした取組により、国内製油所の重質油分解装置等の装備率は世界的に高い水準を実現した一方、実際の分解能力の活用は十分ではなく、国際競争力の高い他国の製油所と比較して多くの残渣油を生産しているとの指摘があります。そのため、2017年10月、さらなる原油の有効利用や製油所の国際競争力強化に向けて、重質油分解装置等のさらなる有効利用を目的とする、新たな告示(三次告示)を施行しました。

具体的には、輸入品に負けない生産性の実現を目指すとともに、輸出可能な生産性の獲得を促す観点から、過去3年における重質油分解装置等への減圧残渣油の1日当たりの通油量に対して、平成33年度における1日当たりの通油量を増加させるため、石油精製業者の現状に応じた今後5年間の改善目標を設定し、達成を義務付けました。

(2)石油コンビナートの生産性向上及び強じん化推進事業費【2017年度当初:140.0億円の内数】

石油精製コストの低減や石油コンビナートの国際競争力強化に向け、複数の製油所・石油化学工場等の事業再編・統合運営に対する支援を行いました。

(3)高効率な石油精製技術の基礎となる石油の構造分析・反応解析等に係る研究開発委託費【2017年度当初:4.7億円】

コストの安い原油等から高付加価値製品を生産する「石油のノーブル・ユース」等に資する非在来型原油等の構造等の分析技術、重質油処理プロセスの最適化技術等の開発を行いました。

(4)高効率な石油精製技術に係る研究開発支援事業費補助金【2017年度当初:5.7億円】

コストの安い原油等から高付加価値の製品を生産する「石油のノーブル・ユース」や、精製設備の稼働を長期間安定させる「稼働信頼性の向上」に資する実用化、実証の段階にある技術の開発を行いました。

(5)分解軽油の利用による自動車等への影響分析・評価事業費補助金【2017年度当初:3.0億円】

精製過程で生じる残渣油から再生した石油製品について、環境面・安全面において自動車で安心して使用できるよう分析・評価を行うことを通じ、原油から得られる各留分を余すことなく使用する取組に対する支援を行いました。

2.石油・LPガスの最終供給体制の確保

消費者に石油製品の供給を行うサービスステーション(SS)は、販売量の減少、それに伴う収益の悪化、さらには消防法の改正による地下タンク改修の義務化によるコスト増などの要因により、経営環境が厳しさを増しています。加えて、施設の老朽化、後継者難等も一因となり、1994年度に約60,000か所存在していたSSが、2016年度末には31,467か所にまで減少しています。

そのため、平時・緊急時を問わず石油製品の安定的な供給を確保するため、SS過疎地等において地下タンクの撤去や漏えい防止対策等の環境・安全対策への支援を行ったほか、自家発電機を備え、災害時にも地域住民の燃料供給拠点となる「住民拠点SS」の整備などのSSの災害対応能力の強化を行いました。さらに、災害対応に貢献する中小SSに対して、燃料配送合理化の取組や環境・IT対応等の設備導入への支援を行うとともに、電気自動車等の普及等を見据えた新たなビジネスモデルを支える人材の育成支援などを行いました。

LPガスについては、その供給網は都市ガス導管の通っていない地域を含め全国に拡がっており、全国総世帯の約4割(約2,300万世帯)の家庭で利用されています。また、平時での熱源としての利用はもちろんのこと、災害時においては燃料供給が滞った場合でも迅速に対応可能な「最後の砦」としての役割を担う重要なエネルギーです。そのため、LPガス事業者が地域において果たす役割を将来に渡って維持していくことが可能となるよう、その経営基盤の強化に資する取組、例えば、配送・検針業務の合理化・効率化が可能となる「集中監視システム」の導入などに対する支援などを行いました。

<具体的な主要施策>

(1)石油製品安定供給確保支援事業【2016年度補正:61.0億円】

災害時における燃料の安定供給に貢献する中小ガソリンスタンドによる燃料供給体制を確保するため、自家発電機を備えた「住民拠点SS」の整備や中小SSの生産性向上による経営安定化に係る費用に対し補助を行いました。

(2)災害時に備えた地域におけるエネルギー供給拠点の整備事業【2017年度当初:24.5億円】

熊本地震において避難者・被災者への燃料供給拠点となるSSの役割が再認識されたことを受け、自家発電機を備え、災害時において地域の石油製品の供給拠点となる「住民拠点SS」の整備や、こうした災害時の拠点SSが行う自家発電機の導入や地下タンクの入換・大型化、災害訓練を支援しました。

(3)過疎地等における石油製品の流通体制整備事業【2017年度当初:14.5億円】

SS過疎地等における石油製品供給網を維持するために、①複数のSSの統合・集約・移転の際の地下タンクの設置、②地域の総合生活サービス拠点への転換のための実証・人材育成・人材マッチング、③地下タンクからの燃料漏洩防止対策や地下タンク撤去等の環境・安全対応等を支援しました。

(4)石油ガス販売事業者の経営及び販売実態に関する調査【2017年度当初:1.3億円】

LPガスの流通実態・販売事業者の経営実態等を調査し、LPガス産業全体の流通構造の適正化、合理化策を検討するとともに、消費者等に対しLPガスの取引適正化に向けた取組や価格動向等の情報を提供し、消費者意識の向上と市場原理の一層の活性化を図るための調査等を実施しました。

(5)石油ガスの流通合理化及び取引の適正化等に関する支援事業費【2017年度当初:9.0億円】

小規模事業者が大多数を占めるLPガス販売事業者の構造改善を促進し、LPガス販売業の体制強化を図るため、販売事業者団体が行う消費者相談事業や、販売事業者等が行う構造改善推進事業及び充填所統廃合事業等に対し補助を行いました。

(6)石油製品安定供給確保支援事業【2017年度補正:60.0億円】

昨今、国内各地で災害が頻発している状況を踏まえ、自家発電機を備え、災害時には地域における燃料供給拠点となる「住民拠点SS」を2019(平成31)年度頃までに8,000か所整備するため、自家発電機の導入を加速化。また、災害対応に貢献する中小SSが生産性向上による経営安定化を図るための燃料配送合理化や環境・IT対応等の設備の導入を支援しています。

3.公正かつ透明な石油製品取引構造の確立

<具体的な主要施策>

(1)石油製品の卸・小売価格モニタリング調査事業【2017年度当初:2.4億円】

石油製品について、SS等を対象に卸価格や小売価格を調査し、流通マージン等を把握するとともに、必要に応じ公正取引委員会への情報提供を行いました。

(2)石油製品品質確保事業費補助金【2017年度当初:11.5億円】

石油製品の適正な品質を確保するため、全国約31,500の給油所においてサンプル(ガソリン等)を試買・分析する事業に対し支援を実施しました。また、分析技術レベルの向上を図るため、分析技術の研究開発等に対する支援を実施しました。