第2節 リードタイムの長い電源の導入加速に向けた取組の強化
FITの運用開始後、太陽光発電の導入が急速に拡大してきた一方で、リードタイムの長い電源の導入は太陽光と比較すると進んでいません。特に、開発規模によって経済性を確保できる可能性のある風力・地熱については、地元との調整や、環境アセスメントのほか、立地のための各種規制・制約への対応等の課題が多く、それらを解決する取組を進めました。
<具体的な主要施策>
I 研究開発・実証
(1)洋上風力発電等のコスト低減に向けた研究開発事業【2017年度当初:63.2億円】
浮体式洋上風力発電の低コスト化を目的とした実証を北九州市沖で行うため、浮体の制作等を実施中です。また、浮体式の更なるコスト低減を実現するため、風車・タワー・浮体の一体型浮体式洋上風車の要素技術開発において、水槽試験・シミュレーションによる妥当性検証を行い、1/10スケールモデル実海域試験にて、水槽試験で再現の難しい波・風・潮流を組み合わせた環境下での性能評価等を行いました。着床式洋上風力発電においては、資本支出(CAPEX)に占める割合が高い基礎・施工費に関して、コスト低減に寄与する施工技術調査研究を行いました。また、風力発電の設備稼働率の向上による発電コストを低減するため、故障予知による停止時間を縮小させるためのスマートメンテナンス技術を確立しました。
(2)地熱発電技術研究開発事業【2017年度当初:22.0億円】
地熱発電における高い開発コストやリスク等の課題を解決するため、地下の地熱資源のより正確な把握、安定的な電力供給に必要となる地熱資源の管理・評価、生産井や還元井等を短期間かつ低コストに掘削するための技術開発や、自然環境に配慮した設計支援ツール等の開発を行いました。
(3)福島沖での浮体式洋上風力発電システムの実証研究事業【2017年度当初:24.0億円】
「福島イノベーション・コースト構想」の実現のため、福島沖において、世界最大の7MW浮体式洋上風車をはじめ3基の風車と浮体式洋上変電所を順次設置し、すべての風車による本格的な実証を開始しています。世界に先駆けた浮体式洋上風力発電システムの事業化を見据え、実証機の運転データや気象・海象データの取得及び分析を行うとともに、コスト低減に資する効率的なメンテナンス等の実証を行いました。
II 導入支援
(1)地熱資源開発調査事業費補助金【2017年度当初:90.0億円】
地熱発電は、自然条件によらず安定的な発電が可能なベースロード電源の一つであり、我が国は世界第3位の資源量(2,347万kW)を有する一方で、地質情報が限られており事業リスクが高いことから、資源量把握に向けた地表調査や掘削調査等の初期調査に対する支援を行いました。
(2)地熱開発理解促進関連事業支援補助金【2017年度当初:12.0億円】
地熱の有効利用等を通じて、地域住民等への地熱開発に対する理解を促進することを目的として行う事業(例えば、地熱発電に関する勉強会や、熱水を利用したハウス栽培事業の実施等)に対し補助を行うことで、地熱資源開発を支援しました。
(3)地熱資源探査出資等事業【2017年度当初:60.0億円】
地熱資源の探査や発電に必要な井戸の掘削、発電設備の設置等に対して出資・債務保証を行い、地熱資源開発を支援しました。
III 規制の合理化
(1)洋上風力発電の一般海域利用ルールの整備
洋上風力発電は、大規模な開発により経済性の確保が可能であり、関連産業への波及効果とともに、発電設備の設置・維持管理での港湾の活用による地元産業への好影響が期待できます。他方、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関しては、長期にわたる海域の占用を実現するための統一的ルールがなく、先行利用者との調整に係る枠組みも整備されていません。このため、国が、基本方針を定めた上で、
①一般海域において海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用を促進するための区域の指定、及びこれに関わる先行利用者との調整の枠組みを定め、
②公募により事業者を選定し、供給価格の低減を図りつつ、長期の占用を実現するにあたり必要な手続きを定める等の制度の創設を盛り込んだ海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律が2018年3月に国会に提出されました。
(2)風力・地熱発電に係る環境影響評価の国による審査期間の短縮目標の設定
風力・地熱発電建設時の環境影響評価の国の審査期間については、2012年11月の「発電所設置の際の環境アセスメントの迅速化等に関する連絡会議 中間報告」(環境省・経済産業省)において、火力発電所リプレースに係る国の審査期間の短縮に向けた取組を、風力・地熱発電の環境影響評価の審査についても適用することとされています。
この結果、2017年度においては、地方公共団体の協力を得て審査期間の短縮を図るとともに、地域の環境基礎情報(自然環境や社会環境に関する情報等)等を「環境アセスメントデータベース”EADAS(イーダス)”」を通じて公開するなどの取組により、対象となった案件について概ね目標のとおりに実施期間の短縮を実現しました。
(3)風力発電設備の安全確保に向けた取り組み
港湾区域における洋上風力発電設備に係る審査手続きの合理化により事業者の負担を軽減するため、経済産業省は、国土交通省と共同で、電気事業法と港湾法の統一的な考え方に基づく審査基準類の検討を進め、2018年3月に「洋上風力発電設備に関する技術基準の統一的解説」を策定・公表しました。
(4)環境アセスメント手続の迅速化に向けた環境影響調査の前倒し方法の実証事業【2017年度当初:6.0億円】
風力発電や地熱発電の設置に係る環境アセスメントの迅速化に向け、従来3~4年程度かかる環境アセスメント手続における環境調査を前倒して、他の手続と同時並行で進める場合の課題の特定・解決を図るための実証事業等を引き続き実施し、その手法をガイドに取りまとめました。
(5)洋上風力発電設備の審査基準類の整備【2017年度当初:0.2億円】
洋上風力発電設備に係る審査手続きの合理化により事業者の負担を軽減するため、電気事業法と港湾法の統一的な考え方に基づく審査基準類の検討を進め、2018年3月に「洋上風力発電設備に関する技術基準の統一的解説」及び「港湾における洋上風力発電設備の施工に関する審査の指針」を策定・公表しました。
(6)風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業【2017年度当初:3億円】
個別事業に係る環境アセスメントに先立つものとして、地方公共団体が関係者と調整しつつ、環境保全を優先するエリア、風力発電等の導入を促進するエリア等の設定を行うゾーニング手法の確立と普及を目的として、10の地方公共団体でモデル事業を実施しました。その結果等を踏まえ、風力発電等に係るゾーニング手法に係るマニュアルを2018年3月に作成し、公表しました。
(7)国立公園等における再生可能エネルギーの効率的導入促進事業【2017年度当初:0.7億円】
全国に34箇所ある国立公園において、地形・地質、動植物をはじめとした景観要素に関する既存資料を網羅的に収集し、インベントリとして整理しました。また、これらの資料に含まれる各種情報のデータベース化を進めました。収集した情報は合計240万レコード以上にのぼり、自然環境の概況や法制度等の様々な条件を可視化した主題図についても作成を進めました。今後本データを一般に公開することによって、自然環境等に配慮した適切かつ効率的な再生可能エネルギーの導入促進に寄与することが期待されます。
また、鳥類の生息に関する基礎情報(重要種、集団飛来地、渡りルート等)を一元的に提供することで、風力発電の導入に伴う鳥類への影響の効率的な回避・低減を進めるためのセンシティビティマップを2018年3月に公表しました。センシティビティマップは環境アセスメントデータベース”EADAS”から閲覧することができます。
(8)浮体式洋上風力発電の低コスト化・普及促進事業【2017年度当初:20.0億円】
2013年10月から、国内初の商用スケール(2MW)の実証機の運転を開始し、環境影響、気象・海象への対応、安全性等に関する情報収集等を行いました。この実証試験を通じて、2015年には、高い安全性や信頼性を有する効率的な発電システムの確立に成功しました。2016年度からは、民間による浮体式洋上風力発電事業を促進するため、海域動物や海底地質等を正確かつ低コスト効率的に調査・把握する手法及び浮体式洋上風力発電の海域設置等に要するの施工に伴い発生するコストやCO2排出量を低減する手法の開発・実証を行いました。