第1節 エネルギー需要の概要
1.エネルギー消費の動向
1970年代までの高度経済成長期に、我が国のエネルギー消費は国内総生産(GDP)よりも高い伸び率で増加しました。しかし、1970年代の二度の石油ショックを契機に、製造業を中心に省エネルギー化が進むとともに、省エネルギー型製品の開発も盛んになりました。このような努力の結果、エネルギー消費を抑制しながら経済成長を果たすことができました。1990年代を通して原油価格が低水準で推移する中で、家庭部門、業務他部門を中心にエネルギー消費は増加しました。2000年代半ば以降は再び原油価格が上昇したこともあり、2004年度をピークに最終エネルギー消費は減少傾向になりました。2011年度からは東日本大震災以降の節電意識の高まりなどによってさらに減少が進みました。2015年度は実質GDPが2014年度より1.3%増加しましたが、前年度より冷夏、暖冬であったことや省エネルギーが進展したことから、最終エネルギー消費は同1.4%減少しました(第211-1-1)。
部門別にエネルギー消費の動向を見ると、1973年度から2015年度までの伸びは、企業・事業所他部門が1.0倍(産業部門10.8倍、業務他部門2.4倍)、家庭部門が1.9倍、運輸部門が1.7倍となりました。企業・事業所他部門では第一次石油ショック以降、経済成長する中でも製造業を中心に省エネルギー化が進んだことから微増で推移しました。一方、家庭部門・運輸部門ではエネルギー利用機器や自動車などの普及が進んだことから、大きく増加しました。その結果、企業・事業所他、家庭、運輸の各部門のシェアは第一次石油ショック当時の1973年度の74.7%、8.9 %、16.4 % から、2015年度には63.5 %、13.8 %、22.7%へと変化しました。
- (注1)
- J(ジュール)=エネルギーの大きさを示す指標の一つで、1MJ=0.0258×10-3原油換算kl。
- (注2)
- 「総合エネルギー統計」は、1990年度以降の数値について算出方法が変更されている。2
- (注3)
- 産業部門は農林水産鉱建設業と製造業の合計。
- (注4)
- 小売全面自由化後も、需要家保護の観点から、競争が進展していない地域においては、経過措置として小売料金規制を存続させる。
- 出典:
- 1993年度以前のGDPは日本エネルギー経済研究所推計。
C O L U M N
エネルギーがどのように供給され、どのように消費されているか大きな流れを見てみましょう。エネルギーは生産されてから、私たちエネルギー消費者に使用されるまでの間に様々な段階を経ています。概して、原油、石炭、天然ガスなどの各種エネルギーが供給され、電気や石油製品などに形を変える発電・転換部門(発電所、石油精製工場など)を経て、私たちが最終的に消費するという流れになっています。この際、発電・転換部門で生じるロスまでを含めた我が国が必要とする全てのエネルギー量として「一次エネルギー供給」の概念が用いられます。そして、最終的に消費者が使用するエネルギー量として「最終エネルギー消費」の概念が用いられています。国内に供給されたエネルギーが最終消費者に供給されるまでには、発電ロス、輸送中のロス、及び発電・転換部門での自家消費などが発生するため、最終エネルギー消費は一次エネルギー消費からこれらを差し引いたものになります。2015年度は、日本の一次エネルギー国内供給を100とすれば、最終エネルギー消費は68程度でした(第211-1-2)。
- (注1)
- 本フロー図は、我が国のエネルギーフローの概要を示すものであり、細かいフローについては表現されていない。
- (注2)
- 「石油」は、原油、NGL・コンデンセートのほか、石油製品を含む。
- (注3)
- 「石炭」は、一般炭・無煙炭、原料炭のほか、石炭製品を含む。
- 出典:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
具体的には、一次エネルギー供給は、石油、天然ガス、石炭、原子力、太陽光、風力などといったエネルギーの元々の形態であることに対して、最終エネルギー消費では、私たちが最終的に使用する石油製品(ガソリン、灯油、重油など)、都市ガス、電力、熱などの形態のエネルギーになっています。一次エネルギーの種類別にその流れを見ますと、原子力、再生可能エネルギーなどは、その多くが電力に転換され、消費されました。一方、天然ガスについては、電力への転換のみならず熱量を調整した上で都市ガスへの転換も大きな割合を占めました。石油については、電力への転換の割合は比較的小さく、そのほとんどが石油精製の過程を経て、ガソリン、軽油などの輸送用燃料、灯油や重油などの石油製品、石油化学原料用のナフサなどとして消費されました。石炭については、電力への転換及び製鉄に必要なコークス用原料としての使用が大きな割合を占めました。
2.海外との比較
1単位の国内総生産(GDP)を産出するために必要なエネルギー消費量の1990年からの推移を見ると、日本は世界平均を大きく下回る水準を維持しています(第211-2-1)。
- (注)
- 一次エネルギー消費量(石油換算トン)/実質GDP(千米ドル、2010年基準)。
- 出典:
- IEA「 World Energy Balances 2016 Edition」、World Bank 「World Development Indicators 2016」を基に作成
- (注)
- 一次エネルギー消費量(石油換算トン)/実質GDP(米ドル、2010年基準)を日本=1として換算。
- 出典:
- IEA「 World Energy Balances 2016 Edition」、World Bank「World Development Indicators 2016」を基に作成
2014年における日本の実質GDP当たりのエネルギー消費は、中国やインドと比べると5分の1程度の少なさであり、省エネルギーが進んでいる欧州と比較しても遜色ない水準です。現在の我が国のエネルギー利用効率が、依然として高いことが分かります(第211-2-2)。
3.エネルギー供給の動向
我が国のエネルギー需要は、1960年代以降急速に増大しました。それまでは、国産石炭が我が国のエネルギー供給の中心を担っていました。その後、国産石炭が価格競争力を失う中で、我が国の高度経済成長期をエネルギー供給の面で支えたのが、中東地域などで大量に生産されている石油でした。我が国は、安価な石油を大量に輸入し、1973年度には一次エネルギー国内供給の75.5%を石油に依存していました。しかし、第四次中東戦争を契機に1973年に発生した第一次石油ショックによって、原油価格の高騰と石油供給断絶の不安を経験した我が国は、エネルギー供給を安定化させるため、石油依存度を低減させ、石油に代わるエネルギーとして、原子力、天然ガス、石炭などの導入を推進しました。また、イラン革命によってイランでの石油生産が中断したことに伴い、再び原油価格が大幅に高騰した第二次石油ショック(1979年)は、原子力、天然ガス、石炭の導入をさらに促進し、新エネルギーの開発をさらに加速させました。
その結果、一次エネルギー国内供給に占める石油の割合は、2010年度には、39.8%と第一次石油ショック時の1973年度における75.5%から大幅に低下し、その代替として、石炭(22.5% )、天然ガス(19.2% )、原子力(11.1% )の割合が増加するなど、エネルギー源の多様化が図られました(第211-3-1)。しかし、2011年に発生した東日本大震災とそれによる原子力発電所の停止により、原子力の代替発電燃料として化石燃料の割合が増加し、近年減少傾向にあった石油の割合は2012年度に44.1%まで上昇しました。2015年度には、発電部門において、再生可能エネルギーの導入や原子力の再稼働が進んだことなどにより石油火力の発電量が減少し、石油の割合は41.0%となり、3年連続で減少しました。
- (注1)
- 「総合エネルギー統計」では、1990年度以降、数値について算出方法が変更されている。
- (注2)
- 「新エネルギー・地熱等」とは、太陽光、風力、バイオマス、地熱などのこと(以下同様)。
- 出典:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
一次エネルギー国内供給に占める化石エネルギーの依存度を世界の主要国と比較した場合、2014年の日本の依存度は94.7%であり、原子力や風力、太陽光などの導入を積極的に進めているフランスやドイツなどと比べると依然として高い水準でした(第211-3-2)。このため、化石燃料のほとんどを輸入に依存している我が国にとってその安定的な供給は大きな課題です。特に、石油の供給先については、1960年代後半から安定的な供給に向けた取組が進められた結果、中東への依存度が1980年代中頃にかけて減少に向かいましたが、その後、インドネシア、メキシコなどの非中東地域において国内需要増による輸出の減少により再び高まりました。2010年度以降はロシアからの輸入増によって、中東への依存度が低下に転じています(第213-1-4「原油の輸入量と中東依存度の推移」参照)。
なお、二次エネルギーである電気は家庭用及び業務用を中心にその需要は増加の一途をたどっています。電力化率3は、1970年度には12.7%でしたが、2015年度には24.7%に達しました(第211-3-3)。
- (注)
- 化石エネルギー依存度(%)=(一次エネルギー供給のうち原油・石油製品、石炭、天然ガスの供給)/(一次エネルギー供給)×100。
- 出典:
- IEA「 World Energy Balances 2016 Edition」を基に作成
- (注1)
- 電力化率(%)=電力消費/最終エネルギー消費×100。
- (注2)
- 「総合エネルギー統計」では、1990年度以降、数値について算出方法が変更されている。
- 出典:
- 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成
4.エネルギー自給率の動向
国民生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、自国内で確保できる比率をエネルギー自給率と言います。我が国では、高度経済成長期にエネルギー需要量が大きくなる中で、供給側では石炭から石油への燃料転換が進み、石油が大量に輸入されるようになりました。1960年度には主に石炭や水力など国内の天然資源により58.1%であったエネルギー自給率は、それ以降大幅に低下しました(第211-4-1)。
石炭・石油だけでなく、石油ショック後に普及拡大した天然ガスは、ほぼ全量が海外から輸入されています。2014年度は原子力の発電量がゼロになったこともあり、過去最低の6.0%に低下しました。2015年度は新エネルギー等の導入や原子力発電所の再稼働が進み、我が国のエネルギー自給率は7.0% (推計値)となりました。
- (注1)
- IEAは原子力を国産エネルギーとしている。
- (注2)
- エネルギー自給率(% )=国内産出/一次エネルギー供給×100。
- (注3)
- 2015年はIEAによる推計値である。
- 出典:
- IEA「World Energy Balances 2016 Edition」を基に作成
- 1
- 産業部門は農林水産鉱建設業と製造業の合計
- 2
- 旧総合エネルギー統計は、「エネルギー生産・需給統計」を中心に販売側の統計に基づいた算出が行われていましたが、政府統計の整理合理化対策の一環として石炭・石油製品の販売統計調査が2000年を最後に廃止されたことなどから、継続して作成することができなくなりました。このようなことから、新しい総合エネルギー統計では、石油等消費動態統計・家計調査報告や自動車燃料消費調査などの消費側の各種統計調査を中心とする算出方法に変更されています。よって、1990年度の前後の比較にあたっては留意する必要があります(以下「総合エネルギー統計」に係る比較についても同じです)。
- 3
- 最終エネルギー消費量に占める電力消費量の割合を示します。