第3節 福島新エネ社会構想
東日本大震災後、福島県は再生可能エネルギーの推進を復興の柱の一つとして、再生可能エネルギー発電設備の導入拡大、関連産業の集積、実証事業・技術開発等の取組を進めています。2012年3月に改訂された「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン(改訂版)」においては、原子力に依存しない社会づくりの実現に向け、2040年頃を目処に福島県内の1次エネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーから生み出すという目標を設定しています。また、その目標達成に向けて必要となる当面の施策を「再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン」にまとめ、取組を進めています。2016年3月に策定された第2期(2016年度~ 2018年度)のアクションプランでは、県内1次エネルギー需要量に対する再生可能エネルギーの導入見込量の割合を、2015年度の26.6%から3年間で3.4%の増加を見込み、2018年度に30%とし、「再生可能エネルギーの導入拡大」と「エネルギーの効率的な利用」を両輪として推進することとしています。
国においても、2014年4月に策定した「第四次エネルギー基本計画」で、福島の再生可能エネルギー産業拠点化を目指すとしており、福島の再生・復興に向け、エネルギー産業・技術の拠点として発展していくことを推進しています。
【第113-0-1】福島県における再生可能エネルギー導入見込量の目標値に対する進捗度
- 出典:
- 福島県
また、震災から5年が経過し、これまでの再生可能エネルギーの推進の取組に加え、エネルギー分野からの福島復興の後押しを一層強化するため、福島が再生可能エネルギーや未来の水素社会を切り拓く「先駆けの地」となり、新たなエネルギー社会を先取りするモデルの創出拠点とする「福島新エネ社会構想」の検討に2016年3月に着手しました。その具体的な内容を検討し、構想の実現を図るため、官民一体の「福島新エネ社会構想実現会議」が同月に設立され、同年9月に開催された第三回会議において「福島新エネ社会構想」が策定されました。同構想は、再生可能エネルギーの導入拡大、水素社会実現のモデル構築、スマートコミュニティの構築の3つを柱としており、その実現に向けた取組を推進しています。
- 出典:
- 資源エネルギー庁
【第113-1-1】福島県における主な再生可能エネルギー関連施設
- 出典:
- 福島新エネ社会構想実現会議
1.再生可能エネルギーの導入拡大
福島県は、復興の柱の一つとして、福島を「再生可能エネルギー先駆けの地」とすべく取組を推進しており、国においても、発電設備、送電線整備への支援など、他の地域にはない補助制度を福島県向けに措置し導入を後押ししています。震災後4年間で、太陽光を中心に県内の再生可能エネルギーは倍増しました。今後、さらなる導入拡大に向けた次のステップとして、阿武隈山地及び福島沿岸部において大規模な風力発電を福島県等が計画しており、また国としても発電設備等の導入を支援していきます。
(1)産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所
産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所(FREA)は、本格化する再生可能エネルギーの大量導入を支える新技術を、被災地をはじめとする多くの企業と積極的に連携して開発するとともに、大学との共同研究等を通して将来を担う産業人材の育成などを図るため、2014年4月に福島県郡山市に設立されました。世界に開かれた再生可能エネルギー研究開発の推進と新しい産業の集積を通した復興への貢献を使命とし、震災からの復興と世界に向けた新技術の発信に取り組んでいます。開所から3年が経過した現在、職員約150人と企業、大学等からの外来研究者を合わせ、約400人が同所内で研究等を実施しており、水素キャリア製造・利用技術、薄型結晶シリコン太陽電池モジュール技術、高性能風車要素技術、地熱・地中熱、再生可能エネルギーネットワークの開発・実証などの研究課題に取り組んでいます。
また、被災地企業のシーズ支援プログラムにより、FREAと企業による共同研究で技術評価、課題解決などを進めることで、東日本大震災の被災地(福島県、宮城県、岩手県)の企業が持つ再生可能エネルギー関連技術などの事業化を支援しており、本プログラムを通じ2016年度末までに82件の技術開発を支援し、そのうち太陽電池ストリング監視システムなどの7件が事業化に成功しています。
さらに、2016年4月には太陽光発電用大型パワーコンディショナ等の先端的研究開発及び試験評価を行う世界最大級の施設「スマートシステム研究棟」が完成しました。この研究棟は、世界の気象や電力系統の様々な条件を模擬して大型パワーコンディショナの研究開発及び試験・評価ができる試験室や、装置が発する電磁波の周囲への影響などを調べる国内最大級の電波暗室等を備えています。パワーコンディショナは、太陽光パネルなどで発電された直流電力を高い効率で交流電力に変換するとともに、周波数、電圧を安定させ電力系統に供給する機能を持ち、再生可能エネルギーの導入に不可欠な装置であり、設置する国や地域の電力系統に適合する性能や信頼性が必要となります。今回の国内初の大型パワーコンディショナの研究開発・評価試験施設の完成を踏まえ、1MWを超える大出力及び国内初となる直流1,500Vの高電圧のパワーコンディショナ実機に対する単独運転防止試験等の系統連系試験やEMC(Electro-Magnetic Compatibility:電磁両立性)試験を実施しました。これらの試験により企業が実際にタイの市場への投入に成功するなど、国内のみならず海外の認証に対応する試験を通じ、製品開発、国際的な市場への投入が加速されています。
【第113-1-2】産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所とスマートシステム研究棟電波暗室における大型パワーコンディショナの試験の様子
【第113-1-2】産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所とスマートシステム研究棟電波暗室における大型パワーコンディショナの試験の様子(ppt/pptx形式:1713KB)
- 出典:
- 産業技術総合研究所
(2)福島沖浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業
福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業は、世界初の本格的な事業化を目指す、浮体式の洋上風力発電実証研究事業であり、2011年度から委託事業として実証研究を開始しました。2013年11月には1基目となる2MW浮体式洋上風車及び浮体式洋上変電所が運転を開始しました。2015年12月には高さ189mの世界最大級の7MWの風車が運転を開始しました。2017年2月には5MW浮体式洋上風車が運転を開始し、全ての実証機による本格的な実証研究を進め、安全性・信頼性・経済性の評価を行います。福島沖の浮体式洋上風力発電の実証研究とその事業化による風力発電関連産業の集積が期待されています。
- 出典:
- 福島洋上風力コンソーシアム
(3)再生可能エネルギーの導入支援
再生可能エネルギーの導入推進のため、国では福島県向けの特別な支援制度を措置しており、2014年度補正予算「再生可能エネルギー接続保留緊急対応補助金(再生可能エネルギー発電設備等導入基盤整備支援事業(避難解除区域等支援基金造成事業))」により福島県に積み立てた基金(約92億円)を活用して、現在約12万kWの太陽光発電設備の導入事業が避難解除区域等において進められています。この事業により導入された発電設備は、復興支援事業に活用するための基金に売電収入の一部(再生可能エネルギー発電設備容量1MW当たり年間100万円)を拠出することとなっており、発電設備の運転開始後は再生可能エネルギーの活用と併せて、復興支援へも貢献します。
また、福島県内における再生可能エネルギーのさらなる導入拡大に向け、阿武隈山地及び福島県沿岸部において風力発電等の設置の検討が進められています。しかし、当該地域では大規模な風力発電による電力を受け入れるために、電力系統の増強が課題となっています。そのため、福島県富岡町にある新福島変電所など東京電力の既存送電設備を活用することとしています。風力発電等の電気の受入れには、発電設備と変電所等をつなぐための送電網が必要なことから、2016年10月から送電網の敷設ルートの検討を進め、2017年3月に送電線の整備・運営を行う「福島送電合同会社」が設立されました。複数の発電事業者が共同で利用できる送電網の整備を当該送電事業者が行うことにより、効率的に送電網の整備が可能になります。2017年4月以降、詳細設計や敷設工事に着手する予定であり、風力発電所などの建設工事も並行して進められ、一部の設備について2020年の運転開始を目指しています。
2.水素社会実現に向けたモデル構築
水素エネルギーは将来のクリーンエネルギーとして期待されています。「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、水素社会の実現に向けた3つのフェーズのうち、フェーズ3では、トータルでのCO2フリー水素の本格活用を2040年頃に実現することを目指すこととしています。福島新エネ社会構想では、系統安定化対策などに水電解を活用するとともに、製造した水素を、福島県内のみならず、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の際に東京で活用するシステム実証を実施することとしています。
【第113-2-1】福島県における再生可能エネルギー由来水素に関する実証のコンセプト
【第113-2-1】福島県における再生可能エネルギー由来水素に関する実証のコンセプト(ppt/pptx形式:314KB)
- 出典:
- 資源エネルギー庁
3.スマートコミュニティの構築
スマートコミュニティは、様々な需要家が参加する一定規模のコミュニティの中で、再生可能エネルギーやコージェネレーション等の分散型エネルギーを用いつつ、ITや蓄電池等の技術を活用したエネルギーマネジメントシステムを通じて、エネルギーの利活用を最適化するものです。スマートコミュニティの構築は、熱導管などのエネルギーインフラの整備を伴う場合も多く、都市計画などと密接に連携しながら取組を進めることが効果的と言えます。このため、資源エネルギー庁では、2011年度第3次補正予算において、スマートコミュニティ導入促進事業(基金事業)を措置し、東日本大震災の被災地域において、まちづくりと合わせて、スマートコミュニティの導入に取り組む自治体などを支援してきました。
福島県内においては、2016年度末まで、会津若松市が本事業を活用し、スマートコミュニティ構築に取り組みました。また、新地町、相馬市、浪江町、楢葉町が2016年から新たにスマートコミュニティの計画策定を開始しています。このうち、新地町、相馬市、楢葉町については、既に計画策定を完了し、スマートコミュニティの構築に着手しています(2017年3月末現在)。
福島新エネ社会構想では、こうしたスマートコミュニティ構築の取組を着実に進めるとともに、人口が少ない地域においても持続可能なスマートコミュニティの構築に向け、復興まちづくり等を活用した支援を行うこととしています。これまでに、福島県において、自治体とスマートコミュニティ関連事業者とのマッチングイベントを実施するとともに、スマートコミュニティ構築の際の参考となるよう、復興とも連携したスマートコミュニティ形成にも資する先行事例集を作成しました。2017年度においては、こうした事例集なども活用しつつ、地産地消型のエネルギーシステム構築に向けた事業化可能性調査等について、支援を実施します。また、再生可能エネルギーを活用した水素に関する実証事業なども踏まえつつ、今後、再生可能エネルギー由来水素を活用したスマートコミュニティのモデル構築についても、検討を行うこととしています。
【第113-3-1】スマートコミュニティ導入促進事業を活用したスマートコミュニティ構築の取組
- 出典:
- 資源エネルギー庁