第3節 CCUS/カーボンリサイクル等の促進
1.CCUS/カーボンリサイクル等の技術開発と事業環境の整備
化石燃料の環境面の課題克服が重要である中、2050年に向けて、化石燃料の利用に伴うCO2の排出を大幅に低減していくことが必要です。また、途上国におけるエネルギーアクセス改善と気候変動対策の両立を非連続なイノベーションの力で実現するための技術開発にチャレンジしていくことも重要です。
経済産業省は、カーボンリサイクル技術・製品を社会実装していく道筋を示し、イノベーションを効果的に加速すべく、2023年6月に、最新技術動向や社会実装に向けた課題をとりまとめた「カーボンリサイクルロードマップ」を策定しました。広島県大崎上島では、次世代火力発電の実証試験で回収したCO2等を利用したカーボンリサイクルの実証研究拠点において、研究が本格的に開始されるとともに、地元自治体や海外の研究開発拠点との連携により、日本のカーボンリサイクル分野における技術力の発信にも取り組んでいます。引き続き、カーボンリサイクルの社会実装に向けて、コスト削減や用途開発のための技術開発を進めるとともに、「カーボンリサイクル産学官国際会議」等も通じて、グローバル展開を目指していきます。
また、CCSについては、2023年7月に閣議決定された「GX推進戦略」において、2030年までのCCS事業の開始に向けた事業環境を整備するために、模範となる先進性のあるプロジェクトの開発及び操業を支援するとともに、CO2の地下貯留に伴う事業リスクや安全性等に十分配慮しつつ、検討中の法整備について早急に結論を得て、制度的措置を整備する方針を示しました。これを踏まえ、将来のCCS事業の普及・拡大に向けて、横展開が可能なビジネスモデルを確立するため、2030年までの事業開始を目標とした事業者主導による「先進的CCS事業」について、CO2の回収源、輸送方法、CO2貯留地域の組み合わせが異なる7件のプロジェクトを採択し、事業性調査等の支援を行いました。また、2023年9月からは、産業構造審議会保安・消費生活用製品安全分科会産業保安基本制度小委員会と総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会カーボンマネジメント小委員会の合同会議を行い、学識経験者等の有識者による議論を行いました。その後、2024年1月には、中間とりまとめとして「CCSに係る制度的措置の在り方について」を公表し、これを踏まえ、同年2月には「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案」(CCS事業法案)が閣議決定されました。
〈具体的な主要施策〉
(1)カーボンリサイクル・次世代火力発電の技術開発事業
(再掲 第5章第1節 参照)
(2)CCUS研究開発・実証関連事業【2023年度当初:80.0億円】
2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」において、CCSについては、「技術的確立・コスト低減、適地開発や事業化に向けた環境整備を、長期のロードマップを策定し関係者と共有した上で進めていく」としており、2023年3月には、「CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ」が公表されました。
北海道苫小牧市におけるCCS大規模実証試験においては、2016年度からCO2の圧入を実施し、2019年11月には、当初目標としていた30万トンの圧入を達成しました。今後は、圧入したCO2等のモニタリングを継続するとともに、実証試験において得られた結果や今後の課題について検討を行います。加えて、舞鶴・苫小牧間の長距離輸送をはじめとする液化CO2船舶輸送の技術確立のための実証試験等も進めています。
(3)CCUS早期社会実装のための環境調和の確保及び脱炭素・循環型社会モデル構築事業【2023年度当初:75.0億円】
CO2の分離回収・有効利用設備の実証等の運用・評価実績を基に、CCUSの実用展開のための一貫実証拠点・サプライチェーンの構築を検討しています。また、CO2の資源化を通じた脱炭素・循環型社会のモデル構築、国際協調を踏まえたCO2輸送・貯留等の実現性検討を通じた関連技術・ノウハウの涵養等を行いました。さらに、苫小牧沿岸域にて実証を行っている海底下CCS事業において、最新の知見や技術を活用した海洋環境保全の上、適正なモニタリングのあり方の実証を開始しました。これにより、2030年のCCUSの本格的な社会実装と環境調和の確保を目指します。
(4)二酸化炭素貯留適地の調査事業【2023年度当初:11.0億円】
CCSの導入に必要となる、CO2貯留に適している調査井掘削の候補地を精査することを目指し、大きな貯留ポテンシャルを有すると期待される地点を対象に、海底下地質の調査や貯留層総合評価等を実施しました。
(5)CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発プロジェクト
(再掲 第2章第1節 参照)
(6)カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発事業【2023年度当初:26.4億円】
バイオによるものづくりは、化石エネルギーに依存した従来の化学工業技術とは異なり、カーボンリサイクル技術による持続的な経済成長を可能とすることから、幅広い分野での応用が期待されていますが、社会実装に向けてはスケールアップや人材不足といった課題が存在します。そこで、これらの課題を解決するため、ゲノム編集技術や微生物による物質生産等の先端バイオテクノロジーを取り入れたバイオ製造実証・人材育成拠点を整備し、化石由来化学品を代替可能なバイオ製品の社会実装を加速することを推進しました。
(7)バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進【グリーンイノベーション基金:国庫負担上限1,767.0億円】
バイオものづくりの中核を担う微生物等改変プラットフォーム事業者と、CO2を直接原料にして大規模発酵生産等を担う事業会社等の育成・強化を図るとともに、微生物等が持つCO2固定能力を最大限に引き出し、CO2を原料としたバイオものづくりによるカーボンリサイクルを推進する取組を開始しました。
(8)バイオものづくり革命推進事業【2022年度補正:3,000.0億円】
廃木材や食品・農業残渣等の未利用資源の収集・資源化、微生物等の改変技術、生産・分離・精製・加工技術、社会実装に必要な制度や標準化等、バイオものづくりのバリューチェーンの構築に必要となる技術開発及び実証を一貫して支援し、CO2の排出量を抑えながら燃料や素材等を生産する技術の開発を開始しました。
(9)先進的CCS支援等事業【2023年度当初:35.0億円、2023年度補正:204.0億円】
CCSの普及と拡大に向けて、事業の大規模化とコスト削減に取り組むモデル性のある事業を「先進的CCS事業」と位置づけ、CO2の分離・回収から輸送、貯留までのバリューチェーン全体を一体的に支援すべく、国内で排出されるCO2の貯留を2030年度までに開始する事業を想定し、発電、石油精製、鉄鋼、化学、紙・パルプ、セメント等の事業分野が幅広く参画するとともに、産業が集積する北海道、関東、中部、近畿、瀬戸内、九州等の地域におけるCO2の排出に対応する7案件を選定しました。
(10)石油・天然ガス開発や権益確保に資する技術開発等の促進事業【2023年度当初:84.0億円の内数】
日本の石油・天然ガスの自主開発比率の向上に資する技術開発として、国内フィールドにおけるCO2を用いた原油回収促進技術(CO2-EOR)の実証試験に向けた共同研究や、海外のCO2-EOR実施フィールドにおけるCO2分離技術の実証等を行いました。
(11)二国間クレジット取得等のためのインフラ整備調査事業委託費【2023年度当初:8.1億円】
日本の優れた脱炭素技術・製品の途上国等への展開による温室効果ガスの排出削減を定量的に評価する仕組みである、二国間クレジット制度(以下「JCM」という。)の下でCCSプロジェクトを実施するためのガイドラインの策定に向けて、JCMのパートナー国と議論を開始しました。
(12)合成メタン/メタネーション
水素と、回収したCO2から合成される合成メタン(e-methane)は、再エネ・水素利用の形態の1つです。また、合成メタンは、LNGや天然ガスの既存のサプライチェーンをそのまま利用することが可能です。供給サイドにおいては、既存のLNGや都市ガスのインフラを活用することで切れ目なく柔軟に供給することができ、需要サイドにおいても、都市ガス用の既存設備を活用して、設備コストを抑えながら脱炭素化を図ることができます。
2023年7月に閣議決定された「GX推進戦略」では、メタネーションについて、「実用化・低コスト化に向けて様々な支援の在り方を検討する」と掲げており、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会ガス事業制度検討ワーキンググループ(以下「ガスWG」という。)や、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法検討会(以下「SHK算定方法検討会」という。)において、議論を行っています。2023年11月からのガスWGでは、都市ガス分野のカーボンニュートラル化に向けて、本格的な市場創出・利用拡大につなげるための適切な規制・制度のあり方について、検討を進めています。また、2023年12月に開催した第8回SHK算定方法検討会では、合成メタンを含めたカーボンリサイクル製品のCO2のカウントルール案が示されており、引き続き議論される予定となっています。
2.CCUS/カーボンリサイクル等の国際展開
〈具体的な主要施策〉
(1)国際会議の開催
経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)は、2023年9月に、「第5回カーボンリサイクル産学官国際会議」を開催しました。この会議は、2019年から行われており、今回は20の国・地域から、会場及びオンラインの合計で約900名が参加しました。気候変動問題への対応が強く求められている中、CO2の排出抑制が期待されるカーボンリサイクル技術については、その必要性が年々高まっており、民間事業者によるカーボンリサイクルに関する国際的な実証、ビジネスも拡大しています。こうした潮流の中、日本は2023年度までに、国際場裡での交流を通じて、米国、豪州、インドネシア、UAE、サウジアラビア等の9か国との間で、カーボンリサイクルの社会実装に向けた開発・実証に関する協力覚書等を締結しており、政策の概要や研究開発の状況について情報交換を行いました。今後も、各国・地域や国際機関等と協調し、イノベーションを推進するとともに、カーボンリサイクル技術の国際展開や国際ルールの整備にも取り組み、世界の実効的な脱炭素化に積極的に貢献していきます。
また、「第5回カーボンリサイクル産学官国際会議」と同じ日には、「第3回アジアCCUSネットワークフォーラム」も開催し、メンバー国の代表からメッセージが寄せられるとともに、会場からは116名、オンラインからは約350名が参加しました。また、「2025年に具体的なプロジェクトの創出を目指し、2030年にアジアにおいてCCUSのハブの構築を目指す」という目標を踏まえて、具体的な協力を進めるために、初めて締結文書の調印式を行い、CO2の越境輸送に関する覚書(経済産業省・JOGMEC・マレーシア国営石油会社ペトロナスの三者間で締結)を含む3件が締結されました。また、今回初めて、アジアのエネルギー・トランジションを進める観点から、CCSが果たす役割についての共同声明を発出しました。加えて、アジアCCUSネットワークは、アジアにおけるCCUSのプラットフォームとして、国・地域レベルでの法的・規制的枠組みの重要性や、CO2の輸出入を実現するためのCCUSの経済性を認識し、そして、これらの課題にチャレンジしていくことが表明されました。
(2)カーボンリサイクル・火力発電の脱炭素化技術等国際協力事業
(再掲 第5章第1節 参照)