第1節 安定供給を大前提とした火力発電の着実な取組

2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」に基づき、火力発電については、安定供給を大前提に、2050年カーボンニュートラル実現を見据えた上で、適切な火力ポートフォリオを構築しながら、次世代化・高効率化を推進しつつ、非効率な火力発電のフェードアウトに着実に取り組むとともに、脱炭素型の火力発電への置き換えに向け、水素・アンモニア等の脱炭素燃料の混焼やCCUS1・カーボンリサイクル等の火力発電からのCO2排出を削減する措置(アベイトメント措置)の促進、火力運用の効率化・高度化のための技術開発・導入環境整備の推進に取り組んでいます。

1.世界最高水準の発電効率のさらなる向上

脱炭素化を見据えた次世代の高効率石炭火力発電や脱炭素燃料との混焼による脱炭素型の火力発電への置き換えに向けた技術開発に加え、CO2を資源として捉えて再利用するカーボンリサイクルの技術開発に取り組んでいます。さらに、再エネの大量導入に向けて、負荷変動に対応するための火力発電技術の研究開発も進めています。

〈具体的な主要施策〉

(1)カーボンリサイクル・次世代火力発電の技術開発事業【2023年度当初:176.0億円】

火力発電の脱炭素化に向けて、燃焼時にCO2を排出しない燃料であるアンモニアの混焼試験に向けた設計・製作等を実施しました。また、次世代の高効率石炭火力発電技術として開発してきた石炭ガス化複合発電(IGCC)について、2023年度からは石炭とバイオマスの混合燃料によるガス化技術の開発に着手しました。

加えて、高効率化しても排出されてしまうCO2については、安価に分離回収することも重要であることから、排出されるCO2を固体吸収材や分離膜の活用により分離回収する技術の実証試験等を進めました。さらに、回収したCO2を利活用する技術の開発も推進しています。例えば、回収したCO2と水素を利用してメタンを合成する「メタネーション」の技術や、ペットボトルや繊維の原料となるパラキシレンの製造技術、CO2から高付加価値な炭素材料を製造する鉱物化等の開発を実施しました。

(2)カーボンリサイクル・火力発電の脱炭素化技術等国際協力事業【2023年度当初:4.0億円】

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、日本のカーボンリサイクル及び火力発電の脱炭素化技術等に関心を有する国に対し、相手国の政府や電力事業関係者との間で、オンラインも活用したセミナーや人材育成等を通じ、脱炭素化に貢献するような先進的な技術の導入のための環境整備を行いました。

2023年9月には、「第5回カーボンリサイクル産学官国際会議」を広島県で開催し、各国の産学官による講演・パネルディスカッションを通じて、国際的な取組の進展や広島県での活発な取組を共有するとともに、取り組むべき課題について確認しました。加えて、今回は講演・パネルディスカッションのメッセージをとりまとめた総括文書を初めて公表しました。

2.火力発電の環境負荷の低減に向けた取組

2015年7月に、主要な事業者が参加する電力業界の自主的枠組みと、当時の日本のエネルギーミックス及びCO2削減目標とも整合するCO2排出係数である0.37kg-CO2/kWh程度を目標とする「低炭素社会実行計画」が発表されました。また、2016年2月には、「電気事業低炭素社会協議会」が発足し、個社の削減計画を策定し、業界全体を含めてPDCAを行う等の仕組みやルールが発表されました。

その後、2021年4月に、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていくという目標が掲げられ、同年10月には、「第6次エネルギー基本計画」や「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、2030年度の日本の温室効果ガス削減目標に向けたエネルギー・電力の需給見通し等が示されました。

これを受けて、電気事業低炭素社会協議会は、2022年6月に、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、経済効率性と同時に環境への適合を図る「S+3E」の実現のため、最大限取り組むことを基本として、「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」に基づく日本全体の排出係数である0.25kg-CO2/kWhの実現を目指すこととし、2030年度の目標を見直しました。

この自主的枠組みの目標達成に向けては、省エネ法や「エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成21年法律第72号)」(以下「高度化法」という。)に基づく政策的対応を行うことにより、電力自由化の下で、電力業界全体の取組の実効性を確保していくこととしています。そして、2030年度の温室効果ガス削減目標や第6次エネルギー基本計画と整合する排出係数目標を確実に達成していくために、こうした取組が継続的に実効を上げているかについて、その進捗状況を毎年度評価することとしています。これを受けて、2024年1月11日には、政府として、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会資源・エネルギーワーキンググループを開催し、電力業界の自主的枠組みの評価・検証を行いました。

さらに、2030年に向けては、安定供給を大前提に、非効率石炭火力のフェードアウトを着実に実施するために、石炭火力発電設備を保有する発電事業者について、最新鋭の超々臨界圧石炭火力発電(USC)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標において求めることとしています。その際、水素・アンモニア等について、発電効率の算定時に混焼分の控除を認めることで、脱炭素化に向けた技術導入の促進にもつなげていきます。

そして、2050年に向けては、第6次エネルギー基本計画や「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2021年10月閣議決定)、GX推進戦略等を踏まえ、水素・アンモニアやCCUS等を活用することで、脱炭素型の火力に置き換える取組を引き続き推進していくこととしています。

また、国が整理・公表している「最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況(BATの参考表)」については、毎年度見直し、必要に応じて随時公表しています。

1
CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で、CO2の回収・有効利用・貯留のこと。