第2節 石油産業・LPガス産業の事業基盤の再構築

1.石油産業(精製・元売)の事業再編・設備最適化

2023年度における日本国内の石油需要は、ピーク時の1999年度から3割以上減少しており、「2024〜2028年度の石油製品需要見通し」によれば、今後も需要が年平均で約2%減少していく見込みです。また、アジアの新興国では、顕著な需要増加にあわせて、輸出志向の大型かつ最新鋭の石油コンビナートが次々に建設されており、アジア地域への石油製品の輸出環境は厳しさを増しています。今後も日本国内の石油需要が減少していく見通しの中、全国的な石油サプライチェーンを維持し、平時・緊急時を問わずに石油の安定供給を確保するためには、事業再編等を進めて、経営基盤を強化していく必要があります。具体的には、異業種を含めたコンビナート連携のさらなる深化等による国内製油所の生産性向上・競争力強化や製油所の脱炭素化に向けた取組の推進、カーボンニュートラル社会に向けた製油所の再構築、電力市場等の他のエネルギー事業への展開等を進めていくことが期待されますが、そのためには、十分な投資体力を確保すべく、国内石油事業の収益性回復を図ることが必要です。

このため、石油コンビナートに立地する製油所や石油化学工場等について、「資本の壁」や「地理的な壁」を超えた統合運営や事業再編を通じて、石油製品と石油化学製品等の柔軟な生産体制の構築等による高付加価値化や、設備の共有化・廃棄等による設備最適化、製造原価の抑制に向けた取組を支援する等、総合的かつ抜本的な生産性向上を進めるための施策を講じました。また、中長期的に原油調達の多様化が必要になることを想定し、非在来原油も含む重質原油の最適処理を可能にする技術開発も促進しました。

〈具体的な主要施策〉

(1)高度化法による原油等の有効利用の促進

原油1単位から精製されるガソリン等の石油製品の得率を向上させ、余すところなく原油を利用する(原油の有効利用)体制を強化すべく、高度化法に基づく石油精製業者向けの判断基準(以下「告示」という。)を示すことで、国内精製設備の最適化等を促進してきました。

具体的には、2010年7月に施行した一次告示により、日本の製油所全体における「重質油分解装置の装備率」の向上を義務づけ、対象となる各石油精製業者は、常圧蒸留装置の能力削減及び重質油分解装置の新設・増強の組み合わせで対応しました。これにより、日本の製油所全体における重質油分解装置の装備率については、告示制定時の10%程度から、2013年度末には13%程度へと改善され、国内の精製能力については、告示制定前(2008年)の489万バレル/日から約2割削減されました。また、2014年7月に施行した二次告示では、さらなる原油の有効利用を進める観点から、日本全体における「残油処理装置の装備率」の向上を義務づけ、各石油精製業者は、常圧蒸留装置の廃棄又は公称能力の削減及び残油処理装置の新設・増強の組み合わせで対応しました。これにより、日本全体の残油処理装置の平均装備率については、告示制定時の45%程度から、2016年度末には50.5%程度へと改善され、国内の精製能力については、二次告示開始時の395万バレル/日から約1割削減されました。

こうした取組により、国内製油所における重質油分解装置等の装備率は世界的に高い水準となった一方で、実際の分解能力の活用は十分ではなく、国際競争力の高い他国の製油所と比較し、多くの残渣油を生産しているとの指摘があります。そのため、2017年10月には、さらなる原油の有効利用や製油所の国際競争力強化に向けて、重質油分解装置等のさらなる有効利用を目的とする三次告示を施行しました。これにより、各社における残油処理能力の向上を図る設備投資の実施やオペレーションの最適化といった取組が行われたことで製油所全体の生産性向上が図られ、5社全体で2021年度の目標である減圧蒸留残渣油の処理率7.5%を達成しました。

(2)次世代燃料安定供給のためのトランジション促進事業【2023年度当初:66.0億円】

カーボンニュートラル社会において国民生活・経済活動を支えていくこととなる次世代燃料の安定供給を実現していくための技術開発や環境整備、また、足元の国民生活・経済活動に不可欠なエネルギー源である化石燃料の安定供給体制の確保が求められています。このため、次世代燃料の製造手法の確立や安定供給に必要な技術開発や、化石燃料等の製造プロセスの脱炭素化、化石燃料を安定供給する上で重要な油槽所等の大雨・高潮対策等に対する支援を行いました。

2.石油・LPガスの最終供給体制の確保及び公正かつ透明な石油製品取引構造の確立

消費者に対して石油製品の供給を行うサービスステーション(以下「SS」という。)は、販売量の減少や、それに伴う収益の悪化、さらには、「消防法(昭和23年法律第186号)」の改正による地下タンクの改修義務化によるコスト増加等の要因により、経営環境が厳しさを増しています。加えて、施設の老朽化や後継者難等もあり、1994年度に約60,000か所存在していたSSは、2022年度末には27,963か所にまで減少しています。

こうした中、平時・緊急時を問わず、石油製品の安定的な供給を確保するため、SS過疎地等において漏えい防止対策や地下タンクの撤去等の環境・安全対策への支援を行ったほか、地下タンクの入換・大型化等の災害対応能力の強化を行いました。また、過疎化や人手不足等に対応した新たな燃料供給体制の確立等に向けた技術開発等の支援等も行いました。加えて、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、ガソリン等の石油製品の需要は今後も減少が見込まれます。SSは、このような状況の中においても、引き続き、平時・緊急時を問わず、「最後の砦」として石油製品の安定供給という重要な役割を担うことから、SSの経営力向上を後押しし、安定供給を確保できる体制を維持できるように支援を行いました。

LPガスについては、供給網は都市ガス導管の通っていない地域を含め全国に拡がっており、全国の総世帯数の約4割(約2,200万世帯)の家庭で利用されています。また、平時における熱源としての利用はもちろんのこと、災害時においては、燃料供給が滞った場合でも迅速に対応することが可能な「最後の砦」としての役割を担う重要なエネルギーです。そのため、LPガス事業者が地域において果たしている役割を、将来にわたって維持していくことが可能となるよう、LPガスの取引適正化を推進するための制度改正の実施や、消費者相談窓口の設置支援、料金透明化等に関する調査及び普及啓蒙を行うとともに、災害時におけるLPガスの安定供給の確保のために、中核充塡所の新設・機能拡充や、「災害時石油ガス供給連携計画」を確実に実施していくための訓練の実施を支援しました。さらに、LPガス事業者の経営基盤の強化に資する取組として、自動検針や遠隔でのガス栓の開閉等が可能となるスマートメーターの導入等に対する支援等も行いました。

〈具体的な主要施策〉

(1)災害時に備えた地域におけるエネルギー供給拠点の整備事業費【2023年度当初:6.7億円】

SS等の燃料供給拠点の災害対応能力をさらに強化する目的で、ガソリンや軽油等の石油製品の十分な在庫量を確保するための地下タンクの入換・大型化、べーパー回収設備の導入を行いました。また、SSに浸水被害が生じた場合でも燃料供給を行うための防水型計量機の導入、津波被害地域等における燃料供給の早期再開を目的とした災害時専用臨時設置給油設備の導入、SS等における災害対応訓練の開催等を支援しました。

(2)離島・SS過疎地等における石油製品の流通合理化支援事業費(うち過疎地等における石油製品の流通体制整備事業)【2023年度当初:43.4億円の内数】

SS過疎地等における石油製品供給網を維持するために、地下タンクからの燃料漏えい防止対策や地下タンク等の効率化・撤去等の環境・安全対応等を支援しました。

(3)地域における新たな燃料供給体制構築支援事業費【2023年度当初:6.1億円】

石油製品需要が少ない地域や後継者・人手不足が発生している地域においても、持続可能な燃料供給体制を構築することを目的として、先進的な技術開発や、SS過疎地対策計画策定等の自治体主導によるSS承継等に向けた取組等を支援しました。

(4)SSの事業再構築・経営力強化事業【2022年度補正:180.0億円】

カーボンニュートラル社会に向けたSSの事業再構築・経営力強化を推し進め、今後も残り続ける石油製品の需要に対して安定供給を確保するための体制を確保するため、揮発油販売業者等に対し、燃料供給を継続していくための計画を策定することを前提に、SSのデジタル化に資する設備や配送効率化に資する設備、計量機・地下タンク・配管等の設備等のSSの事業再構築・経営力強化に向けた設備投資や人材育成を支援しました。

(5)LPガスの商慣行是正に係る制度改正の実施

LPガス業界においては、昭和の時代から消費者トラブルが顕在化しており、これまでも国とLPガス業界が連携しながら対策を講じてきました。しかし、いまだ解決には至っておらず、消費者団体等からも数多くの課題が指摘されています。

特に、賃貸集合住宅においては、その構造上、消費者はオーナーや不動産管理会社が選定したLPガス事業者としか契約できません。そうした制約がある中で、LPガス事業者は、賃貸集合住宅におけるLPガス供給契約を獲得するため、オーナー等に対してLPガスの消費機器や電気エアコン等の無償貸与等を行い、そのための費用については、消費者が負担するLPガス料金に上乗せして回収するといった事例もありました。この場合、オーナー側としては、LPガス事業者が負担した設備や機器等の費用の分だけ家賃を低く抑えることができた可能性がありますが、一方の消費者側としては、そうした事実を知らぬまま、不透明な形で、設備や機器等の費用が上乗せされたLPガス料金を負担してきたと考えられます。

こうした課題を解決し、LPガス業界における商慣行を是正するため、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(昭和42年法律第149号)」施行規則の一部を改正し、不動産業者等に対する正常な商慣習を超えた利益供与の禁止や、LPガスとは関係のない設備の費用のLPガス料金への計上禁止等を措置することとしました。また、2023年12月には、商慣行是正に向けた取組の一環として、LPガスの消費者に不利益をもたらすと考えられる商取引情報を受け付ける通報フォームを資源エネルギー庁のホームページに開設しました。

(6)石油ガス販売事業者の経営及び販売実態に関する調査【2023年度当初:12.6億円の内数】

LPガスの流通実態やLPガス販売事業者の経営実態等を調査し、LPガス産業全体の流通構造の適正化や合理化策を検討するとともに、消費者等に対してLPガスの取引適正化に向けた取組や価格動向等の情報を提供し、消費者意識の向上と市場原理の一層の活性化を図るための調査等を実施しました。

(7)石油ガスの流通合理化及び取引の適正化等に関する支援事業費【2023年度当初:8.0億円】

LPガスに関する取引の適正化・安定供給の確保のため、各都道府県の民間企業等が行う消費者相談や防災体制の強化に対する支援を行いました。また、LPガスの流通構造を合理化するため、自動検針や遠隔でのガス栓の開閉等が可能なスマートメーターの導入に対する支援を行いました。

(8)石油製品の卸・小売価格モニタリング調査事業【2023年度当初:12.6億円の内数】

石油製品について、SS等を対象に、卸価格や小売価格を調査して流通マージン等の把握を行いました。

(9)石油製品品質確保事業【2023年度当初:10.6億円】

石油製品の適正な品質を確保するため、全国約30,000か所の給油所においてサンプル(ガソリン等)を購入(試買)し、品質分析する事業に対して、支援を実施しました。