第3節 福島新エネ社会構想
東日本大震災後、福島県は再エネの推進を復興の柱の1つとして、再エネ発電設備の導入拡大、関連産業の集積、実証事業・技術開発等の取組を進めています。2021年12月に改定された「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2021〜持続可能な社会を目指して〜」においては、原子力に依存しない社会づくりの実現に向け、引き続き、2040年頃を目途に福島県内の一次エネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再エネから生み出すという目標を維持するとともに、「水素社会の実現」等を新たな柱に加えています。また、その目標達成に向けて必要となる当面の施策を「再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン(第4期)」にまとめ、取組を進めています。
国においても、2014年4月に策定した「第4次エネルギー基本計画」で、福島の再エネ産業拠点化を目指すとしており、福島の再生・復興に向け、エネルギー産業・技術の拠点として発展していくことを推進しています。
さらに、これまでの再エネの推進の取組に加え、エネルギー分野からの福島復興の後押しを一層強化するため、官民一体の「福島新エネ社会構想実現会議」を設立し、2016年9月に「福島新エネ社会構想」を策定しました。福島が再エネや未来の水素社会を切り拓く「先駆けの地」となり、新たなエネルギー社会を先取りするモデルの創出拠点とする同構想は、2020、2030、2040年度頃をそれぞれ目途とする3つのフェーズを設定し、第1フェーズにおいては、再エネの導入拡大、水素社会実現のモデル構築、スマートコミュニティの構築を柱として、着実に取組を進めてきました。
2021年度から第2フェーズを迎えるに当たっては、2050年カーボンニュートラル宣言とそれに伴うグリーン成長戦略や、新型コロナ禍の影響等、大きな社会情勢の変化を十分踏まえつつ、再エネと水素を柱として、これまでの導入拡大に加えて社会実装のフェーズにすることを目指し、2030年度までに取り組む内容を盛り込み、2021年2月に同構想を改定しました。引き続き、構想の実現に向けた取組を推進していきます。
1.再生可能エネルギーの導入拡大
福島県は、復興の柱の1つとして、福島を「再生可能エネルギー先駆けの地」とすべく取組を推進しており、国においても、発電設備、送電線整備への支援等、他の地域にはない補助制度を福島県向けに措置して導入を後押ししています。こうした取組の結果、震災後10年間で、太陽光を中心に県内の再エネの設備容量は8倍以上に増加しました。今後、阿武隈山地等において大規模な風力発電等が計画されており、さらなる導入拡大に向け、引き続き発電設備等の導入を支援していきます。
(1)阿武隈、双葉エリアの風力発電等のための送電線増強
再エネの導入推進のため、2014年度補正予算で措置した「再生可能エネルギー接続保留緊急対応補助金(再生可能エネルギー発電設備等導入基盤整備支援事業(避難解除区域等支援基金造成事業))」により、これまで約16万kWの太陽光発電設備等の導入が避難解除区域等において進められてきました。
また、福島県内における再エネのさらなる導入拡大に向け、阿武隈山地等において風力発電等の設置が進められており、当該地域で得られる大規模な風力発電等による電力を受け入れるために、近隣の送電網だけでなく、新福島変電所(福島県双葉郡富岡町)等の東京電力の既存送電設備も活用しています。風力発電等の電力を受け入れるには、発電設備と変電所等をつなぐための送電網が必要なことから、2016年度に送電網の敷設ルートの検討を進め、2017年3月に送電線等の整備・運営を行う「福島送電合同会社」が設立(2019年12月に株式会社化)、2019年3月に同社の送電事業が許可され、2020年1月より一部運用を開始しました。複数の発電事業者が共同で利用できる送電網の整備を当該送電事業会社が行うことにより、効率的な整備が可能になります。現在、風力発電所等の建設工事と並行して、送電網の工事が進められています。
(2)福島再生可能エネルギー研究所における研究開発・実証の推進
産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所(以下「FREA」という。)は、本格化する再エネの大量導入を支える新技術を、被災地を始めとする多くの企業と積極的に連携して開発するとともに、大学との共同研究等を通して将来を担う産業人材の育成等を図るため、2014年4月に福島県郡山市に設立されました。世界に開かれた再エネの研究開発の推進と新しい産業の集積を通した復興への貢献を使命とし、震災からの復興と世界に向けた新技術の発信に取り組んでいます。開所から8年が経過した現在、職員約140人と企業、大学等からの外来研究者をあわせて、約320人が同所内で研究等を実施しており、再エネネットワークの開発・実証、水素の製造・貯蔵・活用技術、水素キャリア活用技術、高性能風車要素技術、太陽電池モジュール技術、太陽光発電の長期安定電源化技術、太陽電池性能評価技術、地熱適正利用技術、地中熱ポテンシャル評価等の研究課題に取り組んでいます。
また、「被災地企業等再生可能エネルギー技術シーズ開発・事業化支援事業」(対象:2013〜2020年度は福島県、宮城県及び岩手県、2021年度からは福島県浜通り地域等15市町村に所在する企業等)により、FREAとの共同研究で技術評価、課題解決等を進めることで、企業が持つ再エネ関連技術等の事業化を支援しており、本事業を通じて2022年末までに177件の技術開発を支援し、そのうち風車ブレードのプラズマ気流制御電極等の62件が事業化に成功しています。
さらに、太陽光発電及び蓄電池用大型パワーコンディショナ等の先端的研究開発及び試験評価を行う世界最大級の施設「スマートシステム研究棟」において、海外展開を目的とした国産大型パワーコンディショナに対する様々な系統連系試験を国内で実施しており、製品の輸出国の状況に応じたスキームを構築することによって認証を取得できるようにしています。大型パワーコンディショナの海外市場への輸出促進を可能とする実績を上げ、福島で培った国際標準化技術を世界に展開する活動を進めています。また、次世代型パワーコンディショナ(スマートインバータ)や、地元企業が開発した次世代型の自動電圧調整装置(サイリスタ式自動電圧調整装置:TVR)に対して評価試験を実施する等、福島発の技術展開にも貢献しています。
2.水素社会実現に向けたモデル構築
水素エネルギーは、利用段階ではCO2を排出しないクリーンエネルギーとして、その利活用が期待されています。水素を再エネの電力から製造することができれば、製造から利用までトータルでCO2フリーにすることができる上、余剰再エネを有効活用することができます。このため、浪江町では、2020年3月に福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が開所し、世界有数の規模となる1万kWの水電解装置を活用して、再エネから水素を製造する実証プロジェクトを実施しています。製造した水素は、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の際に大会用車両として導入された燃料電池自動車、聖火台及び聖火リレートーチ向けの燃料等として活用されました。現在では、あづま総合運動公園やJヴィレッジ、道の駅なみえといった福島県内の公共施設等にて、純水素燃料電池の燃料として活用されているほか、浪江町やいわき市等の水素ステーションでも活用されています。また、水素利活用による工場の脱炭素化実証や燃料電池小型トラックの実証等が進められ、水素社会の実現に向けた動きが加速しています。