第1節 エネルギー需給の概要等

エネルギー需給の概要

世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)は経済成長とともに増加を続けており、石油換算で1965年の37億トンから年平均2.5%で増加し続け、2019年には139億トンに達しました。特に2000年代以降アジア大洋州地域は新興国がけん引して消費量の伸びが高くなっています。一方、先進国(OECD諸国)では伸び率は鈍化しました。経済成長率、人口増加率ともに開発途上国と比較し低く止まっていることや、産業構造の変化や省エネルギーの進展が影響しています。この結果、世界のエネルギー消費量に占めるOECD諸国の割合は、1965年の70.5%から2018年には40.0%へと約30ポイント低下しました(第221-1-1)。

【第221-1-1】世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー)

221-1-1

(注1)1984年までのロシアには、その他旧ソ連邦諸国を含む。
(注2)1985年以降の欧州には、バルト3国を含む。

【第221-1-1】世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー)(xls/xlsx形式52KB)

出典:
BP「Statistical Review of World Energy 2020」を基に作成

ここで1人当たりのGDPとエネルギー消費量の関係を見てみましょう。一般的に経済成長とともにエネルギー消費が増加するため、今後途上国の経済が成長することでエネルギー消費も増えていきます。一方、ドイツとカナダを比較してみると1人当たりのGDPはほぼ同じですが、1人当たりのエネルギー消費量は大きく異なることも分かります。国によって気候や産業の構造が違うので一概には言えませんが、エネルギー効率の違いがこの差を生みだす原因の一つになっています。現在主流の化石エネルギーは無尽蔵ではなく、また化石エネルギーを大量に消費すると二酸化炭素の排出量も増えてしまいます。そのため、特に今後エネルギー消費量が大きく増えることが予測されている途上国では、エネルギー効率を高めていくことがとても重要であり、また日本を含む先進国がそれを手助けしていくことが求められています(第221-1-2)。

【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2019年)

221-1-2

【第221-1-2】1人当たりの名目GDPと一次エネルギー消費量(2019年)(xls/xlsx形式47KB)

出典:
BP「Statistical Review of World Energy 2020」、世界銀行「World Bank Open data」を基に作成

次に、世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)の動向をエネルギー源別に見てみます。石油は今日までエネルギー消費の中心となってきました。発電用を中心にほかのエネルギー源への転換も進みましたが、堅調な輸送用燃料消費に支えられ、石油消費量は1965年から2019年にかけて年平均2.1%で増加し、依然としてエネルギー消費全体で最も大きなシェア(2019年時点で33.1%)を占めています。この同じ期間に、石炭は年平均1.8%で増加し、特に2000年代において、経済成長が著しい中国等、安価な発電用燃料を求めるアジア地域を中心に消費量が拡大しました。しかし、近年では、中国の需要鈍化、米国における天然ガス代替による需要減少などが原因となって2015年以降前年対比で減少する年もあり、石炭消費量は伸び悩んでいます。この結果、石炭シェアは27.0%(2019年時点)となっています。一方、石油と石炭以上に消費量が伸びたのが天然ガスです。天然ガスは、特に気候変動への対応が強く求められる先進国を中心に、発電用はもちろん、都市ガス用の消費が伸びました(年平均増加率3.3%)。同じ期間で伸び率が最も大きかったのは原子力(同8.9%)と風力、太陽光などの他再生可能エネルギー(同12.6%)でしたが、2019年時点のシェアはそれぞれ4.3%及び5.0%と、エネルギー消費全体に占める比率はいまだに大きくありません。しかしながら、近年は太陽光発電や風力発電のコストが低下しており、今後再生可能エネルギーの比率はさらに拡大すると予想されます。また、2015年12月に開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、2020年以降、全ての国が参加する公平で実効的な国際枠組みであるパリ協定が採択され、産業革命前と比べた気温上昇を2度より下方に抑えること、さらに1.5度までに抑えるよう努力することが盛り込まれました。その後、各国においてパリ協定の批准が順調に進み、2016年11月に発効しました。さらに、2018年12月に開催されたCOP24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)では、2020年以降のパリ協定の本格運用に向けパリ協定の実施指針が採択されました。パリ協定の発効、実施指針の採択は、世界の多くの国が温暖化対策に積極的に取り組んでいることを示す象徴的な出来事と言えます。ただし、2017年1月に発足した米国のトランプ政権は、2017年8月にパリ協定からの脱退方針を国連気候変動枠組み条約事務局に通知しました。パリ協定の規定では、パリ協定発効日から3年経過後に脱退通告が可能になり、脱退が効力を有するのは脱退通告から1年後となっています。米国のトランプ政権は、パリ協定発効の3年後に当たる2019年11月4日に、国連にパリ協定からの脱退を正式に通知したため、2020年の11月4日にパリ協定を正式に離脱しました。その後、2021年1月に発足した米国バイデン政権は、パリ協定に復帰する方針を示し、2021年2月19日にパリ協定に復帰しました。再生可能エネルギーのコスト競争力の高まりとともに、米国での導入量も大幅に増加しています。温暖化対策はエネルギーの選択に大きな影響を及ぼすため、今後もその動向を注視していく必要があります(第221-1-3)。

【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー)

221-1-3

(注)端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある。

【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー)(xls/xlsx形式44KB)

出典:
BP「Statistical Review of World Energy 2020」を基に作成

世界の最終エネルギー消費は、1971年から2018年までの48年間で約2.3倍に増加しました。部門別では、鉄鋼・機械・化学等の産業用エネルギー消費は2.0倍、家庭や業務等の民生用エネルギー消費は2.0倍であるのに対して、輸送用エネルギー消費は3.0倍に増えました。輸送用が大きく増えた背景には、この間に世界中でモータリゼーションが進展し、自動車用燃料の需要が急増したことがあると考えられます。この結果、最終エネルギー消費に占める輸送用のエネルギー需要の割合は1971年の22.7%から2018年には29.1%へと約6ポイント増加しました(第221-1-4)。

【第221-1-4】世界のエネルギー需要の推移(部門別、最終エネルギー)

221-1-4

(注)端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある。
(注)消費量合計が前表より少ないのは、主に本表には発電用及びエネルギー産業の自家使用が含まれていないためである。

【第221-1-4】世界のエネルギー需要の推移(部門別、最終エネルギー)(xls/xlsx形式58KB)

出典:
IEA「World Energy Balances 2020 Edition」を基に作成

COLUMN

エネルギー需給の展望

国際エネルギー機関(IEA)では、将来の世界のエネルギー需要予測を幾つかのシナリオに基づいて示しています。本項では、2018年の実績値と、IEAによる2040年のエネルギー需要予測を比較して紹介します。まず公表政策シナリオ(Stated policies scenario)とは、温室効果ガスの削減目標など現在発表されている各国の政策目標が達成され、既存技術の進展が続くというケースです。次に、持続可能開発シナリオ(Sustainable development scenairo)とは、IEAが推奨する脱炭素政策パッケージ(SustainableRecovery Plan)を全て実行したシナリオであり、パリ協定の目標に整合的なシナリオです。

2040年の世界の一次エネルギー消費量は、公表政策シナリオでは、2018年比で約1.19倍の石油換算171億トンになる見通しです。これに対して、持続可能開発シナリオでは、2018年比で0.91倍と一次エネルギー消費量は石油換算130億トンまで減少します。公表政策シナリオ(2018年比1.19倍)と持続可能開発シナリオ(2018年比0.91倍)との差は歴然としており、世界の国々が現在掲げている政策目標では、パリ協定が目指す「2℃目標」に届かないことが分かります。

次にエネルギー源別に見てみましょう。IEAのシナリオでは、公表政策、持続可能開発の順に気候変動対策が強くなります。気候変動対策が強くなるほど、低炭素なエネルギーや技術がより多く利用されるようになるのは容易に想像できると思いますが、シナリオ分析の結果はまさにそのようになっています。

化石エネルギーで最も大きな影響を受けるのは石炭と見られています。2018年の石炭消費量との比較では、公表政策シナリオでも0.86倍と減少しています。持続可能開発シナリオでは石炭の消費が2018年実績の0.34倍と、半分以下にまで減ります。石油も同じような傾向にありますが、公表政策シナリオ(2018年比1.07倍)と持続可能開発シナリオ(2018年比0.67倍)での消費量の減り方は石炭のそれよりも緩やかです。これは、石炭と石油では主な用途が異なるためです。石炭は主に発電や産業用に使われており、これらは比較的容易に天然ガスや再生可能エネルギーに置き換えていくことが可能です。一方の石油は主に自動車用の燃料として使われていますが、これを他のエネルギーに変えていくのは容易ではありません。そのために、石油の方が消費量の減り方が緩やかになっています。化石エネルギーの中で、一番減り方が緩やかであるのは、天然ガスです。石炭や石油と比較してクリーンであるため様々な分野で利用が行われると見られており、持続開発可能シナリオでも、消費量は2018年比で0.90倍にとどまる予測になっています。

炭素排出の非常に少ない水力を含む再生可能エネルギーや原子力は、いずれのシナリオでも増える見通しになっています。なかでも風力や太陽光を中心とした再生可能エネルギーの増加見通しが顕著です。公表政策シナリオでも2018年比1.99倍に、持続可能開発シナリオにいたっては2.53倍に増えることを予測しています。

将来は不確実であり、これらのシナリオはあくまでも一定の前提に基づいた試算に過ぎません。このようなシナリオ分析を行いながら、将来のよりよいエネルギーの在り方について考えていくことが何よりも重要です。

【第221-1-5】世界のエネルギー需要展望(エネルギー源別、一次エネルギー消費量)

221-1-5

(注)他再生可能は、風力、太陽光、地熱、バイオマス等の再生可能エネルギーである。

【第221-1-5】世界のエネルギー需要展望(エネルギー源別、一次エネルギー消費量)(xls/xlsx形式104KB)

出典:
IEA「World Energy Outlook 2020」