第1節 エネルギー需給の概要等
エネルギー需給の概要
世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)は経済成長とともに増加を続けており、石油換算で1965年の37億トンから年平均2.5%で増加し続け、2016年には133億トンに達しました。特に2000年代以降アジア大洋州地域は新興国がけん引して消費量の伸びが高くなっています。一方、先進国(OECD諸国)では伸び率は鈍化しました。経済成長率、人口増加率ともに開発途上国と比較し低く止まっていることや、産業構造の変化や省エネルギーの進展が影響しています。この結果、世界のエネルギー消費量に占めるOECD諸国の割合は、1965年の70.8%から2016年には41.6%へと約29ポイント低下しました(第221-1-1)。
ここで1人当たりのGDPとエネルギー消費量の関係を見てみましょう。一般的に経済成長とともにエネルギー消費が増加するため、今後途上国の経済が成長することでエネルギー消費も増えていきます。一方、ドイツとカナダを比較してみると1人当たりのGDPはほぼ同じですが、1人当たりのエネルギー消費量は大きく異なることも分かります。国によって気候や産業の構造が違うので一概には言えませんが、エネルギー効率の違いがこの差を生みだす原因の一つになっています。現在主流の化石エネルギーは無尽蔵ではなく、また化石エネルギーを大量に消費すると二酸化炭素の排出量も増えてしまいます。そのため、特に今後エネルギー消費量が大きく増えることが予測されている途上国では、エネルギー効率を高めていくことがとても重要であり、また日本を含む先進国がそれを手助けしていくことが求められています(第221-1-2)。
- (注)
- 1984年までのロシアには、その他旧ソ連邦諸国を含む。
- 出典:
- BP「Statistical Review of World Energy 2017」を基に作成
- 出典:
- BP「Statistical Review of World Energy 2017」、世界銀行「World Development Indicators」を基に作成
次に、世界のエネルギー消費量(一次エネルギー)の動向をエネルギー源別に見てみます。石油は今日までエネルギー消費の中心となってきました。発電用を中心にほかのエネルギー源への転換も進みましたが、堅調な輸送用燃料消費に支えられ、石油消費量は1965年から2016年にかけて年平均2.1%で増加し、依然としてエネルギー消費全体で最も大きなシェア(2016年時点で33.3%)を占めています。この同じ期間に、石炭は年平均1.9%で増加し、特に2000年代において、経済成長が著しい中国等、安価な発電用燃料を求めるアジア地域を中心に消費量が拡大しました。しかし、近年では、中国の需要鈍化、米国における天然ガス代替による需要減少などが原因となって石炭消費量は伸び悩み、2015年と2016年は2年連続で対前年比で減少しました。この結果、石炭シェアは28.1%(2016年時点)となっています。一方、石油と石炭以上に消費量が伸びたのが天然ガスです。天然ガスは、特に気候変動への対応が強く求められる先進国を中心に、発電用はもちろん、都市ガス用の消費が伸びました(年平均増加率3.4%)。同じ期間で伸び率が最も大きかったのは原子力(同9.5%)と風力、太陽光などの他再生可能エネルギー(同12.3%)でしたが、2016年時点のシェアはそれぞれ4.5%及び3.2%と、エネルギー消費全体に占める比率はいまだに大きくありません。近年は太陽光発電や風力発電のコストが低下しており、今後再生可能エネルギーの比率は拡大すると予想されます。また、2015年12月に開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、2020年以降、全ての国が参加する公平で実効的な国際枠組みであるパリ協定が採択され、産業革命前と比べた気温上昇を2度より下方に抑えること、さらに1.5度までに抑えるよう努力することが盛り込まれました。その後、各国においてパリ協定の批准が順調に進み、2016年11月に発効しました。パリ協定の発効は、世界の多くの国が温暖化対策に積極的に取組んでいることを示す象徴的な出来事と言えます。一方で、2017年1月に発足した米国のトランプ新政権は、2017年8月にパリ協定からの脱退方針を国連気候変動枠組み条約事務局に通知しました。パリ協定の規定では、パリ協定発効日から3年経過後に脱退通告が可能になり、脱退が効力を有するのは、脱退通告から1年後です。こうした懸念がある一方、再生可能エネルギーのコスト競争力の高まりとともに、米国での導入量も大幅に増加しています。今後も温暖化対策の動向を注視していく必要があります(第221-1-3)
【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー)
- (注)
- 端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある。
- 出典:
- BP「Statistical Review of World Energy 2017」を基に作成
世界の最終エネルギー消費は、1971年から2015年までの44年間で約2.2倍に増加しました。部門別では、鉄鋼・機械・化学等の産業用エネルギー消費、家庭や業務等の民生用エネルギー消費がともに1.9倍であるのに対して、輸送用エネルギー消費は2.8倍に増えました。輸送用が大きく増えた背景に は、この間に世界中でモータリゼーションが進展し、自動車用燃料の需要が急増したことがあると考えられます。この結果、最終エネルギー消費に占める輸送用のエネルギー需要の割合は1971年の22.7%から2015年には28.8%へと約6ポイント増加しました(第221-1-4)。
- (注)
- 前表の消費量合計より少ないのは、主に本表には発電用及びエネルギー産業の自家使用等が含まれていないためである。
- 出典:
- IEA「World Energy Balances 2017 Edition」を基に作成
COLUMN
エネルギー需給の展望
ここでは、今後世界のエネルギー需要について、国際エネルギー機関(IEA)、BP、米国エネルギー省情報局(EIA)、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の予測を見てみます。 世界の一次エネルギー消費量は、2016年から2030年にかけて年平均1.2%~1.8%で拡大する見込みで、各機関は2016年に対し2030年は約1.2倍~1.3倍に拡大し、石油換算で約157~172億トンになると予測しています。
エネルギー別で見る場合、最も増加するのは再生可能エネルギーであり、全てのエネルギー機関は風力、太陽光を中心に再生可能エネルギーの消費量が大きく伸びると予測しています。2016年から2030年にかけて、水力を除いた風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーの発電は2.1~3.2倍に増加すると予測されています。水力を含めると、一次エネルギー消費に占める再生可能エネルギーのシェアは2016年現在の10.0%から、11%~16%前後へと拡大します。続いて、原子力は中国、インドなど途上国を中心に導入が拡大し、2016年から2030年まで3割~5割前後増えると予測されています。
一方、石炭の増加が最も緩やかで、2030年には2016年より1割前後の増加に止まると多くの機関は予測しています。一次エネルギー消費における石炭の割合は2016年の28%から25~27%前後に減少します。今後の石炭需要の増加はほとんどアジア、アフリカなどの非OECD国によるもので、北米と欧州などのOECD国では石炭の消費は大きく減少します。
石油は引き続き最大のエネルギー源であり続け、一次エネルギー消費の3割前後を維持すると予測されています。ただし、各機関の予測にはバラつきがあり、IEAの新政策シナリオでは、2016年比で2030年までの増加を5%に過ぎないと予測する一方、米国EIAのレファレンスケースは同27%増と予測しています。先進国では、エネルギー利用の転換や利用効率の向上によって既に石油需要の縮小が始まっています。一方の新興国では、今後自動車保有台数が増えることによって特に輸送部門で石油の消費量が増加し、加えて石油化学産業の需要拡大が予測されています。
天然ガスは化石燃料の中では最も堅調な需要の増加が見込まれ、2016年から2030年にかけて2~4割増加します。地域別には、特に中国と中東諸国で天然ガス需要が拡大すると予測されています。部門別には、電力・民生部門に加えて、トラックや船舶向け燃料としての天然ガス利用が増えていきます(第221-1-5)。
地域別で見る場合、特にアジアのエネルギー需要が大幅に増加すると予測され、世界シェアが2016年の約40%から2030年に5割弱に上昇する見込みです。また、アフリカ、中東、中南米の増加も大きく、増加率はアジアと同等あるいはそれ以上になると予測されています。一方で、欧州、北米は横ばいか減少と予測されています。
- (注1)
- EIA、IEEJはレファレンスケース。
- (注2)
- 他再生エネルギーは風力、太陽光、地熱、バイオマス等の再生可能エネルギー発電である。
- (注3)
- 原子力、水力、他再生可能エネルギー発電はBPに従って、一次エネルギーから電力への転換率を38%とする。
- 出典:
- BP「Statistical review of world energy 2017」、「Energy Outlook 2035: January 2017」、IEA「World Energy Outlook 2017」、EIA「International Energy Outlook 2016」、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)「IEEJアウトルック 2018」を基に作成