はじめに
2014年4月に、国民生活や経済活動を支える中長期的かつ総合的なエネルギー政策の基本方針として、東日本大震災後初のエネルギー基本計画(「第四次エネルギー基本計画」)が閣議決定されました。本計画においては、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境適合性を同時達成するため、徹底した省エネの推進、再エネの最大限の導入に取り組み、原発依存度を可能な限り低減させることが基本方針として盛り込まれました。
翌2015年7月には、本計画を踏まえ、安全性を大前提に、安定供給(エネルギー自給率)、経済効率性(電力コスト)、環境適合(CO2排出量)について達成すべき政策目標を想定した上で、政策の基本的な方向性に基づいて施策を講じたときに実現されるであろう2030年度のエネルギー需給構造の見通しについて、「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)」が策定されました。
その後、エネルギー基本計画及びエネルギーミックスの方向性に基づいて各施策が展開され、それぞれの指標は一定の改善を見せています。具体的には、省エネの取組指標については、原油換算の最終エネルギー消費量を、2013年度の3.6億klから2030年度時点で3.3億klとする見通しの中、2016年度は3.4億klまで省エネが進んでいます。また、再エネや原子力等の、発電時にCO2を排出しない電源(ゼロエミッション(ゼロエミ)電源)の発電量に占める比率については、2013年度の12%から2030年度時点で44%(再エネ:22~24%、原子力20~22%)とする見通しの中、2016年度は16%と、再エネの進展を主因として指標が改善しています。しかし、今後を楽観できるかといえばそうではありません。省エネについては、省エネ製品の浸透などにより、これまでは順調に推移をしてきましたが、今後、経済成長と両立しつつ2030年度の3.3億klを達成できるかは、これからの施策にかかっています。ゼロエミ電源比率についても、FIT制度の導入によって、太陽光を中心に再エネの比率が伸びましたが、今後は国民負担の増加を抑制しながら、いかにゼロエミ電源を増やしていくかを考えなくてはいけません。
成果指標についても同様で、現時点までの対応は着実に進展していますが、道半ばの状況です。エネルギー自給率については、震災前の20%から、震災後の原子力発電所の停止により、一旦は6%まで低下しましたが、その後再エネの進展などにより、2016年度は8%まで改善しています。他方で、2030年度には、震災前を上回る水準(24%)を見通しており、さらなる取組が求められます。電力コストについては、震災後、原子力発電所の停止を火力発電所の焚き増しで補うため、燃料費が高騰しました。2016年度時点では、原油価格が大きく低下したことにより、指標は大きく改善していますが、今後、仮に油価が上昇したとしても電力コストを抑えられるような取組が必要になります。CO2排出量についても、震災後の火力の焚き増しによって、2013年度には過去最高となる12.4億トンのCO2排出(エネルギー起源)を記録しました。2014年度以降は減少に転じ、2016年度は11.3億トンまで減少しましたが、2030年度の見通しである9.3億トンに向けては一層の取組が必要です。
2017年度は、前回のエネルギー基本計画の策定から3年が経ち、同計画の見直しに向けた検討が行われました。本章では、上述のような進捗も踏まえながら、第1節では2030年のエネルギーミックスの実現に向けた課題について、第2節では2050年視点で踏まえるべき論点や課題について述べてまいります。
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- 四捨五入の関係で合計があわない場合がある。
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- 2030年度の電⼒コストは系統安定化費⽤0.1兆円を含む
- 出典:
- 総合エネルギー統計(確報値)等を基に資源エネルギー庁作成