第1節 電力システム改革の断行
1.電力広域的運営推進機関の取組
東日本大震災により、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備や地域間連系線の容量に制約があり、また、広域的な系統運用が十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を手当てすることができず、国民生活に大きな影響を与えたことから、2013年11月に成立した電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)に基づき、強い情報収集権限と調整権限の下で広域的な系統計画の策定や需給調整等を行う「電力広域的運営推進機関」が2015年4月に発足しました。
電力広域的運営推進機関では、地域間連系線等の整備等に関する方向性を整理した「広域系統長期方針」を取りまとめるとともに、東西の周波数変換設備及び東北東京間連系線の増強に関する「広域系統整備計画」を策定し、増強に向けた工事の準備が行われています。また、電力系統の増強に当たっての発電設備設置者と一般送配電事業者の費用負担のルール(発電設備の設置に伴う電力系統の増強及び事業者の費用負担の在り方に関する指針)に基づく一般負担の上限額の検討や連系線利用ルールの見直しなど、系統運用ルールの整備にも取り組んでいます。また、2016年9月には中部電力株式会社の供給区域において、落雷により大規模な電源脱落が発生したことにより、需給の状況が悪化するおそれがあったため、電気事業法第28条の44第1項に基づき、関係する電気事業者に対し、電力融通の指示を行いました。
2.電力の小売全面自由化への対応
家庭を含めた全ての電気の利用者が電力供給者を選択できるようにするため、2016年4月に電力の小売全面自由化を実施しました。全面自由化に際しては、まず旧一般電気事業や旧特定規模電気事業といった類型に代わる区分として、小売電気事業(登録制)、送配電事業(許可制)、発電事業(届出制)という事業ごとの類型を設け、それぞれ必要な規制を課すこととしました。具体的には、自由化後も電力の安定供給を確保し、需要家保護を図るため、以下のような様々な措置を講じています。
【第361-2-1】小売全面自由化に伴う電気事業類型の見直し
まず、電気の安定供給を確保するための措置として、適切な投資や人材の確保の必要性に鑑み、一般送配電事業者に対して、需給バランス維持、送配電網の建設・保守、最終保障サービスの提供、離島のユニバーサルサービスの提供を義務付けるとともに、これらを着実に実施できるよう、地域独占と総括原価方式の託送料金規制(認可制)を措置しました。また、小売電気事業者に対して、需要を賄うために必要な供給力を確保することを義務付けることとし、将来的な供給力不足が見込まれる場合に備えたセーフティネットとして、電力広域的運営推進機関が発電所の建設者を公募する仕組みを創設しました。さらに、需要家保護を図るための措置として、小売電気事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課すとともに、旧一般電気事業者に対し、少なくとも2020年3月末まで経過措置として料金規制を継続することとしています。
加えて、小売全面自由化に伴い、多種多様な事業者が卸電力取引所で取引を行う機会が増加することや、一時間前市場の創設等、制度変更により卸電力市場を利用して不当に利益を得るケースが想定されることから、不正取引(相場操縦等)の防止、国による市場監視、取引所の運営の適切性確保を可能とする規制措置を講じています。こうした措置を通じて、市場の透明性と廉潔性を維持することが、卸電力市場の活性化に資すること、ひいては小売電力市場の活性化につながることと考えています。
3.電力の小売全面自由化の進捗状況
(1)電気事業制度に係る制度設計について
2015年9月に設置された電力取引監視等委員会(注1)において、①小売営業に関するルール、②卸電力市場における不公正取引の取締手法、③今後の託送料金制度のあり方など、電力取引の監視に必要な詳細な制度設計の議論が進められてきました。
また、電力システム改革が進展する中で、電力分野において、エネルギー政策の基本的視点である、安全性、安定供給、経済効率性、及び環境適合を同時に達成していくことが求められます。効率的かつ競争的な電力市場の整備等の環境整備を進めると同時に、電力システム改革が我が国経済における成長戦略としての効果を最大限に発揮するためにも、市場における担い手としてのエネルギー産業を国際的にも競争力のあるものとしていくことが必要不可欠です。このため、電気事業制度に係る制度設計をはじめとして、電力分野の産業競争力強化に向けた幅広い政策課題を検討する場として、2015年10月、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の下に電力基本政策小委員会(注2)が設置されています。また、2016年9月には、競争活性化の方策とともに、自由化の下でも公益的課題への対応を促す仕組みの整備のため、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の下に電力システム改革貫徹のための政策小委員会を設置し、競争活性化の方策と競争の中でも公益的課題への対応を促す仕組みの具体化に向けた検討を開始しました。
このように、電力システム改革の制度設計については、総合資源エネルギー調査会(電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会、基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会)や電力・ガス取引監視等委員会(制度設計専門会合)において、検討してきたところであり、引き続き適切な場において検討を進めます。
【第361-3-1】小売電気事業登録申請及び登録事業者数の推移
- 出典:
- 資源エネルギー庁、電力・ガス取引監視等委員会事務局 作成資料
(2)小売電気事業者の登録
2015年8月の事前登録申請の受付開始から、2017年3月時点で約450件の小売電気事業者登録の申請があり、3月31日時点で389者を登録しています。
この小売電気事業登録は、法令に則り、資源エネルギー庁が、最大需要電力に応ずるために必要な供給能力を確保できる見込みがあるか、電力・ガス取引監視等委員会が、電気の使用者の利益の保護のための措置が講じられているかといった観点から、それぞれ審査を行っています。
登録された事業者の内訳は、もともと高圧の小売電気事業を行っていた新電力事業者(PPS)に加え、LPガス及び都市ガス関係、石油関係、通信・放送・鉄道関係等の事業者など、非常に多岐にわたります。従来の料金体系とは異なる段階別料金や既存事業とのセット割、時間帯に応じて料金差を付ける時間帯別料金等の新たなメニューの提供が見られます。また、2016年12月31日時点で販売実績のある事業者数は280者あり、販売地域の数で①全国展開型(4地域以上)、②都市圏中心型(2~3地域)、③エリア限定型(単一地域)に区分すると、162者(約5割)はエリア限定型で事業を展開しており(分類③)、地域の需要家の多様な選択肢の確保に寄与しています。さらに、地域で事業を行う者には、自治体が出資を行う事例も増えており、地域内の企業、商店街、自治体などと連携した料金メニュー・サービスを提供する事例も見られています。
- ※
- 2016年3月の⼀般家庭等の通常の契約口数(約6,253万件)を用いて試算。なお、2016年3⽉の低圧の総契約口数は約8,600万件だが、旧選択約款や公衆街路灯の契約などは、実態としてスイッチングが起きることが想定されにくく、母数から除外。また、同⼀需要家による供給事業者の変更や、旧⼀般電気事業者の規制料金・自由料金メニュー間での契約種変更は、複数回行われた場合、その都度、スイッチングとしてカウントされることに留意。
- 出典:
- 電力・ガス取引監視等委員会電力取引報(平成29年1月実績)
(3)新電力への契約先の切替え(スイッチング)実績
2017年1月の電力取引報によると、電力の小売全面自由化で新たに自由化された市場において、新電力への契約の切替えを選択した需要家が全国で約3.9%となっています。また、地域の既存電力会社が設定した自由料金メニューへの切替えを選択した需要家も約3.8%となっており、両者を合わせると、約7.7%の消費者が自由料金メニューへの切替えを行っています。また、全面自由化後、特高・高圧部門における新電力のシェアも増加しており、結果として、電力市場全体としては、新電力のシェアが約8.6%となっています。
- 出典:
- 「電力調査統計(2016年12月実績)」シェアは販売電力量ベース(自家消費、特定供給を除く)
(4)料金メニューの多様化
新電力の提供する料金メニューを見ると、全体的な傾向としては、基本料金と従量料金の二部料金制とした上で、燃料費の変動を調整するなど、既存の料金メニューに準じた料金設定が多く見られます。他方、一部では、完全従量料金、定額料金制、指定された時間帯における節電状況に応じた割引など、新しい料金メニューも提供されるようになっています。
また、再生可能エネルギー等の電源構成や、地産地消型の電気であることを訴求ポイントとして顧客の獲得を試みる小売電気事業者の参入も見られ、中には需要家が発電所を選んで得票数の多かった発電所に報奨金を与えることができるなど、特色のある小売電気事業者も存在しています。
さらに、電力消費の見える化(電気の使用状況の可視化)や、電気の使用状況等の情報を利用した家庭の見守りサービスなども提供され始めています。応援するスポーツチームとの繋がりや里山の景観保存など、需要家の好みや価値観に訴求するサービスも始まっています。
地域別には、低圧分野では、東京・中部・関西・九州など、都市圏において多くの小売電気事業者が新規参入しています。北陸(富山県・石川県)・四国(高知県・徳島県・香川県・愛媛県)においては、供給を行っている小売電気事業者の数は相対的に少ない傾向にあります。
【第361-3-4】供給実績がある小売電気事業者(都道府県別)
- 出典:
- 資源エネルギー庁「電力調査統計」より作成
(5)卸電力取引の状況
競争を活性化させるためには、卸電力市場において、十分な取引量が確保されていることが重要です。
旧一般電気事業者各社の自主的取組の改善の効果に加え、全面自由化に伴う新電力の買い入札量の増加により、取引所取引量は昨年と比べて大きく増加しました。2016年の取引量は、2005年の市場開設以来、初めて200億kWhを突破し、販売電力量全体に占める直近の割合は、約3%となっています。
また、2016年9月より、電力システム改革貫徹のための政策小委員会における集中的な議論を経て、中間とりまとめを行いました。これを踏まえ、新電力の参入をさらに進めるための卸電力市場の活性化策として、ベースロード電源市場を創設する方針です。これは、現状では実質的に既存電力会社がその大部分を保有する、石炭、水力、原子力などの安価なベースロード電源を市場に供出することで、新電力の電源へのアクセスを向上させ、競争を促進することを目的とする制度です。また、2013年から行われてきた、既存の電力会社が余剰電力を卸取引市場へ供出するなどの自主的取組の改善に加え、諸外国における取組を参考に、平成29年度から、大手電力各社の社内取引の一部を卸電力取引所経由で行うグロス・ビディングを行うこととしています。これは、取引の透明化・効率化、取引所取引の流動性・価格指標性の向上といった意義があり、英国・北欧等において実施されています。各旧一般電気事業者は、平成29年度の早期にグロス・ビディングを開始し、1年程度で販売電力量の10%程度の取引量を目指し、その後も取引量を拡大していくことを表明しています。
【第361-3-5】JEPX取引量(約定量)のシェアの推移
(6)各種ガイドラインの制定・改定
電力の小売全面自由化によって様々な事業者が電気事業に参入にするにあたり、電気の需要家の保護の充実を図り、需要家が安心して電気の供給を受けられるようにするとともに、電気事業の健全な発達に資することを目的として、経済産業省では、「電力の小売営業に関する指針」を2016年1月29日に制定しました。
2016年4月の電力の小売全面自由化前後の状況や、本指針等に係る事業者の取組状況調査の結果及び電力・ガス取引監視等委員会制度設計専門会合における、2016年4月以降2回にわたる議論等を踏まえた同委員会からの建議を踏まえ、2016年7月22日に経済産業大臣が、小売電気事業者が、業務提携先である媒介・代理・取次業者を自社ホームページ等において分かりやすく公表することを「望ましい行為」として追加する等の改定を行いました。
また、経済産業省と公正取引委員会が、小売全面自由化に当たって整備する事項のうち、市場競争の観点から共同で定める「適正な電力取引についての指針」は、電力市場を競争的に機能させるために2016年3月7日に改定を行いました。
2017年4月には電気事業法等の一部を改正する等の法律が一部施行され、需要抑制により得られる電気を転売することができる「ネガワット取引(特定卸供給)」が制度化されること等に伴い、同指針の改定を行いました。
同指針のうち経済産業省が担当する部分については、制度設計専門会合において議論を行い、電力・ガス取引監視等委員会から経済産業大臣に建議し、2017年2月6日に経済産業大臣が改定しました。
「電力の小売営業に関する指針」の主な改定事項
① 小売電気事業者の媒介・取次・代理に関する望ましい行為の追加
- 小売電気事業者の代理店である等と詐称する事例が発生していることを踏まえ、各小売電気事業者が、業務提携先である媒介・取次・代理業者を自社ホームページ等において分かりやすく公表することを「望ましい行為」として追加。
② 電源構成等の適切な開示の方法における望ましい行為等の追加・明確化
- ホームページでの電源構成の開示が、分かりにくい場所に表示されている事例が多く見られることを踏まえ、小売電気事業者がホームページ等において電源構成を開示する際には、需要家にとって分かりやすい形で掲載・記載することを「望ましい行為」として追加。
- 電源構成開示について、実績値がない新規参入の小売電気事業者の場合には、供給開始後数ヶ月間の直近実績値をもって開示することもあり得る旨を追記。
③ 電源構成等の適切な開示の方法において一般的に問題となるものについての明確化
- 小売電気事業者が発電事業も行っている場合に、その発電構成を表示することや、例えば、太陽光発電を行っている小売電気事業者が販売電力量以上の発電を行っている場合に、発電構成の表示と併せて「当社は販売電力量の100%に『相当』する量の太陽光発電を行っている」旨を表示することは問題ない旨を追記。ただし、いずれについても小売の電源構成と異なることについて誤認を招かない表示である必要がある。
- 昼間に発電・調達した電気を夜間に供給する電気とみなす事例のほか、特定の時間帯に発電・調達した電気を別の日の同じ時間帯に供給する電気とみなすことについても、「異なる時点間で電力量を移転する取扱い」として「問題となる行為」の例示として明記。
④ 小売電気事業者からの小売供給契約の解除時の手続についての明確化
- 小売電気事業者の倒産等により小売供給契約を解除する場合にも、小売電気 事業者及び一般送配電事業者には、需要家保護の観点から、小売供給契約の解除予告通知や供給停止の予告通知等の手続が求められ、そのような適切な対応を怠ることを「問題となる行為」として明記。
- 需要家が需要場所から移転し、電気を使用していないことが明らかな場合に、小売供給契約の解除予告通知や供給停止の予告通知等の手続をとらなくとも 問題とならない旨明記。
⑤ その他技術的修正 第2弾改正電気事業法の施行に伴う引用条文の修正など、技術的な観点に基づき修正。
「適正な電力取引についての指針」の主な改定事項(電気事業法関連部分)
(1)ネガワット取引分野における適正な電力取引の在り方
① ネガワット事業者は、特定卸供給を活用してネガワット取引を行う場合には、次に掲げる要件に適合することが適当である。
1) 需要家に対して需要抑制の依頼を適時適切に行うことができる。
2) 電気の安定かつ適正な供給のため適切な需給管理体制や情報管理体制を保有すること。
3) 需要家保護の観点から適切な情報管理体制を保有すること。
- 上げのディマンドリスポンスの取引に関係する当事者は、公正かつ有効な競争の観点から、ネガワット取引の場合と同様の配慮を行うことが期待される。
- ネガワット取引の実施に当たっては、需要家、供給元小売電気事業者及び供給先小売電気事業者と、ネガワット事業者とのそれぞれの間において、ネガワット取引実施のための契約締結に係る適正な協議がなされることが必要である。
② 望ましい行為
- ネガワット取引に関係する当事者は、ネガワット取引の普及に向けて公正かつ有効にネガワット取引を利用することが期待される。特に、供給元小売電気事業者は、ネガワット事業者からネガワット取引を実施するために必要な契約の協議の申し入れを受けた場合には、積極的に協力することが期待される。
- ネガワット事業者は、需要抑制契約締結前に、報酬その他の取引条件について、需要家に対して十分な説明を行うことが望ましい。ネガワット事業者は、需要抑制契約締結前及び締結後に、需要家に対して、報酬その他の取引条件を記載した契約締結前交付書面及び契約締結後交付書面を交付することが望ましい。
- ネガワット事業者は、ネガワット取引に関する相談窓口を設けて、ネガワット取引の実施方法又は報酬その他の取引条件についての需要家からの苦情・問合せについて、迅速かつ適切に処理することが望ましい。
(2)託送分野等における適正な電力取引の在り方
公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
- 一般送配電事業者は、ネガワット事業を行う他の者との託送供給等業務に関連した情報連絡窓口を自己又はグループ内の小売部門ではなく、自らの送電サービスセンターや給電指令所とすることが望ましい。
【第361-3-6】需要家に対する電力の小売全面自由化に関するアンケート調査結果
- 出典:
- 電力・ガス取引監視等委員会「電力小売自由化における消費者の選択行動アンケート調査事業を元に作成
(7)需要家意識調査、小売全面自由化の広報、消費者保護に向けた取組
電力の小売全面自由化に当たっては、消費者が正しい情報を持つことで、トラブルに巻き込まれることなく、各々のニーズに合った適切な選択ができることが重要です。
こうした認識のもと、2016年9月に電力・ガス取引監視等委員会では、需要家に対し、電力の小売全面自由化に関するアンケート調査を実施しました。その結果、電気の購入先やプランを変更した人の大半から「変更手続きは簡単だった」という声や「変更手続きは30分未満で完了した」という声が聞かれました。他方、変更していない人からは「変更することのメリットが分からない」という声や「変更することが何となく不安」という声が聞かれました。
こうした需要家の意識も踏まえ、経済産業省では、全国各地での説明会の開催や、テレビ・新聞・雑誌などのメディアを通じた広報、パンフレット・ポスターの配布、専用ポータルサイト・コールセンターの設置など、自由化の周知・広報を積極的に実施してきました。
さらに、電力・ガス取引監視等委員会が独立行政法人国民生活センターと消費者保護強化のための連携協定を締結し、両者が共同で、消費者から寄せられたトラブル事例やそれに対するアドバイスを公表するなどの取組を実施しています。また、同委員会では、消費者に対し、自由化に関する正確な情報を分かりやすく発信するためのセミナー等を全国各地で開催するなど、消費者保護のための取組を一層強化しています。
(8)卸・小売市場の監視について
適正な競争環境の確保の観点からは、「適正な電力取引についての指針」等のガイドラインに基づき、電力・ガス取引監視等委員会が監視を行っています。東京電力エナジーパートナー株式会社は、卸電力取引所において、2016年4月から8月の間の平日昼間、限界費用(燃料費等)を大きく上回る高値で入札を行い、一部で、卸電力取引所の約定価格を上昇させていました。同委員会はこのような入札行為は市場相場を人為的に操作するものと評価し、再発防止の観点から同社に対し業務改善勧告を実施しました。具体的な、業務改善勧告の内容は次のとおりです。
(1) 閾値を用いた売り入札価格の設定を今後行わないこと。
(2) (1)を貴社の内部において周知徹底するとともに、(1)を遵守するために必要かつ適切な社内体制を整備すること。
(3) (2)の実施のためにとった貴社の内部における具体的な措置について、平成28年12月16日までに、当委員会に対し、報告を行うこと。
(9)一般送配電事業者による調整力の公募調達について
周波数制御・需給バランス調整に必要となるコスト(調整力コスト)は、託送料金で回収されるものであり、必要な量を確実に確保することを前提としつつも、特定電源への優遇や、過大なコスト負担を回避することが必要となります。2016年4月より、新たな事業ライセンスの下、供給区域の周波数制御・需給バランス調整は一般送配電事業者が担うこととなりました。また、これまでの制度改革の議論の中で、一般送配電事業者は、必要な調整力を、原則として公募の方法で調達することとなっています。
そこで、調整力の公募調達にかかる適切な公募手続や契約条件等に関して、電力・ガス取引監視等委員会制度設計専門会合で同年4月以降4回にわたる審議を行った後、同年9月に電力・ガス取引監視等委員会から経済産業大臣に「一般送配電事業者が行う調整力の公募調達に係る考え方」を建議し、同年10月に経済産業大臣が制定しました。また、電力広域的運営推進機関の調整力及び需給バランス評価等に関する委員会において、調整力の公募にかかる必要量等の検討が行われました。
これらを踏まえて、一般送配電事業者は同月より2017年度に用いる調整力の公募調達を行いました。
今後も、資源エネルギー庁と電力・ガス取引監視等委員会において、一般送配電事業者における調整力の運用が、安定供給とコスト最小化の両立を目指したものとなっているか継続的に監視するとともに、多くの事業者が公募調達に参加することができるよう検討を進めていきます。
また、2020年を目途にリアルタイム市場の創設するために、資源エネルギー庁、電力・ガス取引監視等委員会、電力広域的運営推進機関が連携し、検討を進めていきます。
4.電気料金値上げ認可申請への厳正な対応
(1)原価算定期間終了後の小売電気料金の事後評価
家庭など規制部門に適用される電気料金については、原価計算期間終了後に小売電気料金の原価の洗い替えを行わない場合において、引き続き当該料金原価を採用する妥当性については、従来、経済産業省で評価を実施するとともに、経済産業省及び旧一般電気事業者各社において、以下のような情報公開の取組を実施しています。
① 経済産業省において、原価算定期間終了後に毎年度事後評価を行い、利益率が必要以上に高いものとなっていないかなどを確認し、その結果を公表する(必要に応じて、料金値下げに係る変更認可申請命令の要否を検討する)。
② 旧一般電気事業者各社において、規制部門と全社計に区分した人件費等の実績値の比較結果をホームページで公表する。
北海道電力、東北電力、関西電力、四国電力及び九州電力については、2012年以降の料金値上げ時に経済産業省として継続的に監視していくこととされているとともに、震災後行われた値上げに係る初めての原価算定期間終了後の事後評価であることから、消費者基本計画の工程表において今年度に事後評価を行う旨が記載されています。また、東京電力エナジーパートナー株式会社(以下「東京電力EP」という。)については、直近3年度間の規制部門の電気事業利益率が高くなっています。
これらを踏まえ、原価算定期間が終了している他の旧一般電気事業者(北陸電力・中国電力・沖縄電力)とは別に、電力・ガス取引監視等委員会の下に設置した料金審査専門会合(座長:安念潤司 中央大学法科大学院教授)において料金適正化の観点から、電力会社ごとに原価算定期間終了後の小売電気料金の事後評価を実施しました。
<事後評価のポイント>
A 北海道電力、東北電力、東京電力EP、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力及び沖縄電力
原価算定期間終了後の事後評価において、電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則第16条第3項の規定によりなおその効力を有するものとして読み替えて適用される同法第1条の規定による改正前の電気事業法(昭和39年法律第170号)第23条第1項の規定による供給約款等の変更の認可の申請命令に係る「電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等」(20160325資第12号)第2(7)④に基づく値下げ認可申請の必要が無いか。
① 電気事業利益率による基準
② 規制部門の累積超過利潤による基準又は自由化部門の収支による基準
B 北海道電力、東北電力、関西電力、四国電力、九州電力及び東京電力EPの事後評価に関する追加手続
① 料金原価と実績費用の比較
個別費目について、料金原価を合理的な理由無く上回る実績となっていないか。なお、実績が料金原価を上回っている費目及び電力会社は以下の通り。
- 人件費(東北、東京電力EP、関西、四国、九州)
- 燃料費(東北、関西、四国、九州)
- 減価償却費(東北、四国)
- 購入電力料(北海道、東京電力EP、関西、四国、九州)
- 原子力バックエンド費用(東北、関西)
- その他経費(北海道、東京電力EP、関西)
② 規制部門と自由化部門の利益率の比較
規制部門と自由化部門の利益率に大きな乖離はないか。乖離が生じている場合の要因は合理的か。
③ 経営効率化への取り組み
経営効率化への取り組みは着実に進捗しているか。
【第361-4-1】直近3年度の規制部門の電気事業利益率及び電力10社の過去10年度の電気事業利益率
- (※1)
- 各年度の数値は、東京電力株式会社の利益率。(平成28年4月1日より分社化)
- (※2)
- 各年度の%の単純平均
- 出典:
- 各電力会社の部門別収支計算書より電力・ガス取引監視等委員会事務局作成
<事後評価の結果>
A 北海道電力、東北電力、東京電力EP、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力及び沖縄電力
原価算定期間終了後の事後評価において、電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則第16条第3項の規定によりなおその効力を有するものとして読み替えて適用される同法第1条の規定による改正前の電気事業法(昭和39年法律第170号)第23条第1項の規定による供給約款等の変更の認可の申請命令に係る「電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等」(20160325資第12号)第2(7)④に基づく値下げ認可申請の必要は認められなかった。
① 電気事業利益率による基準
各電力会社の電気事業利益率の直近3年度平均値(平成25年度~平成27年度)は北海道電力△2.1%、東北電力6.2%、東京電力EP5.0%、北陸電力1.0%、関西電力1.1%、中国電力1.2%、四国電力2.1%、九州電力0.3%、沖縄電力2.91%であることを確認した。
電力10社の過去10年度平均値(平成18年度~平成27年度)の電気事業利益率は2.93%であるため、東北電力と東京電力EPを除く7社については、電気事業利益率が電力10社平均を下回っており、当該基準に該当しなかった。
② 規制部門の累積超過利潤による基準又は自由化部門の収支による基準
規制部門の累積超過利潤は、東北電力で28,095百万円、東京電力EPで△131,099百万円であり、両社において一定水準額を下回っていることを確認した。
また、直近2事業年度の自由化部門の電気事業損益は、東北電力で平成26年度が47,951百万円、平成27年度が80,815百万円、東京電力EPで平成26年度が141,736百万円、平成27年度210,041百万円であり、両社において直近2事業年度連続して赤字とはなっていないことを確認した。
以上、東北電力及び東京電力EPとも規制部門の累積超過利潤による基準、自由化部門の収支による基準のいずれにも該当しなかった。
【第361-4-2】規制部門の累積超過利潤と一定水準額
(単位:百万円)
- 出典:
- 東北電力及び東京電力EPへの電力・ガス取引監視等委員会事務局のヒアリングに基づき作成
【第361-4-3】直近2事業年度の自由化部門の電気事業損水準額
(単位:百万円)
- 出典:
- 東北電力及び東京電力EPの部門別収支計算書より電力・ガス取引監視等委員会事務局にて作成
B 北海道電力、東北電力、東京電力EP、関西電力、四国電力及び九州電力の事後評価に関する追加手続
① 料金原価と実績費用の比較
人件費については北海道電力以外が原価不算入の出向者給与や残業手当を理由に原価を上回っている。また、各社とも原発再稼動の遅れから、火力焚き増し、あるいは他社からの調達を迫られており、基本的に、燃料費・購入電力料が増加する傾向にある。特に原価策定における原子力稼働率の織込みが大きかった九州、関西電力での増加が著しい状況。東北電力は原価策定における原子力稼働率が実態に相対的に近いものだったことから、他社の原発停止によって購入電力料の実績が計画を下回らざるを得ない中にあっても、需要減と相俟って、火力焚き増しの必要性が相対的に低く、燃料費の実績が原価を上回る程度が抑えられている。東京電力EPでは、他社購入が原価を上回る一方で、燃料費は、販売電力量の減少もあって原価を下回っている。
基本的に、各社、燃料費・購入電力料が増えざるを得ない中で、燃料調達にあたっては共同調達やメリットオーダーによる効率調達に努力している状況にあり、加えて、全ての電力会社で、一時的な繰り延べも含めてコスト削減対象となりやすい修繕費で、供給信頼度を害することが無いようにリスクマップでの評価を行う形で、費用削減に取り組み、実績が原価を相当程度上回る実績を達成している。
② 規制部門と自由化部門の利益率の比較
規制部門と自由化部門の利益率の乖離要因としては、①再稼動遅延に伴う需給関係費の増加、②燃料費調整制度によるタイムラグ、③コスト削減の深堀、の3つが各社の共通事項となっている。基本的に前二者は相対的に販売電力量の多い自由化部門に影響し、燃料調整の効果のみ、北海道電力では、冬場の需要動向に影響を受けて規制部門に多くプラスで作用している状況にある。経営効率化・コスト削減の深掘りの効果の現れ方は、各社の設備構成や修繕対策の内容によって、どちらの部門に効果が現れるかは異なっている。
各社の販売電力量の原価算定時と実績の比較は、規制・自由化部門双方で、実績値が原価を下回る厳しい事業環境にあり、電力会社によっては7%を上回る減少となっている。特に関西電力と九州電力では、自由化部門での落ち込みが大きく、これが部門間の利益率格差の主な要因の一つになっている。北海道電力の固有事情として、料金改定のタイミングが年度途中であったため、自由化部門での契約更改の時期との関係から同部門での収益改善の効果が現れにくくなっていた。
こうした要因を考慮し、その影響を計算上排除すると、各社の規制部門と自由化部門の利益率は、修正され、その乖離1%以内に収まっている。
③ 経営効率化への取組
経営効率化への取組については、「恒常的な効果が見込まれる取組み」として、各社とも、経営効率化努力を進めるなか、当初の査定による計画値を上回る効率化実績が見られたのが、関西電力、東北電力、九州電力、東京電力EPとなっている。ただし、人件費については、計画値未達の企業が多かった。燃料費・購入電力料は、関西電力、東北電力、四国電力、九州電力、東京電力EPで実績が計画を上回っており、具体的には、定検期間の短縮による効率の良い火力発電所の稼動増、卸取引所からの調達を進める等によるものとなっている。修繕費については、全ての企業で、点検周期や工事実施時期、発注方法の工夫で計画値を上回る効率化を達成している。
また、各社とも、緊急的な支出抑制にも取り組み、例えば、東京電力EPでは、調達先での修繕費削減も求めており、また、関西電力、四国電力及び東京電力EPでは、資本的支出の抑制で設備投資関連費用でも一時的な繰り延べを実施している。
④ 総評
燃料価格の大幅な変動、原子力発電再稼働の遅延等の諸事情を踏まえると、個別費目が合理的な理由なく料金原価を上回る実績となっているものは無く、今回事後評価の対象となった事業者について、現行の認可料金に関する値下げ認可申請の必要があるとは認められなかった。
他方で、厳しい経営環境下において適切な人材を確保する必要性等からやむを得ない事情は認められるが、全ての会社において人件費における給与実績が料金原価を上回っていた。各企業における経営事情もあるものの、事業者においては、当該費目に限らず、料金審査時の査定内容を十分に踏まえて事業運営に取り組むことが求められる。
経営効率化努力の主要な取組として修繕費の削減が見られ、これらは原価に織り込まれた費用について、供給信頼度を害することが無いようにリスクマップでの評価に基づき実施されている。安全対策、供給信頼度維持に不可欠な投資や必要な費用は適正なコストとして電気料金の原価に含まれているところであり、修繕費の緊急繰延べの判断は、技術的知見や代替措置の効果・費用等も踏まえつつ、引き続き慎重にリスク評価を行って対応すべきである。
効率化努力としては、単なる一時的な収支改善効果を伴う取組を超え、将来的な原価削減、さらには電気料金抑制につながる構造的、恒常的なコスト改善努力を追及すべきである。今回の評価においても、各社の様々な取組が紹介されたところであるが、事業者間で直接的な競争関係にないネットワーク部門での各社の努力については、相互に情報共有し、参考となる取組について、自社の特徴を踏まえた改良なども行いつつ積極的に取り込むことが重要である。また、自由化部門での競争は電気供給コスト全体の効率化に資するものであり、事業者においては全面自由化された小売市場において創意工夫を凝らした競争に取り組むことが求められる。
今後の原子力再稼働の見通しが定まらないとの事業者の見解も見られ、また、現行の原価は一定の原子力稼働率を前提に算出されているものではあるが、直近の収益状況は、原価算定期間中の経営効率化努力もあって改善傾向にあるところ。事業者においては、原子力再稼働時には火力燃料費等の負担が現状よりも軽減されるであろうことを踏まえ、そのコスト低減効果を一時的な支出繰延べの削減、需要家への還元などに適切に充てるよう検討すべきである。
以上に鑑み、事業者には、引き続き経営効率化努力に真摯に取り組むこと、経過措置料金の適正性に関して需要家への分かりやすい説明、情報提供を行うことが求められる。
5.電力システム改革貫徹のための政策小委員会での検討
再掲(第1部第2章第3節 参照)