はじめに

従来の我が国のエネルギー市場は、電力・ガスといった業態ごと・地域ごとに市場の垣根が存在し、各社はその中で垂直一貫の体制で事業を営んでいました。しかし、今後、電力・ガス制度改革を通じた自由化により競争が活性化するとともに、環境適合への要請や革新的な技術の登場により、新たなビジネスモデルの競争力が高まる可能性も考えられます。我が国のエネルギー企業については、国内の市場における需要の伸びの鈍化や自由化などの事業環境変化の中にあっても、各種の変化を的確にとらえ、競争力のある企業として成長していくことで、エネルギーの安全性や安定供給、経済効率性の向上、世界規模での環境適合への貢献などを実現していくことが期待されます。

第3章では、自由化等の対応で先行している諸外国の事例を分析しながら、「市場」・「制度」・「技術」といったエネルギー産業を取り巻く環境の変化に、企業がどのように対応しているかについて紹介します。

1. 事業環境の変化

(1)市場の変化

エネルギー企業の行動を分析する上では、まず、市場においてエネルギーの需要がどのように推移しているかを踏まえることが必要です。エネルギーの消費量は、世界全体では増加を続けていますが、欧米や日本などの先進国に限って見れば、経済成長の鈍化・停滞などの影響を受けて、先進国における国内エネルギー需要は減少していることがわかります。他方で、主にアジアを中心とした新興国では大きな伸びを見せており、国外市場に目を向けると、旺盛な需要が存在しています。

【第130-0-1】エネルギー企業を取り巻く構造変化と対応(欧米の先行事例)

【第130-0-1】エネルギー企業を取り巻く構造変化と対応(欧米の先行事例)(ppt/pptx形式:79KB)

出典:
資源エネルギー庁作成

【第130-1-1】エネルギー需要の推移

【第130-1-1】エネルギー需要の推移(ppt/pptx形式:108KB)

出典:
BP 「Statistical reiview of world energy 2015」を基に資源エネルギー庁作成

(2)制度の変化

エネルギー企業は、多くの国において、かつては規制のもとで、または国に所有されるかたちでビジネスを行ってきました。こうした中で、電力・ガスの分野においては、欧州を皮切りに自由化の動きが進展しています。自由化の進展に伴い、新規事業者の参入が促進されることとなり、価格やサービスの面で、エネルギー企業の競争環境は一層激化することになります。

あわせて近年では、地球規模での気候変動リスクへの対応として、環境適合への要請が高まっています。世界規模で、温室効果ガスの排出抑制に向けて省エネルギー(以下「省エネ」という。)や再生可能エネルギー(以下「再エネ」という。)に対する規制や支援制度の導入などが進み、エネルギー企業にとっては、エネルギー需要の抑制や既存の電源の競争力の変化などの影響が生じています。

(3)技術の変化

エネルギーに関する技術も大きく革新をしています。近年では、シェールオイルの採掘技術が確立されたことで、2010年以降、非在来型の燃料の生産が伸び、原油価格の低下に大きな影響を与えています。また、電気事業の分野では、蓄電技術や系統制御に係る技術等の革新によって、再エネなどの分散型電源の本格導入が進んでいます。こうした技術の革新は、エネルギー企業にとって、事業環境を大きく変えるものであると同時に、自社の選択肢を拡大するものでもあります。

2.エネルギー企業の行動の変化

こうした事業環境の変化の中で、エネルギー企業が、なお単に既存の事業に留まり続けようとすれば、多くの場合、売上・収益の低下などを招くこととなります。このため、事業環境の変化に合わせて企業の行動を変えていくことが求められ、例えば欧米企業の先行事例を見れば、以下の3点のような行動を見ることができます。

①国外展開等の事業地域の拡大

②上流・下流・近接事業領域(電力・ガスの相互参入等)などの異分野への進出

③新しい付加価値のあるサービスを創出するための、新技術・新ビジネスモデルの発掘・取り込み

以下、本章では、欧米企業における先行事例について、どのような事業環境の変化に企業がどう対応したのかについて、紹介していきます。