第8節 国際的な共通課題の解決への貢献

既設炉の最大限の活用、次世代革新炉の社会実装に向けた研究開発の促進、原子力事業の予見性の向上、世界市場におけるロシア・中国の台頭等を念頭に置いた強靱なサプライチェーンの構築等、原子力を利用する主要国が共通して直面している現下の課題を踏まえ、率先して国際社会に貢献するとともに、同志国間での国際連携を深化させることで、これらの課題の解決に向けた取組を協働して進めています。また、ロシアによるウクライナ侵略によって深刻な危機に晒されているウクライナの原子力施設の安全確保等に向けた支援をはじめ、同志国及び国際機関との連携を通じて、世界の原子力安全・核セキュリティの確保にも取り組んでいます。

さらに、IAEAやOECD/NEAを通じて、原子力発電の導入促進、知識や知見の共有等の国際的な協力にも貢献しています。

<具体的な主要施策>

1.国際原子力機関(IAEA)との協力

(1)原子力発電の利用と放射性廃棄物の管理に関する理解促進への取組

2024年度は、IAEAへの拠出を通じて、IAEA加盟国の政府や電力会社等の原子力広報担当者を対象としたワークショップの教材を開発しました。また、原子力広報ポータルサイトの構築・普及、出版物の作成等を通じて、原子力発電の役割や安全性、放射性廃棄物の管理の重要性に関する正確な情報の提供や、透明性の高い情報公開を行い、原子力発電と放射性廃棄物に対する国民の理解を増進する活動に協力、貢献しました。

(2)原子力発電導入のための基盤整備支援への取組

2024年度は、IAEAへの拠出を通じて、原子力発電の導入を検討している国に対し、IAEA及び国際的な専門家グループによるワークショップやセミナー等を通じた制度整備支援や、制度整備状況に関するレビューミッション派遣等を行うことで、核不拡散・原子力安全等に協力、貢献しました。

(3)原子力関連知識の継承への取組

2024年度は、IAEAへの拠出を通じて、原子力エネルギーマネジメント(NEM)スクールの実施、各IAEA加盟国が抱える原子力関連の課題の解決に向けた関係者による国内ネットワークの構築、Eラーニング教材の開発等、日本及びIAEA加盟国が有する原子力に関する知識・技術を適切に継承するための活動に協力、貢献しました。

(4)東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に係る知見・教訓の国際社会への共有

2024年8月、廃炉関係者と地域住民の対話を目的に、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が「第8回福島第一廃炉国際フォーラム」を開催しました。岩田経済産業副大臣より挨拶を行い、ALPS処理水の放出が安全に行われていることや燃料デブリ取り出しに向けた取組を紹介するとともに、福島県内の自治体・地域による復興に向けた努力に対する敬意を表しました。「福島第一廃炉と地域の未来を考える」をテーマとしたパネルディスカッションでは、IAEA、OECD/NEAといった原子力に関連する国際機関や英国、米国の専門家が参加し、日本の廃炉関係者から国内外に対して東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組や住民の声の紹介、現在までに得られた知見等の共有が行われました。加えて、国際機関等からも、海外の廃炉の事例や円滑に廃炉を進める上での知見の共有が行われました。また、廃炉関係者と地域住民の方々との間で、廃炉に向けた取組や廃炉後の地域づくりなどについて、活発な対話が行われました。

IAEAに対しては、廃炉に向けた取組を含め、定期的に東京電力福島第一原子力発電所に関する包括的な情報提供を行うとともに、2024年9月のIAEA総会においては、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉及び福島の復興に係るイベントを開催することで、国際社会に対する情報発信を行いました。

(5)核不拡散・核セキュリティへの取組

IAEAが行う核拡散抵抗性、保障措置、核セキュリティに関する検討、安全性の調査・評価の事業等に対して拠出を行い、2024年度はワークショップ等を開催しました。また、JAEAの核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(現:原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター)において、アジア地域等からの300人近い参加者に対し、核不拡散・核セキュリティに関するトレーニングをIAEA等と連携して実施するとともに、2023年度に拡充した核物質防護設備に係る実習施設を活用した新たなトレーニングコースの提供を開始しました。また、国際的な教育・訓練プラットフォームとの連携を一層強化するため、IAEA国際核セキュリティ教育ネットワーク(INSEN)へ加盟しました。

(6)ウクライナにおける原子力安全・核セキュリティ確保のための取組

IAEAへの拠出を通じて、ロシアによるウクライナ侵略によって深刻な危機に晒されているウクライナ国内の原子力施設の安全及びセキュリティ確保のための取組を支援しています。また、2024年6月に開催されたウクライナの平和に関するサミットでは、同サミットのテーマの1つである原子力安全の分野で、共同議長として議論に貢献しました。

2.経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)との協力

OECD/NEAへの拠出を通じて、原子力発電、核燃料サイクル、放射性廃棄物管理等に関する技術基盤や産業基盤の調査検討活動等に協力、貢献しました。2024年9月は、2023年度に続き、各国政府・産業界・関連機関が一堂に会し、「新しい原子力のロードマップ」会合が開催され、原子力の新設に向けたサプライチェーン(核燃料を含む。)、人材育成、ファイナンス支援等の論点について、闊達な議論が行われました。会合後に政府間コミュニケが発出され、原子力発電の利用拡大に向けた同志国による協力の促進を確認しました。

3.国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC)との協力

原子力安全・核セキュリティ・核不拡散の最も高い水準を確保しながら、効率的に原子力の平和利用を促進することを目的とする「国際原子力エネルギー協力フレームワーク」(IFNEC:International Framework for Nuclear Energy Cooperation)の枠組みにおいて、2024年度はフランスのパリで対面での会合が開催され、参加国・国際機関より原子力エネルギーに関する情報の共有、国際機関によるジェンダーバランスに関する取組の紹介等が行われました。

4.アジア原子力協力フォーラム(FNCA)との協力

社会・経済の発展を目的として、近隣アジア諸国12か国間で原子力技術の平和で安全な利用を進めています。枠組み設立から25周年目の2024年には各種記念行事(IAEA総会での展示、SMRを含む次世代炉セミナー、記念シンポジウム等)を挙行したほか、大臣級会合では13か国目となるシンガポールの加盟が承認されました。

5.Nuclear Innovation:Clean Energy Future(NICE Future)イニシアチブとの協力

「NICE Futureイニシアチブ」は、クリーンエネルギーの普及における原子力の役割について、広くエネルギー関係者との対話を行うことを目的に、2018年5月の第9回クリーンエネルギー大臣会合(CEM)において設立された枠組みです。

2024年度は、第15回クリーンエネルギー大臣会合(CEM15)においてサイドイベントが行われ、エネルギー移行に向けた原子力プロジェクトのファイナンスに関する議論に参加しました。

6.原子力発電導入国等との協力

原子力発電を新たに導入・拡大しようとする国に対して、日本の原子力事故から得られた教訓等を共有する取組を行っています。2024年度は、現地セミナーの開催や当該国の要人・専門家の日本への招聘等、原子力発電の導入に必要な制度整備や人材育成等を中心とした基盤整備への支援を行いました。

(1)原子力発電の制度整備のための国際協力事業費補助金

【2024年度当初:2.0億円】

東京電力福島第一原子力発電所事故の経験から得られた教訓を共有し、世界の原子力安全の向上や原子力の平和的利用に貢献すべく、原子力発電を導入しようとする国々において、導入のための基盤整備が安全最優先で適切に実施されるよう、原子力専門家の派遣等を行い、法制度整備や人材育成等のサポートを実施しました。

(2)小型モジュール炉(SMR)技術の責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST)事業への協力

米国国務省が主導する、原子力導入検討国へのSMR導入に向けたキャパシティ・ビルディングを目的とする「SMR技術の責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST:Foundational Infrastructure for the Responsible Use of Small Modular Reactor Technology)」事業に参画し、日本の原子力発電所関連施設の見学や各国で開催されるワークショップへの日本の専門家の派遣等を行いました。

7.「原子力3倍宣言」に関する協力

2023年12月2日に開催されたCOP28のサイドイベントにおいて、米国・英国・フランス・UAE及び日本等の原子力利用国を含む国々が、「各国の国内事情の相違を認識しつつ、2050年までに2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にする」宣言を発表しました。その後、2024年11月13日に開催されたCOP29のサイドイベントにおいて、「原子力3倍宣言」に新たに6か国が署名し、署名国は2025年3月末時点で合計31か国となっています。日本としても、原子力利用を検討する第三国への次世代革新炉の導入支援や、同志国と連携したサプライチェーン強靱化等の取組を通じて、世界全体での原子力発電容量の増加目標の達成に貢献していきます。