第2節 「国内危機」(災害・エネルギー価格高騰等)への対応強化

1.供給サイドの強靱化

(1)石油・LPガスの供給網の強靱化

石油・LPガスについては、相次ぐ大規模災害の経験を教訓として、大規模災害の発生時においても石油・LPガスの供給を早期に回復させることを目的に、ハード・ソフトの両面で対策に取り組んでいます。

ハード面の対策としては、東日本大震災以降、製油所やSSといった石油供給拠点の災害対応能力強化に対する支援や、国家石油製品備蓄の増強を行っています。具体的には、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震等の大規模災害時にも、石油供給能力を維持するため、製油所等における耐震化・液状化対策や大雨・高潮等対策、製油所や油槽所、SS等における非常用発電機等の導入、SSにおける地下タンクの入換・大型化等への支援等を行いました。また、2024年1月に発生した令和6年能登半島地震によって被害を受けたSS、油槽所、LPガス供給施設については、補修・入替工事等の復旧支援を行うことを決定しました。

ソフト面の対策として、資源エネルギー庁では、石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」の円滑な実行に向けた訓練を実施しています。2023年度は、内閣府、地方自治体、石油業界等と連携して、机上訓練や燃料供給の実動訓練を実施しました。また、防衛省・自衛隊との間では、民間のタンクローリー等による燃料輸送が困難な状況や、自衛隊の活動用燃料の確保が困難な状況を想定した緊急時燃料供給に係る訓練を実施しました。例えば、2023年5月には陸上自衛隊中部方面隊・四国経済産業局・高知県等が連携した訓練を、同年9月には陸上自衛隊東部方面隊・関東経済産業局・相模原市等が連携した訓練を、2024年2月には陸上自衛隊北部方面隊・北海道経済産業局・北海道等が連携した訓練を実施しました。

加えて、石油精製・元売会社が、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震等の大規模災害を想定して、製油所からタンクローリーの運送会社、系列SSに至るまでの系列供給網全体を包含する「系列BCP」を策定し、外部有識者による定期的な格付け審査等の取組を通じて、石油精製・元売各社の災害対応能力の強化を推進しています。2023年度は、石油精製・元売各社における系列BCPの内容や訓練の取組状況について、業界内での横展開及び共有を行い、不断の見直しを促しました。

SSについては、SSの災害対応能力を強化するため、東日本大震災以降に整備した災害時に緊急車両等に優先給油を行う「中核SS」等において、災害時における店頭混乱回避のためのオペレーション訓練や研修会を開催するとともに、自治体主催の防災訓練において自衛隊と連携しつつ、緊急車両等への優先給油や小型タンクローリーによる重要施設への燃料配送の訓練を行いました。

LPガスについては、「災害時石油ガス供給連携計画」に基づき、連携計画の実効性を担保すべく、実際の災害を想定した訓練を実施するとともに、中核充塡所の新設や機能拡充に対する支援を行いました。また、訓練内容については、特定石油ガス輸入業者等を中心とした各地域の「中核充塡所委員会」で議論し、課題の整理及び解決策の検討を行いました。さらに、各地域の中核充塡所委員会の代表等により組織する「中核充塡所連絡会」において、全国横断的な課題の解決及び情報共有を図りました。

(2)東西の周波数変換設備や地域間連系線の強化

2011年3月に発生した東日本大震災では、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備(FC)や地域間連系線の容量に制約があり、広域的な電力融通を十分にできませんでした。このため、不足する電力供給を十分に手当てすることができず、国民生活に大きな影響を与えました。

これを踏まえ、総合資源エネルギー調査会総合部会電力システム改革専門委員会が2013年2月にとりまとめた報告書では、周波数変換設備や地域間連系線の増強の必要性が提言されました。周波数変換設備については、120万kWから210万kWまでの増強工事を行い、2021年3月に運用を開始しました。また、さらに300万kWまで増強するため、広域機関において、増強に関する計画(広域系統整備計画)が2016年6月に策定されました。2027年度の使用開始に向け、工事が着工しています。他の地域間連系線の増強についても、取組が進められています。東北東京間連系線については、2027年度の使用開始に向けて、455万kWの増強を行う工事が行われており、北海道本州間連系設備についても、2027年度の使用開始に向けて、90万kWから120万kWまでの増強を行う工事が行われています。

さらに、広域機関では、再エネの大量導入とレジリエンス強化に向けて、全国大の送電ネットワークの将来的な絵姿を示すマスタープランを2023年3月29日に策定・公表しました。今後、このマスタープランを踏まえて、全国大での系統整備を計画的に進めていきます。

(3)電気・ガス設備の自然災害等への対策等の検討

2019年9月に関東地方に上陸した台風15号では、東京電力管内において、鉄塔2基の倒壊事故や1,996本の電柱が倒壊・損傷する事故が生じ、千葉県を中心に最大で約93万戸の大規模停電が発生しました。これを受け、電力の安定供給の確保の観点から、台風等の自然災害による送配電インフラの事故原因を究明し、より一層強靱な送配電設備を構築していくため、有識者会議での議論を経て、2020年3月に対策の方向性をとりまとめました。これを踏まえ、2020年度には、今回の鉄塔倒壊事故の要因となった突風が発生する特殊箇所に係る技術基準の改正及び必要な補修工事等を実施しました。さらに、地域の実情に応じた風速を考慮した技術基準への見直しを行うとともに、見直しにあわせた鉄塔の総点検を各電力会社に要請し、各電力会社では必要な補強工事を完了しています。また、電柱についても、鉄塔の基準強化にあわせて、技術基準を見直しました。

また、2022年12月22日から24日にかけて続いた降雪により、北海道紋別地方において、鉄塔1基が倒壊する事故が発生しました。この鉄塔倒壊事故は、異常着雪に加え、鉄塔両側の電線に標高差があり、着雪量が著しく不均等となっていたことが原因でした。これを受け、これまでは「降雪の多い地域」で着雪対策を求めていましたが、専門組織による分析結果を踏まえ、「着雪厚さの大きい地域」において着雪対策を実施することを、技術基準の解釈において明確化しました。また、異常着雪時想定荷重に耐える強度を求める対象として、今回の鉄塔と同様の地理的条件を満たす鉄塔を追加しました。さらに、今回の鉄塔倒壊事故と同様の気象・地理的条件にある鉄塔について、必要に応じた対策や改修等が実施するよう、各電力会社に要請を行いました。

ガスについては、これまでも被災地域内外の事業者間連携により、迅速な導管網の復旧に取り組んできましたが、今後は南海トラフ巨大地震や首都直下型地震といったさらなる大規模地震のリスクも懸念されることから、ガス事業法において、一般ガス導管事業者に対して「災害時連携計画」を作成する義務を課し、災害時における具体的な連携内容についての規定や、経済産業大臣による計画変更勧告・計画実施勧告の規定を設ける等の法整備を2022年に行いました。また、日本ガス協会が、大規模地震を想定した被害状況報告訓練を地方部会ごとに実施しました。

(4)令和6年能登半島地震への対応

(再掲 第1部第2章第2節 参照)

〈具体的な主要施策〉

①次世代燃料安定供給のためのトランジション促進事業

(再掲 第5章第2節 参照)

②石油製品形態での国家備蓄の確保

東日本大震災の発生直後、被災地を中心に円滑な石油供給に支障をきたした反省から、石油製品の形態(ガソリン・灯油・軽油・A重油)での国家備蓄の増強に取り組みました。2014年度から2016年度にかけては、石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」を策定する単位である全国10ブロックごとに、各ブロック内の石油製品需要の4日分の備蓄が蔵置されるよう、貯蔵設備の増強を行いました。

③災害時に備えた地域におけるエネルギー供給拠点の整備事業費

(再掲 第5章第2節 参照)

④離島・SS過疎地等における石油製品の流通合理化支援事業費(うち過疎地等における石油製品の流通体制整備事業)

(再掲 第5章第2節 参照)

⑤高圧ガス設備の耐震対策の促進

今後想定される大規模地震に対する高圧ガス設備の耐震性向上のため、高圧ガス設備の耐震設計手法のさらなる高度化(高圧ガス設備の液状化対策の参考となる指針のとりまとめに向けた検討、高圧ガス設備のレベル2耐震性能評価法の見直しに関する検討等)に向けた調査研究を行いました。

⑥石油・ガス等供給に係る保安対策調査等委託費【2023年度当初:4.5億円】

石油・ガスの安定供給、資源の合理的開発、石油・ガスの精製・供給・消費等に係る保安の確保を図るため、石油精製プラントや都市ガス・LPガス等の事故情報の調査や、業務用ガス燃焼機器の安全性向上対策に係る調査、石油・天然ガス開発先進国である米国や欧州等における保安規制の実態調査等を実施しました。

⑦休廃止鉱山鉱害防止等工事費補助事業【2023年度当初:21.0億円、2023年度補正:11.0億円】

採掘活動終了後の金属鉱山等について、地方公共団体等が事業主体となって行う鉱害防止事業に要する費用の一部を補助し、人の健康被害、農作物被害、漁業被害等の深刻な問題(鉱害)の防止を図りました。

⑧都市ガス分野の災害対応・レジリエンス強化に係る支援事業【2023年度当初:2.0億円】

一般ガス導管事業者の災害時連携計画の効果を高めることを通じて、都市ガス分野における災害対応・レジリエンスを強化するため、災害時における復旧作業等の迅速化に資する機器や設備の導入を行う中小規模の一般ガス導管事業者に対して、その費用の一部の補助を行いました。

2.需要サイドへの支援

災害時には、道路等の交通網や都市ガス導管、送電網の寸断により、安定的なエネルギー供給が困難となる事態が発生することが予想されます。このため、災害時に電力やガスの供給が途絶えた場合にも機能の維持が求められる社会的重要インフラ(避難所や医療・福祉施設等)においては、自家発電設備等を稼働させるための燃料を自衛的に備蓄しておくことが重要です。そのため、避難所等の社会的重要インフラに対し、LPガスタンクや石油タンク等の導入を支援しました。

また、世界情勢を背景としたエネルギー価格の上昇による家庭や企業等の負担を軽減するため、政府は、燃料油価格、電気料金・都市ガス料金への支援を実施しました。

〈具体的な主要施策〉

(1)災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金【2023年度当初:42.8億円、2023年度補正:20.0億円】

災害や停電等により、電力・都市ガスの供給が途絶した場合であっても、エネルギーの安定供給を確保するため、避難所等の社会的重要インフラにおける燃料備蓄を推進するため、LPガスタンクや石油タンク等の導入を支援しました。

(2)燃料油価格激変緩和対策事業【2022年度予備費:2,774億円、2022年度第1次補正:11,655億円、2022年度予備費:12,959億円、2022年度第2次補正:30,272億円、2023年度補正:1,532億円】

原油価格高騰への対策として、農業・漁業・運輸業等の業種別の対策等に加え、時限的・緊急避難的な燃料油価格激変緩和対策事業を行いました。この事業は、新型コロナ禍からの経済回復や一部の産油国における生産停滞等により、世界的に石油の需給がタイトになったこと等を背景としたガソリン価格の上昇を受け、2022年1月より原資の支給を開始しています。具体的には、ガソリン価格の全国平均が基準価格以上の場合、円建ての原油価格の変動による卸価格上昇分について補助を行うことで、燃料油(ガソリン・軽油・灯油・重油等)の価格を抑制するというものであり、これまで最大で1リットル当たり41.4円の支給を行っています。

2023年1月以降は、段階的に補助の枠組みを縮減しながら措置を講じていましたが、同年夏頃から産油国における自主減産が本格化し、為替の動向も相まって、レギュラーガソリンの全国平均価格が過去最高額を記録した状況を踏まえて、同年9月からは補助額や補助率を見直した新たな激変緩和措置を講じました。さらに、同年11月2日に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」では、「緊迫化する国際情勢及び原油価格の動向など経済やエネルギーをめぐる情勢等を見極め、柔軟かつ機動的に運用しつつ、措置を2024年4月末まで講ずる」こととされました。その後、中東情勢の緊迫化等を背景とした今後の価格高騰リスクや様々な経済情勢を見極めるため、2024年4月末までとしていた激変緩和措置を、一定期間延長することとしました。

(3)電気・ガス価格激変緩和対策事業【2022年度第2次補正:31,074億円、2023年度補正:6,416億円】

2022年のロシアによるウクライナ侵略等に伴い、LNGや石炭の価格が高騰し、その影響を受ける形で電気・ガス料金も上昇する中で、家計や企業の負担を軽減するための緊急対応として、小売事業者等を通じて電気・都市ガスの使用量に応じた料金の値引きを2023年1月から2024年5月まで実施しました。

(4)小売価格低減に資する石油ガス配送合理化補助金【2022年度補正:137.7億円】

石油ガスの小売価格低減に資するため、液化石油ガス販売事業者の人手不足の解消や配送業務の効率化を図る観点から、遠隔でのガス栓の開閉や遠隔検針が可能なスマートメーター、配送車両、充塡所の自動化等に資する設備等の導入支援を行い、液化石油ガス販売事業者の経営体質の強化を図りました。

(5)小売価格低減に資する石油ガス設備導入促進補助金【2022年度補正:15.7億円】

石油ガスの小売価格低減に資するため、需要家側の石油ガスタンクの大型化等による購入コストの低減や燃料備蓄を推進する観点から、石油ガスタンク等の導入支援を行い、液化石油ガス販売事業者のコスト低減を図りました。