第1節 エネルギー国際協力体制の拡大・深化

世界のエネルギー情勢が大きく変化する中、各国のエネルギー需給構造をより安定化・効率化するためには、一国での取組だけでなく、多国間及び二国間のエネルギー協力を戦略的に組み合わせつつ、国際的な協力を拡大することが重要となってきています。

そのため、2022年度においては、多国間の国際エネルギー枠組みを活用し、エネルギーの安定供給確保に向けた取組を進めるとともに、二国間の協力を通じて、アジア各国、先進諸国との協力やエネルギー供給国との関係強化を行いました。

〈具体的な主要施策〉

1.多国間枠組みを通じた協力

(1)主要消費国等における多国間協力

①国際エネルギー機関(IEA)における協力

IEAは、1974年11月、第一次石油危機を契機として、米国の提唱により石油消費国間の協力組織として設立されました。当初は、国際エネルギー計画(IEP)に関する協定に基づく石油の90日備蓄義務及び緊急時対応を始めとする、エネルギー問題解決のための国際協力が主な活動内容でしたが、現在では、①低炭素技術の開発促進、省エネ・低炭素技術の開発・普及のための政策提言、低炭素技術R&Dのための技術協力、②国際石油市場・世界エネルギー需給・エネルギー技術等の見通しの策定・公表、③中国やインドを含む新興国や産油国等との協力関係の構築、④国別エネルギー政策の審査・勧告の実施等、幅広い活動を展開しています。現在のメンバー国は、豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、韓国、リトアニア、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国の計31か国及びEUです。概ね隔年で閣僚理事会を開催しており、次回は2024年を予定しています。

IEA設立時は、世界の石油需要の約7割を西側先進国が占めていたため、IEAのメンバー国も西側先進国が中心でしたが、近年は非参加の新興国が経済成長を遂げていることから、IEAはグローバルなエネルギー課題に取り組むためには、エネルギー需要が増加している中国等の新興国をIEAの体制に取り込んでいくことが重要と考え、2015年の閣僚理事会以降、メンバー国とは別に、「IEAアソシエーション国」という制度的枠組みを設けました。現在、アルゼンチン、ブラジル、中国、エジプト、インド、インドネシア、モロッコ、シンガポール、南アフリカ、タイ、ウクライナの11か国がアソシエーション国となっています。さらに、2021年1月、アソシエーション国であるインドとIEAの間で、協力強化のための新たな地位である「戦略的パートナーシップ」構築に向けた枠組み文書に署名しました。

2020年7月には、加盟国及びアソシエーション国に加え、その他の国家や民間企業も交えて、クリーンエネルギー移行サミットが初めて開催され、日本からは梶山経済産業大臣が出席しました。同会合では、世界的な新型コロナ禍からの持続可能な経済回復に向け、クリーンエネルギー移行の重要性について、参加した各国閣僚等との協力を確認し、議長声明が発表されました。同年11月には、鷲尾外務副大臣が、アフリカ連合委員会及びIEAが共催する閣僚フォーラムに出席し、アフリカにおけるエネルギー・アクセスの改善及びアフリカへの投資の継続の重要性を強調するとともに、同地域におけるエネルギーへのユニバーサル・アクセス実現に向けた日本の取組について紹介しました。2021年3月には、IEAと英国の共催にて、IEA-COP26 ネットゼロサミットが開催され、日本からは梶山経済産業大臣が出席しました。同会合では、各国が掲げるカーボンニュートラル目標の達成に向けて、クリーンエネルギーへの移行に関する具体策について、参加した各国閣僚等と議論を行い、成果文書として、「IEA/COP26 ネットゼロ達成に向けた7原則」が発表されました。

また、IEAは、メンバー国のエネルギー政策及び緊急時対応政策を審査するため、IEAメンバー国等によるレビューチームによるピアレビュー(IDR:国別詳細審査、ERR:緊急時対応審査)を約5年に1度実施しています。日本に対する詳細国別審査が2020年2月に実施され、その報告書が2021年3月に公表されました。報告書では、東日本大震災以降の日本のエネルギー政策の進捗や、日本の2050年カーボンニュートラル宣言が評価されるとともに、その実現に向けた幅広い低炭素技術を活用したエネルギー・シナリオの検討、再エネ導入拡大とエネルギー安全保障確保に向けた電力系統への投資促進、電力及びガス市場改革の推進等が提言されました。

2022年3月と4月には、世界の石油供給と石油市場の状況を踏まえた備蓄協調放出の可能性について議論するため、臨時閣僚会合が開催されました。日本からは萩生田経済産業大臣が参加し、エネルギー市場の安定化に向けて、IEA加盟国として石油備蓄の協調放出が合意されました。また、2022年9月には、西村経済産業大臣がIEAビロル事務局長と面談し、エネルギー市場の安定化やさらなる協力の深化について議論を行いました。

2023年2月、懸念される来冬の天然ガス不足への対応について、特に欧州の需給バランス改善に向けた取組について議論するため、IEA臨時閣僚会合が開催されました。西村経済産業大臣より、IEAの分析と欧州各国の取組への歓迎や、省エネ促進に全力で取り組むこと等を含めた欧州への連帯を示し、会合では閣僚声明が採択されました。

(ア)国際エネルギー機関分担金【2022年度当初:3.5億円】

同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。

(イ)国際エネルギー機関拠出金【2022年度当初:5.3億円、2022年度補正:2.2億円】

「世界エネルギー展望(WEO)」を始めとするエネルギー市場の分析、エネルギー技術ロードマップの策定等を支援すると同時に、2023年に日本で開催されるG7にて打ち出すべく、水素・アンモニア、鉄鋼等の新たなルール検討の基盤整備、ヒートポンプ・バイオ燃料、重要鉱物、再エネの季節・年次変動を受けた電力安定供給等に係る各種調査・分析の実施を依頼するため、IEAメンバー国として拠出を行いました。

また、経済安全保障の強化に資する重要鉱物資源のサプライチェーン構築を目的として、IEAメンバー国として拠出しました。

②G7における協力

G7エネルギー大臣会合は、先進主要7か国(日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国、イタリア。2013年まではロシアを含めてG8)と欧州連合(EU)のエネルギー担当大臣による閣僚会合として、1998年から不定期に、サミット議長国が開催しています。

2022年5月26日、27日に、ドイツが主催するG7気候・エネルギー・環境大臣会合がドイツ・ベルリンにて開催され、細田経済産業副大臣及び大岡環境副大臣が出席しました。気候・エネルギー分野においては、地政学的情勢を踏まえたエネルギー安全保障の確保に加え、カーボンニュートラルの実現に向け、気候変動対策の強化や、エネルギー・トランジションの重要性、産業のグリーントランスフォーメーション等について議論が行われ、気候・エネルギー・環境大臣会合として、閣僚声明が採択されました。

2022年6月26日から28日には、ドイツ・エルマウにてG7サミットが開催され、岸田総理が出席しました。成果文書として首脳コミュニケが採択され、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた具体的かつ適時の取組の重点的な実施、各国が明確に規定する地球温暖化に関する1.5℃目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況を除き、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了、2035年までの電力部門の完全又は大宗の脱炭素化、水素・LNG・原子力等の重要性について盛り込まれました。

③G20における協力

2022年9月2日に、インドネシアが主催するG20エネルギー移行大臣会合がインドネシア・バリにて開催され、西村経済産業大臣及び高木外務大臣政務官が出席しました。同会合では、エネルギー・アクセスの確保、スマートかつクリーンな技術の拡大、エネルギーファイナンスの展開等を中心に議論が行われ、議長総括及び付属文書が採択されました。

2022年11月15日、16日には、インドネシア・バリにてG20サミットが開催され、岸田総理が出席しました。成果文書として首脳宣言が採択され、低排出な電力システムに向けた移行を可能にするための技術の展開及び普及、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減に向けた努力の加速、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金の中期的かつ段階的な廃止・合理化等の重要性について盛り込まれました。

(2)アジア太平洋地域における多国間協力

①ASEAN等・東アジア地域における協力

アジア地域におけるエネルギー需要の急増を踏まえ、アジア規模でのエネルギーの安全保障と持続可能性を確保するため、2004年からは、ASEAN+3エネルギー大臣会合(ASEANと日本、中国、韓国の13か国の代表が出席)が開催され、2007年からは、東アジアサミット(EAS)エネルギー大臣会合(上記13か国に豪州、インド、ニュージーランド、米国、ロシアを加えた18か国の代表が出席)が開催されています。

2022年9月、第19回ASEAN+3エネルギー大臣会合及び第16回EASエネルギー大臣会合がオンライン形式で開催され、里見経済産業大臣政務官が出席しました。

同会合では、経済成長を達成するためにエネルギーの安定的かつ継続的な供給を確保するには、各国が様々な選択肢を検討し、あらゆる技術や燃料を活用する必要性があるとの認識で一致し、低炭素経済を達成するための道筋は1つではなく、各国にとって多様な道筋があることを議論しました。また、活動報告として、ASEANエネルギーセンター(ACE)から「第7次ASEANエネルギーアウトルック」の紹介がなされました。また、東アジア・ASEAN経済研究センター(以下「ERIA」という。)によるカーボンニュートラルに向けたロードマップの策定支援や、トランジション・ファイナンスを支えるトランジション技術リストの策定に加え、日本とERIAが主導する、地域のCCUS活用に向けた環境整備や知見を共有するプラットフォーム「アジアCCUSネットワーク」での活動について、各国から祝意が示されました。

(ア)カーボンニュートラル実現シナリオ構築等に向けた国際連携事業【2022年度当初:3.1億円】

アジア各国を始めとする新興国に対する脱炭素化支援を強化するために、国際会議の開催や、各国との協力可能性のある分野についての調査を行うとともに、各国の脱炭素化に向けた取組を促進するためのロードマップの精緻化に対する支援、アジアCCUSネットワークの運営費の拠出を行いました。

(イ)東アジア経済統合研究協力拠出金【2022年度当初:6.3億円】

EAS中期エネルギー政策調査研究ロードマップに基づき、東南アジア地域における電気自動車の導入等の最新の動向調査を始め、エネルギーレジリエンスの海外展開に向けた定量評価指標の整備、また、世界で開発が進む小型モジュール炉(SMR)等の革新炉について、技術的観点、経済的観点、規制のあり方を検討するための調査研究等を実施するために、ERIAに拠出を行いました。

②アジア・ゼロエミッション共同体構想の実現に向けた協力

2022年1月に岸田総理は、アジア各国が、脱炭素化を進めるとの理念を共有し、エネルギー・トランジションを進めるために協力することを目的として、「アジア・ゼロエミッション共同体」(以下「AZEC」という。)構想を発表しました。

その後、日本政府は、このAZEC構想の実現を目指すべく、関係国の首脳や閣僚等と様々な機会を通じて議論を重ね、2023年3月4日に東京にて、エネルギー・トランジションを所掌するパートナー国閣僚による会合を、「AZEC閣僚会合」として実施しました。あわせて、同年3月3日には、AZEC構想における具体的な協力を創出・加速させるべく、「AZEC官民投資フォーラム」を実施しました。

AZEC閣僚会合では、議長である西村経済産業大臣がアジアの脱炭素の重要性、AZEC構想及び日本の具体的な取組に関して発言し、西村環境大臣及び各国・国際機関の参加者から、脱炭素に向けた考え方やAZECへの期待等について、発言がありました。また、AZEC構想を提唱した岸田総理からはビデオメッセージが寄せられました。そして、①「脱炭素」と「エネルギー安全保障」との両立を図ること、②「経済成長」を実現しながら、「脱炭素」を進めること、③カーボンニュートラルに向けた道筋は、各国の実情に応じた「多様かつ現実的」なものであるべきこと、という3つの共通認識を含む共同声明が合意され、「アジア・ゼロエミッション共同体」を枠組みとして立ち上げました。閣僚会合後には、今後の協力の議論と行動を進めていく上で考慮する観点について、議長総括を発表しました。

AZEC官民投資フォーラムにおいては、アジアの閣僚や国営企業からは脱炭素に向けたそれぞれの取組や日本との連携への期待について、日本企業9社からは脱炭素化に向けた技術や各社の取組について、日本の政府系機関等からは関連する支援等について紹介がありました。加えて、本フォーラムにあわせて、再エネ、バイオマス、水素、アンモニア、LNG等、多岐にわたる脱炭素分野で計28件ものMOUが新たに発表されました。

③アジア太平洋経済協力(APEC)における協力

1989年11月に豪州のキャンベラで開催された第1回APEC閣僚会議において、エネルギー問題に対する域内協力の重要性と、これを専門に議論する場を設定することで一致しました。これを受けて、1990年にエネルギー作業部会(EWG)が設立され、さらに1996年には、よりハイレベルなエネルギー政策対話を行うため、豪州のシドニーにおいて第1回APECエネルギー大臣会合が開催され、2015年までに計12回開催されています。

これまでのAPECエネルギー大臣会合において日本が提案し、合意された事項に基づき、①APECメンバーのエネルギー効率向上に向けた取組状況をレビューする「エネルギー効率ピアレビュー」、②急速な都市化に直面するAPEC地域において、都市レベルで低炭素技術を統合的に導入することを目指す「APEC低炭素モデルタウンプロジェクト」、③石油及びガスの供給途絶時における対応能力の強化を図るための「APEC石油・ガス・セキュリティエクササイズ」の実施・調整を進めるとともに、エネルギーシステムの強靱化に資する取組を自主的に促すための原則である「APECエネルギーレジリエンスプリンシプル」を、日本が主導して2020年8月に策定しました。

また、2022年11月には、タイ・バンコクにおいてAPEC閣僚会議及び首脳会議が開催されました。APEC閣僚会議には、日本からは、西村経済産業大臣、林外務大臣が出席しました。西村大臣から、エネルギー価格高騰への懸念を表明し、エネルギーの安定供給を確保しつつ、APEC地域における現実的なエネルギー・トランジションを通じたカーボンニュートラル実現の必要性を発信しました。2022年APEC閣僚共同声明においては、関連する取組への投資を促進することを含め、地域におけるエネルギーレジリエンス、エネルギー・アクセス及びエネルギー安全保障を確保しつつ、温室効果ガスの排出を削減する持続可能なエネルギー・トランジションを支援するために、引き続き協力することが明記されました。

APEC首脳会議には、日本からは岸田総理が出席しました。APEC首脳宣言においては、関連する活動への投資を促進することを含め、地域におけるエネルギーの回復力、エネルギー・アクセス、エネルギー安全保障を確保するため、より集中的な取組が必要であることを認識することが明記されました。また、あわせて承認された、「バイオ・循環型・グリーン経済に関するバンコク目標」では、各APEC参加国・地域の異なる状況を反映した様々な道筋で、クリーンで低炭素なエネルギーへの移行を進め、エネルギーレジリエンスを強化し、エネルギー安全保障を促進し、負担可能で信頼性があるエネルギー・アクセスを確保すること、安定したエネルギー市場とクリーンなエネルギーへの移行の重要性を認識すること、再エネやその他のクリーンで低排出なエネルギー技術を導入するための地域の能力をさらに強化する目標について議論していること等が明記されました。

(ア)アジア太平洋経済協力拠出金【2022年度当初:1.0億円】

アジア太平洋地域における低炭素技術の普及に向けたプロジェクト(APEC低炭素モデルタウンプロジェクト)や、APEC域内のエネルギー強靱性の向上、エネルギー効率の向上、エネルギー源の多様化に資するプロジェクト等を支援するために、APEC事務局に拠出を行いました。

(イ)アジア太平洋エネルギー研究センター【2022年度当初:6.7億円】

省エネ政策ワークショップの開催、「APECエネルギー需給見通し」の作成、アジア太平洋地域のエネルギー統計整備のための研修生受入・専門家派遣、「LNG産消会議」の開催、石油・石炭・ガスレポートの作成等のために、アジア太平洋エネルギー研究センターに拠出を行いました。

④日米豪印戦略対話(QUAD)における協力

2021年3月の第1回日米豪印首脳テレビ会議で立ち上げられた気候変動作業部会の下に、クリーンエネルギーサブワーキンググループが設置され、2022年5月の日米豪印首脳会合に際して立ち上げられた「日米豪印 気候変動適応・緩和パッケージ(Q-CHAMP)」に基づき、①天然ガス・LNGからのメタン削減、②クリーンエネルギーサプライチェーン、③クリーン水素・燃料アンモニア、④CCUS/カーボンリサイクルという協力分野について、議論を行っています。

①天然ガスセクターにおけるメタンガス削減に向けては、2022年12月に「天然ガスセクターにおけるメタンガス削減に関する円卓会議」を開催し、天然ガスセクターにおけるメタン排出の測定、報告、検証に関する専門知識と経験を共有しました。

②クリーンエネルギーサプライチェーンについては、責任ある強靱なサプライチェーンを支援することで、インド太平洋全域で進行中のクリーンエネルギーへの移行を加速するため、2022年7月に日米豪印エネルギー大臣会合に参加し、気候変動作業部会での進展を基礎として、有志国と連携を強化することの重要性について確認しました。

③水素についても協力を進めており、2022年7月にはインド・ニューデリーにおいて、インド主催で専門家レベルのワークショップを開催しました。日本からは経済産業省の水素分野の担当者が出席し、水素の実装に必要な規制・法律・標準等について議論を交わしました。また、同年12月には、日本主催で水素サプライチェーンの経済性に関するワークショップを京都において開催しました。日米豪印4か国の政策の紹介や、研究者による水素サプライチェーンの経済性分析の発表、そして発表に基づいたパネルディスカッションを行いました。燃料アンモニアに関しては、日本の主催により、同年12月にアンモニアバリューチェーンワークショップをオンラインで開催しました。アンモニアに係る各国の戦略や概況を紹介するとともに、プロジェクトを実施する実務者間で具体的な課題及び展望を共有し、アンモニアバリューチェーンの構築に向けた課題の解決に必要な取組・連携について議論を行いました。

④CCUS/カーボンリサイクルは脱炭素化戦略の重要な一部であり、日本のCCUS戦略を策定するだけではなく、アジアCCUSネットワークの活動を通じて、インド太平洋地域におけるCCUSの展開を支援しています。2022年9月に日本で開催された第2回アジアCCUSネットワークフォーラムでは、法律や規制に関する作業は、各国が協力し、知識や専門性を共有できる重要な分野であると広く合意しました。また、プロジェクトのための資金調達の重要性についても確認しました。

(3)その他の多国間協力(生産国と消費国の対話等)

①国際エネルギー・フォーラム(IEF)における対話

国際エネルギー・フォーラム(以下「IEF」という。)は、世界72か国の石油・ガス等の産出国と消費国のエネルギー担当大臣及びIEA、OPECを始めとする国際機関の代表が一堂に会する重要な「産消対話」の機会を提供する国際機関です。産消対話を行うことにより、産消国双方が相互に理解を深め、健全な世界経済の発展や供給と需要の安定確保のために安定的かつ透明性のあるエネルギー市場を促進することを目的として、1991年に第1回閣僚級会合をフランス・パリで開催し、以降、1〜2年ごとに閣僚級会合が開催されています。2020年9月にサウジアラビアにて開催が予定されていた第17回閣僚級会合は、新型コロナ禍の影響を受けて延期となり、2023年の開催を予定しています。また、2023年2月に、日本・中国・インド等のアジアの主要石油消費国と、UAE・イラン等のアジアの主要産油国による、第9回アジア産油国・消費国閣僚会合が、インドで開催されました。

IEFでは、エネルギー関連の7つの国際機関(APEC、EU、IEA/OECD、IEF、OLADE(中南米エネルギー機関)、OPEC、国際連合)で協力し、石油と天然ガスの統計を整備する国際機関共同データイニシアティブ(以下「JODI」という。)を進めており、2005年にJODI-Oil(石油の統計データベース)、2014年にJODI-Gas(天然ガスの統計データベース)が開始されています。国際機関が協力して情報共有を進め、エネルギー需給の動向についての正確かつタイムリーな情報が市場に提供されることで、市場の透明性が増し、過度な価格の乱高下を抑制できると考えられており、現在、JODIは、世界の石油・ガス需給の9割以上を網羅しています。日本は、資金・人材の両面でJODIの発展に寄与しています。

(ア)国際エネルギー・フォーラム(IEF)分担金【2022年度当初:0.1億円】

同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。

(イ)国際エネルギー・フォーラム(IEF)拠出金【2022年度当初:0.3億円】

IEF閣僚級会合の開催支援を行うとともに、JODI事業への貢献のために、IEF事務局に拠出を行いました。

②国際再生可能エネルギー機関(IRENA)における協力

国際再生可能エネルギー機関(以下「IRENA」という。)は、再エネの普及・持続可能な利用促進を目的として設立された国際機関であり、日本は、2010年7月に正式に加盟しました。事務局はUAEのアブダビに設置されています。IRENAの主な活動は、①メンバー国の政策、制度、技術、成功事例の分析・体系化、②他の政府・非政府機関等との協力、③政策助言、④技術移転、⑤人材育成、⑥資金に関する助言、⑦研究ネットワークの展開、⑧国際的技術基準の作成等です。

2022年8月、第8回アフリカ開発会議(TICAD8)において、経済産業省とIRENAが共催し、アフリカの再エネ導入に関するサイドイベントを実施し、中谷経済産業副大臣及びIRENAのラ・カメラ事務局長が挨拶を行いました。

2022年9月にはラ・カメラ事務局長が来日し、第5回水素閣僚会議に参加して、水素の国際貿易の展望等について説明しました。また、同事務局長と中谷経済産業副大臣との間で会談を行い、エネルギー安全保障の確保とクリーンエネルギー・トランジションの両立に向け、引き続き協力していくことを確認しました。

2023年1月、第13回IRENA総会がアブダビで開催され、日本から髙木外務大臣政務官が出席し、再エネのさらなる普及拡大に向けた日本の方針や取組に関するスピーチを行いました。

(ア)国際再生可能エネルギー機関分担金【2022年度当初:2.3億円(4省合計)】

IRENAを通じ、日本単独では十分な成果が見込めない大規模な調査や普及活動を実施することにより、再エネを国際的に普及させるため、同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき、外務省、農林水産省、経済産業省、環境省の4省共同で分担しました。

(イ)国際再生可能エネルギー機関拠出金【2022年度当初:0.6億円】

経済産業省からは、①再エネと水素利活用に関する調査及びレポートの発行、②世界の地熱利用促進に向けた活動への協力、③東南アジアにおける再エネ導入推進事業等の実施のため、分担金に加え同機関の活動費用の拠出を行いました。

③国際的な省エネルギーの新たな枠組み(省エネハブ)における協力

省エネハブは、国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)の後継機関として、主要な省エネトピックについて、加盟国間や国際社会での情報交換や連携を奨励・促進するため、2019年に設立されました。アルゼンチン、豪州、ブラジル、カナダ、中国、デンマーク、EU、フランス、ドイツ、日本、韓国、ルクセンブルク、ロシア、サウジアラビア、英国、米国の16か国が設立時メンバーとして参加し、事務局はIEAに置かれています。日本を含む加盟国間で、今後の活動方針や具体的な活動プログラムについての議論が行われています。

省エネハブの下で活動を行うタスクグループとして、日本が主導する「EMAK(エネルギー管理行動ネットワーク)」のほか、「DWG(デジタル化ワーキンググループ)」、「SEAD(超高効率機器の普及イニシアティブ)」、「TOP TENs(省エネに関する優秀事例及び最良技術リストの開発・普及プロジェクト)」、「EEB(建築物の省エネ)」があります。2023年2月には、第11回EMAKワークショップがシンガポールで開催され、建築物分野の省エネに関する政策やベストプラクティスについて情報交換や議論が行われました。

④クリーンエネルギー大臣会合(CEM)

クリーンエネルギー大臣会合は、世界の主要28か国及び地域から構成されるクリーンエネルギーの普及促進を目的とした国際会合です。

2022年9月には、米国・ピッツバーグで第13回クリーンエネルギー大臣会合が開催されました。本会合では、エネルギー移行に向けた水素需要の創出、地球規模のエネルギー安全保障のための先進的な原子力発電の導入、CO2輸送・貯蔵等によるカーボンマネジメント、といったテーマ設定の中で、クリーンエネルギーの推進に向けて各国が抱える課題と取組について、活発な議論が行われました。日本からは、CO2除去(CDR)技術の国際的な取組の重要性や、日本が世界をリードしている水素社会構築に向けた取組の必要性等を述べるとともに、カーボンニュートラルの実現に向け、クリーンエネルギーの研究開発から普及展開まであらゆる取組を促進していくことを表明しました。

⑤エネルギー憲章条約(ECT)

エネルギー憲章条約(以下「ECT」という。)は、エネルギー貿易の自由化を促進し、投資保護の枠組みを有する条約であり、世界で50か国及び2つの国際機関が条約を締結しています。2015年5月には、新興国の台頭及びそれに伴う世界のエネルギー需給構造の変化、気候変動問題への危機感の高まり等を踏まえ、条約の基礎となった1991年の政治宣言「欧州エネルギー憲章」を近代化した「国際エネルギー憲章(International Energy Charter)」が採択されました。その署名には、既存の条約締約国のみならず、中国、韓国、カンボジア、チリ、コロンビア、タンザニア、ニジェール等、ECT未批准国が20か国以上も参加し、これまでの旧ソ連及び東欧諸国、EU諸国中心のものから、地理的な広がりを持ちつつあります。

2020年12月には、エネルギー憲章会議第31回会合がオンライン形式で開催され、「万人のためのエネルギー効率:イノベーションと投資」というテーマの下、ECTの加盟国、オブザーバー及び招待された国際機関の閣僚級の出席を得て、議論が行われました。日本からは、鷲尾外務副大臣がビデオメッセージにより出席し、安心、信頼できる投資環境を提供するための法的基盤を提供するECTはますますその重要性を高めており、日本は2020年に加盟国間で開始されたECTの近代化交渉に積極的に貢献していく旨を発言しました。

計15回の交渉ラウンドを経た後、2022年6月24日に実施されたエネルギー憲章会議の臨時会合において、近代化交渉の実質合意がなされました。その結果、化石燃料に関する議論に加えて、水素やアンモニア等の新たなエネルギー原料が投資保護ルールの対象に加えられるとともに、投資保護に係る締約国の義務の明確化、投資家対国家の紛争解決手続の詳細の明文化、持続可能な開発と企業の社会的責任の新設、通過の自由をさらに促進させるためのルールについて合意に至りました。2022年11月22日には、エネルギー憲章会議第33回会合が開催されましたが、昨今のECTを取り巻く現状を踏まえて各国で議論した結果、近代化されたECTの採択を延期して議題として取り上げないこととなったため、採択は行われませんでした。

○エネルギー憲章条約分担金【2021年度当初:1.0億円】

エネルギー分野における投資促進、エネルギー貿易及び通過の自由化に関する各種活動(報告書作成、ワークショップの開催等)、締約国会議であるエネルギー憲章会議の開催のため、エネルギー憲章条約事務局に拠出を行いました。

⑥多国間枠組みを通じた人材育成等

日本は、2014年以降毎年、再エネを普及させるための人材育成の観点から、IRENAと共催し、アフリカやアジア・太平洋島嶼国等を対象とした再エネに関する研修プログラム/ファイナンスワークショップを開催しており、2022年3月にはオンラインで開催しました。

⑦証券監督者国際機構(IOSCO)との連携

経済産業省は、商品取引所及び取引所外取引における相場操縦行為等の不公正取引の監視強化や透明性向上のために、証券監督者国際機構(以下「IOSCO」という。)の活動に積極的に参画しています。商品先物取引に関連する成果の一例として、2022年11月、IOSCO APRC(アジア太平洋地域委員会)における多国間の監督上の情報交換枠組みに関する覚書に署名しました。本覚書は、アジア太平洋地域における監督協力強化の一環として取り組んだIOSCOで初めての枠組みです。

⑧商品先物市場監督当局間の協力

例年、IOSCOの活動の一環として、各国の先物監督当局間で行われる対面形式での会合が定期的に開催されており、経済産業省も参加する等して、積極的に情報交換、協力を行っています。2022年度は、2020年度、2021年度に引き続き新型コロナ禍の影響により、オンライン形式での会合の開催となりましたが、今後の各国の商品先物市場当局の協力等について意見交換が行われました。また、IOSCOの包括的な協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書等の枠組みに参加し、これに基づいて、市場監視のために各国の当局との情報交換を実施する体制を整えています。

2.二国間協力の推進

(1)先進諸国との協力

①日米協力

米国では2021年1月にバイデン新政権が誕生し、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50〜52%削減し、2050年までに実質ゼロにする目標を掲げました。2022年8月に成立したインフレ削減法(Inflation Reduction Act)では、クリーンエネルギー導入に係る税額控除等を通じて、エネルギー安全保障と気候変動対策の促進を図る取組を進めています。

このような中、日米間では、両国の有するクリーンエネルギー技術に関するイノベーション協力、第三国の脱炭素化に関する協力、特にロシアによるウクライナ侵略を受けてのエネルギー安全保障に関する協力等、幅広い分野での協力関係が深化しています。ロシアのウクライナに対する侵略によるエネルギーへの影響を受け、日米両国は協力し、全てのエネルギー源について厳格で一貫した規制環境を維持し、民間部門への投資促進も進められています。

2022年5月、萩生田経済産業大臣は、グランホルム・エネルギー長官とワシントンDCで会談し、エネルギー安全保障を巡る状況や日米間のエネルギー協力関係の強化、地球規模の気候変動問題に対応するための政策やイニシアティブについて議論を行いました。その際、2021年4月に日米首脳により立ち上げられた「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」及び「日米気候パートナーシップ」の下、共通の気候目標にとって重要な分野での共同分析、研究、開発とイノベーションの実施とあわせ、クリーンエネルギーとエネルギー安全保障についての定期的な対話を行うため、「日米クリーンエネルギー・エネルギーセキュリティ・イニシアティブ」(以下「CEESI」という。)を設立しました。その後、同月に開催された日米首脳会談及び日米首脳共同声明では、CEESI設立を歓迎し、エネルギー安全保障について二国間及び多数国間で取り組み、特に開発途上国においてクリーンエネルギーを促進し、エネルギー供給の混乱による影響を緩和するため、IEAといった国際機関と協力する等の両国のコミットメントを確認しました。

2022年12月、経済産業省と米国国務省は、「日米エネルギー安全保障対話」を開催し、現下のエネルギー情勢を踏まえたエネルギー安全保障、クリーンエネルギー移行、第三国への脱炭素技術の展開等について、日米双方の取組を確認し、今後の協力について議論しました。また、2023年のG7開催に向けて、両国で協力していくことを確認しました。

2023年1月、西村経済産業大臣は、グランホルム・エネルギー長官とワシントンDCで会談し、世界のエネルギー安全保障を取り巻く状況等を踏まえ、クリーンエネルギーにおける協力の強化や原子力協力等について議論を行いました。また、米国での上流投資の支援、次世代革新炉の開発・建設、既設炉の最大限活用、ウラン燃料を含む原子力燃料及び原子力部品の強靱なサプライチェーン構築、クリーン水素・アンモニアに関する政策強化及び日米企業間の継続的な協力、CEESIの進捗確認と促進、日本が議長国となる2023年のG7に向けての協力等について意見交換を行いました。

②日加協力

カナダは世界有数のエネルギー資源国であり、石油、天然ガス、石炭、ウランに加えて豊富な水力資源を有しています。日加間においては、LNGカナダプロジェクト等、LNGを中心として様々な分野でのエネルギー協力が進展しています。

2023年1月、経済産業省とカナダ天然資源省は、2019年に締結したエネルギー分野における協力覚書に基づき、「日加エネルギー政策対話」を開催しました。政策対話では、2022年までの各種エネルギー分野における日加協力の進展を確認するとともに、2023年から2025年までの3年間の協力に向けたアクションプランの策定について議論しました。

また、2022年12月には、「第32回日本・カナダ次官級経済協議(JEC)」がオンライン形式で開催され、両国政府長は、最近の国際経済情勢や「自由で開かれたインド太平洋」の実現を含む日加協力に関する意見交換に加え、エネルギーを含む5つの優先協力分野等について議論しました。

③日仏協力

日仏両国は、石油・天然ガスの多くを輸入に依存する点、今後のエネルギー源の多様化を追求する点等、エネルギー需給構造やエネルギー政策に多くの共通点が存在します。

日仏間のエネルギー協力の枠組みである「日仏エネルギー政策対話」は、新型コロナ禍の影響を受けて延期となっていましたが、2022年12月13日にオンラインで開催されました。原子力分野では、2011年10月に東京で行われた日仏首脳会談において両国首脳の主導により設置された「原子力エネルギーに関する日仏委員会」の第11回会合を、2023年3月6日に東京で開催し、両国の原子力エネルギー政策、原子力安全協力、原子力事故の緊急事態対応、核燃料サイクル、放射性廃棄物の管理、原子力研究・開発、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉、オフサイトの環境回復等について、意見交換を行いました。

2023年1月には、西村経済産業大臣とリュナシェ・エネルギー移行大臣との間で会談が行われ、エネルギー安全保障の確保とカーボンニュートラルの実現に貢献する取組等について意見交換を行いました。

④日英協力

英国は、安定的でクリーンかつ適正な価格のエネルギー供給の確保等の観点から、1990年代に電力市場の自由化を先行して実施し、世界最大規模の発電容量を誇る洋上風力を含む再エネや、省エネ、原子力発電を推進しています。

2022年10月、経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省は、日英間のエネルギー協力の深化・発展を目的とした「日英エネルギー政策対話」を開催し、両国のエネルギー政策やカーボンニュートラルに向けた取組等について意見交換を行いました。

原子力分野では、2012年4月に発出された日英両国首相による共同声明に基づき、2022年11月に開催した「第11回日英原子力年次対話」において、原子力政策、廃炉及び環境回復、原子力研究・開発、パブリック・コミュニケーション、原子力安全及び規制に関する両国の考え方や取組について、意見交換を行いました。

また、2023年1月、西村経済産業大臣は、英国のシャップス・ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣と会談を行い、エネルギーを含む優先事項について意見交換を行いました。

⑤日独協力

ドイツ政府は、長期的には大部分のエネルギー供給源を再エネとし、建物・機器を中心に省エネを強化する方針の下、導入コストに配慮した再エネの拡大と、それに対応した送電網の整備等を進めています。また、電力小売市場全面自由化から20年以上が経ており、電力システム改革について知見・経験を有しています。

2019年6月に締結された「日本国経済産業省とドイツ連邦共和国経済エネルギー省とのエネルギー転換における協力宣言」及び同宣言に基づいて2020年2月に署名された「エネルギー協力の具体化に向けたロードマップ」に基づき、日独両国は、水素とエネルギー転換に関するワーキンググループを設置し、より具体的な協力内容に係る実務的な議論を進めています。特に水素については、2020年7月の安倍総理とメルケル首相との会談においても、両国の協力について言及されました。

2022年9月には、西村経済産業大臣がハベック経済・気候保護大臣と会談を行い、最近のエネルギー価格高騰を受けたエネルギー面の連携強化等について議論しました。また2022年10月には、平井経済産業審議官とフィリップ事務次官との間で、第20回「日独次官級定期協議」を開催し、これまでの両国のエネルギー協力の進展を確認し、今後の日独連携について意見を交わしました。

⑥欧州委員会との協力

2021年5月、菅総理とミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員長は、日EU首脳協議を行い、本協議終了後には、日EU間で共同声明及び日EUグリーン・アライアンスに関する文書を発出しました。

2022年5月には、岸田総理とミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員長が、日EU首脳協議を行いました。岸田総理は、2021年に立ち上げた日EUグリーン・アライアンスのもとで、水素、エネルギー移行、環境保護、サステナブル・ファイナンス等の分野で日EU協力が進展していることを歓迎する旨を述べ、双方は、引き続き日・EU間で気候変動、環境分野の取組を加速し、国際社会をリードしていくことで一致しました。

2022年12月に、西村経済産業大臣は欧州委員会のシムソン委員(エネルギー担当)の面談を行い、水素に関する協力覚書への署名の上、水素政策や規制、インセンティブ等に関する情報交換や水素社会の発展に向けて協力することに合意しました。

⑦日豪協力

日豪両国は、石炭、LNG、水素等の資源・エネルギーの分野において重要なパートナーです。

2022年5月に実施された日豪首脳会談において、岸田総理とアルバニージー・オーストラリア連邦首相は、水素・アンモニア等のカーボンニュートラルに向けた取組やエネルギー・サプライチェーンの強化等のエネルギー分野における日豪協力を進めていくことを確認しました。同年7月には、萩生田経済産業大臣が豪州・シドニーで開催された「シドニー・エネルギーフォーラム」に出席するとともに、ボーエン・気候変動大臣及びキング資源大臣兼北部豪州担当大臣と面談を行い、LNGの増産や安定供給について要請を行いました。

1985年以来、国際エネルギー情勢や両国のエネルギー政策等を議論する二国間対話の場として、「日豪エネルギー資源対話」(以下「JAERD」という。)を開催しており、2022年8月には「第40回JAERD」を東京で開催し、日豪エネルギー関係について、幅広く意見交換を行いました。

2022年9月にインドネシアで開催された「G20エネルギー移行大臣会合」等に出席した西村経済産業大臣は、ボーエン大臣と面談を行い、LNGや石炭の安定供給確保について理解を求めるとともに、AZEC構想や水素・アンモニアといったクリーンエネルギー分野における協力について議論を行いました。また同年9月から10月に開催された東京GXウィークには、ボーエン大臣、キング大臣がビデオメッセージにて参加しました。

同年10月に豪州・パースで実施された日豪首脳会談においては、ウクライナ情勢等により、資源・エネルギー安全保障の重要性が高まる中、両首脳は資源エネルギー分野での日豪協力をさらに強化していくことで一致しました。また、両首脳立ち会いの下、経済産業省と豪州・産業科学資源省及び外務貿易省は、「重要鉱物に関するパートナーシップ(Partnership concerning Critical Minerals)」を締結しました。また、同年11月には、西村経済産業大臣が来日したキング大臣と会談を行い、石炭・LNGの安定供給や、重要鉱物に関するパートナーシップ等に基づく鉱物資源分野における日豪連携の方向性等について、議論・確認を行いました。

(2)アジアとの協力

①日インド協力

インドは、米国、中国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国で、経済発展や電化の進展により、今後ますますエネルギー需要が増加することが予想されています。そのようなインドのエネルギー資源の安定供給確保とエネルギー効率の向上は、日本のエネルギー安全保障にとっても重要であり、両国の経済発展にも直結する重要な政策課題になっています。

こうした背景を踏まえ、エネルギー分野における両国の協力拡大を図る観点から、2006年の首脳合意を受けて、閣僚級の枠組みである「日印エネルギー対話」を立ち上げており、両国閣僚の相互訪問により、2007年以降、計10回の対話を実施しています。次回の第11回会合については、新型コロナ禍の状況も見極めながら、時宜を捉えて開催すべく調整を行っています。

省エネについては、2018年に日本の支援で成立したインド版省エネガイドラインの普及や、工場の省エネマニュアル作成の支援に向け、専門家派遣等の協力を継続しています。石炭火力発電については、技術交流会等を通じて、環境設備対応やバイオマス混焼等の環境協力を実施しています。

水素分野における協力については、2019年2月にインド・デリーで第1回目となる水素及び燃料電池に関するワークショップを開催し、両国の水素政策や技術動向等の情報交換を始めました。2020年3月には、デリーで第2回ワークショップを開催し、日印協力の具体化について議論しました。2021年3月には、第3回ワークショップを初めてオンライン形式にて開催し、2022年3月の第4回ワークショップもオンライン形式にて開催しました。日印国交樹立70周年の節目に行った第4回会合では、日印の水素製造や水素発電関連技術、国際サプライチェーン構築のための水素の輸送技術をテーマに、日印双方から多数の政府関係者、民間企業等の参加を得て、水素利活用の重要性及び日印間の共同研究、民間連携の可能性について議論を行いました。

また、2021年1月に、インドはIEAとの間で戦略的パートナーシップ構築に向けた枠組み文書に署名しました。インドとIEAの協力関係がより一層強固になることは、世界のエネルギー安全保障及びクリーンエネルギー転換の強化に当たって重要であり、日本としてもこの署名を歓迎しました。

②日インドネシア協力

インドネシアは、日本にとって有数の石油・天然ガス及び石炭等の天然資源の輸入相手国であり、複数の日本企業が多くのLNGプロジェクトやクリーンエネルギー、再エネ関連プロジェクトに参画する等しており、資源・エネルギーの分野において重要なパートナーです。

2022年4月には、萩生田経済産業大臣が、アリフィン・エネルギー鉱物資源大臣とオンライン会談を行い、同年1月に両大臣が署名したエネルギー・トランジションの実現に関する協力覚書等に基づく両国間の協力をさらに深化させていくことで合意しました。同年7月には、萩生田経済産業大臣がアリフィン大臣と会談を行い、AZEC構想の実現に向けた両国の連携の重要性を確認するとともに、特にアンモニアや再エネ分野における具体的な取組について議論を行いました。その後、同年9月にも、西村経済産業大臣がアリフィン大臣と会談を行い、AZECの実現に向けた協力や二国間における様々なエネルギー分野での協力について議論を行い、今後さらに協力関係を深化させていくことを確認しました。また、2022年9月から10月に開催された東京GXウィークにはアリフィン大臣が参加し、スピーチを行いました。

2023年1月には、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」(以下「AETI」という。)の取組として、政府関係者や企業関係者に対し、水素・アンモニア・CCS技術等に関する人材育成研修を実施しました。また、2023年3月には、AZEC閣僚会合に参加するために来日したアリフィン大臣と西村経済産業大臣が会談し、再エネ、燃料アンモニア、天然ガスを含む多くの二国間のプロジェクトが生成されていることを歓迎するとともに、それぞれの進捗確認を行い、引き続きコミュニケーションを取っていくことで一致しました。

他にも、日インドネシア両国は2012年度より、両国のエネルギー政策等に関する議論や、個別プロジェクトの推進を目的とした二国間対話の場として、「日インドネシアエネルギーフォーラム」を開催しています。2023年には「第7回日インドネシアエネルギーフォーラム」を日本で開催し、電力、再エネ、天然資源、燃料アンモニア、CCUS等の分野における事業等について議論を行いました。

③日ベトナム協力

ベトナムは、石炭、石油・天然ガス、鉱物資源を豊富に保有する資源国であり、日本にとって重要な、良質な無煙炭の供給国です。

また、経済産業大臣とベトナム商工大臣を共同議長とする「日ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会」及び局長級の「日ベトナムエネルギーワーキンググループ」という重層的な政府間対話の枠組みを通じて、協力を推進している国の1つです。2022年8月には「第5回日ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会」が、2023年2月には「第5回日ベトナムエネルギーワーキンググループ」が開催され、エネルギー政策全般を始め、石油・天然ガス、石炭、再エネ、スマートグリッド、省エネ等の協力について協議を行いました。

また、2022年5月、ベトナムを訪問中の岸田総理は、ファム・ミン・チン首相と会談を行い、ベトナムの現実的なエネルギー・トランジションを支援することを表明し、AZEC構想についても議論しました。これにより、エネルギー需要が急増しているベトナムにおいて、日本とのエネルギー分野での協力がさらに強化されることが期待されます。同年9月には、ベトナムのエネルギー分野の政府関係者及び企業関係者向けに、水素・アンモニア技術に関する人材育成研修を実施しました。

さらに、2023年3月には、AZEC閣僚会合に参加するために来日したベトナムのハー副首相兼天然資源環境大臣と西村経済産業大臣が会談しました。日越外交関係樹立50周年の記念すべき年(2023年)に、ベトナム政府高官としては最初に訪日された同副首相との間で、アジアの脱炭素化をAZECの枠組みの下、両国で連携・協力し、進めていくことで一致しました。

④日タイ協力

タイは日本の重要な戦略的パートナーです。2022年度も、首脳間・閣僚間で複数回の会談を行いました。

2022年4月、萩生田経済産業大臣は、訪日したスパッタナポン副首相兼エネルギー大臣と、二国間関係やアジア未来投資イニシアティブ、エネルギー・トランジション等について幅広く意見交換を行いました。

同年5月には、岸田総理が訪日したプラユット首相と会談しました。岸田総理からAZEC構想についての進捗状況を述べたところ、プラユット首相からは、AZEC構想に協力していく旨の発言がありました。また同月、萩生田経済産業大臣はタイ・バンコクに出張し、スパッタナポン副首相兼エネルギー大臣と、エネルギー安全保障の強化とカーボンニュートラル実現の両立に向けたクリーンエネルギー・トランジションの加速化や、インド太平洋経済枠組み(IPEF)等について意見交換を行いました。萩生田経済産業大臣から、AZEC構想の実現に向けて協力していきたい旨を伝え、その協力をともに推進していくことで一致しました。

同年9月、西村経済産業大臣はタイ王国を訪問し、スパッタナポン副首相兼エネルギー大臣と会談を行い、エネルギー安全保障の強化とカーボンニュートラル実現の両立に向けたクリーンエネルギー・トランジションの加速化等について意見交換を行いました。また同月、里見経済産業大臣政務官は、タイ・バンコクで開催されたAPEC中小企業大臣会合に参加した際、会合議長であるスパッタナポン副首相兼エネルギー大臣と意見交換を行い、カーボンニュートラル実現に向けた二国間の協力等についての議論を行いました。

同年11月には、APEC首脳会議に出席するためタイ・バンコクを訪問した岸田総理は、プラユット首相と会談しました。岸田総理から、AZEC構想の実現に向けた取組を推進していきたい旨を述べ、プラユット首相からは、AZEC構想に協力したい旨が述べられました。また同月、西村経済産業大臣は、APEC閣僚会議への出席に際して、スパッタナポン副首相兼エネルギー大臣とエネルギー分野における協力等について会談を行い、LNG分野への共同での投資や緊急時協力を盛り込んだ協力覚書(MOU)に署名しました。

2023年3月、AZEC閣僚会合に参加するために来日したスパッタナポン副首相兼エネルギー大臣と西村経済産業大臣が会談し、タイの国家エネルギー計画策定に向けた支援や、前年11月に締結したLNGに関するMOUに基づく連携について議論しました。加えて、CCUSの技術協力に関するMOCを新たに締結しました。

タイとは首脳間・閣僚間だけでなく、事務方間の交流も盛んです。2022年1月に両国の協力をさらに強化すべく、プラユット首相立ち会いの下、萩生田経済産業大臣とスパッタナポン副首相兼エネルギー大臣の間で締結された「日本国・経済産業省とタイ王国・エネルギー省間のエネルギー・パートナーシップの実現に関する協力覚書」に基づき、2022年には、同覚書に基づくロードマップ策定支援を実施したほか、2022年10月には「第1回日タイ・エネルギー政策対話ビジネスフォーラム」を、2023年1月には、「第5回日タイ・エネルギー政策対話」を実施しました。また、2023年2月には、水素・アンモニア・CCS技術等に関する人材育成研修を実施しました。

「日タイ・エネルギー政策対話」は、2015年度より、両国のエネルギー政策等に関する議論や、個別プロジェクトの推進を進めるために定期的に開催されてきたものです。「第5回日タイ・エネルギー政策対話」はタイ・バンコクで開催され、両国の最近のエネルギー政策、特に2050年カーボンニュートラルに向けた取組を相互共有するとともに、タイのカーボンニュートラル実現に必要なCCUS、EV・バッテリー、水素・アンモニア、再エネ・省エネ、LNG・ガスといった個別の技術分野について、意見交換を行いました。そして両国は、日タイ企業間の具体的な協業プロジェクトのさらなる創出が重要であることを確認するとともに、AZEC構想の実現に向けて協力していくことで一致しました。

⑤日中協力

中国は世界最大のエネルギー消費国であり、中国のエネルギー利用効率の向上は日本のエネルギー安全保障にとって重要な課題です。また、中国においては、大気汚染等の深刻化に対処するとともにCO2排出削減を図るため、エネルギー利用効率の向上や太陽光や風力等の再エネの導入拡大が図られているところです。

こうした状況を踏まえ、2022年12月、経済産業省は中国国家発展改革委員会と「第2回脱炭素化実現に向けた日中政策対話」をオンラインで開催し、日中両国のカーボンニュートラル実現に向けた取組の紹介と意見交換を行いました。また、2023年2月には、日中の官民による省エネ・環境協力を推進するためのプラットフォームとして「第16回日中省エネルギー・環境総合フォーラム」を、東京と北京をつないだオンライン形式で開催しました。日本側からは西村経済産業大臣、宗岡正二日中経済協会会長他、中国側からは何立峰国家発展改革委員会主任、李飛商務部部長助理を始め、両国あわせて800名を超える官民関係者が参加し、17件の協力プロジェクト文書が交換されました。全体会合では、西村経済産業大臣から、グリーントランスフォーメーション(GX)に向けた日本の取組について紹介するとともに、エネルギー・トランジションをさらに進めるべく、この分野で日中が連携を深めていくことへの期待を表明しました。加えて、「エネルギー効率の向上(省エネ)分科会」や「水素分科会」等の4つの分科会を開催し、日中の官民関係者が意見交換を行いました。

⑥日シンガポール協力

シンガポールとは、2017年より両国のエネルギー政策や個別技術等の情報交換を目的とした「日シンガポールエネルギー対話」を開催してきました。その後、2021年6月に梶山経済産業大臣とガン貿易産業大臣との間でオンライン形式にて会談が行われ、「日シンガポールエネルギートランジション対話」を新たに立ち上げることが合意されました。同年8月にオンライン形式にて開催された第1回会合では、アジアのエネルギー・トランジションの加速化に向けて、トランジション・ファイナンスや水素分野をテーマとして議論を行いました。

2022年1月には萩生田経済産業大臣がシンガポールを訪問し、ガン貿易産業大臣との間で、脱炭素化に向けたシンガポールの事情を踏まえつつ、アジアのエネルギー・トランジションの加速化に向けて、トランジション・ファイナンスのあり方を含め、水素、燃料アンモニア、CCUS/カーボンリサイクル等の低炭素技術に関する協力覚書に署名し、AETIの下での両国の連携に合意しました。また、2022年10月に西村経済産業大臣は、タン・シーレン第二貿易産業大臣兼人材開発大臣との間で、LNGをトランジション・エネルギーと位置付け、LNG分野への共同での投資や危機時の協力、そしてその知見を水素・アンモニアの上流投資や安定供給につなげる協力を目指す、LNG分野及びエネルギー・トランジションの協力促進に関する協力覚書に署名しました。

2023年3月には、AZEC閣僚会合に参加するために来日したシンガポールのガン貿易産業大臣と西村経済産業大臣が会談し、水素・アンモニア分野における両国企業間の協力を歓迎するとともに、LNGのトランジション燃料としての重要性を確認し、今後も幅広いエネルギー分野のサプライチェーン構築に向けて協力を強化していくことで一致しました。また、アジアにおけるカーボンニュートラル実現を支えるファイナンスのあり方についても議論を行いました。

⑦日マレーシア協力

マレーシアは、日本にとって第2位のLNG供給国であり、日本のエネルギー安全保障の観点で、重要なパートナーです。

2022年9月、第11回LNG産消会議への出席のために訪日したマレーシアの国営企業・ペトロナス社のテンク・ムハマド・タウフィック社長兼グループCEOと、保坂資源エネルギー庁長官との間で、エネルギー・トランジション分野とLNG分野での協力に関する覚書(MOC)をそれぞれ締結しました。また、同年10月、再度訪日したペトロナス社のタウフィック社長兼グループCEOと西村経済産業大臣が会談を行い、日本への安定したLNG供給の実現について議論を行いました。さらに、2023年3月には、AZEC閣僚会合に参加するために来日したマレーシアのラフィジ経済大臣及びペトロナス社のタウフィック社長兼グループCEOと西村経済産業大臣が会談し、アジアの脱炭素化に向けて、AZECにおける両国の連携を確認するとともに、LNGの安定供給、マレーシアのカーボンニュートラル実現に向けたロードマップ策定支援や燃料アンモニア、CCSといった両国の脱炭素化に資するエネルギー協力について意見交換を行いました。

(3)エネルギー供給国等との関係強化

①日サウジアラビア協力

サウジアラビアは、世界有数の産油国であるとともに、日本にとって第1位の原油供給国です。また、産油国の中でも特に主要な位置付けにあり、大きな余剰生産能力を持つことから、国際原油市場に大きな影響力を有しています。こうしたことから、石油の大部分を海外からの輸入に頼る日本にとって、同国との関係強化は重要な課題であり、2007年に立ち上げた「日本・サウジアラビア産業協力タスクフォース」を通じ、投資促進、人材育成、中小企業支援等、エネルギー分野にとどまらない幅広い協力・関係強化を官民一体となって推進してきました。

日サウジ両国は、2017年3月の安倍総理とサルマン・サウジアラビア国王との首脳会談において、二国間協力の基本的な方向性と具体的なプロジェクトをまとめた「日・サウジ・ビジョン2030」に合意し、新たな戦略的パートナーシップの羅針盤として協力を進めています。2022年11月8日に、「第6回日・サウジ・ビジョン・2030閣僚会合」を東京で開催し、エネルギーを含めた幅広い分野での両国間の協力プロジェクトの進展や今後の具体的なアクションについて議論を行いました。

また、2022年10月には、西村経済産業大臣が、アブドルアジーズ・エネルギー大臣との間でオンライン会議を行い、さらに同年12月には、西村経済産業大臣がサウジアラビアを訪問し、アブドルアジーズ・エネルギー大臣との日サウジ・エネルギー協議を行いました。同協議において両大臣は、日本にとってサウジアラビアが引き続き最大の原油供給源であり、信頼できるパートナーであることを踏まえ、産油国と消費国の対話と連携を促進することにより、世界の原油市場の安定を支えることの重要性と、世界市場における全てのエネルギーの安定供給を確保する必要性を強調しました。

②日UAE協力

UAEは、日本にとって第2位の原油供給国であり、日本企業も権益を保有し、50年以上にわたり油田操業に参画してきました。また、日本の自主開発原油が最も集中していることもあり、日本にとって極めて重要な資源国です。日本との間では、活発なハイレベル往来や、エネルギー分野を中心とした幅広い分野での協力を推進してきました。

首脳級では、2022年8月に岸田総理とムハンマド・ビン・ザイード大統領との間でオンライン会議を行われ、同年が日・UAE外交関係樹立50周年であることを踏まえ、引き続き様々な分野で両国間の戦略的パートナーシップを強化していくことで一致しました。また同年9月には、故安倍晋三国葬儀に参列するために訪日したハーリド執行評議会委員兼執行事務局長と岸田総理の表敬会談を行い、「包括的・戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)の実施に関する共同宣言」の署名を歓迎するとともに、日・UAE外交関係樹立50周年の機会を踏まえ、次の50年に向けて、クリーンエネルギー・先端技術から人材育成に至るまで、幅広い分野でさらなる関係強化に取り組むことで一致しました。

閣僚級では、2022年6月に、訪日中のジャーベル・産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEOと萩生田経済産業大臣の間で会談を実施し、増産を含め十分な原油供給と生産余力への投資を通じた、国際原油市場の安定化に向けた協力を働きかけました。また、エネルギーセキュリティを十分に確保しながら、気候変動にも対応するバランスの取れたエネルギー・トランジションを進めていくことの必要性を確認した上で、石油・ガス分野に加えて、クリーンエネルギー・先端技術等の新たな分野でも二国間協力を深化させていくことで一致しました。さらに同会談後には、萩生田経済産業大臣の立ち会いの下、三井物産、ENEOS及びADNOC間のクリーン水素製造事業に関する共同事業化検討契約(JSA)の署名式を行いました。また、同月には、萩生田経済産業大臣とマズルーイ・エネルギー・インフラ大臣との間でオンライン会談を実施し、国際原油市場の安定化に向けた協力を働きかけるとともに、2021年4月に政府間で締結した水素協力に関する覚書の下で、水素分野でのプロジェクトが進展していることを歓迎した上で、クリーンエネルギー分野における両国の関係強化について議論しました。

さらに、西村経済産業大臣は2023年1月に、中谷経済産業副大臣は2022年10月にUAEを訪問し、ジャーベル産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEO、マズルーイ・エネルギー・インフラ大臣、ハルドゥーン・アブダビ執行関係庁長官等の首長家・政府要人と会談を行い、両国のエネルギー分野での協力を既存の石油・天然ガス分野に加え、水素やアンモニア等のクリーンエネルギー分野でも強化することの重要性を確認しました。

なお、2023年1月の西村経済産業大臣のUAE訪問時には、ジャーベル産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEOとの間で、「日UAE先端技術調整スキーム(JU-CAT)」への署名も行われ、同スキームが設立されました。この枠組みは、日本の先端技術スタートアップとUAE投資家の協業を促し、UAEの脱炭素化と産業発展・人材育成に貢献するものであり、両大臣は、JU-CATの下での最初の案件となる、つばめBHB社とADNOC社の間の共同調査契約(JSA)の締結にも立ち会いました。さらに、JERAとマスダール社の間での再エネ及びグリーン水素製造に係る協力覚書の締結にも立ち会いました。

引き続き、足元のエネルギー安定供給確保に向けて緊密に連携するとともに、脱炭素も視野に入れた、水素・アンモニア等を含めた包括的な資源外交を展開していきます。

③日オマーン協力

オマーンは、中東の中でもホルムズ海峡の外に位置するという観点で、地政学的リスクが相対的に低い特徴を有しており、日本にとって原油は第9位、天然ガスは第8位の供給国です。

2022年9月、訪日中のウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣と西村経済産業大臣との間で会談を実施し、LNGの安定供給に係る働きかけを行うとともに、クリーンエネルギー分野での協力を確認しました。同年12月には、西村経済産業大臣がオマーンを訪問し、ウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣と会談を行うとともに、水素・アンモニア及びメタネーションを含むカーボンリサイクルに関する協力覚書を締結しました。さらに、両大臣立ち会いの下、日本企業複数社とオマーンLNG社との間で、LNGの長期引取契約に関する基本合意書への調印が行われました。