第3節 需要家側のエネルギーリソースの有効活用

再エネのコスト低下や、デジタル技術の進展によるエネルギーマネジメントの高度化、レジリエンス強化に対する関心の高まり等により、再エネを始めとする分散型エネルギーリソースの導入拡大は、今後も進展が期待されています。これに伴い、分散型エネルギーリソースが果たす役割は、これまでの需要家のレジリエンス対応やピークカット、熱電併給等による省エネ等の自家消費向けに加え、小売電気事業者向けの供給力や一般送配電事業者向けの調整力としての活用等にも拡大していくことが期待されています。

資源エネルギー庁では、2014年度までに国内の4地域(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市(京都府)、北九州市)で取り組んだ「次世代エネルギー・社会システム実証事業」や、2015年度まで行った「次世代エネルギー技術実証事業」で、ネガワット取引に関する実証を行いました。

2015年11月の「第3回未来投資に向けた官民対話」における、安倍総理の「節電のインセンティブを抜本的に高める。家庭の太陽光発電やIoTを活用し、節電した電力量を売買できる「ネガワット取引市場」を2017年までに創設する。そのため、来年度中に、事業者間の取引ルールを策定し、エネルギー機器を遠隔制御するための通信規格を整備する」旨の発言を受け、ネガワット取引に関する省令等のルール整備等を行い、2017年4月にネガワット取引市場を創設しました。

さらに、2016年秋に、一般送配電事業者が需給調整を行う際に用いる電源等(電源Ⅰ’(10年に1回程度の猛暑や極寒に対応するための調整力))の2017年度向け公募が初めて行われ、対象地域の合計で約100万kWのディマンド・リスポンス(以下「DR」という。)が落札されました。その後、公募対象地域が全国に拡大されたこともあり、2021年度秋に行われた2022年度向け公募では、約229.7万kWのDRが落札されています。また、DRのベースライン(DRの要請がなかった場合に想定される電気需要量)の設定方法等を規定するため、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン(「ネガワット取引に関するガイドライン」の改定)」を2017年11月に公表しました。当該ガイドラインは、その後のDRビジネスの発展状況を踏まえ、DRビジネスの普及をより一層拡大する観点から、DR事業者と小売電気事業者間の調整事項等も定めた上で、2020年6月に改定しました。

加えて、本ビジネスに参画する事業者に求められるサイバーセキュリティ対策を規定するため、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するサイバーセキュリティガイドラインVer2.0」を改定し、2019年12月に公表しました。当該ガイドラインは、今後創設される需給調整市場や容量市場等にDR事業者が参画することを見据えており、2020年度は、社会実装に向けた具体的なサイバーセキュリティ対策について検討しました。

また、2020年6月の第201回国会において、電気事業法が改正され、アグリゲーターは、「特定卸供給事業者」として電気事業法上に位置づけられることとなりました。今後は、アグリゲーターが太陽光等の再エネ発電や蓄電池といった多様なリソースの制御による対象を広げ、①平時の電力需給のための調整力を提供すること、②FIP制度の下で再エネを束ねて市場へ電力を供給するほか、インバランスの回避を行うこと、③マイクログリッドや配電事業における需給調整の支援も手がけること等、事業機会の拡大が期待されています。

〈具体的な主要施策〉

1.蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業【2022年度当初:46.2億円】

蓄電池等の分散型エネルギーリソースの平時の電力需給調整への活用や、FIP制度の導入等も見据えた太陽光発電等の再エネのさらなる活用に向け、卸電力市場価格にあわせて電動車の充電時間をコントロールする技術や、多数の再エネや蓄電池等の分散型エネルギーリソースを束ねて正確に電力需給を制御する技術等の実証を行いました。

2.再生可能エネルギー導入加速化に向けた系統用蓄電池等導入支援事業【2021年度補正:130.0億円】

太陽光・風力等の再エネは、天候や時間帯等の影響で発電量が大きく変動するため、大量導入が進むと電力系統の安定性に影響を及ぼす可能性があります。本事業では、こうした再エネの出力変動に対応できる調整力等の供出や再エネの余剰電力の吸収が可能な、大規模蓄電池(系統用蓄電池)や水電解装置を導入する事業者に対し、その導入費用の一部を支援することで、系統用蓄電池等の導入促進を行いました。

3.地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金【2022年度当初:7.8億円、2021年度補正:29.5億円】

地域にある再エネを活用し、平常時は下位系統の潮流を把握し、災害等による大規模停電時には自立して電力を供給できる「地域マイクログリッド」を構築しようとする民間事業者等に対し、その構築に必要な費用の一部を支援しました。また、地域マイクログリッド構築に向けた導入可能性調査を含む事業計画「導入プラン」を作成しようとする民間事業者等に対し、プランの作成に必要な費用の一部を支援しました。

4.スマートメーターの導入に向けた取組【制度】

2014年から本格導入が開始されている現行のスマートメーターは、日本における第一世代のスマートメーターであり、この現行スマートメーターの導入により、遠隔自動検針による事業者の業務効率化や、需要家が電力データを取得できることにより各家庭等の省エネ等の取組を促すことが可能となったのみならず、スマートメーターの計測データを、小売電気事業者が電力を販売する際の「30分値計画値同時同量制度」や「インバランス料金の精算」に用いる等、既にスマートメーターは電力事業の基盤として活用されています。

「第4次エネルギー基本計画」(2014年4月閣議決定)においても、「2020年代早期に全世帯・全事業所にスマートメーターを導入する」とあるように、導入の加速化に向け、官民を挙げて取り組んでおり、2022年度末までに、電力各社のスマートメーターの導入計画(東京:2020年度末、関西・中部:2022年度末、北海道・東北・北陸・中国・四国・九州:2023年度末、沖縄:2024年度末までに全数導入)を踏まえ、約96%のスマートメーターの設置が完了しました。

こうした中において、「第6次エネルギー基本計画」(2021年10月閣議決定)にもあるように、昨今、再エネのコスト低下やデジタル技術の進展によるエネルギーマネジメントの高度化、レジリエンス強化に対する関心の高まり、2020年10月の2050年カーボンニュートラル宣言等を背景とし、再エネを始めとする分散型エネルギーリソースの導入拡大の進展が、これまで以上に期待されるようになっています。とりわけ、分散化・多層化を志向する次世代の配電プラットフォームにおいては、データを活用した電力ネットワークの運用の高度化、電力分野以外への電力データの利用拡大、需要側リソースの拡大に伴う取引ニーズの多様化への対応等のニーズが生じています。

このようなエネルギーを巡る情勢やニーズの変化の中、スマートメーターの検定有効期間が10年間であり、順次新たなメーターへの交換が始まる予定であることから、カーボンニュートラル時代に向けたプラットフォームとしてふさわしい電力やその周辺ビジネスの将来像を踏まえた、新仕様スマートメーターシステムへとアップグレードすべく、2020年より、「次世代スマートメーター制度検討会」を実施し、次世代の低圧メーター及び高圧・特高メーターの仕様検討を行いました。

次世代スマートメーター制度検討会は、8回にわたって開催され、次世代スマートメーターの有効活用に関する国内外の事例や、一般送配電事業者・アグリゲーター・需要家等のニーズを踏まえながら、有識者による議論を重ね、2022年5月に、社会的な純便益を最大化する低圧、高圧・特高スマートメーターの標準機能を取りまとめました。また、次世代スマートメーターの仕様検討に当たり、セキュリティ・バイ・デザインやサイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク等の考え方で、企画・設計段階からサイバーセキュリティを検討すべきとして、次世代スマートメーターセキュリティ検討ワーキンググループもあわせて開催し、必要とされるセキュリティ対策について、詳細な検討を行いました。

次世代スマートメーターの仕様の検討に当たっては、まず、様々なステークホルダーやセクターごとのデジタルトランスフォーメーション(電力DX)の形を整理した結果、電力システム全体として、「(1)レジリエンス強化」「(2)再エネ大量導入・脱炭素化、系統全体の需給安定化」「(3)需要家利益の向上」という便益の実現を目指す視点が示されました。その上で、電力システムにおいて需要家データの取得・通信を担う次世代スマートメーターシステムを、電力DXを推進するツールとして位置づけ、こうした便益の実現に貢献するために必要となる追加機能を検討し、当該追加機能ごとに費用対便益試算を行った上で、搭載にふさわしい機能の精査を実施しました。具体的な意義及び対応する機能については、以下のとおり挙げられます(第323-4-1)。

【第323-4-1】具体的な意義及び対応する機能

323-4-1

【第323-4-1】具体的な意義及び対応する機能(ppt/pptx形式:209KB)

資料:
経済産業省作成

今後は、2025年度から随時、次世代スマートメーターへの置き換えを行うこととし、「第6次エネルギー基本計画」において記載されているとおり、2030年代早期までに導入を完了するために、各一般送配電事業者において、仕様の詳細検討及び調達を着実に行い、次世代スマートメーターの導入計画を策定の上、それを確実に実施していくこととなります。

5.電気の需要の最適化【制度】

近年、太陽光発電等の変動型再エネの導入拡大に伴い、一部地域では再エネ電気の出力の制御(以下「出力制御」という。)が実施されています。出力制御が実施されている時間帯の非化石電源比率は8割以上になるケースもあり、こうした時間帯に電力の需要をシフトすることは、余剰再エネ電気の有効活用につながります。また、猛暑や厳冬、発電設備の計画外停止等を起因とする電力の需給ひっ迫時等においては、節電を含む電力の需要抑制が有効な対策の1つとなります。このように、余剰再エネ電気が発生している時間帯に電力の需要をシフト(上げDR)させ、逆に電力の需給状況が厳しい場合には電力の需要を抑制(下げDR)するといった、供給側の変動に応じた電力需要の最適化は、重要な取組となっています。

こうした中、需要側のDRの取組を促すために、改正省エネ法において、「電気の需要の平準化」(電気の需要量の季節又は時間帯による変動を縮小させること)を、「電気の需要の最適化」(電気の需給の状況に応じて電気の需要量を増加又は減少をさせること)に見直しました。

具体的には、省エネ法の定期報告において「電気需要最適化評価原単位」と「DR実績」により、特定事業者等のDRの取組を評価します。電気需要最適化評価原単位においては、系統電気の一次エネルギー換算係数を、電気の需給状況に応じて変動させることとしており、出力制御時には小さく、電力の需給状況が厳しい時には大きく設定して、エネルギー使用量を算出します。また、DR実績については、特定事業者等が実際にDRに取り組んだ日数を評価します。これらにより、需要側のDRの取組を促します。

また、電気事業者に対し、電気の需要の最適化に資する取組を促す電気料金その他供給条件の整備に関する計画の作成及び公表を義務として求める等、供給側からも電気の需要の最適化を促します。