第2章 徹底した省エネルギー社会の実現とスマートで柔軟な消費活動の実現
我が国は1970年代の石油危機以降、官民の努力によりエネルギー効率を約4割改善し、世界最高水準の省エネルギー(以下「省エネ」という。)を実現してきました。石油危機を契機として1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下「省エネ法」という。)」では、その後、対象範囲を拡大し、現状では、産業・業務・運輸部門の事業者に対し、毎年度、省エネ対策の取組状況やエネルギー消費効率の改善状況を政府に報告することを義務付けることで、省エネ取組を事業者に自主的に促す枠組みを構築しています。また、直接的な規制が及びづらい中小企業を中心とした業務部門や家庭部門においては、自動車や家電等のエネルギー消費機器や断熱材や複層ガラス、サッシといった建材を対象とするトップランナー制度(注)により、各機器等の製造事業者及び輸入事業者に対し、各機器のエネルギー消費効率や建材の断熱性能の向上を促し、高効率機器や高性能建材の普及による省エネを促しています。今後もこのように部門ごとに効果的な方法によって省エネをさらに加速していくことで、より合理的なエネルギー需給構造の実現と温室効果ガスの排出抑制を同時に進めていくことが重要です。
長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)では、技術的に実現可能かつ現実的な省エネ対策を積み上げることで、経済成長率1.7%/年を前提として、最終エネルギー消費ベースで原油換算5,030万kl程度の省エネを実施し、2030年度までの約20年間にエネルギー消費効率を35%程度改善することを見込んでいます。これは1970年代の石油危機後の20年間に我が国が達成したエネルギー消費効率の改善率に匹敵する野心的な目標です。エネルギーミックスにおける省エネ対策の特徴としては、情報通信技術の進展により、家庭内の家電等や工場内の設備等のエネルギー消費状況をリアルタイムで把握することや設備を一括管理すること等が可能になりつつあることを踏まえ、IoT(Internet of Things)を活用したエネルギーマネジメントシステムによる省エネ効果を大きく積み上げるとともに、省エネノウハウを有する民間企業によるエネルギーマネジメントサービスが本格的に普及することを見込んでいる点が挙げられます。
エネルギーミックスの実現を図るために2016年4月に策定した「エネルギー革新戦略」では、徹底した省エネをさらに推進するため、産業・業務部門では企業に自らの省エネの業界内での立ち位置を示すことで省エネを促す産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)の流通・サービス業への拡大や資金力の乏しい中小企業に対する省エネ支援の強化が盛り込まれています。また、家庭部門においても、住宅等のゼロ・エネルギー化やトップランナー制度の拡充、運輸部門では次世代自動車の普及等の施策を進めることで、各部門における省エネ投資の拡大を促すこととしています。さらに、省エネポテンシャルを深掘りするための新たなアプローチとして、経済成長と一体的な省エネ促進を念頭に、エネルギー消費効率の改善に向けたインセンティブの強化や企業間の相互連関の深化を踏まえた複数事業者による省エネの推進、そして、民間企業の省エネビジネスの活用による省エネ促進が掲げられています。
これらを進める具体策について、2016年6月から開催された総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会において検討を重ね、2017年1月に中間取りまとめを公表しました(詳細は第1部第2章 参照)。
こうしたエネルギーミックスや省エネルギー小委員会中間取りまとめ等を踏まえつつ、規制と支援の両輪で省エネをより一層強力に促進し、徹底した省エネと経済成長の両立を目指していきます。
- 注
- トップランナー制度:省エネ法において、自動車、家電製品や建材といった機器等を指定し、その時点で最も優れている機器等の性能や技術開発の将来の見通し等を勘案して基準エネルギー消費効率を定め、製造事業者及び輸入事業者に対し、目標年度以降に当該基準を満たすことを求める制度。)