第5節 東電改革
1.東京電力改革・1F問題委員会の設立、委員会における議論
これまで東京電力は、「新・総合特別事業計画」に基づき、ホールディングカンパニー制に移行し、中部電力の火力部門との機能別再編での新会社JERA設立により世界最大の火力会社に向けた事業統合に着手したほか、2022年度までの10年間で5兆円のコスト削減にも取り組んできています。他方、賠償や除染、廃炉など事故に伴う費用は増大しているほか、電力の小売り全面自由化の中で需要は構造的に減少しております。東京電力の構造的な競争力確保は未だ途上にあり、これを放置すれば福島復興や事故収束への歩みが滞りかねません。
原発事故に伴う費用が増大する中、福島復興と事故収束への責任を果たすため、東京電力はいかなる経営改革をすべきか。原子力の社会的信頼を取り戻すため、事故を起こした東京電力はいかなる経営改革をすべきか。自由化の下で需要の構造的縮小が続く中、世界レベルの生産性水準を達成し、福島復興と国民への還元につなげるため、東京電力はいかなる経営改革をすべきか。
これらの課題への回答について、福島県の方々が安心し、国民が納得し、昼夜問わず第一線を支え続ける「現場」が気概を持って働ける解を見つけなければなりません。東電改革の姿は電力産業の将来を示し、この改革とパッケージで整備する国の制度改革は、被災者救済と事故炉廃炉促進のための制度となります。東電改革は、福島復興、原子力事業、原子力政策の根幹的課題です。
そこで、経済産業省は、「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)を設置し、東電改革の具体化についての提言の取りまとめを依頼しました。これを受けて、2016年10月から12月末までに計8回の委員会が開催され、東京電力の非連続の経営改革に向けた方向性、東京電力の企業改革における取組、JERAの取組等について議論がなされ、12月20日に東電改革提言がとりまとめられました。この提言内容は、政府が認定する東京電力の「新・総合特別事業計画」を改定する中で反映され、東京電力はこれをもとに改革を実行していくこととなります。なお、2017年3月22日、原子力損害賠償・廃炉等支援機構と東京電力は、新々総合特別事業計画の骨子を公表しています。
2.「 東電改革提言」
2016年12月20日にとりまとめられた東電改革提言の概要は以下の通りとなります。
−「東電改革提言」の概要−
(1)福島の長期展望と電力市場の構造変化を見据えた持続可能な仕組みの構築
①福島事業を長い目で展望した上での必要な資金規模
- 東京電力福島第一原子力発電所廃炉:現状、東京電力は、廃炉に要する資金として見込んだ2兆円を事故収束対応に充当しているが、有識者ヒアリングにより得られた見解の一例に基づけば、燃料デブリの取出し工程を実行する過程で、追加で最大6兆円程度の資金が必要。合計最大8兆円程度の資金を要する。東電は、収益力を上げ、年間平均3000億円程度の資金を準備。国は、事故炉廃炉事業を適正かつ着実に実施するための事故炉廃炉管理型積立金制度の創設等を行うとともに、送配電事業の合理化分を優先的に充当。
- 賠償:営業損害や風評被害が続く中で、約8兆円の支援枠が必要。東電は、収益力を上げ、賠償に要する資金として、年間平均2000億円程度の資金を準備。国は、国民全体で福島を支える、需要家間の公平性を確保するといった観点から、福島原発事故の前には確保されていなかった賠償の備え不足についてのみ、託送制度を活用して広く新電力の需要家も含めて負担を求める。
- 除染・中間貯蔵:事業に要する費用の上振れなどにより、約6兆円の支援枠が必要。これまで通り、原賠機構が保有する東電株式の売却益の拡大や国の予算で対応。
- 出典:
- 「東電改革提言」
②新たな局面に対応するための東京電力と国の役割分担、東電改革の必要性
- 国の事故対応制度と事故事業者の抜本的改革で対処するとの原則を確立し、対処。
- 国の事故対応制度は、以下の3点から構成。
(ア)一時的支援と改革実現のモニタリング
(イ)福島復興加速化や賠償等の必要な事業の実施
(ウ)事故炉廃炉のための制度の整備 - この事故対応制度の中で、事故事業者である東電が主たる対応を果たす原則は変わらず、総額約22兆円のうち、東電が捻出する資金は約16兆円と試算される。
- 東電は、賠償・廃炉については、その所要資金として年間5000億円規模の資金を確保し、除染に関しては、より長い時間軸の中で、企業価値向上による株式売却益4兆円相当を実現する。
- 消費者の視点で見て、今回の措置により、総じて、電力料金は値上げとはならないようにする。
- 東電改革を契機として、電力産業全体に広がり、さらに大きな消費者利益が実現。東電改革の実現が福島の安定と国民利益の拡大を同時に達成する鍵となる。
- 出典:
- 「東電改革提言」
(2)東電改革、2011年の緊急体制から本格的体制を築く
①経済事業
- JERAの事例に倣い、送配電事業・原子力事業についても、課題解決に向けた共同事業体を他の電力会社の信頼と協力を得て早期に設立し、再編・統合を目指す。各事業の性格に応じて時間軸を設定し、ステップ・バイ・ステップで進める。
- 経済事業の理念は、「世界市場で勝ち抜くことで、福島への責任を果たす」とする。
②原子力事業
- 原発の再稼働は、確実に収益の拡大をもたらし、福島事業の安定にも貢献。
- しかし、東電は原発事故を起こした事業者。過去の企業文化と決別し、安全性を絶えず問い続ける企業文化、責任感を確立することが必要。このため、他の電力会社の協力を躊躇なく要請し、海外の先進的事業者のチェックも受け入れ、安全性向上と効率化を実現。地元との対話を重ね、地元本位・安全最優先の事業運営体制を確立。
- 原発依存度低減の中で、安全防災を支える技術と人材を確保し、継続的な安全投資を行いつつ、海外市場や廃炉ビジネスへの展開を図るためには個社での努力では限界がある。こうした共通課題の解決に向けて、他の原子力事業者との共同事業体を設け、再編・統合を目指す。これにより、企業価値向上に貢献。
- 原子力事業の理念は、「地元本位、安全最優先」とする。
③福島事業
- 廃炉事業は、長期間、相当な規模の資金を投入して行う国家的事業。福島復興事業は、東電が国と共同で行うべき責任事業。
- 廃炉事業は、グローバルレベルのエンジニアリング能力を強化し、事業を貫徹。リスク・リソース・時間の3つの要素を最適化する事業体制を築き上げる。
- 福島事業の理念は、「福島事業が東電存続の原点、国と協力しながら世界最先端の技術を集積、福島への責任を果たす」とする。
④経済事業と福島事業とのブリッジ
- 福島事業を支えるためには、まずは廃炉と賠償のため当面の資金を確保することが重要。主として送配電事業や原子力事業が担う。
- 原賠機構が株式売却益により除染費用相当分を回収するための企業価値向上は、腰を据えてより長い時間軸の中で対応。再編・統合が先行する燃料・火力事業、異業種連携に着手した小売事業が貢献。加えて、送配電事業や原子力事業も、将来的な企業価値向上に貢献。
- 共同事業体を設立する過程で、経済事業による福島事業への貢献ルールを開発。
(3)実行体制を早期に確立、早期着手を
①東京電力は、次世代への早期権限移譲を実現
- 原子力事業、経済事業は、過去と決別した新たな発想が必要。また、改革初期は相当なエネルギーを要し、改革が実現するまでには相当な時間を要する。このため、腰を据えてより長い時間軸の中で粘り強く取り組むことができる体制が必要であり、次代を担う世代を中心に権限移譲を実現し、過去の発想としがらみにとらわれず、大胆に実行できる体制を早急に構築し、改革を早期に着手することを求める。
- 東電は、JERAの先行例を参考に、再編・統合を目指した共同事業体の提案を受け付ける公正なプロセスを開始。このプロセスを通じて、東電が、他の電力会社から事業に対等に取り組みうるパートナーであるとの信頼を勝ち得るよう努力する。
- これらの改革を進めるため、東電において、指名委員会等設置会社のガバナンスの下、取締役会と執行陣が密接に連携して改革初動を全うすることを期待。
②国は、改革実行という視点で関与し、福島事業の安定と経済事業の早期自立を促す
- 東電改革の基本を実行できる東電の経営体制を国は求めるべき。国は、この視点に合致する限り、外部の人材が過半を占める指名委員会等設置会社の仕組みを最大限活用し、東電の意思決定を尊重。
- 国は、福島事業の安定と、経済事業の早期自立を求める。国は、2016年度末の経営評価も経て、2019年度に国の関与の基本的な考え方についてレビューを行い、判断。それまでに、改革の進捗を確認しながら、自立の可能性を見極める。
- 東電が、ベンチマークを達成目標として設定し、厳格に進捗管理を行い、その評価結果を責任とリンクさせることを要請。
③東電委員会の今後の対応
- 東電委員会は、本提言が、国が認定する東電の新・総合特別事業計画の改訂に反映され、東電の手で実行に移されるよう、国に要請。
- また、2016年度末から半年は改革初動の時期であり、今後の改革の成否を左右する。福島事業、経済事業、原子力事業とも、次世代を中核とした新たな改革実行の体制が立ち上がり、他の電力会社などと真剣な協議も始まる極めて重要な時期。
- そこで、東電委員会は、国から要請を受けて、新・総合特別事業計画の改訂内容と東電改革の実行体制が、この提言内容に沿ったものであるかどうかを確認。
3. 原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の改正
2016年12月に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針について」において、廃炉・汚染水対策については、東京電力グループ全体で総力を挙げて責任を果たしていくことが必要であり、国はそれに必要な制度整備等を行うこととされたこと等を踏まえ、事故炉廃炉の確実な実施を確保するため、事故炉の廃炉を行う原子力事業者(事故事業者)に対して、廃炉に必要な資金を機構に積み立てることを義務づける等の措置を講ずることを内容とする「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の一部を改正する法律案」が2017年2月に閣議決定され、国会に提出・成立しています。
本法案が施行された場合は、機構に、廃炉等積立金の管理に関する業務が追加されることとなります。
- 出典:
- 経済産業省
4. 新・総合特別事業計画
(1) 新・総合特別事業計画の経緯
政府は、東京電力による迅速かつ適切な賠償の実施を確保するため、2011年11月に機構及び東京電力により政府宛に申請された特別事業計画を初めて認定しました。政府は、東京電力による迅速かつ適切な賠償の実施や経営合理化等を含む改革を着実に実施するため、2012年5月には、認定特別事業計画の変更の認定(「総合特別事業計画」の認定)を行いました。当該計画においては、その時点での要賠償額の見通し2兆5,462億7,100万円から、原子力損害の賠償に関する法律第7条第1項に規定する賠償措置額として既に東京電力が受領している1,200億円を控除した金額2兆4,262億7,100万円を、損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていました。その後、新たな賠償基準の策定等により、要賠償額が増額する見通しとなったため、政府は、2013年2月及び6月に、それぞれ認定特別事業計画の変更(総合特別事業計画の一部変更)の認定を行いました。その後、同年12月に原子力災害対策本部決定・閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」において、国と東京電力の役割分担が明確化されたこと等を受けて、政府は、2014年1月、認定特別事業計画の変更の認定(「新・総合特別事業計画」の認定)を行いました。当該計画において、東京電力は、「責任と競争」の両立を基本に、東京電力グループ全体として賠償、廃炉、福島復興等の責務を全うしていくとともに、電力の安定供給を貫徹しつつ、電力システム改革を先取りした新たなエネルギーサービスの提供と企業価値向上に取り組むこととしています。なお、当該計画では、機構は東京電力に対し、「新・総合特別事業計画」申請時点(2013年12月27日)の要賠償額の見通しから前述の1,200億円を控除した金額4兆4,788億4,400万円を、損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていました。その後、新たな賠償基準の策定等により、要賠償額が増額する見通しとなったため、政府は2014年8月8日、2015年4月15日、2015年7月28日、2016年3月31日、2017年1月31日に新・総合特別事業計画の一部変更の認定を行いました。最新の当該計画における資金交付の時期については、要賠償額から1,889億2,666万円を控除した8兆1,774億7,833万円のうち、既に機構が交付した約6兆8,518億円を控除した金額を、2016年度及び2017年度までに交付する予定となっています。
【第115-4-1】これまでの要賠償額・資金援助額の推移
- 出典:
- 東京電力ホールディングス
(2)新・総合特別事業計画のポイント
(2014年1月15日認定、2014年8月8日、2015年4月15日、2015年7月28日、2016年3月31日、2017年1月31日一部変更認定)
①原子力損害の賠償
現時点における要賠償額の見通しは8.4兆円となっているが、東京電力は、2015 年の閣議決定を踏まえ、事故の原因者として被害者の方々に徹底して寄り添い、賠償額の増加にとらわれずに最後の一人まで賠償を貫徹するとともに、国の自立支援施策の展開に最大限協力する。
引き続き迅速かつきめ細やかな賠償を徹底するとともに、原子力損害賠償紛争解決センターによる和解仲介案を尊重する。また、中間指針第四次追補関連等の賠償に係る未請求者の個人の方に対しても、ダイレクトメールの送付や、電話連絡、戸別訪問による請求の呼びかけ等を実施し、賠償の貫徹に努めていく。
②福島復興に向けた取組
福島復興本社の設立(2013年1月)以降、東京電力は、「10万人派遣プロジェクト」 により、社員一人ひとりが、被災現場や避難場所に足を運び、被害者の方々や、地元自治体のご意見・ご要望を地道に承り、除染や復興の推進活動に全力を注いできた。
今後はさらなる福島復興の加速化に向け、東京電力は、「10万人派遣プロジェクト」による社員の派遣を継続し、特に生活環境の整備や農業漁業商工業の再開支援へのご協力などに人的・技術的資源を集中投入する。また、福島復興本社における企画立案機能のさらなる強化等のため、500人規模の管理職の福島専任化を行い、国や自治体との連携加速、産業基盤の育成や雇用創出に主体的に取り組む。加えて、同本社は、今後帰還される住民に先立って、Jヴィレッジから避難指示区域内に移転する。
さらに、復興の中核となる産業基盤の整備や雇用機会の創出に向け、国と連携して「先端廃炉技術グローバル拠点構想」の実現に尽力するほか、世界最新鋭高効率石炭火力発電所の建設を進めるなど、人材面・技術面・資金面において東京電力自らの資源を積極的に投入する。
③事故炉の安定収束・廃炉と原子力安全
東京電力は、福島第一原子力発電所の汚染水問題への対応を真摯に反省し、ハード・ソフト両面の対策、現場のモチベーション向上策などを総合的に実施する。加えて、1兆円超の追加支出枠を合理化などによって捻出するほか、多核種除去設備(ALPS)増強による高濃度汚染水の浄化(トリチウム以外)、福島第一原子力発電所5・6号機の廃炉及びモックアップ実機試験への活用を行う。
また、国のガバナンスの下で廃炉・汚染水対策を国家的プロジェクトとして完遂するため、原子力部門から独立した「福島第一廃炉推進カンパニー」を創設し、事故対処に集中できる体制を整備するとともに、我が国の専門的知見を有する社内外の人材の積極的な活用により、廃炉等に係る技術的課題を克服できるよう、オールジャパンの体制で取り組む。
これらにより、東京電力は、廃炉・汚染水対策について事故後の緊急的な対応を改め、国とともに30~40年にわたる長期的な廃炉作業を、緊張感を持って着実に進めていく。また、事故炉の廃炉対策など技術開発や人材育成を通じて広く世界に貢献するため、国とともに廃炉や原子力安全に関する研究開発のための国際的プラットフォームの整備を進める。さらに、従来の安全文化・対策に対する過信と傲りを一掃し、不退転の覚悟を持って原子力部門の安全改革に取り組むことで、世界最高水準の安全意識と技術的能力、社会との対話能力を有する原子力発電所運営組織を実現していく。
④経営の合理化のための方策
東京電力は、2012年4月の総合特別事業計画策定後、外部専門家を活用した調達改革、リスク限度の精緻化・見直しなどに踏み込んだ抜本的な合理化を断行し、計画を上回る成果を挙げつつある。また、社内カンパニー制・管理会計を導入し、全社へのコスト意識の徹底を図ってきた。今後もこれらを徹底し、総特目標に1.4兆円上積みし、10年間累計で4.8兆円のコスト削減を目指す。
こうした合理化を始めとする様々な経営努力により、自己資本比率を高め、2016年度中の公募社債市場への復帰を目指す。
⑤ホールディングス(HD)カンパニー制の下での事業運営の方向性
今後の競争激化や震災後の節電の定着などを踏まえると、事業基盤である電力需要の中期的な減少リスクは否定できない。このような前提の下、東京電力は、HDカンパニー制を活用した徹底的なビジネスモデルの改革を推進する。
具体的には、福島復興本社と廃炉を含む原子力事業、グループ本社機能を持つ持株会社の下に、燃料・火力、送配電、小売の各事業子会社を設置する。これにより、持株会社は、経営層によるグループ全体のマネジメントを行うとともに、賠償、廃炉、福島復興に責任を持って取り組み、東電グループとして「事故責任の貫徹」を堅持する。また、各事業子会社は、事業の特性に応じた事業戦略を実現し、我が国経済全体に貢献しつつ、企業価値を向上させる。
5. 賠償の実績
東京電力は、中間指針等を踏まえて、政府による避難等の指示等によって避難を余儀なくされたことによる精神的損害に対する賠償、財物価値の毀損に対する賠償、営業損害に対する賠償等を実施してきました。2017年3月24日現在で、総額約7兆107億円の支払いが行われています。今後とも、被害を受けた方々の個別の状況を踏まえて適切かつ迅速な賠償を行っていくよう、東京電力を指導していきます。
【第115-5-1】東京電力による原子力損害賠償の仮払い・本賠償の支払額の推移(2017年3月24日時点)
- 出典:
- 東京電力ホールディングス資料より経済産業省作成