第1節 電力システム改革の断行
1.電力システム改革小委員会制度設計ワーキンググループにおける議論
2013年2月の総合資源エネルギー調査会総合部会電力システム改革専門委員会報告書、同年4月に閣議決定された電力システムに関する改革方針、同年11月に成立した電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)等において、遅くとも2020年までに実現すべき電力システム改革の工程、手順の基本的な方向性が示されました。これを受け、電力システム改革を着実に進めていく上での実務的な課題への対応も含めた具体的な制度設計に関する検討・審議を行うため、2013年7月に、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革小委員会の下に「制度設計ワーキンググループ」を設置し、昨年度に引き続き、2014年度は、計7回にわたる精力的な議論を行いました。
【第361-1-1】電力システム改革小委員会 制度設計ワーキンググループ 各開催回の議題
2. 電気事業法等の一部を改正する法律(第2段階)の成立
電力システムに関する改革方針(2013年4月閣議決定)や、電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)の附則に定めた改革スケジュールに基づき、改革の第2段階である「電気の小売業への参入の全面自由化」を実施するために必要な措置等を定めた電気事業法等の一部を改正する法律案の閣議決定を2014年2月28日に行い、第186回通常国会に提出されました。また、同法案は、2014年6月11日に成立しました。
第2段階の法律改正の内容
1.電気事業法の一部改正
①小売参入の全面自由化の実施
- 現在、一般電気事業者にしか認められていない家庭等への電気の供給を自由化する(小売参入の全面自由化)。
- 自由化に伴い、電気事業の類型を見直し、発電(届出)・送配電(許可)・小売(登録)の事業区分に応じた規制体系へ移行する。
②電気の安定供給を確保するための措置
- 一般送配電事業者(一般電気事業者の送配電部門)に対して、需給バランス維持、送配電網の建設・保守、最終保障サービス(需要家が誰からも電気の供給を受けられなくなることのないよう、セーフティネットとして最終的な電気の供給)、離島のユニバーサルサービス(離島の需要家に対する、他の地域と遜色ない料金水準での電気の供給(需要家全体の負担により費用を平準化))を義務付けるとともに、これらを着実に実施できるよう、地域独占と総括原価方式の託送料金規制(認可制)を措置する。
- 小売電気事業者に対して、需要を賄うために必要な供給力を確保することを義務付ける。
- 将来的な供給力不足が見込まれる場合に備えたセーフティネットとして、広域的運営推進機関が発電所の建設者を公募する仕組みを創設する。
③需要家保護を図るための措置
- 現在の一般電気事業者に対し、当分の間、経過措置として料金規制を継続する。
- 小売電気事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課す。
④その他
- 現在の一般電気事業者が、引き続き一般担保付社債を発行できるようにする(改革の第3段階での法的分離の実施に際して改めて検討を行い、必要な措置を講じる)。
- 電気の卸売に係る規制の撤廃、卸電力取引所における取引の適正性確保(取引所の法定化)、保安規制の合理化を行う。
2. 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法の一部改正
- 電気事業法の事業類型の見直しに伴い、再生可能エネルギー電気の買取義務者を一般電気事業者等から小売電気事業者等に変更する。
3.商品先物取引法の一部改正
- 電力先物取引を可能にするため、商品先物取引法における先物取引の対象に「電力」を追加する。
3.電気事業法等の一部を改正する等の法律案(第3段階)の閣議決定・通常国会への提出
電力システムに関する改革方針(2013年4月閣議決定)や、電気事業法の一部を改正する法律(平成25年法律第74号)の附則に定めた改革スケジュールに基づき、所要の検証を行った上で、電力システム改革の第3段階である「法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保や電気の小売料金の全面自由化」を実施するとともに、電力システム改革と併せて、ガスシステム改革及び熱供給システム改革を一体的に推進(次節参照)するために必要な措置等を定めた電気事業法等の一部を改正する等の法律案の閣議決定を2015年3月3日に行い、第189回通常国会に提出されました。
電気事業法等の一部を改正する等の法律案の内容
1.電気事業法の一部改正等
① 送配電事業の中立性確保(平成32年4月1日施行、②も同じ)
- 一般送配電事業者・送電事業者が小売電気事業や発電事業を行うことを禁止(兼業規制による法的分離)。
- 適正な競争関係を確保するため、一般送配電事業者・送電事業者と、そのグループの発電事業者や小売電気事業者等に対し、取締役の兼職禁止等の行為規制を措置。
②小売料金規制撤廃
- 小売料金規制の経過措置について、対象事業者を指定する制度とし、適正な競争関係が確保されている供給区域では経過措置の解除を可能とする。
③その他の改正等
- 現在、一般電気事業者に認められている一般担保付社債の発行の特例を廃止。ただし、施行後5年間は発行を可能とする経過措置を講ずる。また、政投銀や沖縄公庫による一般担保付貸付金を廃止。
- 需要抑制の活用に資する電力量調整供給に係る規定の整備や、風力発電への定期的な検査の導入、保安規制の合理化を行う。
- 法施行やエネルギー基本計画の実施の状況、需給状況等について各段階で検証を行い、その結果を踏まえ必要な措置を講ずる旨を規定。
2.ガス事業法の一部改正
① 小売参入の全面自由化(公布日から2年6月以内に施行、②及び③も同じ)
- 現在、一般ガス事業者にしか認められていない家庭等への供給を全面自由化。併せて簡易ガス事業の許可制を廃止。
- 自由化に伴い事業類型を見直し、製造(届出)・一般ガス導管(許可)・特定ガス導管(届出)・小売(登録)の事業区分に応じた規制体系に移行。
- LNG基地の第三者利用を促すため、第三者が利用する場合の約款の作成・公表等をガス製造事業者に義務付け。
②ガス導管網の整備
- 導管の建設・保守を着実に実施できるよう、一般ガス導管事業には地域独占と料金規制(総括原価方式:認可制)を措置。
- 事業者間の導管接続の協議を国が命令・裁定できる制度を創設。
③需要家保護と保安の確保
- 競争が不十分な地域においては、現在の一般ガス事業者に対し経過措置として料金規制を継続(経過措置の解除に当たっては競争の進展状況を確認)。
- 一般ガス導管事業者に対し、最終保障サービスの提供を義務付け。
- ガス小売事業者に対し、供給力確保、契約条件の説明等を義務付け。
- ガス導管事業者に導管網の保安や需要家保有の内管の点検等を義務付けるとともに、ガス小売事業者に消費機器の調査等を義務付け。
④導管事業の中立性確保(平成34年4月1日施行)
- 一定規模以上のガス導管事業者がガス製造事業やガス小売事業を行うことを禁止(兼業規制による法的分離)。
- 一定規模以上のガス導管事業者と、そのグループのガス製造事業者やガス小売事業者等に対し、取締役の兼職禁止等の行為規制を措置。
- 法施行やエネルギー基本計画の実施の状況、需給状況等について各段階で検証を行い、その結果を踏まえ必要な措置を講ずる旨や、LNG調達や保安に係る国の責務を規定。
3. 熱供給事業法の一部改正(公布日から1年6月以内に施行)
- 現在、許可制としている熱供給事業への参入規制を登録制とする。
- 料金規制や供給義務などを撤廃。ただし、他の熱源の選択が困難な地域では、経過措置として料金規制を継続。
- 熱供給事業者に対し、需要家保護のための規制(契約条件の説明義務等)を課す。
4. 経済産業省設置法等の一部改正(公布日から6月以内に施行(設立))
- 電力・ガス・熱の取引の監視及び行為規制の実施等を業務とする「電力・ガス取引監視等委員会」を大臣直属の「8条委員会」として設立。
- 独立性を確保するため、委員が独立して職務を遂行すること、事業者への業務改善勧告の権限等を措置。
- 高度の専門性を確保するため、法律、経済、工学等の知見を有し、公正かつ中立な判断をすることのできる専門家を委員とする。
4. 電気料金値上げ認可申請への厳正な対応と電気料金審査要領の見直し
(再掲 第1部第3章第1節2.(3)参照)