第2節 「経済と環境の好循環の実現」に向けた日本のエネルギー関連先端技術導入支援や国際貢献

世界のエネルギー需要の重心がアジアにシフトするとともに、エネルギー源は多様化し、そして気候変動問題への対応も求められる等、世界のエネルギーを巡る課題は、より拡大・深化し、一層複雑化しています。気候変動問題に関しては、2020年から「パリ協定」が本格的に実施となり、2025年1月に、米国の第2期トランプ政権がパリ協定からの再度の脱退を表明した後も、世界ではGDPベースで約7割の国・地域がカーボンニュートラル目標を表明している等、世界全体で脱炭素に向けて取り組んで行く必要性や方向性は変わっていません。

こうした状況の中、排出される温室効果ガスの大宗を占めるエネルギー分野における取組が重要となっており、日本が厳しいエネルギー制約の中で、これまで蓄積してきた技術やノウハウを世界に普及していくため、こうした技術やノウハウを統合して、再エネ及び省エネ技術、スマートコミュニティ等のインフラという形で国際展開を推進していくことが重要です。また、途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策の実施を通じて実現した温室効果ガスの排出削減・吸収への日本の貢献を、定量的に評価するとともに、日本における削減目標の達成に活用するため、JCMの構築・実施にも取り組んでいます。

さらに、世界全体のカーボンニュートラルの実現に向けて、個別の挑戦課題とこれらを社会実現する道筋・手法を提示するため、2024年10月には、「東京GXウィーク」(カーボンリサイクル産学官国際会議、GGX(Global GX) Finance Summit、Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)、RD20東京シンポジウム等)を開催しました。各国閣僚や各分野をリードする世界の有識者や、指導者を招き、GXの実現に向けた個別の挑戦課題とこれらを社会実現する道筋・手法について幅広い議論を行い、「多様な道筋」・「イノベーション」・「途上国とのエンゲージメント」をキーワードとして、「経済と環境の好循環の実現」に向けた現実的かつ具体的な道筋・絵姿を、世界に対して発信しました。

<具体的な主要施策>

1.案件形成・実証等の支援

(1)案件形成、事業実施可能性調査

○グローバルサウス未来志向型共創等事業

【2023年度補正:1,083億円の内数】

今後成長が見込まれる未来産業に関し、グローバルサウス諸国において日本企業が現地企業と互いの強みをいかしながら行う、強靱なサプライチェーンの構築、カーボンニュートラルの実現等に資する案件について、FSや実証等により支援しました。

(2)人材育成等

○新興国等における脱炭素化・エネルギー転換に資する事業委託費

【2024年度当初:7.6億円】

省エネや新エネルギー(新エネ)に係る日本の先進的な技術・システムの国際的な普及を支援するため、新興国を中心に、人材育成を通じた省エネ対策や新エネ導入に関する制度構築支援、各国の動向調査、政策共同研究等を実施しました。

(3)官民連携を核とした推進体制の強化

○世界省エネルギー等ビジネス推進協議会

世界省エネルギー等ビジネス推進協議会は、2008年に、省エネ・新エネ分野で優れた技術を有する日本の企業・団体によって設立されました。この協議会は、2025年1月時点で42企業・21団体で構成されており、設立以来、政府と経済界が一体となって、関連製品や技術を基にしたビジネスの国際展開を推進しています。

具体的な活動内容として、地域別・テーマ別にワーキンググループ等を組織し、ミッション派遣やフォーラム開催等によるビジネス機会の獲得、市場分析やプロジェクト発掘に向けた調査、海外での展示会の出展、関連製品・技術を取りまとめた「国際展開技術集」の作成及び周知等を行いました。

2.二国間クレジット制度(JCM)の推進

(1)JCMの構築・実施

2013年1月に、モンゴルとの間で初めてJCMを構築したことを皮切りに、「二国間クレジット制度(JCM)の拡大のため、2025年を目途にパートナー国を30か国程度とすることを目指し関係国との協議を加速する」という方針2に基づき、JCMパートナー国の拡大に取り組んでいます。

2024年度末時点のパートナー国は、モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ、フィリピン、セネガル、チュニジア、アゼルバイジャン、モルドバ、ジョージア、スリランカ、ウズベキスタン、パプアニューギニア、UAE、キルギス、カザフスタン、ウクライナの計29か国となっており、関係国との協議に取り組んでいます。

(2)JCMプロジェクトの形成の支援

①民間主導によるJCM等を通じた低炭素技術国際展開事業

【2024年度当初:7.0億円】

JCMの構築に係る協力覚書に署名した相手国において、JCMクレジットの発行を念頭に置きつつ、優れた脱炭素技術の実証及び温室効果ガスの排出削減効果についての測定・報告・検証に係る実証を行いました。

②二国間クレジット取得等のためのインフラ整備調査事業委託費

【2024年度当初:8.8億円】

JCMの意思決定機関である合同委員会の運営や、クレジットを管理する登録簿の基盤整備・運用を行うとともに、JCMに関するプロジェクトのFSを実施しました。また、官民イニシアティブであるCEFIAを通じて、ASEAN地域に省エネ・再エネ等のクリーンエネルギーの導入を促進する取組を行いました。

③脱炭素移行に向けた二国間クレジット制度(JCM)促進事業

【2024年度当初:143億円、2024年度補正:1.5億円】

JCMに署名済みのパートナー国において、優れた脱炭素技術等を活用したエネルギー起源CO2排出削減設備・機器の導入プロジェクトへの資金支援を実施しました。また、アジア開発銀行(ADB)及び国際連合工業開発機関(UNIDO)へ資金拠出を行い、これらの国際機関のネットワークも活用しながら、JCMスキームによるアジア、アフリカ諸国等への脱炭素技術・製品の普及・拡大に貢献しました。また、ウクライナなどでのJCM案件の創出を念頭に、欧州復興開発銀行(EBRD)と環境省の間でJCMに関する基金の設立に向けた意向表明書に署名しました。

④アジア等国際的な脱炭素移行支援のための基盤整備事業

【2024年度当初:14億円】

「アジア・ゼロエミッション共同体構想」の実現等に貢献するため、JCMの効果的・効率的な実施及びJCMプロジェクトの拡大と更なる展開に向け、途上国等における法制度整備、案件形成、事業資金支援等を包括的に支援すべく、途上国における長期戦略の策定支援、民間セクター全体での排出量把握・情報開示等の透明性向上の推進、アジア等の途上国における都市間連携を活用した脱炭素化事業の実現支援、大気汚染・廃棄物処理を促進する脱炭素事業及び高効率ノンフロン機器の国際展開を推進する事業を行いました。

3.「経済と環境の好循環の実現」に向けた国際的な議論・取組

(1)東京GXウィーク

経済産業省は、GXの実現を目指し、2024年10月6日から10月15日にかけて、エネルギー・環境関連の国際会議を集中的に開催する「東京GXウィーク」を開催し、合計で3,000人以上がオンライン及び対面で参加しました。

①第6回カーボンリサイクル産学官国際会議

経済産業省とNEDOは、2024年10月11日に「第6回カーボンリサイクル産学官国際会議」を開催しました。この会議は、2019年から行われており、今回は27の国・地域から、会場及びオンラインで約840人が参加しました。経済産業省からは竹内経済産業大臣政務官が出席し、日本の優れた技術・取組等を発信するとともに、講演・パネルディスカッション、学生と専門家との交流会、ポスター展示等を通じて、カーボンニュートラルに向けたカーボンリサイクルの重要性や、技術開発の進展、新たな課題への対応の必要性等について確認しました。

②GGX Finance Summit 2024

経済産業省は、トランジション・ファイナンスや産業の脱炭素化に関する議論をさらに深めるため、官・民・金の相互連携を推進し、排出削減と経済成長を両立させる国際的なルールメイクをリードすることを目的として、2024年10月15日に「GGX Finance Summit」を開催しました。本会合では、GX市場の拡大、GXスタートアップエコシステムの構築、トランジション・ファイナンスの今後の展望、移行計画の策定について議論を行いました。

③第11回Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)

2024年10月9日から10日にハイブリッド形式で開催した第11回年次総会では、「How to Live within the Planetary Boundaries through Green Innovation」をメインテーマに掲げ、地球温暖化問題解決の鍵となるグリーン・イノベーションについて議論が行われました。2日間の会合を通じて、各国政府機関、産業界、学界、国際機関等、計93か国・地域から約1,700人が参加しました。

また、一連の議論を踏まえ、ICEF運営委員会によるステートメントを発表しました。さらに、「AIと気候変動緩和 第2版」をテーマとした技術動向分析(ロードマップ)のドラフトを公開し、会合終了後に開催されたCOP29の場で最終版を発表しました。

④RD20東京シンポジウム2024・第6回RD20国際会議

RD20は、G20の研究機関によるクリーンエネルギー分野の国際連携イニシアティブです。2024年はRD20国際会議の初の日本国外開催に伴い、RD20の活動をアピールする国内イベントとして、「RD20東京シンポジウム2024」が東京GXウィーク期間中の2024年10月11日に開催され、太陽光発電・水素等に関する世界のトップ研究者らの講演が行われました。また、第6回RD20国際会議リーダーズセッションが同年12月3日にインド・ニューデリーで開催され、RD20のG20への貢献等が議論されました。リーダーズセッションに先立つ12月2日には水素・バイオ燃料等のテクニカルセッションが開催され、また12月4日、5日には関係者限りのワークショップが開催されました。

(2)ゼロエミッション国際共同研究センター

2020年1月29日に、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)は、「ゼロエミッション国際共同研究センター」を設置しました。研究センター長には、2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士が就任しました。当該センターにおいては、国際連携の下、次世代太陽電池、蓄電池、水素、CO2分離・利用・固定化、人工光合成等の革新的環境イノベーション戦略の重要技術の基盤研究を実施しているほか、G20各国の研究機関の国際連携を通じて脱炭素社会の実現を目指すイニシアティブ「RD20」や、東京湾岸エリアの企業、大学、研究機関、行政機関等と連携してゼロエミッション技術に係る研究開発・実証、成果普及・活用等に取り組む「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会」(ゼロエミベイ)の事務局を担う等、イノベーションハブとしての活動を推進しました。

(3)第6回・第7回CEFIA官民フォーラム

ASEAN地域において、クリーンエネルギーの普及と政策・制度の構築をビジネス主導で進めることを目的として立ち上げられた官民共同イニシアティブであるCEFIAの下、「官民フォーラム」を開催することとしており、「第6回CEFIA官民フォーラム」を2024年7月23日にタイ・バンコクにおいて、「第7回CEFIA官民フォーラム」を2025年2月13日に神戸において、それぞれ開催しました。

「第6回CEFIA官民フォーラム」では、CEFIAの下で注力してきた具体的なプロジェクト(フラッグシッププロジェクト)であるRENKEI(工場等での動力最適化による省エネ)、ZEB、SteelEcosol(製鉄所の省エネ)、空調、バイオ炭(炭素を貯留するバイオ炭の活用)、マイクログリッド(再エネと蓄電池を統合したエネルギーマネジメントシステムの導入)に取り組んできた企業・業界団体が、各プロジェクトの活動状況を紹介しました。また、工場のDX・GX化に向けた人材育成、水素・アンモニア等に関する日本の産業界の最新の取組、削減貢献量等の横断的な取組の紹介に加えて、ASEANの各国政府や地場銀行等の様々な立場から脱炭素技術を普及するための金融商品やリスク軽減方法等、今後のCEFIAの方向性について議論を行いました。

「第7回CEFIA官民フォーラム」では、各フラッグシッププロジェクトや横断的な取組の進捗、今後の展開に関する報告に加えて、日本の水素・アンモニア政策を紹介した上で、新たなフラッグシッププロジェクトとして、「水素・アンモニア」を立ち上げました。また、日本の先進技術・取組として、ペロブスカイト太陽電池、CCUS、日本の金融機関によるトランジション・ファイナンスを紹介し、今後の官民連携の方向性について活発な議論を行いました。さらに、フォーラムに参加したASEAN政府関係者向けに、日本の水素・アンモニア関連施設への視察機会を設けたほか、日本企業とのネットワーキングの機会も設け、フォーラムの日本開催を、日ASEAN双方の関係者の交流・理解を一層深める場として活用しました。

(4)LNG産消会議2024

「LNG産消会議」は、LNGの生産国・消費国が、LNGの長期的な需給見通しの共有と、取引市場の透明化に向けた連携を図るプラットフォームとして、2012年より毎年開催しています。

経済産業省及びIEAは、2024年10月に広島で「LNG産消会議2024」を開催しました。今回の会議は、官民対話に重点を置き、LNG輸入者国際グループ(GIIGNL)と連携して開催しました。開催に先駆けて、議論を喚起するディスカッションペーパーを経済産業省とIEAの連名で公表し、これに基づき、政府セッションのほか、官民のパネルディスカッションを実施しました。こうしたLNG生産国と消費国の官民対話を通じ、ネット・ゼロに向けたLNGの役割について議論しました。会議の成果は経済産業省とIEAの連名で、共同議長サマリーとして取りまとめました。

(5)第4回アジアCCUSネットワークフォーラム

経済産業省は、ERIAとともに、2024年8月にタイ王国・バンコクで「第4回アジアCCUSネットワークフォーラム」を開催しました。本会合は、アジア全域でのCCUS活用に向けた知見の共有や事業環境整備を目指して2021年から行われており、今回は会場及びオンラインで400人以上が参加しました。経済産業省からは、齋藤経済産業大臣がビデオメッセージにて挨拶を行いました。また、CCUSの規制枠組み、カーボンリサイクル技術、加盟国におけるCCUSビジネスチャンス等について議論を行い、日本の今後のCCUS政策に参加メンバーから高い関心が寄せられました。

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2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」より。