第1節 原子力を巡る環境と政策対応
2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化等を受け、エネルギー安全保障への対応が急務となっています。加えて、DXやGXの進展により電力需要増加が見込まれる中、脱炭素電源の確保が国力を左右する状況にあります。こうした背景を受け、2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」では、特定の電源や燃料源に過度に依存しないバランスの取れた電源構成を目指すとともに、脱炭素電源を確保するため、再エネか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再エネと原子力を共に最大限活用していく方針が示されました。「第7次エネルギー基本計画」に基づき、原子力を利用するに当たり、立地地域との共生に向けた政策や国民各層とのコミュニケーションの深化・充実、核燃料サイクル・廃炉・最終処分といったバックエンドプロセスの加速化を進めていきます。再稼働については、安全性の確保を大前提に、産業界の連携、国が前面に立った理解活動促進、原子力防災対策等、再稼働の加速に向け官民を挙げて取り組むとともに、設備利用率の向上に向けた取組を進めていきます。新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・設置については、地域の理解が得られるものに限り、廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での建て替え等について具体化を進めていきます。また、次世代革新炉の研究開発等を進めるとともに、サプライチェーン・人材の維持・強化にも取り組んでいきます。
原子力発電所の再稼働は、高い独立性を有する原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、その判断を尊重し、地元の理解を得ながら、原子力発電所の再稼働を進めるという方針の下、2024年11月には、東北電力女川原子力発電所2号機が、東日本の原子力発電所として、また、国内の沸騰水型軽水炉(BWR)として、東日本大震災後初めて再稼働しました。同年12月には、中国電力島根原子力発電所2号機が再稼働(国内のBWRとして2基目)し、2025年3月時点では、全国で計14基が再稼働しています。
今後も原子力発電を安定的に利用するためには、使用済燃料への対処が重要です。日本は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、核燃料サイクルの推進を基本的方針としています。核燃料サイクルの中核となる六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場の竣工に向け、審査対応の進捗管理や必要な人材確保などについて、官民一体で取り組んでいます。
また、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を堅持し、プルトニウム保有量を適切に管理し、削減に取り組むことが必要です。電気事業連合会は、2020年12月に「新たなプルサーマル計画について」を公表し、2025年2月には新たな「プルトニウム利用計画」を策定しました。また、国は、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律(平成17年法律第48号)」(以下「再処理等拠出金法」という。)の枠組みに基づき、使用済燃料の再処理等の実施主体である使用済燃料再処理・廃炉推進機構(NuRO)が策定する実施中期計画について、経済産業大臣が原子力委員会の意見を聴取した上で同計画を認可することで、プルトニウムの利用と回収のバランスの確保を図っています。
さらに、安定的かつ継続的に原子力発電を利用する上で、使用済燃料について、再処理するまでの間、貯蔵する能力を拡大することも重要です。国は、2015年10月の最終処分関係閣僚会議において、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」を策定しました。また、同プランに基づき、原子力事業者は「使用済燃料対策推進計画」を策定し、使用済燃料の貯蔵能力の拡大を図っており、2024年11月には、リサイクル燃料備蓄センター(以下「むつ中間貯蔵施設」という。)が事業を開始するなど、具体的な取組が進展しています。
加えて、核燃料サイクルの中で発生する高レベル放射性廃棄物等の最終処分についても、日本全体で取り組んでいくべき重要な課題です。国が前面に立ち、原子力発電環境整備機構(NUMO)とともに対話活動等を進めていく中、2020年11月に北海道の寿都町及び神恵内村で文献調査を開始しましたが、最終処分事業に関心を持つ他の地域は限定的な状況でした。こうした状況を踏まえ、2023年4月には、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」を改定し、同年7月には、国・NUMO・事業者の合同チームが全国の自治体を個別訪問する全国行脚を開始する等、文献調査の実施地域の拡大に向けた取組強化策等を実施しています。こうした中、2024年6月には、佐賀県玄海町において、文献調査を開始しました。引き続き、1つでも多くの地域に最終処分事業へ関心を持っていただけるよう、政府一丸となって、かつ、政府の責任で取り組んでいきます。
北海道寿都町及び神恵内村での文献調査について、2024年11月に文献調査報告書を取りまとめ、報告書の公告、縦覧、説明会などの法定の理解プロセスを開始しました。法定の理解プロセスに合わせて、最終処分事業の必要性や北海道の状況について、全国的な対話活動やメディア広報を強化しました。引き続き、地域の皆様、全国の皆様にご理解いただけるよう、丁寧に取り組んでいきます。また、高レベル放射性廃棄物の処分に関する研究開発、調査、国際連携も進んでおり、原子力の研究、開発及び利用によって発生する低レベル放射性廃棄物の処理・処分についても、安全性の確保と国民の理解を旨として、研究開発等が進んでいます。