はじめに 日本のエネルギー政策
日本は、すぐに使える資源に乏しく、国土を山と深い海に囲まれるなどの地理的制約を抱えており、過去に幾度もエネルギー安定供給の危機に見舞われ、その都度、英知を結集してエネルギー安定供給の確保に取り組んできました。しかし、2011年の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の多くが停止した結果、化石燃料に対する依存が高まり、その大宗を海外からの輸入に頼るという、エネルギー需給構造上の脆弱性が再び顕在化することとなりました。
こうした中、2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が発生し、日本を取り巻くエネルギー情勢は一変しています。エネルギー分野におけるインフレーションが世界的に顕著となり、国内でも電力需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰が生じるなど、石油危機以来のエネルギー危機が危惧される事態となりました。また2023年には、日本が原油の9割以上を依存する中東地域における軍事的な緊張が高まり、化石燃料の調達に関する不確実性が上昇するなど、日本が抱えるエネルギー需給構造上の課題が改めて浮き彫りとなりました。
エネルギーは国民生活や経済活動の基盤となるものであり、エネルギー安定供給が損なわれることは決してあってはなりません。化石燃料への過度な依存から脱却し、エネルギー危機にも耐え得るエネルギー需給構造への転換を進めていくためにも、エネルギー安全保障に重点を置いた政策の再構築を進めることが強く求められています。
また、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)による電力需要の増加が見込まれる中、それに見合った脱炭素電源を十分確保できるかが日本の経済成長や産業競争力を左右する状況にあります。
同時に、世界的な異常気象や大規模な自然災害が発生する中、世界では多くの国・地域が期限付きのカーボンニュートラル目標を表明し、脱炭素に向けた機運は高い状態にあります。こうした中、日本では、世界全体での1.5℃目標と整合的で、2050年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、2035年度、2040年度に温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指す新たな温室効果ガス削減目標を2025年2月に決定し、気候変動問題に対して国家を挙げて対応する強い決意を表明しました。
このような状況下において、エネルギー政策の原則である「S+3E1」のバランスを取りながら、エネルギー政策を進めていくことが何より重要です。特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスの取れた電源構成を目指すとともに、徹底した省エネルギー(以下「省エネ」という。)に加え、再生可能エネルギー(以下「再エネ」という。)、原子力などの脱炭素電源を最大限活用することが重要です。2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」においても、こうした考え方が明記されています。
また、世界では、脱炭素に伴うエネルギー需給構造の転換を自国の経済成長に結びつけようとする動きが広がっており、日本においてもGX産業構造、GX産業立地、エネルギー等を総合的に検討し、政策展開するために策定された「GX2040ビジョン」、「第7次エネルギー基本計画」と「地球温暖化対策計画」を一体的に遂行することにより、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を目指す取組を加速していきます。
第2部では、2024(令和6)年度に講じたエネルギー需給に関する施策の状況をまとめます。
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- 安全性の確保(Safety)を大前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)と環境への適合(Environment)を図っていく考え方のことで、この考え方を、それぞれの頭文字を取って「S+3E」と呼んでいます。