第1節 エネルギー国際協力体制の拡大・深化

世界のエネルギー情勢が大きく変化する中、各国のエネルギー需給構造をより安定化・効率化するためには、一国での取組だけでなく、多国間及び二国間のエネルギー協力を戦略的に組み合わせつつ、国際的な協力を拡大することが重要となっています。

そのため、2023年度においては、多国間の国際エネルギー枠組みを活用し、エネルギーの安定供給確保に向けた取組を進めるとともに、二国間の協力を通じて、アジア各国や先進国との協力やエネルギー供給国との関係強化を行いました。

〈具体的な主要施策〉

1.多国間枠組みを通じた協力

(1)主要消費国等における多国間協力

①国際エネルギー機関(IEA)における協力

IEAは、1974年11月、第一次オイルショックを契機として、米国の提唱により、石油消費国間の協力組織として設立されました。当初は、国際エネルギー計画(IEP)に関する協定に基づく石油の90日備蓄義務及び緊急時対応をはじめとする、エネルギー問題解決のための国際協力が主な活動内容でしたが、現在では、①低炭素技術の開発促進、省エネ・低炭素技術の開発・普及のための政策提言、低炭素技術R&Dのための技術協力、②国際石油市場・世界エネルギー需給・エネルギー技術等の見通しの策定・公表、③中国やインドを含む新興国や産油国等との協力関係の構築、④国別エネルギー政策の審査・勧告の実施等、幅広い活動を展開しています。2024年3月時点のメンバー国は、豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、韓国、リトアニア、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国の計31か国及びEUです。閣僚理事会は、概ね隔年で開催されています。直近では2024年2月に開催され、同理事会コミュニケでは、2050年ネットゼロ実現に向けたエネルギー安全保障とクリーンエネルギー移行の加速の緊急性及び再エネ、原子力、低炭素水素・アンモニア、CCUS等の導入加速の必要性の強調、ガス・重要鉱物分野におけるIEAの機能強化の重要性の認識、クリーンエネルギー投資のさらなる規模拡大の奨励とトランジション・ファイナンスに関する新たな分析の要請、非メンバー国との連携強化(インドのIEA加盟に向けた協議開始、シンガポールにおける地域協力センター開設等)の確認等を行いました。

IEAの設立時には、世界の石油需要の約7割を西側先進国が占めていたため、IEAのメンバー国も西側先進国が中心となっていますが、近年では新興国が経済成長を遂げていることから、IEAは、グローバルなエネルギー課題に取り組むためには、エネルギー需要が増加している中国等の新興国をIEAの体制に取り込んでいくことが重要と考え、2015年の閣僚理事会以降、メンバー国とは別に、「IEAアソシエーション国」という制度的枠組みを設けました。現在、アルゼンチン、ブラジル、中国、エジプト、インド、インドネシア、ケニア、モロッコ、セネガル、シンガポール、南アフリカ、タイ、ウクライナの計13か国がアソシエーション国となっています。さらに、2024年2月の閣僚理事会では、インドのIEA加盟に向けた協議の開始を歓迎しました。

また、IEAは、メンバー国のエネルギー政策及び緊急時対応政策を審査するため、メンバー国等からなるレビューチームによるピアレビュー(IDR:国別詳細審査、ERR:緊急時対応審査)を、約5年に1回の頻度で実施しています。2020年2月には、日本に対する国別詳細審査が実施され、その報告書が2021年3月に公表されました。報告書では、東日本大震災以降の日本のエネルギー政策の進捗や、日本の2050年カーボンニュートラル宣言が評価されるとともに、その実現に向けた幅広い低炭素技術を活用したエネルギー・シナリオの検討、再エネの導入拡大とエネルギー安全保障の確保に向けた電力系統への投資促進、電力及びガス市場改革の推進等が提言されました。

2022年3月と4月には、世界の石油供給と石油市場の状況を踏まえた石油備蓄の協調放出の可能性について議論するため、「IEA臨時閣僚会合」が開催されました。日本からは萩生田経済産業大臣が参加し、エネルギー市場の安定化に向けて、IEAメンバー国として石油備蓄の協調放出が合意されました。また、同年9月には、西村経済産業大臣がIEAのビロル事務局長と面談し、エネルギー市場の安定化やさらなる協力の深化について議論を行いました。

また、2023年2月には、懸念される来冬の天然ガス不足への対応に関して、特に欧州の需給バランス改善に向けた取組について議論するため、「IEA臨時閣僚会合」が開催されました。西村経済産業大臣より、IEAの分析と欧州各国の取組への歓迎や、省エネの促進に全力で取り組むこと等を含めた欧州への連帯を示し、会合では閣僚声明が採択されました。

2023年9月には、IEAで初めてとなる「IEA重要鉱物・クリーンエネルギーサミット」が開催され、エネルギー移行を推進する上で、特定国に依存しない形で重要鉱物の安定供給を確保し、そのサプライチェーンの強靱化を図ることが急務であるとの共通認識が得られました。西村経済産業大臣より、重要鉱物のリサイクル、代替技術の開発、途上国の人材育成支援等の経験を共有するとともに、IEAの今後の活動に、重要鉱物をエネルギーと並ぶ第二の柱として追加し、機能強化することを提案しました。

(ア)国際エネルギー機関分担金【2023年度当初:3.5億円】

IEAの活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。

(イ)国際エネルギー機関拠出金【2022年度補正:4.0億円、2023年度当初:6.3億円】

「世界エネルギー展望(World Energy Outlook)」をはじめとするエネルギー市場の分析や、エネルギー技術ロードマップの策定等を支援すると同時に、2023年に日本で開催されるG7にて打ち出すべく、水素・アンモニア、鉄鋼等の新たなルール検討の基盤整備、ヒートポンプ・バイオ燃料、重要鉱物、再エネの季節間・経年変動を踏まえた電力安定供給、エネルギー安全保障・気候変動・地政学リスクといったトリレンマへの対応等に係る各種調査・分析の実施を依頼するため、IEAメンバー国として拠出を行いました。

また、2023年日本G7議長年を通じ、クリーンエネルギーの導入、エネルギー安全保障、排出削減、経済成長の促進を目的に、IEAメンバー国として拠出を行いました。

②G7における協力

「G7エネルギー大臣会合」は、先進主要7か国1(日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国、イタリア)とEUのエネルギー担当大臣による閣僚会合として、1998年から不定期に、サミット議長国が開催しています。

2023年4月15日、16日に、日本が主催する「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」が日本・札幌にて開催され、西村経済産業大臣及び西村環境大臣が出席しました。気候・エネルギー分野においては、気候変動対策とエネルギー安全保障の確保、さらに経済成長の同時推進が求められる中、本会合では、多様な道筋の下で共通のゴールを目指すこと、グローバルサウスと連携していくこと、地政学リスクをマネージしていくこと等について議論が行われ、気候・エネルギー・環境大臣会合として、閣僚声明及び産業脱炭素化や重要鉱物等に関する付属文書が採択されました。閣僚声明には、各国の既存目標等に基づく合計で洋上風力150GWの増加・太陽光1TW以上への増加を含め、再エネの導入拡大やコストの低減、水素・アンモニアにおける「炭素集約度」の概念を含む国際標準や認証スキーム構築の重要性、e-fuelやe-methaneのようなカーボンリサイクル燃料(RCFs)を含め、CCS及びCCU/カーボンリサイクル技術が重要となりうることに加え、省エネ、ガス、原子力等について盛り込まれました。

2023年5月19日から21日には、日本・広島にて「G7サミット」が開催され、岸田総理が出席しました。成果文書として首脳コミュニケが採択され、エネルギー安全保障、気候危機、地政学的リスクを一体的に捉え、各国の事情に応じた多様な道筋の下でネットゼロという共通のゴールを目指すこと、クリーンエネルギー移行に不可欠な関連物資や重要鉱物のサプライチェーンの強靱化の必要性、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた具体的かつ適時の取組の重点的な実施、排出削減対策が講じられていない新規の石炭火力発電所の建設終了に向けた取組の実施、各国が明確に規定する地球温暖化に関する1.5℃目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況を除き、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了、2035年までの電力部門の完全又は大宗の脱炭素化、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトの加速、水素・LNG・原子力等の重要性について盛り込まれました。

③G20における協力

2023年7月22日に、インドが主催する「G20エネルギー移行大臣会合」がインド・ゴアにて開催され、西村経済産業大臣及び髙木外務大臣政務官が出席しました。この会合では、エネルギー安全保障と多角的なサプライチェーン、万人のエネルギー・アクセス、公正で低廉で包摂的なエネルギー移行の道筋、省エネと責任ある消費、エネルギー移行を通じた技術ギャップへの対応、未来の燃料、エネルギー移行のための低コストファイナンス等の論点を中心に議論が行われ、成果文書及び議長総括が発出されました。

2023年9月10日には、インド・ニューデリーにて「G20サミット」が開催され、岸田総理が出席しました。成果文書として首脳宣言が採択され、エネルギーに関しては、多様な道筋を通じたエネルギー移行の加速、包摂的な投資を通じたエネルギー安全保障や市場安定の強化、原子力や水素・アンモニアの重要性、イノベーションのための取組の推進、2030年までに各国の事情に沿って既存目標や政策を通じて再エネの容量を世界全体で3倍にする努力の追求及び奨励、クリーン電力の導入の急速な拡大及び排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズダウンに向けた努力の加速、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金の中期的なフェーズアウト・合理化等について盛り込まれました。

(2)アジア太平洋地域における多国間協力

①ASEAN等・東アジア地域における協力

アジア地域におけるエネルギー需要の急増を踏まえ、アジア規模でのエネルギーの安全保障と持続可能性を確保するため、2004年からは、「ASEAN+3エネルギー大臣会合」(ASEANと日本・中国・韓国の計13か国の代表が出席)が開催され、2007年からは、「東アジアサミット(EAS)エネルギー大臣会合」(前述の13か国に豪州・インド・ニュージーランド・米国・ロシアを加えた計18か国の代表が出席)が開催されています。

2023年8月、「第20回ASEAN+3エネルギー大臣会合」及び「第17回東アジアサミットエネルギー大臣会合」がインドネシアで開催され、中谷経済産業副大臣が出席しました。同会合では、経済成長を達成するためにエネルギーの安定的かつ継続的な供給を確保するには、各国が様々な選択肢を検討し、あらゆる技術や燃料を活用する必要性があるとの認識で一致し、低炭素経済を達成するための道筋は1つではなく、各国にとって多様な道筋があることを議論しました。また、中谷経済産業副大臣は、「アジア・ゼロエミッション共同体」(以下「AZEC」という。)構想の実現に向けた取組の重要性、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」や「Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN(CEFIA)」の取組について言及しました。

(ア)カーボンニュートラル実現シナリオ構築等に向けた国際連携事業【2023年度当初:14.9億円】

世界全体でのカーボンニュートラルの実現には、米国や欧州等の先進国やアジア等の新興国との国際連携を進めることが必要です。そのため、本事業では、欧米各国とのイノベーション等の協力促進を行うとともに、アジア各国をはじめとする新興国等に対する脱炭素化支援を強化するために、人材育成への支援、脱炭素化シナリオ構築への支援、国際会議の実施、各国との協力可能性のある分野についての調査を行いました。

(イ)東アジア経済統合研究協力拠出金【2023年度当初:6.3億円】

東アジアにおけるエネルギー供給の安定化を図るためには、燃料消費の抑制、エネルギーセキュリティの確保及びエネルギーの安定的かつ低廉な調達が喫緊の課題です。これらの課題を解決するために、東アジアやASEANの首脳・閣僚レベルに政策提言を行っている東アジア・アセアン経済研究センター(以下「ERIA」という。)に調査研究等を依頼するため、拠出を行いました。

②アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の実現に向けた協力

AZEC構想は、2022年1月に岸田総理が提唱した構想であり、アジア各国が脱炭素化を進めるとの理念を共有し、エネルギー・トランジションを進めるために協力することを目的としたものです。2023年3月の「第1回AZEC閣僚会合」において、協力枠組みとして立ち上げられました。

同年6月に開催された「第1回AZEC高級実務者会合(AZEC SOM)」では、政策協調の具体策として、JCMの利活用促進に向けた取組を実施することが確認され、その具体的な取組として、同年9月28日、29日に、「AZECでのJCM利活用促進に関する国際会合(AZEC・JCM国際会合)」を開催しました。この会合には、AZECパートナー国の政府関係者が参加し、AZECパートナー国における今後のJCM利活用促進や炭素市場の構築に向けて、活発な議論を行いました。

2023年12月18日には、「日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議」の機会を捉え、「AZEC首脳会合」が開催されました。日本からは岸田総理、齋藤経済産業大臣、村井官房副長官、穂坂外務大臣政務官、朝日環境大臣政務官が出席したほか、AZECパートナー国の首脳が参加し、AZECの考え方や活動に係る議論を実施しました。この首脳会合では、岸田総理から、「多様な道筋による、ネットゼロ」という共通目標の達成や、「脱炭素・経済成長・エネルギー安全保障」の同時実現という3つのブレークスルーの重要性を発信しました。その上で、次世代のGX技術の開発や導入加速に向けた日本の取組に触れつつ、AZEC構想を通じて日本の技術や経験を共有していく意思を表明しました。具体的には、ERIAに設立される「アジア・ゼロエミッションセンター」を通じた政策協調、ゼロエミッション工業団地の形成等の協力案件を通じたグリーンサプライチェーンの構築、「AZECを支援する賢人会議(AZECアドボカシーグループ)」による経済界同士の連携、トランジション・ファイナンスの推進等を提案しました。

加えて、齋藤経済産業大臣が、第1回AZEC閣僚会合及び協力の進展について報告を行いました。齋藤経済産業大臣からは、AZECにおいて、①ロードマップ策定支援等のアジアの政策ニーズに寄り添った取組が進展している点、②太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス、水素・アンモニア、LNG、合成燃料、CCUS、省エネ、産業の脱炭素化等、幅広い分野で具体的なプロジェクトが進められており、これまでに企業間のMOUが約70件締結され、合計で約350件もの協力が進行中である点、③エネルギー・トランジションに関して、これまでに約8,500人の人材育成を支援している点等、顕著な進展が見られる旨を発言しました。

AZECパートナー国の首脳からは、AZECの考え方への幅広い支持及びAZECの活動への高い期待が表明されました。また、有識者として参加したダニエル・ヤーギン氏からは、現実的なエネルギー・トランジションの重要性について言及がありました。また、AZECの原則や協力の方向性を示す「AZEC首脳共同声明」が採択されました。最後に、次の50年を見据えて、今後もAZEC構想の下での取組を通じて、アジアの脱炭素化及び世界の持続的な発展にパートナー国とともに貢献していくことを強調しました。

AZEC首脳会合の終了後には、岸田総理、ジョコ・インドネシア大統領及び齋藤経済産業大臣の立ち会いの下、経団連・ASEANビジネス諮問委員会・ERIAによる、AZEC構想支援とAZECアドボカシーグループの立ち上げに係る共同声明発表の記念撮影が実施されました。

③アジア太平洋経済協力(APEC)における協力

1989年11月に豪州・キャンベラで開催された「第1回APEC閣僚会議」において、エネルギー問題に対する域内協力の重要性と、これを専門に議論する場を設定することで一致しました。これを受けて、1990年にエネルギー作業部会(EWG)が設立され、さらに1996年には、よりハイレベルなエネルギー政策対話を行うため、豪州・シドニーで「第1回APECエネルギー大臣会合」が開催され、その後は2015年までに計12回開催されました。それ以降の開催は見送られてきましたが、2023年8月に、米国・シアトルにおいて、8年ぶりに「第13回APECエネルギー大臣会合」が開催されました。

第13回APECエネルギー大臣会合には、日本から太田経済産業副大臣が出席しました。会合では、電力セクターの脱炭素化、メタン排出削減、公正なエネルギー移行の3点を中心に議論がなされ、太田経済産業副大臣からは、ウクライナを巡る情勢も踏まえ、経済成長・エネルギー安全保障・気候変動対策の同時達成に向け、多様な道筋によるエネルギー移行及びイノベーション促進が重要であることについて発言しました。

同年11月には、米国のサンフランシスコにおいて、「APEC閣僚会議」及び「APEC首脳会議」が開催されました。APEC閣僚会議には、日本から西村経済産業大臣及び上川外務大臣が出席しました。西村経済産業大臣からは、持続可能な成長のためには、各エコノミーの事情にあった多様な道筋でエネルギー・トランジションを進める必要があることについて発言しました。また、APEC首脳会合には、日本から岸田総理が出席しました。岸田総理からは、世界全体での温室効果ガス排出削減への取組が不可欠であり、各エコノミーのエネルギー事情が一様でないことを認識した上で、多様で現実的な道筋によるエネルギー移行を推進することが重要であることに加え、日本はアジア太平洋地域のエネルギー移行、脱炭素化・カーボンニュートラルの実現に向けて、AZEC等の取組を進めていくことについて発言しました。成果文書として「APEC首脳宣言」が採択され、エネルギーに関しては、最新の科学の発展と多様な国内事情を考慮したエネルギー移行の加速化に向けたエコノミーによるさらに集中的な取組の必要性、地域におけるエネルギー・安全保障・強靱性・アクセスの確保、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金の合理化・段階的廃止、既存目標や政策を通じて再エネの容量を世界全体で3倍にする取組の追求及び奨励等が盛り込まれました。

なお、日本は2023年に、「APECクリーン化石燃料専門家会合(EGCFE)」の議長に就任し、同年4月にはオンライン会合を開催しました。日本が主導し、化石燃料のみならず、水素、アンモニア、カーボンリサイクル/CCUSを含めた化石燃料の脱炭素化技術についても同会合で議論することとしました。こうした取組は、第13回APECエネルギー大臣会合において、歓迎されました。

(ア)アジア太平洋経済協力拠出金【2023年度当初:0.9億円】

アジア太平洋地域における低炭素技術の普及に向けたプロジェクト(APEC低炭素モデルタウンプロジェクト)や、APEC域内のエネルギー強靱性の向上、エネルギー効率の向上、エネルギー源の多様化に資するプロジェクト等を支援するために、APEC事務局に拠出を行いました。

(イ)アジア太平洋エネルギー研究センター拠出金【2023年度当初:6.7億円】

省エネ政策ワークショップの開催、「APECエネルギー需給見通し」の作成、アジア太平洋地域のエネルギー統計整備のための研修生受入・専門家派遣、「LNG産消会議」の開催、石油・石炭・ガスレポートの作成等のために、アジア太平洋エネルギー研究センター(以下「APERC」という。)に拠出を行いました。

④日米豪印戦略対話(QUAD)における協力

2021年3月の第1回日米豪印首脳テレビ会議で立ち上げられた気候変動作業部会の下に、クリーンエネルギーサブワーキンググループが設置され、2022年5月の日米豪印首脳会合において立ち上げられた「日米豪印 気候変動適応・緩和パッケージ(Q-CHAMP)」に基づき、天然ガス・LNGからのメタンガス削減、クリーンエネルギー・サプライチェーン、クリーン水素・燃料アンモニア、CCUS/カーボンリサイクルという協力分野について、議論を行っています。

天然ガスセクターにおけるメタンガスの削減に向けては、2023年7月に開催した「LNG産消会議2023」において、米国、豪州、韓国、欧州委員会(EC)と、LNGバリューチェーン全体の特にメタンガスを中心とする温室効果ガスの削減のため、メタンガス削減の取組をさらに推進する方向性を示す共同宣言を発表しました。この共同宣言では、LNGバリューチェーンにおけるメタンガスの排出削減の重要性を認識し、LNGバリューチェーン全体からメタンガスを削減する官民の国際的な協力への支援と、世界全体でLNG生産者・消費者と協働していくことへのコミットメントを示しました。

クリーンエネルギー・サプライチェーンについては、2023年5月の日米豪印首脳会合において、多様で、安全で、透明かつ強靱なクリーンエネルギー・サプライチェーンを促進し、持続可能かつ包摂的なクリーンエネルギーへの移行に資するために、「インド太平洋におけるクリーンエネルギー・サプライチェーンに関する原則声明」を発表しました。

水素についても協力を進めており、2023年12月にUAEのドバイで開催されたCOP28でのワークショップでは、インドのホストの下、水素分野における共通の規制・基準・標準に関してパネルディスカッションを行い、水素に関する政策を共有するとともに、規制・基準・標準の国際調和に向けた潜在的な手段等について議論を行いました。

CCUS/カーボンリサイクルについては、脱炭素化戦略の重要な一部であり、日本のCCUS戦略を策定するだけではなく、「アジアCCUSネットワーク」の活動を通じて、インド太平洋地域におけるCCUSの展開の支援も行っています。2023年9月に日本で開催された第3回アジアCCUSネットワークフォーラムでは、経済成長が続く東南アジアにとって、火力発電とCCSの組み合わせが、カーボンニュートラルを実現する上で「多様な道筋(various pathways)」の1つとして有力であるといった内容からなる共同声明を発出しました。また、国・地域レベルでの法的・規制的枠組みの重要性についても確認しました。

⑤インド太平洋経済枠組み(IPEF)における協力

2022年5月の米国のバイデン大統領の訪日時に、インド太平洋地域における包摂的かつ持続可能な経済成長の実現に向け、「インド太平洋経済枠組み」(以下「IPEF」という。)が立ち上げられました。同年9月には、豪州、ブルネイ、フィジー、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ、米国及びベトナムの計14か国が参加する形で、正式に具体的な協力分野等に係る交渉開始が宣言されました。

2023年度には、計6回のIPEF首席交渉官会合が開催され、IPEFにおける4つの協力分野(貿易、サプライチェーン、クリーン経済、公正な経済)の詳細について議論されました。

2023年5月、米国・デトロイトでIPEF閣僚級会合が開催され、日本からは西村経済産業大臣及び山田外務副大臣が参加しました。クリーン経済分野についても、その時点までの協定案の交渉の進捗を歓迎し、早期の合意に向けて交渉を加速させることを確認しました。また、クリーン経済分野の具体的な協力活動として、「IPEF域内水素イニシアティブ」を立ち上げました。また、同年8月には、「IPEF Japan Week」を東京近郊にて開催し、クリーン経済及びデジタル経済の2分野に関して、セミナー及び企業訪問を行いました。

同年11月には、米国・サンフランシスコでIPEF首脳会合及び閣僚級会合が開催され、日本からは、岸田総理、西村経済産業大臣、上川外務大臣が出席し、クリーン経済分野に係る協定を含む3つの協定の交渉が実質妥結しました。西村経済産業大臣からは、①クリーン経済分野に係る協定の交渉が実質妥結に至ったことへの歓迎、②各国の事情を踏まえた「多様な道筋」が必要であり、それぞれの関心に沿った協力活動を有機的に展開することの重要性、③カーボンニュートラルの実現に向けて、「イノベーション」と「IPEFパートナーの協力」でこの難題を乗り越えること、④クリーン経済への移行を後押しするため、新たに立ち上げられるIPEF基金に日本政府として約1,000万ドル(約14億円)を拠出予定であり、JBICやNEXIを通じた支援も行い、官民連携でインド太平洋地域における投資を拡大していくこと等を表明しました。サンフランシスコ会合中に発出されたプレスステートメントでは、今後の協力分野の候補として、クリーン電力やバイオ燃料、SAF等の可能性が記載されました。

(3)その他の多国間協力(生産国と消費国の対話等)

①国際エネルギー・フォーラム(IEF)における対話

国際エネルギー・フォーラム(以下「IEF」という。)は、世界73か国の石油・ガス等の産出国と消費国のエネルギー担当大臣及びIEAやOPEC等の国際機関の代表が一堂に会する、重要な「産消対話」の機会を提供する国際機関です。産消対話を行うことにより、産消国双方が相互に理解を深め、健全な世界経済の発展や供給と需要の安定確保のために、安定的かつ透明性のあるエネルギー市場を促進することを目的としており、1991年に第1回閣僚級会合がフランス・パリで開催されて以降、1年から2年ごとの頻度で閣僚級会合が開催されています。2020年9月にサウジアラビアにて開催が予定されていた第17回閣僚級会合は、新型コロナ禍の影響を受けて延期となっており、2024年の開催を予定しています。また、2023年2月には、日本・中国・インド等のアジアの主要な石油消費国と、UAE・イラン等のアジアの主要な産油国による第9回アジア産油国・消費国閣僚会合が、インドで開催されました。

また、IEFでは、7つの国際機関(APEC、EU、IEA、IEF、OLADE(中南米エネルギー機関)、OPEC、国際連合)が協力して石油と天然ガスの統計を整備する「国際機関共同データイニシアティブ」(以下「JODI」という。)を進めており、2005年にはJODI-Oil(石油の統計データベース)が、2014年にはJODI-Gas(天然ガスの統計データベース)が開始されています。国際機関が協力して情報共有を進め、エネルギー需給の動向についての正確かつタイムリーな情報が市場に提供されることで、エネルギー市場の透明性が増し、過度な価格の乱高下を抑制できると考えられており、現在、JODIは、世界の石油・ガス需給の9割以上を網羅しています。日本は、資金・人材の両面でJODIの発展に寄与しています。

(ア)国際エネルギーフォーラム分担金【2023年度当初:0.2億円】※経済産業省・外務省の合計

IEFの活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。

(イ)国際エネルギーフォーラム拠出金【2022年度補正:3.0億円、2023年度当初:0.2億円】

IEF閣僚級会合の開催支援を行うとともに、JODI事業への貢献のために、IEF事務局に拠出を行いました。

②国際再生可能エネルギー機関(IRENA)における協力

国際再生可能エネルギー機関(以下「IRENA」という。)は、再エネの普及・持続可能な利用促進を目的として設立された国際機関で、事務局はUAEのアブダビに設置されています。日本は、2010年7月に正式に加盟しました。IRENAの主な活動は、メンバー国の政策・制度・技術・成功事例の分析・体系化、他の政府・非政府機関等との協力、政策助言、技術移転、人材育成、資金に関する助言、研究ネットワークの展開、国際的技術基準の作成等です。

2023年4月には、ラ・カメラ事務局長が来日し、札幌で開催された「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」に参加しました。また、中谷経済産業副大臣と会談を行い、再エネや水素に関する協力について議論しました。また、同年7月には、「G20エネルギー移行大臣会合」に出席したラ・カメラ事務局長と髙木外務大臣政務官が会談を行い、現下のエネルギー安全保障の情勢やエネルギー移行の意義と課題等について議論しました。同年8月には、IRENA等がインドネシアで開催した「エネルギー移行の資金調達と民間部門の役割に関するハイレベルCEO対話」に中谷経済産業副大臣が参加し、各国の事情に応じた多様な道筋によるネットゼロ達成の重要性を発信しました。

(ア)国際再生可能エネルギー機関分担金【2023年度当初:3.0億円】※4省合計

IRENAを通じて、日本単独では十分な成果が見込めない大規模な調査や普及活動を実施することにより、再エネを国際的に普及させるため、IRENAの活動・運営費用を、各国分担率に基づき、外務省・農林水産省・経済産業省・環境省の4省共同で分担しました。

(イ)国際再生可能エネルギー機関拠出金【2023年度当初:0.7億円】

経済産業省からは、再エネと水素の利活用に関する調査及びレポートの発行、世界の地熱利用促進に向けた活動への協力、東南アジアにおける再エネ導入推進事業等の実施のため、分担金に加えてIRENAの活動費用の拠出を行いました。

③国際的な省エネルギーの新たな枠組み(省エネハブ)における協力

省エネハブは、主要な省エネトピックについて、加盟国間や国際社会での情報交換や連携を奨励・促進する目的で、「国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)」の後継機関として、2019年に設立されました。アルゼンチン、豪州、ブラジル、カナダ、中国、デンマーク、EU、フランス、ドイツ、日本、韓国、ルクセンブルク、ロシア、サウジアラビア、英国、米国の16の国と機関が設立時メンバーとして参加しており、事務局はIEAに置かれています。

省エネハブの下で活動を行うタスクグループとして、日本が主導する「EMAK(エネルギー管理行動ネットワーク)」の他に、「DWG(デジタル化ワーキンググループ)」、「SEAD(超高効率機器の普及イニシアティブ)」、「TOP TENs(省エネに関する優秀事例及び最良技術リストの開発・普及プロジェクト)」、「EEB(建築物の省エネ)」があります。2023年12月には、第12回EMAKワークショップがフランス・パリで開催され、省エネ政策の需要側エネルギー政策への進化に関する各国の取組やベストプラクティスについて、情報交換や議論が行われました。

④クリーンエネルギー大臣会合(CEM)

クリーンエネルギー大臣会合(CEM)は、世界の主要28か国及び地域から構成されるクリーンエネルギーの普及促進を目的とした国際会合です。

2023年7月には、インド・ゴアで第14回クリーンエネルギー大臣会合が開催されました。この会合では、クリーンエネルギーの共同推進に向けて、各国が抱える課題と取組について活発な議論が行われました。日本からは、エネルギー安全保障の確保、脱炭素、産業競争力の強化・経済成長の同時実現に向けて、政策、イノベーション、ファイナンスの重要性と日本の取組等を述べるとともに、多国間及び二国間の様々な枠組みを通じて、それぞれの国のエネルギー事情に応じて必要な技術や経験等を提供していくことを表明しました。

⑤エネルギー憲章条約(ECT)

「エネルギー憲章条約」(以下「ECT」という。)は、エネルギー貿易の自由化を促進し、投資保護の枠組みを有する条約であり、2024年3月時点では、世界で47の国及び2つの国際機関が加盟しています。2015年5月には、新興国の台頭及びそれに伴う世界のエネルギー需給構造の変化、気候変動問題への危機感の高まり等を踏まえ、条約の基礎となった1991年の政治宣言「欧州エネルギー憲章」を近代化した「国際エネルギー憲章」が採択されました。

2020年7月以降、昨今のエネルギー情勢、気候変動対応や投資協定の現状等を踏まえて、条約の内容を近代化するための交渉が行われ、2022年6月に実質合意がなされました。その結果、化石燃料に関する議論に加えて、水素やアンモニア等の新たなエネルギー原料が投資保護ルールの対象として明文化されるとともに、投資保護に係る締約国の義務の明確化、投資家対国家の紛争解決手続の詳細の明文化、持続可能な開発と企業の社会的責任の新設、通過の自由をさらに促進させるためのルールの明確化等がなされました。2023年11月20日には、エネルギー憲章会議第34回会合が開催されましたが、2022年に行われた前回会合と同様、ECTを取り巻く状況を踏まえて各国で議論した結果、近代化されたECTの採択を延期し、議題として取り上げないこととなったため、採択は行われませんでした。

○エネルギー憲章条約分担金【2023年度当初:1.0億円】

エネルギー分野における投資促進、エネルギー貿易及び通過の自由化に関する各種活動(報告書作成、ワークショップの開催等)、締約国会議であるエネルギー憲章会議の開催のため、ECT事務局に対して拠出を行いました。

⑥多国間枠組みを通じた人材育成等

日本は、2014年以降、再エネを普及させるための人材育成の観点から、IRENAと共催で、アフリカやアジア・太平洋島嶼国等を対象とした再エネに関する研修プログラム/ファイナンスワークショップを毎年開催しており、2024年3月には、オンラインで開催しました。

⑦証券監督者国際機構(IOSCO)との連携及び商品先物市場監督当局間の協力

経済産業省は、商品取引所及び取引所外取引における規制監督当局として、世界各国・地域の証券監督当局や証券取引所等から構成されている証券監督者国際機構(IOSCO)の活動に積極的に参画し、投資家保護や取引の透明性向上等を図っています。例年、各国の先物監督当局の会合が開催されており、経済産業省も金融庁等の関係省庁とともに参加し、積極的に情報交換・協力を行っています。2023年度は、今後の各国の商品先物市場当局の協力等について意見交換が行われました。また、証券監督者国際機構の包括的な協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書等の枠組みに参加しており、これに基づいて、市場監視のために各国の当局との情報交換を実施する体制を整えています。

⑧クリーンエネルギー関連製品のサプライチェーン強靱化に係る新たなイニシアティブ(RISE)

脱炭素化に向けた取組が世界的に加速する中、EVバッテリーやソーラーパネルといったクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーンの多様化は、ネットゼロ達成への貢献のみならず、低・中所得国における新たな成長機会の創出にも寄与するものです。2023年4月、日本議長下の「G7財務大臣・中央銀行総裁会議」のコミュニケ付属文書にて、「脱炭素時代における強靱なサプライチェーン構築に向けた財政・公的金融手段に係るハイレベル政策ガイダンス」が公表され、G7が、「資金、知見、及びパートナーシップを組み合わせた互恵的な協力を通じて、低・中所得国がサプライチェーンでより大きな役割を果たせるよう、共同で後押しすることにコミット」することを確認しました。

同年5月に広島で行われたG7サミットにおいては、「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」が発出され、当該ガイダンスを具体的な行動に移すべく、G7が、同志国や世界銀行等と連携して、低・中所得国がクリーンエネルギー関連製品の中流(鉱物の精錬・加工)及び下流(部品製造・組立)において、より大きな役割を果たせるよう協力する新たな取組である「強靱で包摂的なサプライチェーンの強化(Resilient and Inclusive Supply-chain Enhancement(以下「RISE」という。))に向けたパートナーシップ」を策定することが財務大臣に要請されました。

財務省は、同志国や世界銀行等と連携してRISEの策定を主導し、同年10月、モロッコのマラケシュで開催された「世界銀行・IMF年次総会」の機会に、世界銀行とともにRISEの創設イベントを実施しました。本イベントには、カナダ、イタリア、韓国、チリ、インドの代表が参加し、RISEの立ち上げを宣言するとともに、RISEに対する期待や今後の展望について意見交換を行ったほか、鈴木財務大臣が合計2,500万ドルの資金貢献を表明しました。カナダ、ドイツ、イタリア、韓国、英国も拠出を表明しており、当初拠出総額は5,000万ドルを超えています。

同年12月には、RISEの最初の取組として、財務省は、インドの太陽光関連産業に焦点を当てた会合をインドのニューデリーで開催しました。この会合では、国際協力銀行(JBIC)・日本貿易振興機構(JETRO)・国際協力機構(JICA)、インド政府、国際機関、RISEドナー国政府関係者、地元企業等が参加し、太陽光関連産業の発展に向けて意見交換を行いました。

2.二国間における協力

(1)先進諸国との協力

①日米協力

米国では、2021年1月にバイデン政権が誕生し、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50%〜52%削減し、2050年までに実質ゼロにする目標を掲げました。2022年8月に成立した「インフレ削減法2」では、クリーンエネルギー導入に係る税額控除等を通じて、エネルギー安全保障と気候変動対策の促進を図る取組を進めています。

このような中、日米間では、両国の有するクリーンエネルギー技術に関するイノベーション協力、第三国の脱炭素化に関する協力、ロシアによるウクライナ侵略を受けてのエネルギー安全保障に関する協力等、幅広い分野での協力関係が深化しています。ロシアによるウクライナ侵略によるエネルギーへの影響を受け、日米両国は協力して、全てのエネルギー源について厳格で一貫した規制環境を維持するとともに、民間部門への投資促進も進められています。

2023年4月に、西村経済産業大臣は、グランホルム・エネルギー長官と札幌で会談を行いました。グランホルム・エネルギー長官とは、地熱に関する覚書に署名し、超臨界地熱発電等の日米両国の関心分野において、協力を進めることを確認しました。また、水素、天然ガス・LNG、原子力等の様々なエネルギー分野における協力と、特にグリーン技術への投資が重要であることについても確認しました。

また、同年10月には、日本の経済産業省及び外務省と米国の国務省が、「第2回日米エネルギー安全保障対話」を開催し、エネルギー安全保障並びに脱炭素の取組に関して、日本の「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(令和5年法律第32号)」(以下「GX推進法」という。)及び米国のインフレ削減法による脱炭素化の加速に向けた日米両国の取組が、補完的な関係にあり、シナジーを発揮することで、世界のクリーンエネルギーのサプライチェーン構築に貢献していくとの認識を共有しました。

②日加協力

カナダは、世界有数のエネルギー資源国であり、石油、天然ガス、石炭、ウランに加えて、豊富な水力資源を有しています。日加間においては、LNGカナダプロジェクト等、LNGを中心に様々な分野でのエネルギー協力が進展しています。

2023年4月に、西村経済産業大臣は、ウィルキンソン・エネルギー天然資源大臣と札幌で会談し、重要鉱物に関して、カナダが重要なパートナー国であることや、グローバルな蓄電池サプライチェーンの構築への協力を継続していくことが示されました。また、LNGや原子力等の様々なエネルギー分野において、引き続き協力していくことを確認しました。

同年9月には、西村経済産業大臣がカナダを訪問し、エネルギー関係では、ウィルキンソン・エネルギー天然資源大臣と面談を行い、LNG、原子力、水素・アンモニア等を含む日加エネルギー協力を一層強化していくことで一致しました。また、ウィルキンソン・エネルギー天然資源大臣等とは、バッテリーサプライチェーンに関する協力覚書の署名・締結も実施しました。この協力覚書に基づき、日本企業のカナダへの進出の円滑化を図るとともに、日加間で、持続可能かつ信頼性のあるバッテリーサプライチェーンの構築を目指していきます。

また、同年12月に、日本の経済産業省とカナダの天然資源省は、2019年に締結したエネルギー分野における協力覚書に基づき、「日加エネルギー政策対話」を開催しました。この政策対話では、各種エネルギー分野における日加協力の進展を確認するとともに、今後の政策対話のあり方等について議論しました。

さらに、2024年1月には、「第33回日本・カナダ次官級経済協議(JEC)」がハイブリッド形式で開催され、日加両国共同議長は、最近の国際経済情勢に関する意見交換に加えて、エネルギーを含む6つのJECの優先協力分野について議論しました。

③日仏協力

フランスは、石油・天然ガス等の化石燃料の資源に乏しく、化石燃料の多くを輸入に依存していますが、エネルギー源の多様化を通じて、エネルギー自給率の向上に努めてきました。特に、1970年代以降、原子力の開発・導入に注力しており、その結果、足元の電源構成に占める原子力の割合は60%以上に、エネルギー自給率は約50%に達しています。

日仏間には、エネルギー政策全般を議論する政府間枠組みとして「日仏エネルギー政策対話」が存在しています。直近では、2022年12月にオンライン形式で開催し、エネルギー危機下におけるエネルギー安定供給確保のあり方やクリーンエネルギーイノベーション等について、意見交換を行いました。

原子力分野では、2011年10月に東京で行われた日仏首脳会談において日仏両国首脳の主導により設置された「原子力エネルギーに関する日仏委員会」の第11回会合を、2023年3月に東京で開催し、日仏両国の原子力エネルギー政策、原子力安全協力、原子力事故の緊急事態対応、核燃料サイクル、放射性廃棄物の管理、原子力研究・開発、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉、オフサイトの環境回復等について、意見交換を行いました。また、同年5月には、西村経済産業大臣とパニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣の会談にあわせて、原子力協力に関する共同声明に署名し、日仏両国は、既存原子炉の安全な長期運転や次世代革新炉に関する取組等への支援を含む交流を加速させることに合意しました。

また、同年9月に開催された「IEA重要鉱物・クリーンエネルギーサミット」の際にも、西村経済産業大臣とパニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣による会談が行われ、原子力、重要鉱物、水素及びアンモニア等における二国間協力等について、意見交換を行いました。

④日英協力

英国は、安定的でクリーンかつ適正な価格でのエネルギー供給の確保等の観点から、1990年代に電力市場の自由化を先行して実施しており、世界最大規模の発電設備容量を誇る洋上風力を含む再エネや、省エネ、原子力発電を推進しています。

再エネ分野では、2023年5月に、日本の経済産業省と英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省との間で、エネルギー安全保障を確保するコミットメントの共有とクリーンエネルギー移行を加速するための再エネに関する連携強化に向けた、日本と英国における再エネパートナーシップに関する共同声明を発出しました。また、同年9月には、「日英洋上風力ワークショップ」を開催し、日英両国のサプライチェーン構築や港湾インフラに関する課題等について、意見交換を行いました。

原子力分野では、同年9月に、西村経済産業大臣が英国を訪問した際、クティーノ・エネルギー安全保障・ネットゼロ大臣と会談を行い、JAEAと英国原子力研究所(NNL)の間で、高温ガス炉の実証炉開発プロジェクトに関する協力の方向性を示す協力覚書を締結しました。また、2012年4月に発出された日英両国首相による共同声明に基づき、2023年12月に開催した「第12回日英原子力年次対話」においては、原子力政策、廃炉及び環境回復、原子力研究・開発、パブリック・コミュニケーション、原子力安全及び規制に関する日英両国の考え方や取組について、意見交換を行いました。

また、同年10月には、西村経済産業大臣とベイデノック・ビジネス・貿易大臣が、大阪で開催された「G7貿易大臣会合」において会談を行い、重要鉱物に関する協力覚書に署名しました。また、同月には、日本の経済産業省と英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省が「日英エネルギー気候変動政策対話」を開催し、日英両国のエネルギー政策やカーボンニュートラルに向けた取組等について、意見交換を行いました。

⑤日独協力

ドイツは、長期的にはエネルギー供給源の大部分を再エネにするとともに、建物や機器を中心に省エネを強化していく方針の下、再エネの拡大3と、それに対応した送電網の整備等を進めています。

日独間では、2019年6月に締結された「日本国経済産業省とドイツ連邦共和国経済エネルギー省とのエネルギー転換における協力宣言」に基づき、2020年2月に署名された「エネルギー協力の具体化に向けたロードマップ」の下、「日独エネルギー転換協力委員会」及びエネルギー転換・水素に関する2つのワーキンググループを設置し、具体的な協力に関する実務的協議を進めてきました。直近では、2023年11月に、日本の経済産業省とドイツの経済・気候保護省が「日独エネルギー転換協力委員会」を開催し、日独両国のエネルギー政策動向や再エネ・水素に関する二国間協力等について、意見交換を行いました。

また、同年3月に、ショルツ首相及びハベック経済・気候保護大臣を含む関係閣僚が来日した際、岸田総理及び西村経済産業大臣を含む関係閣僚との間で、「日独政府間協議」が初めて開催され、エネルギーを含む経済安全保障を中心テーマとする意見交換が行われました。同年7月には、西村経済産業大臣が、ハベック経済・気候保護大臣と会談し、COP28に向けた連携や、水素・アンモニア、重要鉱物等の様々な分野における協力について、議論しました。また、同年10月には、保坂経済産業審議官とフィリップ事務次官との間で、「第21回日独次官級定期協議」を開催し、経済安全保障上の課題や日独両国のエネルギー協力等について、意見交換を行いました。

⑥欧州委員会との協力

欧州委員会は、2022年5月に、省エネやクリーンエネルギー生産の加速、欧州のエネルギー供給の多角化を図る包摂的な計画である「REPowerEU」を発表し、ロシア産エネルギーへの依存を迅速に減らし、EU全体のエネルギー体制の強靱化を図りつつ、グリーン移行を進める施策を推し進めています。

2023年7月には、岸田総理とミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長との間で、「日・EU定期首脳協議」を行いました。日EU双方は、日EUのエネルギー協力に関して、省エネ、再エネ、水素分野での協力や、バッテリー及び重要鉱物のサプライチェーンの強靱化等の必要性について確認するとともに、多様な道筋が2050年ネットゼロという共通目標につながることを確認しました。特に、水素分野では、日EU水素協力枠組みについて合意がなされ、日EUビジネスフォーラムの開催に向けた議論を含め、水素市場の拡大に向けた協力関係の強化が進んでいます。

同年12月には、西村経済産業大臣が、シムソン欧州委員会委員(エネルギー担当)と会談を行い、日EUグリーン・アライアンスの進展、とりわけ水素やLNGの分野における協力が進んでいることを確認するとともに、再エネやCCUS/カーボンリサイクル、COP28等における日EU間の連携や、今後のさらなるエネルギー協力に向けた意見交換を行いました。

⑦日豪協力

日豪両国は、石炭、LNG、水素等の資源・エネルギーの分野において、重要なパートナーです。

2023年5月には、西村経済産業大臣が、ボーエン気候変動・エネルギー大臣とオンライン会談を行い、日豪両国の気候変動対策やエネルギー分野の動向や現況について議論するとともに、足下のエネルギー市場の状況に鑑み、豪州からの安定したLNG供給の重要性を確認しました。また、豪州のLNG分野における引き続きの信頼できる投資環境の整備が、将来のクリーンエネルギー分野における二国間協力の深化につながるとの期待に基づき、豪州における日本企業のエネルギー分野での投資環境についても、意見を交わしました。

同年7月には、西村経済産業大臣が、ボーエン気候変動・エネルギー大臣と東京で会談し、気候変動及びエネルギーに関する政策について議論を行い、豪州からの安定したエネルギー供給の重要性を共有しました。また、エネルギー安全保障及び気候変動に関する協力の深化には、日豪両国における安定した政策や投資環境が不可欠との認識に基づき、「セーフガードメカニズム(SGM)」の運用も含め、引き続き、日豪両国間で議論を重ねていくことの重要性を強調しました。さらに、日豪間では、水素や燃料アンモニア等の分野でも密に連携しており、AZEC構想の実現に向けた連携や今後の日豪間のエネルギー協力について、議論しました。

同年9月には、フランス・パリで開催された「IEA重要鉱物・クリーンエネルギーサミット」に出席した西村経済産業大臣が、キング資源大臣兼北部豪州担当大臣と会談を行い、重要鉱物、LNG、石炭等の安定供給、AZEC構想を通じたアジアの脱炭素化に向けた協力等について、議論しました。

同年10月には、西村経済産業大臣が、豪州・メルボルンで開催された「第5回日豪経済閣僚対話」において、ボーエン気候変動・エネルギー大臣及びキング資源大臣兼北部豪州担当大臣、ファレル貿易・観光担当大臣と会談を行い、LNG、石炭等の従来から交易されてきた資源も含めて、安定供給と信頼できる投資環境を確保すること、重要鉱物のサプライチェーンの強化に向けた協力を継続していくこと、さらに、協力の範囲を水素、アンモニア、CCUS等の脱炭素化やイノベーションにまで広げ、AZEC構想の下、アジア地域の脱炭素化に貢献していくことで一致しました。

さらに、2024年1月には、齋藤経済産業大臣が、キング資源大臣兼北部豪州担当大臣と会談を行い、LNG、石炭等の資源の安定供給と信頼できる投資環境を確保すること、重要鉱物のサプライチェーンの強化に向けた協力を継続していくこと、さらに、協力の範囲を水素、アンモニア、CCUS/カーボンリサイクル等の脱炭素化やイノベーションにまで広げ、AZEC構想の下、アジア地域の脱炭素化に貢献していくことで一致しました。

また、日豪間では、1985年以来、国際エネルギー情勢や日豪両国のエネルギー政策等を議論する二国間対話の場として、「日豪エネルギー資源対話(JAERD)」を開催しています。直近では、2022年8月に、「第40回日豪エネルギー資源対話」を東京で開催し、日豪エネルギー関係について、幅広く意見交換を行いました。

(2)アジアとの協力

①日印協力

インドは、中国、米国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国であり、今後も経済発展や電化の進展により、さらなるエネルギー需要の増加が予想されています。このようなインドにおけるエネルギー安定供給の確保とエネルギー効率の向上は、日本のエネルギー安全保障にとっても重要であり、日印両国の経済発展にも直結する重要な政策課題になっています。

こうした背景を踏まえ、エネルギー分野における日印両国の協力の拡大を図る観点から、2006年の首脳合意を受けて、閣僚級の枠組みである「日印エネルギー対話」を立ち上げており、日印両国閣僚の相互訪問により、2007年以降、計10回の対話を実施しています。次回の第11回目の対話については、時宜を捉えて開催すべく、調整を行っています。また、2023年7月には、「G20エネルギー移行大臣会合」に出席するためにインドを訪問していた西村経済産業大臣が、シン電力・新・再生可能エネルギー大臣と会談を行い、水素・アンモニアにおける協力等について、議論を行いました。

省エネ分野については、2018年に日本の支援により成立したインド版の省エネガイドラインの普及や、工場の省エネマニュアル作成の支援に向けて、専門家派遣等の協力を継続しています。また、石炭火力発電については、技術交流会等を通じて、環境設備対応やバイオマス混焼等の環境協力を実施しています。

水素分野における協力については、2019年2月に、インド・デリーにおいて、第1回目となる水素及び燃料電池に関するワークショップを開催し、日印両国の水素政策や技術動向等について、情報交換を開始しました。2020年3月には、同じくインド・デリーで第2回ワークショップを開催し、日印協力の具体化について議論しました。2021年3月には、第3回ワークショップを初めてオンライン形式で開催し、2022年3月の第4回ワークショップもオンライン形式で開催しました。日印国交樹立70周年の節目に行った第4回ワークショップでは、日印の水素製造や水素発電関連技術、国際サプライチェーン構築のための水素の輸送技術をテーマに、日印両国から多数の政府関係者、民間企業等の参加を得て、水素利活用の重要性及び日印間の共同研究、民間連携の可能性について、議論を行いました。

なお、2021年1月に、インドはIEAとの間で、戦略的パートナーシップ構築に向けた枠組み文書に署名しました。インドとIEAの協力関係がより一層強固になることは、世界のエネルギー安全保障及びクリーンエネルギー転換の強化に当たって重要であり、日本としてもこの署名を歓迎しました。

②日インドネシア協力

インドネシアは、日本にとって有数の石油、天然ガス、石炭等の資源の輸入相手国であり、複数の日本企業が、LNGやクリーンエネルギー、再エネ関連の多くのプロジェクトに参画している等、資源・エネルギーの分野において、重要なパートナーです。

2023年4月には、西村経済産業大臣が、アリフィン・エネルギー鉱物資源大臣と会談を行い、AZECにおける協力の方向性について議論するとともに、インドネシアのクリーンエネルギーへの移行と電力部門の脱炭素化のために、北カリマンタンに位置するカヤン川の水力発電プロジェクトの重要性を確認しました。

同年9月にも、西村経済産業大臣が、アリフィン・エネルギー鉱物資源大臣と会談を行い、AZEC構想の下で、アジアの脱炭素化に向けた具体的な案件組成と同時に、政府間でのモメンタム形成についても引き続き行っていくことで合意しました。

また、同年12月には、齋藤経済産業大臣と、アリフィン・エネルギー鉱物資源大臣が会談を行い、再エネや天然ガスをはじめ、多くの二国間プロジェクトが進展していることを歓迎するとともに、AZECの発展に関して、インドネシアが主導的な役割を果たしてきたことを確認しました。また、今回初めて開催された「AZEC首脳会合」を契機に、ロードマップの策定支援や再エネ分野をはじめ、エネルギー・トランジションや脱炭素化に向けた両国の協力をさらに加速させていくことについても確認しました。さらに、AZECの基本原則を再確認した上で、AZECを核として、ASEANを中心とするアジア地域の脱炭素化を進めるために連携していくことで一致しました。

③日ベトナム協力

ベトナムは、石炭、石油、天然ガス、鉱物資源を豊富に保有する資源国であり、日本にとって重要な、良質な無煙炭の供給国です。

また、ベトナムは、日本の経済産業大臣とベトナムの商工大臣を共同議長とする「日ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会」及び局長級の「日ベトナムエネルギーワーキンググループ」という重層的な政府間対話の枠組みを通じて、協力を推進している国の1つです。2023年11月には、「第6回日ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会」が開催され、AZECを通じたエネルギー・トランジションの実現やレアアースの協力等について、議論を行いました。

さらに、同年10月には、経済産業省が、ベトナムのエネルギー分野における政府関係者及び企業関係者向けに、洋上風力に関する人材育成研修を実施しました。同年11月には、経済産業省が、ベトナムの商工省との間で、岸田総理及びヴォー・ヴァン・トゥオン・ベトナム社会主義共和国主席の立ち会いの下、エネルギー・トランジションの実現に関する協力覚書の文書の交換を行いました。

④日タイ協力

タイは、日本の重要な戦略的パートナーです。

2023年12月には、「日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議」に出席するために訪日したセター・タウィーシン首相兼財務大臣と岸田総理が会談しました。岸田総理からは、「AZEC首脳会合」等を通じた日タイ両国のエネルギー分野での協力強化について言及があり、セター首相からは、エネルギー分野やデジタル分野を含め、引き続き日本と協力したい旨の発言がありました。

⑤日中協力

中国は、世界最大のエネルギー消費国であり、中国におけるエネルギー利用効率の向上は、日本のエネルギー安全保障にとっても重要な課題です。また、中国においては、大気汚染等の深刻化に対処するとともに、CO2の排出削減を図るため、エネルギー利用効率の向上や太陽光や風力等の再エネの導入拡大が図られているところです。

こうした状況を踏まえ、経済産業省では、2006年以降、中国の国家発展改革委員会との間で、「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」を開催しています。また、2021年からは、同じく国家発展改革委員会との間で、「脱炭素化実現に向けた日中政策対話」も実施しています。2023年度は、これらの実施に向けて、国家発展改革委員会との調整を進めました。

⑥日シンガポール協力

シンガポールとは、2017年より、「日シンガポールエネルギー対話」を開催してきました。その後、2021年6月に、梶山経済産業大臣とガン貿易産業大臣との間で会談が行われ、「日シンガポールエネルギー・トランジション対話」を新たに立ち上げることが合意されました。同年8月に開催された第1回目の対話では、アジアのエネルギー・トランジションの加速化に向けて、トランジション・ファイナンスや水素分野をテーマに、議論を行いました。

2022年1月には、萩生田経済産業大臣とガン貿易産業大臣との間で、脱炭素化に向けたシンガポールの事情を踏まえつつ、アジアのエネルギー・トランジションの加速化に向けて、低炭素技術に関する協力覚書に署名し、AETIの下での両国の連携に合意しました。また、2022年10月には、西村経済産業大臣とタン第二貿易産業大臣兼人材開発大臣との間で、LNG分野及びエネルギー・トランジションの協力促進に関する協力覚書に署名しました。

2023年3月には、西村経済産業大臣が、「AZEC閣僚会合」に参加するために来日したガン貿易産業大臣と会談し、水素・アンモニア分野における両国企業間の協力を歓迎するとともに、LNGのトランジション燃料としての重要性を確認し、今後も幅広いエネルギー分野のサプライチェーン構築に向けて協力を強化していくことで一致しました。また、アジアにおけるカーボンニュートラル実現を支えるファイナンスのあり方についても、議論を行いました。

同年7月には、西村経済産業大臣とタン第二貿易産業大臣兼人材開発大臣が、「G20エネルギー移行大臣会合」の際に会談を行い、AZECを通じた協力に言及したほか、水素・アンモニア等に関する二国間協力について、議論しました。

同年8月には、中谷経済産業副大臣が、インドネシアで開催された「ASEANエネルギー大臣関連会合」の機会に、ロー国務大臣と会談し、AZEC構想の実現に向けた進捗について述べつつ、具体的な案件を形成するべく連携して取り組む必要がある旨を強調するとともに、脱炭素技術に関するプロジェクト等の各国との二国間エネルギー協力案件について、議論しました。

同年12月には、「日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議」及び「AZEC首脳会合」に出席するために訪日中のリー・シェンロン首相と岸田総理が会談し、岸田総理からは、今回のAZEC首脳会合を契機に、エネルギー移行や脱炭素化の協力を強化していきたい旨について言及しました。

⑦日マレーシア協力

マレーシアは、日本にとって第2位のLNGの供給国であり、日本のエネルギー安全保障上、重要なパートナーです。

日本の経済産業省とマレーシアの国営企業であるペトロナス社との間で、2022年9月に締結したエネルギー・トランジション分野とLNG分野での協力に関する覚書に基づき、2023年6月に、「第1回ステアリングコミッティ(事務方会合)」を開催し、LNGの安定供給、水素・アンモニア・CCS等の脱炭素事業における二国間協力に向けて、意見交換を実施しました。同年9月には、経済産業省・JOGMEC・ペトロナス社の三者間で、二国間におけるCO2の越境輸送・貯留に関する検討を推進するための協力覚書を締結しました。

また、同月には、西村経済産業大臣が、「東京GXウィーク」への参加のために訪日したペトロナス社のテンク・ムハマド・タウフィック社長兼グループCEOと会談を行いました。LNG供給について、2022年にマレーシア国内で発生したガスパイプライン事故による影響が懸念されたものの、タウフィック社長兼グループCEOの尽力により、予定どおりの供給が実現していることに対し、西村経済産業大臣から感謝の意を述べました。また、引き続き両国で協力しながら、ネットゼロの実現に向けて行動していくことを確認しました。

(3)エネルギー供給国等との関係強化

①日サウジアラビア協力

サウジアラビアは、世界有数の産油国であるとともに、日本にとって第1位の原油の供給国です。また、産油国の中でも特に主要な位置づけにあり、大きな余剰生産能力を持つことから、国際原油市場に大きな影響力を有しています。こうしたことから、原油の大部分を海外からの輸入に頼る日本にとって、サウジアラビアとの関係強化は重要な課題であり、2007年に立ち上げた「日本・サウジアラビア産業協力タスクフォース」を通じて、投資促進や人材育成、中小企業支援等、エネルギー分野に留まらない幅広い協力・関係強化を官民一体となって推進してきました。

さらに、日本とサウジアラビア両国は、2017年3月の安倍総理とサルマン国王との首脳会談において、二国間協力の基本的な方向性と具体的なプロジェクトをまとめた「日・サウジ・ビジョン2030」に合意し、新たな戦略的パートナーシップの羅針盤として、協力を進めています。2023年12月には、「第7回日・サウジ・ビジョン2030閣僚会合」をサウジアラビアで開催し、エネルギー等の従来分野に加え、医療・ヘルスケア・水、宇宙等の新分野を含めた広範な協力の一層の進展について、方向性を確認しました。

また、同年7月には、岸田総理がサウジアラビアを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相と会談しました。両首脳は、ネットゼロ及びクリーンエネルギーへの野心を認識し、クリーンエネルギー協力のための日本・サウジアラビア間の「ライトハウス・イニシアティブ」を設立することを発表しました。

同年12月には、齋藤経済産業大臣がサウジアラビアを訪問し、アブドルアジーズ・エネルギー大臣との間で、「第2回日サウジ・エネルギー協議」を開催しました。この協議では、水素・アンモニア、e-fuel、循環型炭素経済/カーボンリサイクル、エネルギー部門に必要な重要鉱物のサプライチェーン強靱化、持続可能な先端材料、研究・知見の交換といった主要分野をカバーするライトハウス・イニシアティブの進捗状況を確認しました。さらに、日本にとって、サウジアラビアが引き続き最大の原油供給源であり、信頼できるパートナーであることを踏まえ、産油国と消費国の対話を促進することにより、世界の原油市場の安定を支え、世界のエネルギーの安定供給を確保する必要性を強調しました。また、各国の事情に応じた多様な道筋によりネットゼロを目指し、同時にエネルギー安全保障、経済成長に取り組むことの重要性についても、見解を共有しました。さらに、ホレイフ産業・鉱物資源大臣とも会談を行い、鉱物資源分野や産業分野における二国間関係の強化について議論を行うとともに、鉱物資源分野における情報交換や人材育成、第三国協調投資等を通じた協力関係の深化を目的とした協力覚書を締結しました。これは、日本にとって、中東地域で初となる鉱物資源分野での協力覚書です。

②日UAE協力

アラブ首長国連邦(UAE)は、日本にとって第2位の原油の供給国です。日本企業も権益を保有し、50年以上にわたって油田操業に参画してきました。また、UAEには、日本の自主開発原油が最も集中していることもあり、日本にとって極めて重要な資源国です。日本との間では、活発なハイレベル往来や、エネルギー分野を中心とした幅広い分野での協力を推進してきました。

首脳級では、2023年4月に、岸田総理が、ジャーベル産業・先端技術大臣兼日本担当特使による表敬を受け、様々な二国間協力を進めていきたい旨を述べるとともに、UAEから日本への長年にわたる原油の安定供給に対し、謝意を表明しました。同年7月には、岸田総理がUAEを訪問し、ムハンマド・ビン・ザーイド大統領と会談しました。岸田総理からは、UAEからの長年の原油の安定供給への謝意及びUAEによる国際原油市場の安定化を主導する役割への期待を表明するとともに、中東地域をクリーンエネルギー・脱炭素のグローバルなハブとする「グローバル・グリーン・エネルギー・ハブ」構想及びこれにグリーン素材分野もあわせたより広い構想である「グローバル・グリーン・ジャーニー」構想を提案し、ムハンマド大統領の賛同を得ました。また、岸田総理は、ハーミド・アブダビ執行評議会委員兼アブダビ投資庁代表取締役等のUAE政府要人の出席の下、日本貿易振興機構(JETRO)とUAEの経済省が主催した「日・UAE・ビジネス・フォーラム」に出席しました。

閣僚級では、2023年4月に、西村経済産業大臣が、日本で開催された「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」に参加したジャーベル産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEOと会談を実施し、COP28(同年11月〜12月にUAE・ドバイで開催)に向けて、同年1月に設立された「日UAE先端技術調整スキーム(JU-CAT)」等の活用による協力を確認しました。会談後、西村経済産業大臣及びジャーベル産業・先端技術大臣は、JCM構築のための協力覚書に署名するとともに、ADNOCと日本企業のクリーンアンモニア製造に関する戦略的協力協定及び水素分野における戦略的協力協定への署名に立ち会いました。同年6月には、西村経済産業大臣が、訪日中のアブダッラー外務大臣と会談を行い、エネルギーや先端技術等、幅広い分野における両国の経済関係の拡大に向けて、協力関係を一層強化していくことを確認しました。また、同年7月には、西村経済産業大臣が、インドで開催された「G20エネルギー移行大臣会合」の機会を捉えて、ジャーベル産業・先端技術大臣と会談し、これまでの二国間協力の取組の具体化及びCOP28に向けた協力について議論しました。また、マズルーイ・エネルギー・インフラ大臣とも会談し、エネルギー安定供給の確保やエネルギー市場の安定化、COP28に向けた協力等について、意見交換を行いました。さらに、同年9月には、ジャーベル産業・先端技術大臣が来日して「東京GXウィークプレナリーセッション」に出席し、西村経済産業大臣と会談を行いました。この会談では、「アジアグリーン成長パートナーシップ閣僚会合(AGGPM)」において、「グローバル・グリーン・エネルギー・ハブ」構想を具体的に進める共同意図表明宣言を二国間で締結したことを歓迎し、クリーンエネルギーや先端技術分野における二国間協力の強化について議論するとともに、COP28における二国間の連携を確認しました。また、西村経済産業大臣からは、日本への原油の安定供給に対する謝意を伝達するとともに、国際原油市場の安定化に向けた協力を働きかけました。同年10月には、マイサ国務大臣が来日し、西村経済産業大臣との間で会談を行い、女性交流や女性活躍の機会拡大等について議論を行いました。

さらに、2023年10月には、岩田経済産業副大臣がUAE・アブダビを訪問し、「アブダビ国際石油展示会議(ADIPEC)」の開会式に出席するとともに、UAE政府要人と会談しました。ゼイユーディ貿易担当国務大臣との会談では、「包括的・戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)」に基づき、日UAE両国の経済関係がさらに発展するよう尽力していく旨を述べるとともに、クリーンエネルギー等の様々な分野における協力を確認しました。また、マズルーイ・エネルギー・インフラ大臣との会談では、クリーンエネルギーや脱炭素先端技術分野における協力を確認するとともに、国際原油市場の安定化に向けた働きかけを行いました。同年12月には、吉田経済産業大臣政務官がUAE・ドバイを訪問し、現地で開催されたCOP28に参加するとともに、ジャーベルCOP28議長と、日UAE協力の今後の進展への期待について会話を行いました。

引き続き、足元のエネルギー安定供給の確保に向けて、緊密に連携していくとともに、脱炭素も視野に入れた、水素・アンモニア等を含めた包括的な資源外交を展開していきます。

③日オマーン協力

オマーンは、中東地域の中でも、ホルムズ海峡の外に位置しているという観点から、地政学的リスクが相対的に低いという特徴を有しており、日本にとって、原油は第7位、天然ガスは第9位の供給国です(2022年)。

2022年9月に、西村経済産業大臣は、訪日中のウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣と会談を行い、LNGの安定供給に係る働きかけを行うとともに、クリーンエネルギー分野での協力を確認しました。同年12月には、西村経済産業大臣がオマーンを訪問し、ウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣と会談を行うとともに、水素・アンモニア及びメタネーションを含むカーボンリサイクルに関する協力覚書を締結しました。さらに、西村経済産業大臣及びウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣の立ち会いの下、日本企業複数社とオマーンLNG社との間で、LNGの長期引取契約に関する基本合意書への調印が行われました。

2023年7月には、西村経済産業大臣が、インドで開催された「G20エネルギー移行大臣会合」の機会を捉えて、ウーフィー・エネルギー鉱物資源大臣と会談を行い、LNG等のエネルギー市場の安定、水素及びアンモニア等のクリーンエネルギー分野での協力について、議論しました。

1
2013年まではロシアを含めた8か国によるG8でした。
2
「Inflation Reduction Act(IRA)」のことで、インフレ抑制法とも呼ばれています。
3
ドイツは、2030年までに電源構成に占める再エネの割合を80%まで高めるという目標を掲げています。