第8節 国際的な共通課題の解決への貢献

既設炉の最大限の活用、次世代革新炉の社会実装に向けた研究開発の促進、原子力事業の予見性の向上、世界市場におけるロシア・中国のプレゼンス向上等を念頭に置いた強靱なサプライチェーンの構築等、原子力を利用する主要国が共通して直面している現下の課題を踏まえ、率先して国際社会に貢献するとともに、同志国間での国際連携を深化させることで、これらの課題の解決に向けた取組を協働して進めています。また、ロシアによるウクライナ侵略によって深刻な危機に晒されているウクライナの原子力施設の安全確保等に向けた支援をはじめ、同志国及び国際機関との連携を通じて、世界の原子力安全・核セキュリティの確保にも取り組んでいます。

また、2023年5月には広島で「G7サミット」が開催され、採択された首脳コミュニケでは、原子力エネルギーについて、既存の原子炉の最大限の活用、革新炉の開発及び建設の支援、サプライチェーンの強靱化、原子力技術及び人材の維持・強化等に取り組む意思が示されました。また、IAEAやOECD/NEAを通じて、国際的な協力にも貢献しています。

〈具体的な主要施策〉

1.国際原子力機関(IAEA)との協力

(1)原子力発電の利用と放射性廃棄物の管理に関する理解促進への取組

IAEAへの拠出を通じて、IAEA加盟国の政府や電力会社等の原子力広報担当者を対象としたワークショップの教材を開発するとともに、原子力広報ポータルサイトの構築・普及、出版物の作成等を通じて、原子力発電の役割や安全性、放射性廃棄物の管理の重要性に関する正確な情報の提供や、透明性の高い情報公開を行うことで、原子力発電と放射性廃棄物に対する一般公衆の理解を増進する活動に協力、貢献しました。

(2)原子力発電導入のための基盤整備支援への取組

IAEAへの拠出を通じて、原子力発電の導入を検討している国に対し、IAEA及び国際的な専門家グループによるワークショップやセミナー等を通じた制度整備支援や、制度整備状況に関するレビューミッション派遣等を行うことで、核不拡散・原子力安全等への対応がなされることに協力、貢献しました。

(3)原子力関連知識の継承への取組

IAEAへの拠出を通じて、原子力エネルギーマネジメント(NEM)スクールの実施、各IAEA加盟国が抱える原子力関連の課題の解決に向けた関係者による国内ネットワークの構築、Eラーニング教材の開発等、日本及びIAEA加盟国が有する原子力に関する知識・技術を適切に継承するための活動に協力、貢献しました。

(4)東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に係る知見・教訓の国際社会への共有

東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組の進捗について、IAEAのレビューミッションの派遣を要請し、当該要請に基づきレビューを受けています。これまでに7回のレビューミッションが行われ、それぞれ報告書が作成・公表されています。

また、IAEA総会において、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に係るサイドイベントを開催し、廃炉及びその環境影響、福島復興についての理解促進を図りました。IAEAに対しては、定期的に東京電力福島第一原子力発電所に関する情報提供も行っています。

(5)核不拡散・核セキュリティへの取組

IAEAが行う核拡散抵抗性、保障措置、核セキュリティに関する検討、安全性の調査・評価の事業等に対して拠出を行い、ワークショップ等を開催しました。また、JAEAの核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)において、アジア地域等からの400名を超える参加者に対し、核不拡散・核セキュリティに関するトレーニングをIAEA等と連携して実施するとともに、バーチャルリアリティ(VR)技術や核物質防護設備に係る実習施設を拡充し、新たな脅威に対応するトレーニングを開発できる環境を整備しました。

2.経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)における協力

OECD/NEAへの拠出を通じて、原子力発電、核燃料サイクル、放射性廃棄物管理等に関する技術基盤や産業基盤の調査検討活動等に協力、貢献しました。

3.国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC)

原子力安全・核セキュリティ・核不拡散の最も高い水準を確保しながら、効率的に原子力の平和利用を促進することを目的とする「国際原子力エネルギー協力フレームワーク」(IFNEC:International Framework for Nuclear Energy Cooperation)の枠組みにおいて、2023年度はアフリカのガーナで対面での会合が開催され、原子力発電所の新規導入国における人材育成やファイナンス、政治的な強いリーダーシップの必要性等について議論が行われました。

4.アジア原子力協力フォーラム(FNCA)

「アジア原子力協力フォーラム」は、社会・経済の発展を目的として、近隣アジア諸国12か国間で原子力技術の平和で安全な利用を進めています。加盟国からの要望を受け、2023年6月にスタディ・パネル「小型モジュラー炉(SMR)を含む次世代炉の展望」を開催し、IAEA等からの国際的な活動を紹介する基調講演と、加盟国からの事例発表がありました。加盟国からの発表では、次世代炉に対する様々な社会的期待や技術的要件が出され、当該分野における加盟国間の連携強化の必要性が認められました。

5.Nuclear Innovation:Clean Energy Future(NICE Future)イニシアチブ

「NICE Futureイニシアチブ」は、クリーンエネルギーの普及における原子力の役割について、広くエネルギー関係者との対話を行うことを目的に、2018年5月の第9回クリーンエネルギー大臣会合(CEM)において設立された枠組みです。このNICE Futureイニシアチブには、日本、米国、カナダ、英国、ロシア、UAE、ポーランド、ルーマニア、アルゼンチン、ケニアの計10か国が参加しています。

2023年度は、第14回クリーンエネルギー大臣会合においてサイドイベントを行い、水素製造にも資することが期待される日本の革新技術の紹介等について発信しました。

6.原子力発電導入国等との協力

原子力発電を新たに導入・拡大しようとする国に対して、日本の原子力事故から得られた教訓等を共有する取組を行っています。2023年度は、現地セミナーや当該国の要人・専門家を日本に招聘する等、原子力発電の導入に必要な制度整備や人材育成等を中心とした基盤整備への支援を行いました。

原子力発電の制度整備のための国際協力事業費補助金【2023年度当初:2.1億円】

東京電力福島第一原子力発電所事故の経験から得られた教訓を共有し、世界の原子力安全の向上や原子力の平和的利用に貢献すべく、原子力発電を導入しようとする国々において、導入のための基盤整備が安全最優先で適切に実施されるよう、原子力専門家の派遣等を行い、法制度整備や人材育成等を実施しました。

7.COP28における原子力に関する協力

2023年12月2日に、米国・英国・フランス・UAE及び日本等の原子力利用国を含む国々が、「各国の国内事情の相違を認識しつつ、2050年までに2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にする」宣言を発表しました。日本としても、世界全体での原子力発電容量の増加に貢献すべく、原子力利用を検討する第三国への次世代革新炉の導入支援や、同志国と連携したサプライチェーン強靱化等の取組を通じて、この目標の達成に貢献していきます。

また、同年12月13日には、COP28において第1回の「グローバル・ストックテイク」の決定文書が採択され、その中では、低炭素化を図るための技術・手段として、「原子力」が明記されました。

さらに、同年12月7日には、日本・米国・英国・フランス・カナダの5か国のエネルギー担当省庁が、同年の「G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合」にあわせて同年4月16日に発表した「カナダ、フランス、日本、英国、米国による民政原子燃料協力にかかるステートメント」を具体化すべく、ウラン濃縮等への投資促進に関する共同宣言として、「札幌ファイブ」宣言を発表しました。主な内容として、安全で確実な原子力技術を提供するための、燃料を含む強靱なサプライチェーンの必要性を認識し、今後3年間で、5か国でウラン濃縮・転換に対する投資を少なくとも42億米ドル実施すること等を宣言しました。