第1節 適正な事業規律の確保
再エネの最大限の導入を促すためには、再エネが地域で信頼を獲得し、地域社会と一体となりつつ、責任ある長期安定的な事業運営が確保されることが不可欠です。こうした問題意識の下、これまでも、安全の確保や地域との共生、太陽光発電設備の廃棄対策等に取り組んできており、一部の再エネ発電事業者には、地域に根差した事業運営の重要性が認識されつつあります。他方で、FIT制度の導入を契機に急速に拡大してきた太陽光発電事業を中心に、再エネ発電事業に対する地域の懸念は依然として存在しており、こうした懸念を払拭して、責任ある長期安定的な事業運営が確保される環境を構築していく必要があります。
こうした地域の懸念の解消に向けて、2022年4月より、経済産業省・農林水産省・国土交通省・環境省が共同事務局(のちに総務省もオブザーバー参加)を務める「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」が開催されました。同年10月には、今後の制度的対応や運用のあり方等についての提言がとりまとめられました。また、大量導入小委員会では、事業規律の強化を前提に、再エネ設備の最大限の活用を促すため、既存再エネの長期電源化と有効活用に向けた論点を整理しました。これらの議論等を踏まえ、大量導入小委員会の下に、「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ」を設置し、2023年2月には「中間とりまとめ」を公表しました。2023年5月には、こうした検討を踏まえた措置を盛り込んだ「GX脱炭素電源法」が成立しています。
また、再エネの導入拡大が太陽光発電に偏重した形で進む中、エネルギー安定供給の観点からは、洋上風力発電や地熱発電等、立地制約による事業リスクが高い電源も含めて、バランスの取れた形で導入を促進することも重要です。特に洋上風力発電は、大きな導入ポテンシャルとコスト競争力をあわせ持っており、再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立に向けて重要な電源として位置づけられます。洋上風力発電のための海域利用ルールの整備として、2019年4月に再エネ海域利用法を施行し、先行利用者との調整の枠組みを明確化するとともに、事業予見性の確保及び事業者間の競争を促してコストを低減する仕組みを創設しました。今後も適切な法律の運用を通じて、洋上風力発電の導入促進を図っていきます。
1.再生可能エネルギーの主力電源化
日本では、2012年7月のFIT制度の開始以降、再エネの導入が急速に拡大してきました。2022年度の電源構成に占める再エネの割合は、21.7%に達しています。2030年度には、これを36%〜38%へと拡大することを目指しており、引き続き、FIT・FIP制度をはじめとしたあらゆる政策を総動員して、再エネの導入拡大に取り組んでいきます。
具体的には、この目標の実現に向けて、適正な国民負担と地域との共生を図りつつ、公共部門や工場、倉庫等の建築物への太陽光発電の導入強化、地球温暖化対策推進法や「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律(平成25年法律第81号)」(以下「農山漁村再エネ法」という。)に基づく各省連携による再エネの導入促進、再エネ海域利用法に基づく着実な洋上風力発電の案件形成に加え、グリーンイノベーション基金等を活用した、次世代型太陽電池や浮体式洋上風力の技術開発等に取り組んでいきます。
FIT・FIP制度における調達価格・基準価格については、調達価格等算定委員会の意見を尊重し、2023年度下半期から、屋根設置の事業用太陽光発電の区分を新設しました。その価格については、コスト動向を踏まえて、地上設置の太陽光発電より2割ほど高い12円/kWhとしており、メリハリのついた導入支援に取り組んでいきます。
また、太陽光発電を中心とした再エネの導入拡大に伴い、安全面や防災面、景観や環境への影響、将来の設備廃棄等に対する地域の懸念や、FIT調達期間の終了後に事業継続や再投資が行われず、持続的な再エネの導入・拡大が停滞することへの懸念が高まっています。こうした懸念に対応するため、事業規律の強化等にも取り組んでいるところです。
2.地元理解の促進に向けた取組
地域が再エネ発電事業の情報を把握するための仕組みとして、2017年の再エネ特措法の改正法の施行以降、発電設備の識別番号、認定事業者の名称、発電設備の出力等の情報を、経済産業省のホームページ上で公表しています。2022年度からは、事業者の適正かつ地域の理解を得た事業実施を、地域住民等へのさらなる情報提供等によって促すため、公表する情報を拡大し、運転開始年月や太陽光事業の積立方法等の情報も公表しています。
また、FIT制度の開始以降、再エネ設備が大量に導入されたこともあり、地方自治体による調和的な条例やガイドラインの策定数が増加しています。例えば、市町村等が制定する条例の中で、再エネ発電設備の設置に関する条例の数は、2016年度までと比べ、2022年度までに約9倍に増加しています。こうした状況を踏まえ、再エネ特措法においては、条例を含む関係法令の遵守を認定基準としており、地域の実情に応じた条例への違反に対しても、再エネ特措法に基づく指導や改善命令、さらに必要に応じて、認定取消が可能となっています。全国の地方自治体の再エネ発電設備の設置に関する条例等の制定状況や、その内容に関するデータベースを構築し、各地方自治体における地域の実情に応じた条例等の策定等を後押ししています。
さらに、再エネ特措法の施行に当たっては、地域の実情を理解している地方自治体との連携が重要です。そのため、2018年より、全都道府県を集めた地域連絡会等を定期的に開催しています。条例による取組やグッドプラクティスの横展開を行うに当たっては、引き続きこの枠組みも活用し、地方自治体との連携の強化に取り組んでいきます。
加えて、2021年に改正された地球温暖化対策推進法において、地域における円滑な合意形成を図りつつ、適正に環境に配慮し、地域に貢献する再エネの導入を促進する仕組みが設けられました。環境省をはじめとする関係省庁が連携してこの仕組みの活用を進めるとともに、人材・情報・資金の観点から、国が継続的・包括的に地域の取組を支援するスキームを構築し、環境への影響や地域とのコミュニケーション等にも配慮しつつ、地域と共生した再エネの導入を進めていきます。
また、こうした取組に加えて、2023年5月には、再エネの導入拡大に伴う安全面・防災面等に対する地域の懸念を解消するため、説明会の開催等の周辺地域への事前周知をFIT・FIP制度の認定要件とする措置や、関係法令に違反した場合等にFIT・FIP交付金を一時停止する措置等を盛り込んだ再エネ特措法の改正を含む「GX脱炭素電源法」が成立しています。
3.事業実施各段階からの制度的対応
再エネ発電事業が、地域に根差した長期安定的な事業として定着し、地域からの信頼を確保するためには、開始から終了までの一貫した適正な事業実施を担保することが必要です。再エネ特措法では、2017年4月の改正法の施行以降、認定事業者に対して、設置する設備に標識・柵塀等の設置を義務づけています。2018年11月及び2021年4月には、標識・柵塀等の設置義務について注意喚起を行ったほか、資源エネルギー庁に対して標識・柵塀等が未設置との情報が寄せられた案件については、その都度、必要に応じて口頭指導や現場確認を行っています。しかし、依然として標識・柵塀等の未設置に関する情報が資源エネルギー庁に寄せられていることから、より多くの事案に対応するため、通報案件への対応体制を強化していきます。また、太陽光発電設備の適正廃棄に向けた廃棄等費用の積立てを担保する制度も措置されています。
4.安全の確保
FIT制度の開始以降、再エネ発電設備の導入数は急速に増加し、設置形態も多様化しました。しかし、そのことに伴い、再エネ発電設備に係る公衆災害のリスクが懸念されています。そこで、再エネ発電設備に係る安全を確保するため、再エネ発電設備の安全規制や立地規制等の関連法令遵守の徹底等の取組を進めています。具体的には、経済産業省・農林水産省・国土交通省・環境省の4省が共同事務局として2022年10月に公開した「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」の提言では、今後の再エネの適正な導入に向けた立地のあり方等に関する基本的な考え方をとりまとめ、法令・条例等への違反案件への関係省庁・自治体との連携強化について検討することを示しました。
これに基づき、2024年4月に施行された再エネ特措法の改正法では、説明会等の事業内容の事前周知をFIT・FIP制度の認定要件化し、適切かつ十分な事前周知がなされない場合には、認定を行わない措置を講じています。また、2023年10月からは、法改正を待たずに、災害の危険性に直接影響を及ぼしうるような土地開発の許認可について、FIT・FIP制度の認定申請前に許認可の取得がない場合には、認定を行わないこととしました。なお、電気事業法においても、2024年度から、工事計画の届出の際に、土地開発の許認可手続が適切に実施されていることを確認する措置等を講じています。
また、「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」で言及のあった低圧の太陽電池発電設備に関する侵入及び接触防止措置については、発電用太陽電池設備に関する技術基準の一部を改正することとし、2024年4月1日に公布、同年10月1日付で施行される予定です。
5.再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルへの対応
2012年7月に導入されたFIT制度により、導入量が急速に拡大した太陽光発電設備は、太陽光パネルの製品寿命(25〜30年程度)を経て、2030年代頃に大量排出される見込みとなっています。こうした将来の太陽光パネルの大量排出に関して様々な懸念が広がっています。特に、事業終了後に太陽光発電事業者の資金力が不十分な場合や、太陽光発電事業者が廃業してしまった場合には、太陽光パネルが放置されてしまう、不法投棄されてしまうといった懸念があります。
こうした懸念を払拭するため、2018年度には、それまでは努力義務となっていた「廃棄等費用の積立て」をFIT認定における遵守事項とし、事業計画の策定時に廃棄等費用の算定額とその積立計画を記載することを求めるとともに、認定事業者に対して毎年の提出を義務づけている発電コスト等の定期報告において、廃棄等費用の積立進捗状況を報告することを義務化しました。
しかし、積み立てる金額水準や時期が事業者の判断に委ねられていたこともあり、2019年1月末時点において、積立てを実施している事業者は2割以下となっていました。こうした状況を踏まえ、2020年6月に成立した「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(令和2年法律第49号)」(以下「エネルギー供給強靱化法」という。)に含まれる再エネ特措法の改正法の下で、太陽光発電設備の廃棄等費用の積立てを確保するための制度を創設することとなりました。この制度の主な内容は、①対象事業については、10kW以上の全ての太陽光発電の認定事業とすること、②積み立てる方法については、原則、認定事業者が受け取る収入の中から廃棄等費用を源泉徴収的に差し引き、積立金は電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」という。)に積み立てること、③積み立てる金額水準については、各認定事業に該当する調達価格又は基準価格の算定において想定されている廃棄等費用の水準とすること、④積み立てる時期については、一律に調達期間又は交付期間の終了前の10年間とすること等となっています。その後、2022年7月より、積立開始時期が訪れた発電事業の廃棄等費用の積立てが順次開始されています。
なお、こうした太陽光発電設備の廃棄等費用の積立てを確保するための制度は、FIT・FIP制度の下での発電事業終了後の放置・不法投棄対策を主眼としており、災害等によって早期の事業廃止や修繕が発生する場合には、各太陽光発電事業者による独自の積立てや保険加入により手当されることが期待されます。こうした懸念への対応として、2020年4月には、再エネ特措法に基づく「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」において、新規認定案件・既認定案件ともに、火災保険や地震保険等への加入を努力義務としました。
また、今後の使用済太陽光発電設備の排出量の増加に備え、計画的に廃棄物としての処理量を削減し、再資源化を促進していくためには、太陽光発電設備のリユースやリサイクルのさらなる推進が必要です。こうした中、2023年4月から、太陽光発電設備や風力発電設備等の再エネ発電設備の廃棄・リサイクルに関する対応の強化に向けた具体的な方策の検討を目的に、経済産業省及び環境省が共同事務局となって「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会」を開催し、2024年1月に「中間取りまとめ」を行いました。この中では、新たな仕組みの構築や制度的な対応に向け、引き続き検討を深める事項とともに、速やかに対応する事項についても整理しています。例えば、再エネ特措法の新規認定申請時等に、含有物質情報が登録された型式の太陽光パネルの使用を求める措置については、速やかに対応する事項として位置づけており、2024年4月から制度を開始しています。
6.既認定の未稼働案件がもたらす問題と対応
2012年7月のFIT制度の開始以降、事業用太陽光発電の認定・導入量は急速に拡大しており、調達価格・基準価格については、資本費の低下等を踏まえて半額以下にまで低減しました。この低減率は、他の電源の低減率と比較しても非常に大きく、調達価格・基準価格が認定時に決定する仕組みの中で、大量の未稼働案件による歪みが顕著に現れてきています。具体的には、高い調達価格・基準価格を保持したまま運転を開始しない案件が大量に滞留することにより、将来的な国民負担の増大の懸念、新規開発・コストダウンの停滞、系統容量が押さえられてしまう等の課題が生じています。
こうした未稼働案件に対しては、これまで累次の対策を講じてきました。2017年4月に改正された再エネ特措法では、接続契約の締結に必要となる工事費負担金の支払を行った事業者であれば、着実に事業化を行うことが見込まれるとの前提の下、原則として2017年3月末までに接続契約を締結できていない未稼働案件の認定を失効させる措置を講じ、これによって、事業用太陽光発電はこれまでに約2,070万kWが失効となりました。さらに、2016年8月1日以降に接続契約を締結した事業用太陽光発電については「認定日から3年」の運転開始期限を設定し、この期限を経過した場合は、その分、20年間の調達期間を短縮することとしました。
しかし、接続契約を締結した上でなお多くの案件が未稼働の状態となっています。このうち特に、2016年7月31日以前に接続契約を締結した案件については、早期の運転開始が見込まれることから、前述の運転開始期限が設定されませんでしたが、現在では逆に、早期に稼働させる規律が働かない結果となっています(第331-6-1)。
【第331-6-1】2012〜2016年度認定における事業用太陽光の稼働状況(2023年12月末時点)
(注1)端数処理(四捨五入)の関係で、表中の合計があわない場合等がある。
(注2)「2018年12月時点で運開期限あり」については、接続契約の締結日が2016年8月1日以降のものを対象としている。
【第331-6-1】2012〜2016年度認定における事業用太陽光の稼働状況(2023年12月末時点)(ppt/pptx形式:72KB)
- 資料:
- 経済産業省作成
再エネ特措法において、調達価格・基準価格は、その算定時点において、事業が「効率的に実施される場合に通常要すると認められる費用」を基礎とし、「適正な利潤」を勘案して定めるものとされています。太陽光パネル等のコストが年々低下している中、運転開始期限による規律が働かず、運転開始が遅れている事業に対して、認定当時のコストを前提にした調達価格・基準価格が適用されることは、再エネ特措法の趣旨に照らして適切ではありません。こうした状況に鑑み、国民負担の抑制を図りながら再エネの導入量をさらに伸ばしていくため、2018年から2020年にかけて、大量導入小委員会での審議を経た上で、運転開始までの目安となる「3年」を大きく超過した2012年度〜2016年度にFIT認定を取得した事業用太陽光発電であって、運転開始期限が設定されていない未稼働案件について、原則として一定の期限までに運転開始準備段階に入っていないものに対しては、認定当時のコストを前提にした高い調達価格・基準価格ではなく、適時の調達価格・基準価格を適用する、また、早期の運転開始を担保するために原則として1年の運転開始期限を設定する等の措置を講じています。
それでもなお、依然として多くの未稼働案件が存在していることから、2019年9月より、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下「主力電源化小委員会」という。)において、未稼働案件への対策についての議論が行われ、適用される調達価格・基準価格の適時性の確保や、系統の利活用の促進といった観点から、2020年6月に成立したエネルギー供給強靱化法に盛り込まれた再エネ特措法の改正法に基づき、2022年度から、認定取得後、一定期間を経過しても運転が開始されない場合には認定を失効させる制度を新たに開始しています。