はじめに 3-1
日本では、一次エネルギー供給の多くを海外から輸入する石油・石炭・天然ガス等の化石燃料が占めており、また省エネルギー(以下「省エネ」という。)機器や再生可能エネルギー(以下「再エネ」という。)発電機器等に必要不可欠な原材料である鉱物資源についても、その供給の殆どを海外に頼っています。このような脆弱性を抱える中、近年では、資源確保を取り巻く環境は大きく変化しています。具体的には、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化、世界的な脱炭素化の潮流に伴う上流投資の減少等が挙げられ、日本として、エネルギー安定供給に向けた継続的な取組が不可欠となっています。また、世界のエネルギー需要は引き続き拡大することが見込まれており、今後は中国・インド等のアジアが需要の中心となっていくことが予想されている一方、中長期的には、世界のエネルギー需要における日本の割合は減少していき、国際エネルギー市場における日本の地位は相対的に低下する見通しです。さらに、日本では、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減(さらに50%の高みに向けた挑戦を継続)し、2050年までにカーボンニュートラルを実現するといった意欲的な国際公約を掲げており、脱炭素化に向けた動きも加速しています。
このように大きく変動する国際情勢の中、日本が今後も将来にわたって石油・天然ガス等の資源の安定供給を確保していくためには、米国や中東諸国を含む資源供給国との関係をこれまで以上に強化・深化していくとともに、日本と同様に輸入への依存度が高まるアジアを中心とする需要国との連携を強め、透明性が高く、安定的な国際市場を構築していくことや、調達先の多角化を進めていくことが重要です。また、経済性やエネルギーセキュリティの観点から、今後も世界における化石燃料の利用拡大が見込まれる中、「環境と成長の好循環」の実現のためには、CO2を燃料や原料として再利用するカーボンリサイクルといった非連続なイノベーションによる解決も不可欠となっています。
また、鉱物資源についても、日本は供給の殆どを輸入に頼っています。鉱物資源は、蓄電池や電気自動車、再エネ発電機器等、日本の先端産業を支える原料として重要です。他方で、一部のレアメタルは特定の国に偏在しており、製錬工程についても寡占化が進んでいます。さらに、脱炭素化に向けた蓄電池や再エネ発電機器等の需要増加により、世界的に鉱物資源の需要も増加すると見込まれており、資源獲得競争の激化が想定されます。こうした中で、鉱物資源の偏在性や需要見通しを踏まえ、サプライチェーン事情に応じた対応策の検討と、さらなるリスクマネー供給機能の強化等の対策の充実が求められます。
このような環境の変化を踏まえ、政府は2021年10月に、「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。この中では、エネルギー政策の基本方針として、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合を図る「S+3E」の実現のため、最大限の取組を行っていくことが示されています。
脱炭素燃料・技術の導入に向けては、2022年に「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(平成14年法律第94号)」を改正し、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構の名称を「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構」(以下「JOGMEC」という。)へと変更し、JOGMECが、水素・アンモニア等の製造・貯蔵、CCS1事業及び国内における金属鉱物の選鉱・製錬に対する出資・債務保証業務、国内における洋上風力発電に必要な地質構造調査業務、海外における地熱の探査に対する出資業務等を行うことができるよう、機能強化を行いました。
政府では、「第6次エネルギー基本計画」を踏まえ、資源外交の積極的な展開や、JOGMECを通じた海外権益確保へのリスクマネー供給支援の強化、鉱物資源の探査、日本周辺海域での石油・天然ガス、メタンハイドレート、海底熱水鉱床等の開発促進、合理的かつ安定的なLNG調達に向けた取組等、資源の安定供給の確保に向けた総合的な政策を推進していきます。また、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)」(以下「経済安全保障推進法」という。)に基づく「特定重要物資」への可燃性天然ガス・重要鉱物の指定を踏まえ、LNGを含めた天然ガス及び重要鉱物の安定供給の確保に向けた取組も推進していきます。
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- CCS:Carbon dioxide Capture and Storageの略で、CO2の回収・貯留のこと。