はじめに 日本のエネルギー政策
日本は、化石エネルギー資源に乏しく、国際的なパイプラインや国際連系線もありません。原油の中東依存度は、主要国の中でも突出して高い状況です。成熟経済であるが故に、エネルギーインフラ(送電線、ガス導管、ガソリンスタンド等)が既に全国に張り巡らされ、エネルギー多消費産業を中心に、エネルギーの利用効率は極めて高くなっています。この結果、生み出されたのが、高いレベルで信頼できるエネルギー技術であり、それに基づくサプライチェーンが構成されています。
近年、世界的にも気候変動対策への関心が高まっており、2050年カーボンニュートラルの旗を掲げる動きが世界中で相次いでいます。日本も、2020年10月に、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。また、2021年4月には、2050年目標と整合的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。
このように、脱炭素に向けた世界的な動きが加速する中、2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が発生し、世界のエネルギー情勢は一変しました。世界各国では、エネルギー分野のインフレーションが顕著となり、日本においても電力需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰が生じる等、1973年のオイルショック以来のエネルギー危機が危惧される、極めて緊迫した事態に直面しました。
このような状況下において、脱炭素への取組とエネルギーの安定供給を両立するためには、「S+3E1」のバランスを取りながら、エネルギー政策を進めていくことが何より重要です。2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」においても、こうした考え方が明記されています。また、2023年7月に閣議決定された「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(以下「GX推進戦略」という。)では、化石エネルギーからの脱却に留まらず、エネルギー、全産業、ひいては経済社会の大変革を実行し、GXを通じてエネルギー安定供給の確保・産業競争力の強化・脱炭素の3つを同時に実現するための具体的な方針を定めており、政策を実行していきます。
第3部では、2023(令和5)年度に講じたエネルギー需給に関する施策の概況をまとめます。
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- 安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に環境への適合(Environment)を図っていく考え方のことで、この考え方を、それぞれの頭文字を取って「S+3E」と呼んでいます。