第2節 「国内危機」(災害・エネルギー価格高騰等)への対応の強化

1.供給サイドの強靱化

(1)石油・LPガスの供給網の強靱化

石油・LPガスについては、2011年3月に発生した東日本大震災等の相次ぐ大規模災害の経験を教訓として、大規模災害が発生した場合においても石油・LPガスの供給を早期に回復させることを目的に、ハード・ソフト両面の対策に取り組んできました。

ハード面の対策としては東日本大震災の発生以降、製油所やSSといった石油供給拠点の災害対応能力強化に対する支援や国家石油製品備蓄の増強を行っています。具体的には南海トラフ巨大地震や首都直下型地震等の大規模災害時にも石油供給能力を維持するため、製油所等における耐震・液状化対策、製油所・油槽所やSS等における非常用発電機等の導入への支援、SSにおける地下タンクの入換・大型化等への支援等を行いました。また、2012年度より国家石油備蓄の拡充を進め、2014年度から2016年度にかけては、石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」を策定する単位である全国10ブロックごとに、各ブロック内の石油製品(ガソリン、灯油、軽油、A重油)需要の4日分の備蓄が蔵置されるよう貯蔵設備の増強を行いました。2022年度末時点では、各ブロック内需要の約4日分の量を蔵置しています。

ソフト面の対策として、資源エネルギー庁では石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」の円滑な実行に向けて訓練を実施しています。同計画は2016年4月に発生した熊本地震において初めて実施され、国、地方公共団体、石油業界の連携のもと、被災地に対して安定的な石油供給のための取組を行いました。2020年度には資源エネルギー庁は内閣府、地方自治体、石油業界等と連携して机上訓練や燃料供給の実動訓練を実施しました。

また防衛省・自衛隊との間では、民間のタンクローリー等による燃料輸送が困難な状況や、自衛隊の活動用燃料の確保が困難な状況を想定した緊急時燃料供給に係る訓練を実施しました。例えば、2020年12月には宮城県、陸上自衛隊東北方面隊、東北経済産業局等が連携した訓練を、2021年3月には北海道、陸上自衛隊北部方面隊、北海道経済産業局等が連携した訓練を実施しました。

加えて2013年度には、石油精製・元売会社が、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震を想定し、製油所からタンクローリーの運送会社、系列SSに至る系列供給網全体を包含する「系列BCP」を策定するとともに、資源エネルギー庁が、石油精製・元売各社の策定した「系列BCP」を外部有識者によって審査・格付けする試みを開始しました。定期的な格付け審査の実施を通じ、石油精製・元売各社の災害対応能力の強化を推進しています。2020年度においては、石油精製・元売各社における系列BCPの内容や訓練の取組状況について格付け審査を実施するとともに、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震以外の地震等への対応を促しました。

SSについては、SSの災害対応能力を強化するため、東日本大震災以降整備した災害時に緊急車両等に優先給油を行う中核SS等において、災害時の店頭混乱回避のためのオペレーション訓練や研修会の開催、また自治体主催の防災訓練において自衛隊と連携しつつ、緊急車両等への優先給油や小型タンクローリーによる重要施設への燃料配送訓練を行ってきました。

LPガスについては、「災害時石油ガス供給連携計画」に基づき、連携計画の実効性を担保すべく、実際の災害を想定した訓練を実施するとともに、中核充填所の新設や機能拡充に対する支援を行いました。また、訓練内容について、特定石油ガス輸入業者等を中心とした各地域の「中核充填所委員会」で議論し、課題の整理及び解決策の検討を行いました。また、各地域の中核充填所委員会の代表等により組織する「中核充填所連絡会」において、全国横断的な課題への解決及び情報の共有化を図りました。

(2)東西の周波数変換設備や地域間連系線の強化

2011年3月に発生した東日本大震災では、大規模電源が被災する中、東西の周波数変換設備(以下「FC」という。)や地域間連系線の容量に制約があり、広域的な電力融通を十分にできなかったこと等から、不足する電力供給を十分に手当てすることができず、国民生活に大きな影響を与えました。

これを踏まえ、総合資源エネルギー調査会電力システム改革専門委員会が2013年2月に取りまとめた報告書では、FCや地域間連系線の増強の必要性が提言されました。FCについては、120万kWから210万kWまでの増強工事を行い、2021年3月に運用を開始しました。また、さらに300万kWまで増強するため、電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」という。)において増強に関する計画(広域系統整備計画)が2016年6月に策定され、2027年度の使用開始に向け、工事が着工しています。

他の地域間連系線の増強についても検討されています。東北東京間連系線については、2027年度の使用開始に向け、455万kWの増強を行う工事が行われており、北海道本州間連系設備についても、2027年度の使用開始に向け、90万kWから120万kWまでの増強を行う工事が行われています。また、広域機関では、再エネの大量導入とレジリエンス強化に向けて、全国大の送電ネットワークの将来的な絵姿を示すマスタープランを2023年3月29日に策定・公表し、計画的に系統整備を進めていきます。今後も広域機関が中心となって、東西の周波数変換設備や地域間連系線等の送電インフラの増強を進めることとしています。

(3)電気・ガス設備の自然災害等への対策等の検討の実施

2019年9月に関東地方に上陸した台風第15号では、東京電力管内の鉄塔2基の倒壊事故や1,996本の電柱が倒壊・損傷する事故が生じ、千葉県を中心に最大停電戸数約93万軒の大規模停電が発生しました。電力の安定供給の確保の観点から、台風等の自然災害による送配電インフラの事故原因を究明し、一層強靱な送配電設備を構築していくため、有識者会議の議論を踏まえて2020年3月に対策の方向性を取りまとめました。この対策の方向性を踏まえて、2020年度には今回の鉄塔の倒壊事故の要因となった突風が発生する特殊箇所に係る技術基準の改正及び必要な補修工事等を実施しました。さらに、地域の実情に応じた風速を考慮した技術基準への見直しを行うとともに、これにあわせた鉄塔の総点検を各電力会社に要請し、各電力会社では必要な補強工事を完了しています。また電柱についても、鉄塔の基準強化にあわせて技術基準を見直しました。

ガスについては、これまでも被災地域内外の事業者連携により、迅速な導管網の復旧に取り組んできていましたが、今後、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震といったさらなる大規模地震のリスクも懸念されることから、ガス事業法において、一般ガス導管事業者に対して「災害時連携計画」を作成する義務を課し、災害時の具体的な連携内容についての規定や、経済産業大臣による計画変更勧告・計画実施勧告の規定を設ける等の法的な整備を行いました。

〈具体的な主要施策〉

(1)石油コンビナート生産性向上及び強靱化推進事業費【2022年度当初:75.0億円の内数】

特別警報級の大雨や高潮等の発生時にも石油供給能力を維持するため、石油精製業者が進める製油所等における排水設備の増強等に対して支援を行いました。

(2)石油製品形態での国家備蓄の確保

東日本大震災の発生直後、被災地を中心として円滑な石油供給に支障をきたした反省から、石油製品の形態(ガソリン・灯油・軽油・A重油)での国家備蓄の増強に取り組み、2014年度から2016年度にかけては、石油備蓄法に基づく「災害時石油供給連携計画」を策定する単位である全国10ブロックごとに、各ブロック内の石油製品(ガソリン、灯油、軽油、A重油)需要の4日分の備蓄が蔵置されるよう貯蔵設備の増強を行いました。2022年度末時点では、各ブロック内需要の約4日分の量を蔵置しています。

(3)災害時に備えた地域におけるエネルギー供給拠点の整備事業費

(再掲 第5章第2節 参照)

(4)離島・SS過疎地等における石油製品の流通合理化支援事業費(うち過疎地等における石油製品の流通体制整備事業)

(再掲 第5章第2節 参照)

(5)高圧ガス設備の耐震対策の促進

今後想定される大規模地震に対する高圧ガス設備の耐震性向上のため、高圧ガス設備の耐震設計手法のさらなる高度化(液状化地盤中の杭基礎及び耐震設計設備の簡易解析手法等の検討、高圧ガス設備のレベル2耐震性能評価法の見直しに関する検討等)に向けた調査研究を行いました。

(6)石油・ガス等供給に係る保安対策調査等委託費【2022年度当初:4.5億円】

石油・ガスの安定供給、資源の合理的開発、石油・ガスの精製・供給・消費等に係る保安の確保を図るため、石油精製プラントや都市ガス・LPガス等の事故情報調査や業務用ガス燃焼機器の安全性向上対策に係る調査、石油・天然ガス開発先進国である米国や欧州等における保安規制の実態調査等を実施しました。

(7)休廃止鉱山鉱害防止等工事費補助事業【2022年度当初:21億円、2022年度補正:12億円】

採掘活動終了後の金属鉱山等について、地方公共団体等が事業主体となって行う鉱害防止事業に要する費用の一部を補助し、人の健康被害、農作物被害、漁業被害等の深刻な問題(鉱害)の防止を図りました。

2.需要サイドへの支援

災害時において道路等の交通網、都市ガス導管や送電網の寸断により、安定的なエネルギー供給が困難な事態が発生することが予想されます。このため災害時において、電力やガスの供給が途絶えても機能維持が求められる社会的重要インフラ(避難所や医療・福祉施設)においては、自家発電設備等を稼働させるため自衛的に燃料を備蓄しておくことが重要です。そのため避難所等の社会的重要インフラに対し、LPガスタンクや石油タンク等の導入を支援しました。

また、世界情勢を背景としたエネルギー価格の上昇による家庭や企業等の負担を軽減するため、政府は2022年10月に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」において、電気料金、都市ガス料金、燃料油価格の対策として総額約6兆円の支援を盛り込みました。

〈具体的な主要施策〉

(1)災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金【2022年度当初:37.5億円、2022年度補正:20.0億円】

災害・停電等により電力・都市ガス供給が途絶した場合であっても、エネルギーの安定供給を確保するため、避難所等の社会的重要インフラの燃料備蓄を推進するためLPガスタンクや石油タンク等の導入を支援しました。

(2)燃料油価格激変緩和対策事業【2022年度予備費:2,774億円、2022年度第1次補正:11,655億円、2022年度予備費:12,959億円、2022年度第2次補正:30,272億円】

原油価格高騰への対策として、農業・漁業・運輸業等の業種別の対策等に加え、時限的・緊急避難的な燃料油価格激変緩和対策事業を行いました。具体的には、ガソリン価格の全国平均が基準価格以上の場合、円建ての原油価格の変動による卸価格上昇分につき、ガソリン・軽油・灯油・重油1リットル当たり最大で41.4円の支給を行うことで、燃料油の卸価格を抑制させ、この結果、1リットル当たり200円以上となることが予測されたレギュラーガソリンの小売価格を、170円程度に抑制しました。2023年1月からは上限額を緩やかに調整して事業を実施しています。

(3)電気・ガス価格激変緩和対策事業【2022年度補正:31,074億円】

各小売事業者等を通じて、電気・都市ガスの使用量に応じた料金の値引きを行い、電気料金・ガス料金の急激な上昇によって影響を受ける家庭や企業等の負担を軽減する事業を実施しました。

具体的には、電気料金については低圧契約の家庭等に対して7円/kWh(9月使用分は3.5円/kWh)、高圧契約の企業等に対して3.5円/kWh(9月使用分は1.8円/kWh)、都市ガス料金については年間契約量が1,000万㎥未満の家庭や企業等に対して30円/㎥(9月使用分は15円/㎥)を値引きすることとし、2023年1月使用分(2月請求分)から値引きを開始しました。