第1節 石油備蓄等による海外からの供給危機への対応の強化
石油備蓄政策については、近年、国内の石油需要の動向やリスク等を勘案して、危機発生時にも原油及び石油製品の安定供給の確保のために必要となる対応を円滑に発動することに重点を置いています。具体的には、緊急時を想定した対応訓練や、産油国やアジア消費国との協力強化等の取組を進めています。既に、「産油国共同備蓄事業」として、サウジアラビアやUAE、クウェートの国営石油会社に対し、商用原油の東アジア向け中継・在庫拠点として日本国内の石油タンクを貸し出し、供給危機時には日本企業が優先して供給を受ける枠組みを構築しており、日本と産油国双方の利益となる関係強化策として強力に推進しています。
このような取組を進めている中、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略に起因する国際エネルギー市場の深刻な需給ひっ迫に対応するため、国際エネルギー機関(以下「IEA」という。)は同年3月と4月に2度の閣僚会合を開催し、石油備蓄放出の協調行動について合意しました。これを受け日本は、民間備蓄石油の放出(1,350万バレル)に加えて、「石油の備蓄の確保等に関する法律(昭和50年法律第96号)」(以下「石油備蓄法」という。)の第31条に基づき、国家備蓄石油の放出(900万バレル)を実施しました。同法に基づく国家備蓄の放出は1978年の国家備蓄制度創設後、初めてのことです。
LPガス備蓄については、2013年3月に2つの国家備蓄基地が完成し、5基地体制となりました。同年8月末には、これら2基地に備蓄するため、米国からシェールガス随伴のLPガスを積んだ第一船が入港しました。以来、順調に備蓄増強を進め、2017年11月に倉敷基地への備蓄増強が完了しました。これにより輸入量の50日分程度に相当する国家備蓄目標を達成しました。その後、2018年2月に民間備蓄義務日数を40日に引き下げました。
〈具体的な主要施策〉
1.国家石油備蓄の管理委託等【2022年度当初:862.1億円】
約4,600万klの国家備蓄石油及び国内10か所の国家備蓄基地について、国から委託を受けたJOGMECが統合管理を行い、緊急時における国家備蓄原油の機動的な放出を可能にすべく、放出体制の確保、油種入替及び緊急放出訓練等を実施しました。
2.産油国共同石油備蓄事業【2022年度当初:58.0億円】
日本は国家備蓄の他にも、主要な原油輸入先であるUAEのアブダビ国営石油会社(以下「ADNOC社」という。)、サウジアラビア国営石油会社(以下「サウジアラムコ社」という。)、そしてクウェート石油公社に対して日本国内の原油タンクを貸与し、各国営石油会社が所有する原油を国内に蔵置しています。2009年12月からは鹿児島県のENEOS喜入(きいれ)基地にてADNOC社との事業を開始し(開始当時約60万kl)、2011年2月からは沖縄県の沖縄石油基地にてサウジアラムコ社との事業を開始(開始当時約60万kl)、また2020年12月からは新たにクウェート国営石油会社との間で共同備蓄事業(約50万kl)を開始しました。
平時には、各国営石油会社の東アジア向けの供給・備蓄拠点として、当該タンクとタンク内の原油は商業的に活用される一方、日本への石油供給量が不足するような危機時には、タンク内の原油を日本の石油会社が優先的に購入できることとなっています。
本事業が、産油国との関係を強化することや、沖縄等の地域が産油国にとっての東アジア向け原油供給拠点になること等の様々な副次的な意義も有するものであることに鑑み、これまでも事業の延長や拡充を行ってきました。最近では、ADNOC社との間で、2020年1月に事業の延長及び貸与タンクの30万klの拡充について合意し、2020年度より130万klの原油タンクを貸与する体制となりました。サウジアラムコ社との間でも、2022年12月に原油タンク貸借等に係る契約更新を行い、これまでに続き130万klの原油タンクを貸与する体制となっています。
3.国家石油ガス備蓄の管理委託等【2022年度当初:265.0億円】
国内5か所の国家備蓄基地について、国から委託を受けたJOGMECが一元的に管理を行い、緊急時における国家備蓄石油ガスの機動的な放出を可能にすべく、緊急時放出訓練等を実施しました。
4.備蓄石油・石油ガス購入資金への支援【融資】
石油備蓄法に基づき、石油精製業者、特定石油販売業者、石油輸入業者、石油ガス輸入業者に対して備蓄義務(石油:70日、石油ガス:40日)を課していますが、当該備蓄義務はこれらの民間企業に対して膨大なコスト負担を強いるものであることから、JOGMECによる備蓄石油・石油ガス購入資金の低利融資を実施しました。