第1節 原子力をめぐる環境と政策対応
昨今の資源価格の高騰や、ロシアによるウクライナ侵略に起因する国際エネルギー市場の混乱、国内における電力需給のひっ迫等、国内外のエネルギー情勢が一変しています。こうした情勢を踏まえ、2022年7月に設置されたGX実行会議での議論等を踏まえ、2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」では、将来にわたってエネルギー安定供給の選択肢を確保するべく、再エネや原子力等、エネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を活用していくことが示されました。この方針の中で、原子力については、安全性の確保を大前提に、原子力発電所の再稼働を進めること、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むこと、地域の理解確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建替の具体化を進めること、その他の開発・建設については今後の状況を踏まえて検討していくこと、既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、実質的な運転期間の「60年」という上限は維持しつつ、一定の停止期間に限って運転期間のカウントから除外すること、最終処分を含むバックエンドの課題について国主導で取り組むこと等が盛り込まれました。
また、今後の原子力政策について政府としての長期的な方向性を示す羅針盤として、2017年に原子力委員会が策定した「原子力利用に関する基本的考え方」には、「5年を目途に適宜見直し、改定する」との見直し規定があり、2022年で策定から5年を迎えました。原子力委員会において、約1年にわたるヒアリング・検討を行い、原子力のエネルギー利用、核不拡散・核セキュリティの確保、国民からの信頼回復、廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分の対応等を含む、今後の原子力政策に関する理念・基本目標について、原子力を取り巻く環境変化を踏まえた改定を2023年2月に行い、閣議にて尊重する旨が決定されました。
さらに、こうした議論も踏まえ、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会等における検討を経て、今後の原子力政策の主要課題とその解決に向けた具体的な対応の方向性が整理され、2022年12月に開催された原子力関係閣僚会議において、「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」が示されました。
その上で、原子力発電所の再稼働については、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」に基づき、引き続き、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し、原子力発電所の再稼働を進めることとしています。その際、国も前面に立ち、立地自治体等の関係者の理解と協力を得るよう、取り組むこととしています。直近では2022年6月に、島根原子力発電所2号機について、地元から再稼働への理解表明がなされています。
一方で、今後も原子力発電を安定的に利用するためには、国内に約1.9万トン存在する使用済燃料への対処が重要です。日本は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、核燃料サイクルの推進を基本的方針としています。日本原燃の六ヶ所再処理工場は、2020年7月に事業変更許可を取得し、安全確保を最優先に2024年度上期のできるだけ早期の竣工を目指しています。竣工目標の実現に向けて、日本原燃は、安全規制等への対応体制を強化するとともに、規制当局とより緊密なコミュニケーションを図ることで認識を共有すること等により、安全審査等への対応を確実かつ効率的に進めることとしています。また、同社のMOX燃料工場も、2020年12月に事業変更許可を取得し、2024年度上期の竣工に向け取組を進めています。
また、六ヶ所再処理工場の竣工に当たっては、プルトニウムの適切な管理と利用への取組が不可欠です。電気事業連合会は、2020年12月に新たな「プルサーマル計画」を、2021年2月に新たな「プルトニウム利用計画」を公表しました。さらに、日本原燃からも、2020年12月に六ヶ所再処理工場等の操業計画が示されました。これらを踏まえ、再処理事業の実施主体である使用済燃料再処理機構が中期計画を策定、2021年3月に経済産業省が原子力委員会の意見も聴取した上で認可し、プルトニウムの利用と回収のバランスの確保を図りました。これらの計画は、2022年度、各団体により改定されています(操業計画及びプルトニウム利用計画:2023年2月改定、中期計画:同年3月改定)。
さらに、核燃料サイクルを進める上では、使用済燃料の貯蔵能力の拡大も重要です。政府は、2015年10月の最終処分関係閣僚会議において、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」を策定しました。このプランに基づき、原子力事業者は使用済燃料対策推進計画を策定し、取組を進めてきました。その結果、2020年秋以降、伊方や玄海における発電所構内の乾式貯蔵施設や、むつ中間貯蔵施設が原子力規制委員会から規制基準に基づく許可を得る等、貯蔵能力の拡大に向けた具体的な取組が進展しています。
核燃料サイクルの中で発生する高レベル放射性廃棄物等の最終処分については、国が前面に立って原子力発電環境整備機構(以下「NUMO」という。)とともに対話活動等を進めていく中で、地層処分事業をより深く知りたいと考える関心のあるグループが全国的に増えてきており、2020年11月には北海道寿都町、神恵内村で文献調査が開始されました。
高レベル放射性廃棄物に限らず、原子力の研究、開発及び利用によって発生する低レベルの放射性廃棄物の処理・処分についても、安全性の確保と国民の理解を旨として進める必要があります。
2022年度に行った原子力に関する施策は、以下のとおりです。