第1節 エネルギー国際協力体制の拡大・深化
世界のエネルギー情勢が大きく変化する中、各国のエネルギー需給構造をより安定化・効率化するためには、一国での取組だけでなく、多国間及び二国間のエネルギー協力を戦略的に組み合わせつつ、国際的な協力を拡大することが重要となってきています。
そのため、2021年度においては、多国間の国際エネルギー枠組みを活用し、エネルギーの安定供給確保に向けた取組を進めるとともに、二国間の協力を通じて、アジア各国、先進諸国との協力やエネルギー供給国との関係強化を行いました。
〈具体的な主要施策〉
1.多国間枠組みを通じた協力
(1)主要消費国における多国間協力
①国際エネルギー機関(IEA)における協力
IEAは、1974年11月、第一次石油ショックを契機として、米国の提唱により石油消費国間の協力組織として設立されました。当初は、国際エネルギー計画(IEP)に関する協定に基づく石油の90日備蓄義務及び緊急時対応を始めとするエネルギー問題解決のための国際協力が主な活動内容でしたが、現在では、①低炭素技術の開発促進・省エネ、低炭素技術の開発・普及のための政策提言、低炭素技術R&Dのための技術協力、②国際石油市場、世界エネルギー需給、エネルギー技術等の見通しの策定・公表、③中国やインドを含む新興国、産油国等との協力関係の構築、④国別エネルギー政策の審査、勧告の実施等、幅広い活動を展開しています。現在のメンバー国は、豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、韓国、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国の計30ヵ国及びEUです。概ね隔年で閣僚理事会を開催しており、次回は2022年を予定しています。
IEA設立時は、世界の石油需要の約7割は西側先進国が占めていたため、メンバー国は西側先進国が中心でしたが、近年、非参加の新興国が経済成長を遂げており、IEAはグローバルなエネルギー課題に取り組むためには、エネルギー需要が増加している中国等の新興国をIEAの体制に取り込んでいくことが重要と考え、2015年の閣僚理事会以降、メンバー国とは別に「IEAアソシエーション国」という制度的枠組を設けました。現在、ブラジル、中国、インド、インドネシア、モロッコ、シンガポール、南アフリカ、タイの8ヵ国がアソシエーション国となっています。さらに、2021年1月、アソシエーション国であるインドとIEAの間で、協力強化のための新たな地位である「略的パートナーシップ」構築に向けた枠組み文書に署名しました。
2020年7月には、加盟国及びアソシエーション国に加え、その他の国家や民間企業も交えて、クリーンエネルギー転換サミットが初めて開催され、日本から梶山経済産業大臣が出席しました。同会合では、COVID-19の世界的感染拡大からの持続可能な経済回復に向けて、クリーンエネルギー転換の重要性について、参加した各国閣僚等との協力を確認し、議長声明が発表されました。同11月に鷲尾外務副大臣は、アフリカ連合委員会及びIEAが共催する閣僚フォーラムに出席し、アフリカにおけるエネルギー・アクセスの改善及びアフリカへの投資の継続の重要性を強調するとともに、同地域におけるエネルギーへのユニバーサル・アクセス実現に向けた日本の取組について紹介しました。2021年3月には、IEAと英国の共催にて、IEA-COP26ネットゼロサミットが開催され、日本から梶山経済産業大臣が出席しました。同会合では、各国が掲げるカーボンニュートラル目標の達成に向けて、クリーンエネルギーへの移行に関する具体策について、参加した各国閣僚等と議論を行い、成果文書として、「IEA/COP26ネットゼロ達成に向けた7原則」が発表されました。
また、IEAは、メンバー国のエネルギー政策及び緊急時対応政策を審査するため、IEAメンバー国等によるレビューチームによるピアレビュー(IDR:国別詳細審査、ERR:緊急時対応審査)を約5年に1度実施しています。日本に対する詳細国別審査が2020年2月に実施され、その報告書が2021年3月に公表されました。報告書では、東日本大震災以降の日本のエネルギー政策の進捗や、日本の2050年カーボンニュートラル宣言を評価するとともに、その実現に向けた幅広い低炭素技術を活用したエネルギー・シナリオの検討、再生可能エネルギー導入拡大とエネルギー安全保障確保に向けた電力系統への投資促進、電力及びガス市場改革の推進等が提言されました。
2021年10月に原油価格が3年ぶりの高値を付ける等、資源価格高騰による懸念を踏まえ、2021年10月に、IEAの貞森エネルギー市場・安全保障局長と経済産業省担当局長が協議を行ったことに続き、2022年1月には、IEAのビロル事務局長と萩生田経済産業大臣が面談を実施いたしました。
2022年3月には、IEA閣僚理事会が開催され、経済産業省からは萩生田経済産業大臣が参加し、気候変動、エネルギー安全保障、非加盟国との連携、財政基盤強化といった論点につき盛り込まれた閣僚声明の取りまとめに貢献しました。
(ア)国際エネルギー機関分担金【2021年度当初:3.5億円】
同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。
(イ)国際エネルギー機関拠出金【2021年度当初:5.0億円】
「世界エネルギー展望(WEO)」を始めとするエネルギー市場の分析、エネルギー技術ロードマップの策定等を支援すると同時に、水素、イノベーション、低炭素電源投資、電力安定供給等にかかる各種調査・分析の実施を依頼すべく、IEAメンバー国として拠出を行いました。
【2021年度補正:2.2億円】
経済安全保障の強化に資する重要鉱物資源のサプライチェーン構築を目的として、IEAメンバー国として拠出しました。
②G7における協力
G7エネルギー大臣会合は先進主要7ヵ国(日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国、イタリア。2013年まではロシアを含めてG8)のエネルギー担当大臣による閣僚会合として、1998年から不定期にサミット議長国が開催しています。2021年5月20日、21日に、英国が主催するG7気候・環境大臣会合がテレビ会議形式で開催され、梶山経済産業大臣及び小泉環境大臣並びに江島経済産業副大臣及び笹川環境副大臣が出席しました。気候・エネルギー分野においては、カーボンニュートラルの実現に向け、気候変動対策の強化や、エネルギー分野、産業分野の炭素中立化等について議論が行われ、気候・環境大臣会合として、閣僚声明が採択されました。
2021年6月11日、12日、13日には、英国・コーンウォールにてG7サミットが開催され、菅総理が出席しました。成果文書として首脳宣言が採択され、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電からの移行、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援の2021年中の終了、2030年代の電力システムの最大限の脱炭素化、水素、CCUS、原子力等の重要性について盛り込まれました。
③G20における協力
2021年7月23日に、イタリアが主催するG20気候・エネルギー大臣会合がイタリア・ナポリにて開催され、小泉環境大臣、長坂経済産業副大臣及び鷲尾外務副大臣が出席しました。同会合では、カーボンニュートラルの実現に向け、気候変動対策の強化や、エネルギー・トランジションの重要性を中心に議論が行われ、閣僚声明及び付属文書が採択されました。
2021年10月30日、31日には、イタリア・ローマ及びテレビ会議のハイブリッドにてG20サミットが開催され、岸田総理がテレビ会議形式にて出席しました。成果文書として首脳宣言が採択され、G20気候・エネルギー大臣会合の成果に留意するとともに、低炭素な電力システムに向けた移行を可能にするための技術の展開及び普及、排出削減対策が講じられていない海外の新規の石炭火力発電に対する国際的な公的資金の提供の2021年中の終了、エネルギー安定供給の重要性について盛り込まれました。
(2)アジア地域における多国間協力
①ASEAN+3・東アジア地域における協力
アジア地域におけるエネルギー需要の急増を踏まえ、アジア規模でのエネルギーの安全保障と持続可能性を確保するため、2004年から、ASEAN+3エネルギー大臣会合が(ASEANと日中韓の13ヵ国の代表が出席)、2007年からは、東アジアサミット(EAS)エネルギー大臣会合(ASEAN、日中韓、オーストラリア、インド、ニュージーランド、米国、ロシアの18ヵ国の代表が出席)が開催されています。
2021年6月21日、日本の呼びかけにより、ベトナムのジエン商工大臣を議長、梶山経済産業大臣を共同議長として日ASEANエネルギー大臣特別会合が初めてオンライン形式にて開催されました。同会合では、梶山経済産業大臣から、世界全体でのカーボンニューラルの実現に向け、各国の事情に応じて幅広い選択肢を活用した現実的なトランジションを直実に推進していく重要性を強調するとともに、日本が「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」を提案し、アジアのエネルギー・トランジションを全面的に支援していくことを表明し、ASEAN各国等から歓迎の意が示されました。
2021年9月、第18回ASEAN+3エネルギー大臣会合及び第15回EASエネルギー大臣会合がオンライン形式で開催され、江島経済産業副大臣が出席しました。
同会合では、経済成長を達成するためエネルギーの安定的かつ継続的な供給を確保するためには、各国が様々な選択肢を検討し、あらゆる技術や燃料を活用する必要性があるとの認識で一致し、低炭素経済を達成するための道筋は一つではなく、各国にとって多様な道筋があることに合意しました。また活動報告として、エネルギー安全保障の強化に向けた石油備蓄や原子力安全の人材育成、CCUS、カーボンリサイクルといった低炭素社会への移行に不可欠な役割を果たす技術の知見共有・研究協力、AJEEP(ASEAN-日本エネルギー効率パートナーシップ)等を通じた省エネ協力等、日本からの継続的な支援と貢献について参加国から感謝の意が示されました。
○東アジア経済統合研究協力拠出金【2021年度当初:6.3億円】
EAS中期エネルギー政策調査研究ロードマップに基づき、東南アジア地域における電気自動車の導入等の最新の動向調査をはじめ、エネルギーレジリエンスの海外展開に向けた定量評価指標の整備、また、世界で開発が進む小型モジュール炉(SMR)等の革新炉について、技術的観点、経済的観点、規制の在り方を検討するための調査研究等を実施するために、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)に拠出を行いました。
②アジア太平洋経済協力(APEC)における協力
1989年11月に豪州のキャンベラで開催された第1回APEC閣僚会議において、エネルギー問題に対する域内協力の重要性と、これを専門に議論する場を設定することで一致しました。これを受けて、1990年にエネルギー作業部会(EWG)が設立され、さらに1996年には、よりハイレベルなエネルギー政策対話を行うため、シドニーにおいて第1回APECエネルギー大臣会合が開催され、2015年までに計12回開催されています。
これまでのAPECエネルギー大臣会合において日本が提案し、合意された事項に基づき、①APECメンバーのエネルギー効率向上に向けた取組状況をレビューする「エネルギー効率ピアレビュー」、②急速な都市化に直面するAPEC地域において、都市レベルで低炭素技術を統合的に導入することを目指す「APEC低炭素モデルタウンプロジェクト」、③石油及びガスの供給途絶時における対応能力の強化を図るための「APEC石油・ガス・セキュリティエクササイズ」の実施に向けた調整をコロナ禍の中でも進めるとともに、エネルギーシステムの強靱化に資する取組を自主的に促すための原則である「APECエネルギーレジリエンスプリンシプル」を日本が主導して2020年8月に策定しました。さらに、2020年12月には、10年ぶりの日本主催により、エネルギー作業部会をテレビ会議形式で開催し、APEC地域のエネルギー政策について議論を交わしました。
また、2021年11月には、APEC閣僚会議がテレビ会議形式で開催され、日本からは、萩生田経済産業大臣、小田原外務副大臣、細田経済産業副大臣、三宅外務大臣政務官が出席しました。「2021年APEC閣僚共同声明」においては、化石燃料への依存度を低減する持続可能なエネルギー移行の一環として、再生可能エネルギー及びその他の環境上適正な技術に投資するとともに、エネルギー強靭性、エネルギー・アクセス及びエネルギー安全保障を支援するための協力を継続することに加え、安定した多角的なエネルギー供給が持続可能な経済開発の実現に果たす必要不可欠な役割、安定したエネルギー市場と、クリーンエネルギーへの移行を支援することの重要性を認識することが明記されました。さらに、同月APEC首脳会議がテレビ会議形式で開催され、日本からは岸田総理が出席しました。APEC首脳宣言においては化石燃料への依存度を低減する持続可能なエネルギー移行の一環として、再生可能エネルギー及びその他の環境上適正な技術の適用のための地域の能力強化について一定の成果を挙げていること、地域におけるエネルギー強靱性、アクセス及び安全保障を支援するための協働を継続すること、安定的なエネルギー市場及びクリーンエネルギーへの移行支援の重要性を認識することが明記されました。
(ア)アジア太平洋経済協力拠出金【2021年度当初:1.0億円】
アジア太平洋地域における低炭素技術の普及に向けたプロジェクト(APEC低炭素モデルタウンプロジェクト)や、APEC域内のエネルギー強靱性の向上、エネルギー効率の向上やエネルギー源の多様化に資するプロジェクト等を支援するために、APEC事務局に拠出を行いました。
(イ)アジア太平洋エネルギー研究センター【2021年度当初:6.7億円】
省エネ政策ワークショップの開催、「APECエネルギー需給見通し」の作成、アジア太平洋地域のエネルギー統計整備のための研修生受入・専門家派遣、「LNG産消会議」の開催、石油・石炭・ガスレポートの作成等のために、アジア太平洋エネルギー研究センターに拠出を行いました。
(3)その他の多国間協力(生産国と消費国の対話等)
①国際エネルギーフォーラム(IEF)における対話
IEFは、世界70ヵ国の石油・ガス等の産出国と消費国のエネルギー担当大臣及びIEA、OPECを始めとする国際機関の代表が一堂に会する重要な「産消対話」の場です。産消対話を行うことにより、産消国双方が相互に理解を深め、健全な世界経済の発展や供給と需要の安定確保のために安定的かつ透明性のあるエネルギー市場を促進することを目的として、1991年に第1回会合をパリで開催し、以降1〜2年ごとに開催されています。2020年9月に、サウジアラビアにて予定されていた第17回閣僚会合は、COVID-19の影響を受けて延期となり、2022年の開催を予定しています。
また、IEFではエネルギー関連の7つの国際機関(APEC、EU、IEA/OECD、IEF、OLADE(中南米エネルギー機関)、OPEC、国連)で協力し、石油と天然ガスの統計を整備する国際機関共同データイニシアチブ(JODI)を進めており、2005年にJODI-Oil(石油の統計データベース)、2014年にJODI-Gas(天然ガスの統計データベース)が開始されています。国際機関が協力して情報共有を進め、エネルギー需給の動向についての正確かつタイムリーな情報が市場に提供されることで、市場の透明性が増し、過度の価格乱高下を抑制できると考えられており、現在、JODIは、世界の石油・ガス需給の9割以上を網羅しています。日本は、資金・人材の両面でJODIの発展に寄与しています。
(ア)国際エネルギーフォーラム(IEF)分担金【2021年度当初:0.1億円】
同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき拠出しました。
(イ)国際エネルギーフォーラム(IEF)拠出金【2021年度当初:0.3億円】
IEF閣僚会合の開催支援を行うとともに、国際機関共同データイニシアチブ(JODI)事業への貢献のために、IEF事務局に拠出を行いました。
②国際再生可能エネルギー機関(IRENA)における協力
IRENAは、再生可能エネルギーの普及・持続可能な利用促進を目的として設立された国際機関であり、日本は、2010年7月から正式に加盟しました。事務局はUAEのアブダビに設置されています。IRENAの主な活動は、①メンバー国の政策、制度、技術、成功事例の分析・体系化、②他の政府・非政府機関等との協力、③政策助言、④技術移転、⑤人材育成、⑥資金に関する助言、⑦研究ネットワークの展開、⑧国際的技術基準の作成等です。
2021年5月、第21回IRENA理事会がオンラインで開催され、日本から議長として鷲尾外務副大臣が、日本政府代表として江島経済産業副大臣が出席しました。議長挨拶では、国際的な脱炭素社会実現のために政策、資金、イノベーションを総動員する必要性を発信しました。江島副大臣からは、日本の2050年脱炭素社会実現に向けた取組やエネルギー政策を発信するとともに、IRENAへの拠出金等を通じて、IRENAの活動や各国の脱炭素化の取組を継続して貢献していく旨を表明しました。
2021年10月、第4回水素閣僚会議において、IRENAラ・カメラ事務局長から、脱炭素化に向けた再生可能エネルギー由来水素の重要性とその製造コスト削減のためのイノベーション、サプライチェーンの最適化及びベストプラクティス共有等の必要性について発信しました。
また、同月、第22回IRENA理事会がアブダビで開催され、日本から議長として石井経済産業副大臣がオンラインで出席しました。議長挨拶では、世界の脱炭素化に向けて、IRENAが国際的な議論をリードすることに期待しつつ、日本としても2030年温室効果ガス削減の新たな目標も踏まえ、再生可能エネルギーの最大限の導入に向けた取組の推進することを発信しました。
2022年1月、第12回IRENA総会がオンラインで開催され、日本から細田経済産業副大臣、小田原外務副大臣が出席しました。細田副大臣からは、エネルギー政策におけるS+3Eの重要性、日本の再生可能エネルギーの最大限の導入に向けた取組や水素サプライチェーンに関する技術開発・実証等を発信しました。
(ア)国際再生可能エネルギー機関分担金【2021年度当初:2.5億円(4省合計)】
IRENAを通じ、日本単独では十分な成果が見込めない大規模な調査や普及活動を実施することにより、再生可能エネルギーを国際的に普及させるため、同機関の活動・運営費用を、各国分担率に基づき、外務省、農林水産省、経済産業省、環境省の4省共同で分担しました。
(イ)国際再生可能エネルギー機関拠出金【2021年度当初:0.6億円】
経済産業省からは、①再生可能エネルギーと水素利活用に関する調査、②世界の地熱利用促進に向けた活動への協力、③東南アジアにおける再生可能エネルギー導入推進事業等の実施のため、分担金に加え同機関の活動費用の拠出を行いました。
③国際的な省エネルギーの新たな枠組み(省エネハブ)における協力
省エネハブは、国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)の後継機関として、主要な省エネトピックについて、加盟国間や国際社会での情報交換や連携を奨励・促進するため、2019年に設立されました。アルゼンチン、豪州、ブラジル、カナダ、中国、デンマーク、EU、フランス、ドイツ、日本、韓国、ルクセンブルク、ロシア、サウジアラビア、英国、米国の16ヵ国が設立時メンバーとして参加し、事務局は国際エネルギー機関(IEA)に置かれています。日本を含む加盟国間で、今後の活動方針や具体的な活動プログラムについての議論が行われています。2021年12月、省エネハブの発足イベントが開催され、省エネハブの下で活動を行うタスクグループとして、日本が主導する「EMAK(エネルギー管理行動ネットワーク)」のほか、「DWG(デジタル化ワーキンググループ)」、「SEAD(超高効率機器の普及イニシアチブ)」、「TOP TENs(省エネに関する優秀事例及び最良技術リストの開発・普及プロジェクト)」の概要が発表されました。
④クリーンエネルギー大臣会合(CEM)
クリーンエネルギー大臣会合は、世界の主要26ヵ国及び地域から構成されるクリーンエネルギーの普及促進を目的とした国際会合です。2020年9月に、Web会議形式にて第11回CEMが開催されました。本会合では、COVID-19からの復興はクリーンエネルギー導入拡大の機会であることを確認するとともに、エネルギー移行に向けた水素利用、クリーンなエネルギーシステム実現のための原子力、低炭素化にむけた分野統合といったテーマ設定の中で、クリーンエネルギーの推進に向け各国が抱える課題と取組について、活発な議論が行われました。日本からは、COVID-19を契機としたよりクリーンなエネルギーシステムへの転換及び各国の事情を踏まえた段階的なエネルギー移行の重要性、再エネ主力電源化に向けた日本の取組や「革新的環境イノベーション戦略」に基づき、2050年までの革新的技術の確立を目指すことを述べるとともに、今後もCEMの活動を含めた世界のクリーンエネルギー推進に貢献していくことを表明しました。
⑤エネルギー憲章条約
エネルギー憲章条約(ECT:Energy Charter Treaty)は、エネルギー貿易の自由化を促進し、投資保護の枠組みを有する条約であり、世界で50ヵ国及び2国際機関が条約を締結しています。2015年5月には、新興国の台頭及びそれに伴う世界のエネルギー需給構造の変化、気候変動問題への危機感の高まり等を踏まえ、条約の基礎となった1991年の政治宣言「欧州エネルギー憲章」を近代化した「国際エネルギー憲章(International Energy Charter)」が採択されました。その署名には、既存の条約締約国のみならず、中国、韓国、カンボジア、チリ、コロンビア、タンザニア、ニジェール等、ECT未批准国が20ヵ国以上も参加し、これまでの旧ソ連及び東欧諸国、EU諸国中心のものから、地理的な広がりを持ちつつあります。
2020年12月には、エネルギー憲章会議第31回会合がオンライン形式で開催され、「万人のためのエネルギー効率:イノベーションと投資」というテーマの下、ECTの加盟国、オブザーバー及び招待された国際機関の閣僚級の出席を得て議論が行われました。日本からは、鷲尾外務副大臣がビデオメッセージにより出席し、安心、信頼できる投資環境を提供するための法的基盤を提供するECTはますますその重要性を高めており、日本は2020年に加盟国間で開始されたECTの近代化交渉に積極的に貢献していく旨発言しました。
○エネルギー憲章条約分担金【2020年度当初:1.0億円】
エネルギー分野における投資促進、エネルギー貿易及び通過の自由化に関する各種活動(報告書作成、ワークショップの開催等)、締約国会議であるエネルギー憲章会議の開催のため、エネルギー憲章条約事務局に拠出を行いました。
⑥多国間枠組を通じた人材育成等
日本は、2014年以降毎年、再生可能エネルギーを普及させるための人材育成の観点から、IRENAと共催し、アフリカやアジア・太平洋島嶼国等を対象とした再生可能エネルギーに関する研修プログラム/ファイナンスワークショップを開催しており、2021年度は3月にオンラインで開催しました。
⑦証券監督者国際機構(IOSCO)との連携
経済産業省は、商品取引所及び取引所外取引における相場操縦行為等の不公正取引の監視強化や透明性向上のために、証券監督者国際機構(IOSCO)の活動に積極的に参画しています。商品先物取引に関連する成果の一例として、IOSCOは、規制された取引所でのエネルギー商品を含む現物受渡デリバティブ商品の価格形成プロセスについて調査を実施し、「商品デリバティブ市場価格への倉庫及び受渡施設の影響に関する報告書」として2016年5月に公表しました。この報告結果にのっとり、2019年2月に適正な行為規範を示した「『商品倉庫および受渡施設の健全な慣行』報告書」を公表しました。
⑧商品先物市場監督当局間の協力
例年、証券監督者国際機構(IOSCO)の活動の一環として、各国の先物監督当局間で行われる対面形式での会合が定期的に開催されており、経済産業省も参加する等して、積極的に情報交換、協力を行っています。2021年度は、2020年度に引き続き新型コロナウイルスの影響により、オンライン形式での会合の開催となりましたが、今後の各国の商品先物市場当局の協力等について意見交換が行われました。また、IOSCOの包括的な協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書の枠組みに参加し、これに基づいて、市場監視のために各国の当局との情報交換を実施する体制を整えています。
2.二国間協力の推進
(1)先進諸国との協力
①日米協力
米国は、2019年9月に原油貿易における輸出が輸入を上回り、70年ぶりに純輸出国となりました。また、天然ガス分野では、2017年に初めてシェールガス由来のLNGが日本に輸入され、その後も米国産LNGの輸入が拡大しています。日米間においては、LNG分野での協力を始め様々な分野でのエネルギー協力が進展しているほか、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた第三国での協力も進められています。
2021年4月の日米首脳会談において合意した、「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」及び「日米気候パートナーシップ」の下、「日米クリーンエネルギーパートナーシップ(JUCEP)」が立ち上げられました。これは、それまでの「日米戦略エネルギー・パートナーシップ(JUSEP)」を継承・発展させ、日米両国がインド太平洋地域において、クリーンで、安価、そして安定的なエネルギーの普及を促進することを目的とする枠組みとなるものです。同年6月、日米の政府及び関係機関は第1回プレナリ会合をオンライン形式で開催し、正式に始動しました。
2021年10月、日米両国政府は、インドネシアへのクリーンエネルギー分野への投資促進を目的に、日米の政府関係機関が企業向けに提供する支援ツールキットの説明会をオンライン形式で開催しました。会合には、日本政府及び政府関係機関(経済産業省、外務省、財務省、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、国際協力機構(JICA))、米国政府及び政府関係機関(国務省、商務省、国際開発金融公社、米国輸出入銀行、財務省、貿易開発庁)、並びに日米の企業関係者等約370名が出席し、インドネシア・エネルギー鉱物資源省からは、インドネシアの再生可能エネルギーおよびエネルギー効率化のための投資政策と計画に関するプレゼンテーションが行われました。2021年3月、梶山経済産業大臣はグランホルム・エネルギー長官とテレビ会談を行いました。会談では、梶山経済産業大臣より、日本の2050年カーボンニュートラル実現に向けた取組、特にグリーン成長戦略について説明するとともに、次世代技術、水素、CCUS/カーボンリサイクル、原子力等のイノベーションや、エネルギー分野でのアジア太平洋地域での第三国協力等、今後の日米エネルギー分野での協力について意見交換を行いました。2022年1月、萩生田経済産業大臣は、グランホルム・エネルギー長官とテレビ会談を行いました。会談では、萩生田大臣より、2050年カーボンニュートラルや2030年削減目標達成に向けた取組について説明するとともに、水素、燃料アンモニア、CCUS/カーボンリサイクル、原子力等の幅広いクリーンエネルギー分野でのイノベーション・社会実装に向けた協力等、今後の両国間の協力について意見交換を行いました。
②日加協力
カナダは世界有数のエネルギー資源国であり、石油、天然ガス、石炭、ウランに加えて豊富な水力資源を有しています。日加間においては、LNGカナダプロジェクト等、LNG分野での協力を中心として様々な分野でのエネルギー協力が進展しています。
2020年6月、経済産業省とカナダ天然資源省は、2019年に締結したエネルギー分野における協力覚書に基づき、日加エネルギー政策対話を開催しました。政策対話では、各種エネルギー分野における日カナダ協力の進展を確認するとともに、今後の協力に向けたアクションプランの策定について議論しました。
また、2020年12月には、第30回日本・カナダ次官級経済協議(JEC)がオンライン形式で開催され、両国政府長は、最近の国際経済情勢や「自由で開かれたインド太平洋」の実現を含む日加協力に関する意見交換に加え、エネルギーを含む5つの優先協力分野等につき議論しました。
③日仏協力
日仏両国は、石油・天然ガスの多くを輸入に依存する点、今後のエネルギー源の多様化を追求する点等、エネルギー需給構造、エネルギー政策に多くの共通点が存在します。
日仏間のエネルギー協力の枠組みである日仏エネルギー政策対話は、今年度はCOVID-19の影響を受け延期となりました。原子力分野においては、2011年10月の東京での日仏首脳会談における両国首脳の主導により設置された原子力エネルギーに関する日仏委員会の第10回会合を2021年1月にオンライン形式で開催し、両国の原子力エネルギー政策、原子力安全協力、原子力事故の緊急事態対応、核燃料サイクル、放射性廃棄物の管理、原子力研究・開発、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉、オフサイトの環境回復等について、意見交換を行いました。
④日英協力
英国は、安定的でクリーン、かつ適正な価格のエネルギー供給の確保等の観点から、1990年代に電力市場の自由化を先行して実施し、世界最大規模の発電容量を誇る洋上風力を含む再エネや、省エネ、原子力発電を推進しています。
2020年11月25日、経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省は、日英間のエネルギー協力の深化・発展を目的とした「日英エネルギー政策対話」を開催し、両国のエネルギー政策やカーボンニュートラルに向けた取組等について意見交換を行いました。また、2021年1月14日に、梶山経済産業大臣とシャーマCOP26議長が会談を行い、2021年に英国が議長国となるG7やCOP26に向けて、両国間で気候変動等に関する協力を一層進めていくことを確認しました。また、梶山経済産業大臣より、日本の2050年カーボンニュートラル実現に向けた取組、特に、「経済と環境の好循環」を生み出す革新的なイノベーションを推進するために、昨年末に取りまとめた「グリーン成長戦略」の方向性について説明しました。
原子力分野については、2012年4月に発出された日英両国首相による共同声明に基づき2020年12月に開催した第9回日英原子力年次対話においては、原子力政策、廃炉及び環境回復、原子力研究・開発、パブリック・コミュニケーション、原子力安全及び規制に関する両国の考え方や取組について意見交換しました。
⑤日独協力
ドイツ政府は、長期的に大部分のエネルギー供給源を再生可能エネルギーとし、建物・機器を中心に省エネルギーを強化する方針の下、導入コストに配慮した再生可能エネルギー増大とそれに対応した送電網の整備等、大幅にエネルギー政策を転換しています。また、電力小売市場全面自由化から20年以上経ており、電力システム改革について知見・経験を有しています。
2019年6月に締結された「日本国経済産業省とドイツ連邦共和国経済エネルギー省とのエネルギー転換における協力宣言」及び同宣言に基づいて2020年2月に署名されたエネルギー協力の具体化に向けたロードマップに基づき、日独両国は、水素とエネルギー転換に関するワーキンググループを設置し、より具体的な協力内容に係る実務的な議論を進めています。特に水素については、2020年7月の安倍総理とメルケル首相との会談においても、両国の協力について言及されました。
2021年2月には、田中経済産業審議官とヌスバウム事務次官との間で、第19回「日独次官級定期協議」を開催し、これまでの両国のエネルギー協力の進展を確認し、今後の日独連携について意見を交わしました。
⑥欧州委員会との協力
2020年5月、安倍内閣総理大臣とミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員長は、日EU首脳テレビ会議を実施しました。両国は、アジェンダ2030、持続可能な開発目標(SDGs)及びパリ協定に沿って、堅実な経済復興とより持続可能で、包括的で強靱な経済の構築を確実とするための決意を強調し、また、「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」へのコミットメントを再確認しました。
⑧日豪協力
日豪両国は、石炭、LNG、水素等の資源・エネルギーの分野において重要なパートナーであり、1985年以来、国際エネルギー情勢や両国のエネルギー政策等を議論する二国間対話の場として、日豪エネルギー資源対話(JAERD)を開催しています。
2021年4月には第39回JAERDをオンラインで開催し、日豪エネルギー関係について、幅広く意見交換を行いました。
2021年6月に実施された日豪首脳会談において、アジア等のエネルギー移行の支援を含む「技術を通じた脱炭素化に関する日豪パートナーシップ」を発表し、脱炭素化に向けて日豪で協力を進めることを確認しました。
2021年10月に開催された東京ビヨンド・ゼロ・ウィークにはピット資源・水・北部豪州担当大臣、テイラー産業・エネルギー排出削減大臣及びフィンケル豪州連邦政府特別顧問がビデオメッセージにて参加しました。
水素については、2022年1月、日豪褐炭水素サプライチェーンプロジェクトにおいて、世界初となる液化水素運搬船が豪州に到着しました。
(2)アジアとの協力
①日インド協力
インドは、米国、中国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国で、経済発展や電化の進展により、今後ますますエネルギー需要が増加することが予想されています。そのようなインドのエネルギー資源安定供給確保とエネルギー効率向上は、日本のエネルギー安全保障にとっても重要であり、両国の経済発展にも直結する重要な政策課題になっています。
こうした背景を踏まえ、エネルギー分野における両国の協力拡大を図る観点から、2006年の首脳合意を受けて、閣僚級の枠組みである「日印エネルギー対話」を立ち上げ、両国閣僚の相互訪問により、2007年以降、計10回の対話を実施しています。次回第11回会合は新型コロナウイルスの感染状況も見極めながら、時宜を捉えて開催すべく調整を行っています。
省エネについては、2018年に日本の支援で成立したインド版省エネガイドラインの普及や工場の省エネマニュアル作成の支援に向け、専門家派遣等の協力を継続しています。石炭火力発電については、技術交流会等を通じて、環境設備対応やバイオマス混焼等の環境協力を実施しています。
水素分野における協力については、2019年2月にデリーで第1回となる水素及び燃料電池に関するワークショップを開催し、両国の水素政策や技術動向等の情報交換を始めました。2020年3月、デリーで第2回ワークショップを開催し、日印協力の具体化について議論しました。2021年3月には、第3回ワークショップを初めてオンライン形式にて開催し、2022年3月には、第4回ワークショップをオンライン形式にて開催し、第4回会合では、日印の水素製造及び水素発電関連技術、及びインドをハブとした国際サプライチェーンをテーマに日印双方から多数の政府関係者、民間企業等の参加を得て、水素利活用の重要性及び日印間の共同研究、民間連携の可能性について議論を行いました。
また、2021年1月に、インドは国際エネルギー機関(IEA)との間で戦略的パートナーシップ構築に向けた枠組み文書に署名しました。インドとIEAの協力関係がより一層強固になることは、世界のエネルギー安全保障及びクリーンエネルギー転換の強化に当たって重要であり、日本としてもこの署名を歓迎しました。
②日インドネシア協力
インドネシアは、日本にとって有数の石油・天然ガス及び石炭等天然資源の輸入相手国であり、複数の日本企業が多くのLNGプロジェクトや再生可能エネルギー関連プロジェクトに参画しています。また、日尼両国は、石炭、LNG等の資源・エネルギーの分野において重要なパートナーであり、2012年度より、両国のエネルギー政策等に関する議論や、個別プロジェクトの推進を目的とした二国間対話の場として、日尼エネルギーフォーラムを開催しています。2022年、第7回日インドネシアエネルギーフォーラムを日本で開催し、電力、石油、天然ガス、石炭、新・再生可能エネルギー、省エネルギー等の分野における政策、今後の計画や協力事業等について議論するとともに、両国関係者間で個別セッションを実施し、新たなプロジェクト形成に向けた議論や、プロジェクト加速化のための懸案事項解消に向けた集中的な議論を行う予定です。
2021年10月に開催された東京ビヨンド・ゼロ・ウィークでは、アリフィン エネルギー・鉱物資源大臣がビデオメッセージを寄せました。
また、2022年1月には萩生田経済産業大臣がインドネシアを訪問し、脱炭素化に向けたインドネシアの事情を踏まえ、幅広い技術・エネルギーを活用した現実的かつ多様なトランジションを進めるため、アリフィン エネルギー鉱物資源大臣との間で、エネルギー・トランジションの実現に関する協力覚書に署名し、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」の下での両国の連携を確認しました。加えて、インドネシアが今年議長を務めるG20での協力を含め、エネルギー分野での協力をより一層深化させることで一致しました。また、石炭輸出の一時停止措置に対して、輸出の早期正常化を働きかけ、インドネシア政府から措置の緩和方針が発表されました。
③日ベトナム協力
ベトナムは、石炭、石油・天然ガス、鉱物資源を豊富に保有する資源国であり、日本にとって重要な良質な無煙炭の供給国です。また、経済産業大臣とベトナム商工大臣を共同議長とする「日ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会」、及び局長級の「日ベトナムエネルギーワーキンググループ」という重層的な政府間対話の枠組みを通じて協力を推進している国の一つです。
2021年12月には第4回日ベトナムエネルギーワーキンググループ、2022年3月には第4回ベトナム産業・貿易・エネルギー協力委員会がそれぞれオンライン形式にて開催され、エネルギー政策全般をはじめ、石油・天然ガス、石炭、再生可能エネルギー、スマートグリッド、省エネルギー等の協力について協議を行いました。また、2021年11月にベトナムのチン首相、ジエン商工大臣が日本を訪問した際には、岸田総理大臣、萩生田経済産業大臣から、AETI)を通じ、ベトナムのエネルギー・トランジションを全面的に支援することを表明し、チン首相、ジエン大臣から歓迎の意向が示されました。ジエン商工大臣との会談後には、「カーボンニュートラルに向けたエネルギートランジション協力のための共同声明」が発出されました。これにより、エネルギー需要が急増しているベトナムにおいて、日本とのエネルギー分野での協力がさらに強化されることが期待されます
④日タイ協力
タイとは、エネルギー政策対話等を通じてエネルギー分野の協力について協議しており、エネルギー需要が急増しているタイにおいて、日本との協力関係が更に強化されることが期待されます。次回のエネルギー政策対話は新型コロナウイルスの感染状況も見極めながら、時宜を捉えて開催すべく調整を行っています。
タイでは国内ガスの生産が減退し、近年LNGの輸入国になっていることから、JOGMEC等の政府関係機関を通じ、LNGバリューチェーン構築に関する人材育成を実施したほか、タイ側からスマートエネルギー分野への協力可能性について言及があったことを踏まえ、2019年12月にジェトロバンコク主催で第一回スマートエネルギーワークショップを行ったのに続き、2020年度には案件形成に向けたFS事業やオンラインセミナーを開催する等、幅広い協力を行いました。
2021年5月には、スパッタナポン副首相兼エネルギー大臣と梶山経済産業大臣との間でオンライン形式にて会談が行われ、タイにおけるカーボンニュートラル実現に向け、タイ側から要請のあった「国家エネルギー計画2022」策定への協力を行うことを表明し、引き続き両国で緊密に連携していくことで一致するとともに、2021年10月に開催された東京ビヨンド・ゼロ・ウィークでは、スパッタナポン副首相兼エネルギー大臣が参加しました。
また、2022年1月には萩生田経済産業大臣がタイを訪問し、プラユット首相への表敬では、日本のグリーン成長戦略とタイのバイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)経済モデルとの連携、エネルギーや産業分野での議論を行いました。加えて、プラユット首相立ち会いのもと、持続可能な成長及び温室効果ガス排出削減を成し遂げるため、AETIを踏まえた多様かつ現実的なエネルギー・トランジションを加速すべく、萩生田経済産業大臣とスパッタナポン副首相兼エネルギー大臣との間で「日本国・経済産業省とタイ王国・エネルギー省間のエネルギー・パートナーシップの実現に関する協力覚書」に署名しました。
⑤日中協力
中国は世界最大のエネルギー消費国であり、中国のエネルギー利用効率の向上は日本のエネルギー安全保障にとって重要な課題です。また、中国においては、大気汚染等の深刻化に対処するとともにCO2排出削減を図るため、エネルギー利用効率の向上や太陽光や風力等の再生可能エネルギーの導入拡大が図られているところです。
こうした状況を踏まえ、2021年11月、経済産業省は中国国家発展改革委員会と「第1回脱炭素化実現に向けた日中政策対話」をオンラインで開催し、日中両国のカーボンニュートラル実現に向けた取組の紹介と意見交換を行いました。また、2021年12月には、日中の官民による省エネルギー・環境協力を推進するためのプラットフォームとして「第15回日中省エネルギー・環境総合フォーラム」を東京と北京を繋いだオンライン形式で開催しました。日本側からは萩生田経済産業大臣、宗岡正二日中経済協会会長他、中国側からは何立峰国家発展改革委員会主任、任鴻斌商務部副部長を始め、両国合わせて700名を超える官民関係者が参加し、11件の協力プロジェクト文書が交換されました。全体会合では、萩生田経済産業大臣から、日本のカーボンニュートラルの実現に向けた取組について紹介するとともに、円滑なエネルギー・トランジションを進めていく上での両国共通の課題解決に向けた連携の必要性について言及しました。加えて、「エネルギー効率の向上(省エネ)分科会」や「水素・クリーン電力分科会」等の4つの分科会を開催し、日中の官民関係者が意見交換を行いました。また、同日には、萩生田経済産業大臣が何立峰国家発展改革委員会主任と会談し、日中の政府間での脱炭素に関する協力の重要性を確認するとともに、政策対話を加速化させることについて議論しました。
⑥日シンガポール協力
シンガポールとは、2017年より両国のエネルギー政策や個別技術等の情報交換を目的とした日シンガポールエネルギー対話を開催してきましたが、2021年6月に梶山経済産業大臣とガン貿易産業大臣との間でオンライン形式にて会談が行われ、「日シンガポールエネルギートランジション対話」を新たに立ち上げることに合意し、同年8月にオンライン形式にて開催された第1回会合では、アジアのエネルギー・トランジション加速化に向けて、トランジション・ファイナンスや水素分野をテーマとして議論を行いました。
また、2022年1月には萩生田経済産業大臣がシンガポールを訪問し、ガン貿易産業大臣との間で、脱炭素化に向けたシンガポールの事情を踏まえつつ、アジアのエネルギー・トランジションの加速化に向けて、トランジション・ファイナンスのあり方を含め、水素、燃料アンモニア、CCUS、カーボンリサイクル等の低炭素技術に関する協力覚書に署名し、AETIの下での両国の連携に合意しました。
(3)エネルギー供給国等との関係強化
①日サウジアラビア協力
サウジアラビアは、世界有数の産油国であるとともに、日本にとって第1位の原油供給国です。また、産油国の中でも特に主要な位置付けにあり、大きな余剰生産能力を持つことから、国際原油市場の安定に大きな影響力を有しています。こうしたことから、石油の大部分を輸入に頼る日本にとって、同国との関係強化は重要な課題であり、2007年に立ち上げた日サ産業協力タスクフォースを通じ、投資促進、人材育成、中小企業支援等、エネルギー分野にとどまらない幅広い協力・関係強化を官民一体となって推進してきました。
日サウジ両国は、2017年3月の安倍総理とサルマン・サウジアラビア国王との首脳会談において、二国間協力の基本的な方向性と具体的なプロジェクトをまとめた「日・サウジ・ビジョン2030」に合意し、新たな戦略的パートナーシップの羅針盤として協力を進めています。2020年12月に、「第5回日・サウジ・ビジョン・2030閣僚会合」をオンライン形式で開催し、エネルギーを含めた幅広い分野での両国間の協力プロジェクトの進展や今後の具体的なアクションについて議論を行いました。
また、2020年8月、梶山経済産業大臣は、アブドルアジーズ・エネルギー大臣との間で電話会議を行いました。会談では、梶山経済産業大臣から、中東情勢や新型コロナウイルスの影響で困難な状況にある中での日本への原油の安定供給に対する謝意を伝達し、今後の安定供給について確認しました。また、カーボンリサイクルを含むエネルギー分野における両国の関係強化についても議論するとともに、2019年のG20議長国として2020年の議長国であるサウジアラビアとマルチの場でも連携していくことで一致しました。
②日UAE協力
アラブ首長国連邦(UAE)は、日本にとって第2位の原油供給国であり、日本企業も権益を保有し、50年以上にわたり油田操業に参画してきました。また、日本の自主開発原油が最も集中している等、日本にとって極めて重要な資源国です。日本との間では、活発なハイレベル往来、エネルギー分野を中心とした幅広い分野での協力を推進してきました。
2020年8月、梶山経済産業大臣は、ジャーベル産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEOとの間でTV会談を行いました。会談では、梶山経済産業大臣から、日本への原油の安定供給に対する謝意を伝達し、アブダビの上流資源開発分野における日本企業の参画について働きかけを行いました。また、来年のUAE建国50周年、再来年の日UAE外交関係樹立50周年等の機会を活用し、エネルギー分野に加え、先端技術、医療等の分野での協力も通じ、引き続き両国間で緊密に連携していくことで一致しました
2020年11月、梶山経済産業大臣は、アブダビ国際石油展示会・会議(ADIPEC)において基調講演を行いました。梶山経済産業大臣からは、菅総理が所信表明演説で宣言した2050年カーボンニュートラルの実現という日本の方針を紹介し、今後アジアを中心にエネルギー需要が拡大していく中で、日本は途上国における化石燃料のクリーンな利用を支援していくこと、また、気候変動、エネルギーの安定供給確保及び持続的な経済成長を実現する「責任あるエネルギー政策」を日本のみならず、途上国にも展開していくことを表明しました。
2021年1月、梶山経済産業大臣は、ジャーベル・産業・先端技術大臣兼ADNOC CEOとの間でTV会談を行いました。会談では、梶山経済産業大臣から、アブダビのエネルギーインフラ等における日本企業の参画について働きかけを行ったほか、水素・アンモニア、カーボンリサイクル等の脱炭素に向けた取組における両国の更なる協力について議論しました。また、UAEとの更なる関係強化に向け、日本は脱炭素も視野に入れた、水素・アンモニア等を含めた包括的な資源外交を展開していくことを表明し、引き続き両国間で緊密に連携していくことで一致しました。
会談後、梶山経済産業大臣はジャーベル大臣兼CEOとともに、経済産業省とADNOC間の燃料アンモニア及びカーボンリサイクルに関する協力覚書(MOC)の署名式に立ち会いました。本覚書では、ADNOCは日本との協力に際し、UAE産業・先端技術省とも緊密に連携することになっており、こうした関係機関の連携も通じ、両分野における二国間協力が加速化することが期待されます。
こうした閣僚級で緊密に働きかけを行った成果もあり、2021年2月10日に、コスモエネルギー開発株式会社は、アブダビの新規陸上探鉱鉱区をADNOCから獲得しました。引き続き、足下のエネルギー安定供給確保に向けて緊密に連携するとともに、脱炭素も視野に入れた、水素・アンモニア等を含めた包括的な資源外交を展開していきます。
③日カタール協力
カタールは、世界第3位の天然ガス埋蔵量を有する資源国であるとともに、日本にとって原油、天然ガスともに第3位の供給国で、エネルギー安全保障の観点で、重要なパートナーです。
2020年10月、梶山経済産業大臣は、アル・カアビー・カタール国エネルギー担当国務大臣との間でTV会談を行い、健全なLNG市場形成に向けて協力していくことで一致しました。また、LNGをはじめエネルギー分野全般における二国間関係強化について議論を行い、2021年の日カタール外交関係樹立50周年等の機会も活用し、引き続き両国間で緊密に連携していくことで一致しました。
④日露協力
2022年2月のロシアによるウクライナ侵略により、同国との関係をこれまでどおりとすることはできませんが、それまでの出来事を振り返れば以下のとおりです。
日露間では、2016年5月の日露首脳会談にて安倍総理からプーチン大統領に提案した8項目の「協力プラン」の下、エネルギーを含む8分野について協力を行いました。
2021年9月、梶山経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣は、シュリギノフエネルギー大臣と電話会談を行い、炭化水素、省エネ・新エネ、原子力の既存の協力分野に加えて、水素、アンモニア、CCUS/カーボンリサイクルに関する協力を新たに進めていくことで合意しました。また、会談後に「持続可能なエネルギー協力に関する共同声明」に署名し、持続可能なエネルギー分野での日露協力の重要性を確認するとともに、2016年からエネルギー協力を議論してきた「日露エネルギー・イニシアティブ協議会」を「日露エネルギー・パートナーシップ協議会」に発展的に改定し、既存の炭化水素、原子力、省エネ・再エネに加え、「水素・燃料アンモニア・CCS・CCU/カーボンリサイクルに関するWG」を新設しました。
2021年10月、岸田総理はプーチン・ロシア大統領と電話会談を行い、8項目の「協力プラン」(エネルギー分野を含む)も含め、幅広い分野で日露関係が発展してきており、脱炭素に向けた新たなエネルギー分野も含め、今後とも二国間関係を強化していくことの重要性を確認しました。