第2節 「経済と環境の好循環の実現」に向けた我が国のエネルギー関連先端技術導入支援や国際貢献

世界のエネルギー需要の重心がアジアにシフトしていることや、エネルギー源の多様化、地球環境問題への対応など、世界のエネルギーをめぐる課題が拡大、深化し、一層複雑化してきています。気候変動問題では、2020年よりパリ協定が本格的に実施となり、2050年カーボンニュートラルを表明する国と地域は120を超えるなど、各国の取組が加速しています。

こうした状況の中、温室効果ガスの太宗を占めるエネルギー分野の取組が重要であり、我が国が厳しいエネルギー制約の中で蓄積してきた技術やノウハウを世界に普及していくため、こうした技術やノウハウを統合化して、再エネ及び省エネ技術、スマートコミュニティ等のインフラという形で国際展開を推進していくことが重要です。2020年においては、案件形成や実証事業を進めることで、こうしたエネルギー・環境分野での国際展開の取組を進めました。

また、途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用するため、二国間クレジット制度(JCM)の構築・実施に取り組みました。  さらに、世界全体のカーボンニュートラルに向けて、個別の挑戦課題とこれらを社会実現する道筋・手法について提示するため、2020年10月には、東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク(ICEF・RD20・TCFDサミット・LNG産消会議・水素閣僚会議・カーボンリサイクル産学官国際会議)を開催しました。世界から、政府だけでなく、産業界、金融界、研究者を結集し、「経済と環境の好循環」の具体的道筋・絵姿を世界共有の価値として提示しつつ、日本から世界へのイノベーションの発信、世界から日本へのインプットという相互作用を不断に発展させていく場としました。

また、ASEAN地域においては、ビジネス主導のエネルギー転換と低炭素技術の普及による「経済と環境の好循環」を促進するために、2019年9月、ASEAN+3エネルギー大臣会合の下、官民イニチアチブCEFIA(Cleaner Energy Future Initiative forASEAN)を立ち上げ、同年11月に第一回官民フォーラム、2021年2月には第二回官民フォーラムを開催しました。CEFIAでは、3要素(低炭素技術・制度・ファイナンス)を一体としてプロジェクトを発展させることでビジネス環境を整備することに注力しており、今後、各国政府だけでなく、研究機関、大学、企業、国際機関及び金融機関等との連携をより促進させて参ります。

<具体的な主要施策>

1.案件形成・実証等の支援

(1)案件形成、事業実施可能性調査

質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業
実施可能性調査事業【 2020年度当初:9.0億円】

省エネ・再エネ等に関する我が国の質の高いエネルギーインフラ技術の導入を通じて、世界のエネルギー起源二酸化炭素の排出量を削減するために、同インフラの導入に係る事業実施可能性調査を実施しました。

(2)人材育成等

新興国等におけるエネルギー使用合理化等に資する事業委託費【 2020年度当初:10.0億円】

省エネ・新エネに係る我が国の先進的な技術・システムの国際的な普及支援のため、新興国を中心に、人材育成を通じた省エネ対策や新エネ導入に関する制度構築支援や、各国動向調査、政策共同研究等を実施しました。

(3)我が国の技術・システムの実証

エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業【 2020年度当初:85.0億円】

省エネ・新エネに係る我が国の先進的な技術・システムの国際的な普及・実用化に向けて、その技術・システムを、相手国の自然条件や規制・制度等に応じて柔軟に設計し、現地における有効性や優位性を可視化するための実証事業を、相手国政府・企業と共同で実施しました。さらに、実証成果を商業ベースでの普及拡大につなげるため、相手国政府による我が国の技術・システムの採用・活用を促す等の各種普及支援についても実施しました。

(4)官民連携を核とした推進体制の強化

①スマートコミュニティ・アライアンス

「スマートコミュニティ」の取組が国際的に拡大する中で、我が国の優れたスマートグリッド関連技術を中核としたスマートコミュニティ等の国際展開を促進することは、我が国としての新たな成長産業の育成にもつながります。このような背景から、海外展開や国際標準を業種横断的に官民が連携して推進していくため、2010年に民間協議会団体の「スマートコミュニティ・アライアンス」(事務局:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))が設立されました。具体的取組としては、我が国発の技術・標準を活用したビジネスの国内外への展開を目指して、国際戦略や国際標準の観点からワーキンググループを設置し、国内の関連機関とも連携しつつ、普及促進・啓発の実施、スマートコミュニティ関連イベントでの講演、GSEF(Global Smart EnergyFederation)などの国際機関との連携を強化しています。

②世界省エネルギー等ビジネス推進協議会

「世界省エネルギー等ビジネス推進協議会」は、2008年、省エネ・新エネ分野での優れた技術を有する我が国の企業・団体により発足しました。本協議会は、44企業・21団体(2021年1月時点)で構成されており、設立以来、政府と経済界が一体となって、関連製品・技術を基にしたビジネスの国際展開を推進しています。

具体的な活動内容としては、地域別・テーマ別にワーキンググループ等を組織し、(ア)フォーラム開催等によるビジネス機会の獲得(今年度は現地会場とオンラインで繋ぐ形式により実施)、(イ)市場分析やプロジェクト発掘に向けた調査、(ウ)海外及び国内での展示会出展、(エ)関連製品・技術を取りまとめた「国際展開技術集」の作成及び周知等を行いました。

2. 二国間クレジット制度(JCM)の推進

(1)JCM の構築・実施【制度】

2013年1月に、モンゴルとの間で初めてJCM実施に係る二国間文書に署名したことを皮切りに、2021年3月時点で17か国(モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ、フィリピン)との間で、JCMを構築しました。

2019年12月に開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)では、パートナー国の代表者が出席したJCMパートナー国会合が開催され、JCMの進捗を歓迎し、JCMプロジェクトのさらなる形成と実施の支援を行うことを共有しました。

(2)JCM プロジェクトの形成の支援

① 民間主導によるJCM等案件形成推進事業【2020年度当初:10.0億円】

JCMの導入に関する二国間文書に署名した相手国において、優れた脱炭素技術・製品等の導入による温室効果ガス排出削減プロジェクトを民間主導で実施し、削減効果を測定・報告・検証することで、地球温暖化対策技術の有効性を実証するとともに、排出削減プロジェクトの発掘・組成を行い、相手国での普及につなげるための事業を行いました。

② 二国間クレジット取得等のためのインフラ整備調査事業委託費【 2020年度当初:10.0億円】

JCMの意思決定機関である二国間合同委員会の運営やクレジットを管理する登録簿等の制度の基盤整備・運用を行うとともに、制度の円滑な運営のため、国内外の類似制度の調査や人材育成等の事業を実施しました。また、官民イニシアティブ(CEFIA)を通じたASEAN地域への民間主導の低炭素技術の普及を目的として、プロジェクト組成や調査等を行いました。

③ 二国間クレジット制度(JCM)基盤整備事業のうち二国間クレジット制度(JCM)基盤整備等事業【2020年度当初:16.5億円】

JCMの効果的・効率的な実施、また、JCMプロジェクトの拡大とさらなる展開に向け、JCMの制度構築、JCMに関する国際的な理解の醸成、JCMの実施対象国の拡大に向けた取組、途上国における排出削減プロジェクトの組成支援及びアジア等の途上国における都市間連携を活用した脱炭素化事業の実現支援を行いました。

④ 二国間クレジット制度(JCM)資金支援事業【2020年度当初:106.9億円】

JCMに署名済み、または署名が見込まれる途上国において、優れた脱炭素技術等を活用したCO2排出削減設備・機器の導入プロジェクトへの資金支援を実施しました。また、導入コスト高から採用が進んでいない優れた脱炭素技術等がアジア開発銀行(ADB)のプロジェクトで採用されるように、ADBの信託基金を通じて、その追加コストを軽減する支援を実施しました。

3.「 環境と成長の好循環」の実現に向けた国際的な議論・取組

(1)東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク

2020年10月、経済産業省は「ビヨンド・ゼロ」(世界全体のカーボンニュートラルとストックベースでのCO2削減)を可能とする革新的技術の確立と社会実装に向けて、個別の挑戦課題と社会実現の道筋・手法を提示することを目指すべく、「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」(10月7 ~ 14日)として、初めて関連の国際会議であるICEF、RD20、TCFDサミット、LNG産消会議、カーボンリサイクル産学官国際会議及び水素閣僚会議を連続的に開催しました。オンラインで開催したこともあり、世界約50か国から300名が講演し、聴衆数は前年の各会議の参加者の約3倍となり、1万名を超えました。

それぞれの会合では、「環境と成長の好循環」の具体的道筋・絵姿を世界共有の価値として提示しつつ、日本から世界へのイノベーションの発信、世界から日本へのインプットという相互作用を不断に発展させていく場とするため、菅総理(TCFDサミット)・梶山経済産業大臣をはじめ、世界各国政府閣僚級、IEA等の国際機関、各国研究機関、イノベーションリーダー、産業界からの参加者が、講演や議論等を行いました。

①Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)

「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」は、世界の産学官のリーダーが一堂に会して技術イノベーションによる気候変動対策を協議することを目的として、安倍前総理の提唱で2014年に発足した国際会議です。2020年10月に開催した第7回年次総会では、「COVID-19を踏まえた『ビヨンド・ゼロ』社会に向けた取組;ジェンダー平等に焦点を当てて」をメインテーマに掲げ、各国政府機関、産業界、学界、国際機関等の約80か国・地域から1,300名以上が参加しました。3つの本会議では、「女性活躍とクリーンエネルギーイノベーション」、「イノベーションを促進するファイナンス」及び「ビヨンド・ゼロの実現に向けて」について講演とパネルディスカッションを実施しました。分科会は、2020年1月に日本が策定した「革新的環境イノベーション戦略」を世界に発信するために、戦略にかかげた5つの領域(①エネルギー転換、②運輸、③産業、④業務・家庭・その他・横断領域、⑤農林水産業・吸収源)に沿った内容で、「水素製造技術と都市利用」、「サーキュラー・エコノミーの実装」など、13のテーマについて議論しました。また、エネルギー・環境分野の優れた技術開発・政策事例を選出するトップ10イノベーションを実施しました。さらに、「バイオマス炭素除去・貯蔵(BiCRS)」をテーマとした、クリーンエネルギーに移行するためのロードマップを作成しました。

②RD20

安倍前総理の提唱により2019年に創設された「RD20(Research and Development 20 for cleanenergy technologies )」は、CO₂大幅削減に向けた非連続なイノベーション創出に繋げるため、クリーンエネルギー技術分野におけるG20の研究機関のリーダーを集めた国際会議です。

第2回会合はオンラインにより2020年9月に技術セッション、同10月にリーダーズセッションを開催し、のべ1,600人の参加登録者がありました。産業技術総合研究所の理事長が議長を務めたリーダーズセッションでは、G20各国の研究機関代表らにより、各国機関におけるクリーンエネルギー技術に関する研究開発の現状及び展望についてプレゼンテーション等が行われました。

第2回会合開催の結果、G20研究機関代表らからの意見を「リーダーズサマリー」として集約し発表するとともに、各国のクリーンエネルギー技術の開発動向を「RD20 Now & Future 2020」として文書に取りまとめ公表しました。加えて産業技術総合研究所と海外研究機関間で22件の共同研究契約の締結に至りました。

③TCFDサミット

気候変動対策に積極的に取り組む企業に対する円滑なESG資金の供給を促すため、我が国は企業による気候変動関連の取組を開示する枠組みであるTCFDの提言に基づく情報開示を推進しており、我が国のTCFD賛同機関数は300機関を超え、世界最多となっています。

2019年10月には東京に各国の産業界・金融界のリーダーが集まり、世界初となる「TCFDサミット」を開催し、気候変動対策に関して、「エンゲージメントの重要性」、「オポチュニティ評価の重要性」などの基本コンセプトに合意しました。

2020年10月9日、経済産業省は第2回TCFDサミットをオンライン開催し、産業界・金融界のリーダーに更なるTCFD提言の活用に向けて議論いただきました。菅総理がTCFD支持を表明し、TCFD提言を実務に定着、発展させていくことを目的に、実務家によるセッションも開催しました。本サミットを通じて、気候関連財務情報開示の認識と知見を共有し、日本から世界に対して、TCFD賛同拡大に向けた取組を発信しました。

④第9回LNG産消会議

LNG産消会議は、生産国・消費国がLNGの長期的な需給見通しの共有と取引市場の透明化に向けた連携を図るプラットフォームとして、2012年より毎年開催しています。

「第9回LNG産消会議」は2020年10月に2012年の第1回開催以来初となるオンライン形式で開催し、27か国の閣僚級や、約60以上の企業・国際機関のトップからいただいたメッセージをホームページに掲載するとともに、当日は世界52か国・地域から約1,900人の参加登録を得て、LNGを取り巻く環境が大きく変化する中で、LNGに期待されること、それに向けて取るべきアクションについて議論を深めました。

会議冒頭の開会挨拶では、梶山経済産業大臣から、気候変動対策にしっかりと取り組みながら、エネルギーの安定供給を確保し、持続的な経済成長を実現するという「責任あるエネルギー行政」の必要性を呼びかけました。その上で、さらに、①クリーンなLNGをよりクリーンに使う世界的潮流を作りあげることを目指すこと、②LNG取引の更なる多様化を通じて、LNGの魅力を向上させていくこと、③COVID-19下でも、日本として、継続的なファイナンス支援やオンラインも活用した人材育成支援を積極的に実行していくことをお伝えするとともに、2016年に策定した「LNG市場戦略」を見直し、新たな時代に即した戦略を策定することを発表しました。また、アジアLNG市場が、世界の気候変動問題にも対応しつつ、経済回復と成長を支え得る存在となるために何が求められるのか、主に①供給国と需要国双方に裨益する持続可能な価格メカニズムの追求、②LNGバリューチェーンにおける脱炭素化の追求、の2つのテーマで議論を行い、今後、産消国双方がさらにWin-Winとなるために必要な要素を検討しました。

⑤第2回カーボンリサイクル産学官国際会議2020

2019年の初めての開催に続き、経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2020年10月13日に第2回カーボンリサイクル産学官国際会議2020を開催しました。22か国・地域から約1,700名が会議に参加し、経済と環境の好循環の実現に向け、CO2を資源として再利用するカーボンリサイクルについて、その意義と取組進捗、そして今後の方向性を発信しました。また、日米間でのカーボンリサイクルに係る協力覚書の締結をはじめ、国際連携を強化しつつ、社会実装に向けた技術開発・実用化に取り組むことを確認しました。

特に昨年の豪州に続き、今回締結した米国とのカーボンリサイクルに係る協力覚書では、技術情報の共有、専門家の相互派遣、テストサンプルの交換等に合意しました。カーボンリサイクル技術に関する両国の強みを組み合わせ、開発・実用化を加速していきます。また、2019年の会議で打ち出した「カーボンリサイクル3Cイニシアティブ」に基づく取組の進捗と今後の方向性を、「プログレスレポート」として発信しました。これまでの日本の技術開発や広島県・大崎上島の実証研究拠点等を紹介し、国際連携の更なる強化を目指します。

(2) ゼロエミッション国際共同研究センターの立ち上げ状況

2019年10月のグリーンイノベーション・サミットにおいて、安倍総理(当時)が世界の英知を集結する「ゼロエミッション国際共同研究拠点」の立ち上げを表明したことを受け、2020年1月29日に国立研究開発法人産業技術総合研究所はゼロエミッション国際共同研究センターを設置しました。研究センター長には2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野 彰博士が就任しました。

当該センターにおいては、国際連携の下、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、CO2分離・利用、人工光合成等、革新的環境イノベーション戦略の重要技術の基盤研究を実施している他、クリーンエネルギー技術に関するG20各国の国立研究所等のリーダーによる国際会議(RD20)や、東京湾岸エリアの企業、大学、研究機関、行政機関等と連携しゼロエミッション技術に係る研究開発・実証、成果普及・活用等に取り組む東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(ゼロエミベイ)の事務局を担うなど、イノベーションハブとしての活動を推進しました。

(3)CEFIA官民フォーラムの開催

アジアにおいて先端技術の導入や普及を通じて、全世界における温室効果ガス排出量の削減に貢献するために、2019年に開催された第16回ASEAN+3エネルギー大臣会合(AMEM+3)において、我が国が提案した新規官民協働イニシアティブ、CleanerEnergy Future Initiative for ASEAN(CEFIA)の立上げが歓迎されました。同イニシアティブの下、定期的に官民フォーラムを開催することとしており、第二回CEFIA官民フォーラムを2021年2月2日に開催しました。本フォーラムでは、ASEANエネルギー協力行動計画(APAEC)への貢献の具体化について議論するとともに、フラッグシッププロジェクトとして、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)、プラントや工場のIoT最適化を図るIoT連携制御“RENKEI”等についての進捗が紹介され、今後の進展に各国から期待が寄せられました。また、金融機関との協力強化や低炭素技術への資金調達(ファイナンス)活性化について議論が行われ、経済産業省及びアジア開発銀行間のCEFIAにおける協力に関する覚書を締結する等、ファイナンス面においてもCEFIAを通じた活動への期待が表明されました。

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース / Task Force on Climate-related Financial Disclosures):G20の要請を受けた金融安定理事会(FSB)が2015年に設置した民間主導のタスクフォース。2017年6月に最終提言を公表し、気候関連のリスク・機会に関する任意の開示フレームワークを提示しました。