はじめに 1-3

我が国では現状、ほとんどのエネルギー源を海外からの輸入に頼り、海外においてエネルギー供給上の何らかの問題が発生した場合、我が国が自律的に資源を確保することが難しいという根本的な脆弱性を有しています。こうした脆弱性は、エネルギー消費の抑制だけで解決されるものではないため、中核的エネルギー源である石油の代替を進め、リスクを分散するとともに、国産エネルギー源を確保すべく努力を重ねてきた歴史があります。

具体的には、(1)二度の世界大戦を経て大規模発電所や工場の電化等により電気市場が拡大し、電力供給量の増大を志向した1900年以降の時代、(2)戦後の復興により、高度経済成長を支える電力市場の成長を踏まえ、石油需要の増大に対応した1940年以降の時代、(3)二度の石油危機を経験し、資源エネルギー庁を新設し、石油のみへの依存状態からの脱却を目指し、①省エネルギー化の促進、②石油備蓄拡大、③天然ガスや原子力の導入を推進した1970 ~ 80年代、(4)電力、ガスの自由化が段階的に始まり、また京都議定書により低炭素という環境価値や再生可能エネルギー導入が注目され、自由化と温暖化の2つの課題に取り組んだ1990年以降の時代、(5)東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故により過去最大の電力供給危機に直面し、3E(エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)に加えS(安全性)の重要性を再認識した2011年以降の時代、(6)世界経済に甚大な影響を与えた新型コロナウイルスによりエネルギー需給を含めた持続可能な社会構築に向けて世界が一斉に舵を切ろうとしている2020年以降の時代それぞれにおいて、エネルギーをめぐる情勢変化を見極めた上で、政策的な対応を進めてきました。エネルギーをめぐる情勢は日々変化しており、現段階で完璧なエネルギー源が存在しない以上、エネルギーセキュリティ確保の取組に終わりはありません。

我が国のみならず、国際的にも、エネルギーセキュリティの確保は重要な課題として位置づけられています。二度の石油危機を契機に設立された国際エネルギー機関(IEA)では、エネルギーセキュリティを設立以来の主要課題として位置づけ、各国に対し政策提言を行っていますが、その内容は世界のエネルギー情勢の変化に応じて、日々拡大してきています。IEAがカバーするエネルギー源は、設立当初の石油から、天然ガス、再生可能エネルギーを含む電力へと拡大を続けています。また、デジタル化の進展に伴い、太陽光・風力等の自然変動電源の大量導入に必要な柔軟性(フレキシビリティ)やサイバーセキュリティの確保など、新たな時代におけるエネルギーセキュリティ要素についても検討が深められています。さらに、カーボンニュートラルの実現に向け、電化し切れない産業の熱需要等を脱炭素化するために必要となる水素やアンモニアなど、新たな燃料に関する検討も始まっています。こうした国際的な議論を概観することも、我が国のエネルギーセキュリティを考える上で有用です。

本章では、まず化石燃料の確保を中心とした我が国のエネルギーセキュリティの取組を概観した上で、足下の構造変化を踏まえて考慮すべき新たなエネルギーセキュリティ要素を示します。最後に、こうした構造変化を踏まえ、主要国と比較しながら、我が国のエネルギーセキュリティの定量的な評価を試みます。