はじめに 1-2
菅内閣総理大臣は2020年10月26日の所信表明演説において、日本が2050年までにカーボンニュートラル1を目指すことを宣言しました。また、菅内閣総理大臣は2021年4月の地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて、「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しました。
それ以前の日本の温室効果ガス削減目標は、2030年度に2013年度比で26%削減するというものであり、これを「国が決定する貢献」(NationallyDetermined Contribution:以下「NDC」という。)として2015年7月及び2020年3月に国連に提出2しています。また、日本の長期的目標は、今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会を実現し、2050年までに温室効果ガスを80%削減するというものであり、これを「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」として2019年6月に国連に提出しています。菅内閣総理大臣の宣言は、これまでの2030年度の温室効果ガス削減目標を大幅に引き上げるとともに、カーボンニュートラルの達成時期を大きく前倒しするものと言えます。
日本の歴史を振り返ると、エネルギー資源に恵まれない中でも経済成長を実現するために常に創意工夫が重ねられてきました。1970年代のオイルショックを契機に、エネルギーの効率的な利用を促進する「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)が制定され、経済成長を維持しながら、世界最高水準のエネルギー消費効率を追求してきました。さらには、1973年には「サンシャイン計画」をスタートし、太陽や地熱、水素などの石油代替エネルギー技術に焦点を当て、重点的に研究開発を進めてきました。
近年、自然災害の激甚化が進み、気候変動に伴うリスクが顕在化してきています。地球温暖化への対応を制約やコストとして捉えるだけでは、必ずしも成長にはつながりません。発想を転換し、地球温暖化への対応を「成長の機会」として捉え、積極的に地球温暖化対策を行うことにより産業構造や社会経済を変革し、次なる大きな成長に繋げていくような「経済と環境の好循環」を作っていくことが重要です。
本章では、各国政府や民間企業が脱炭素化に向けてどのように取り組もうとしているのかを整理した上で、日本が2050年カーボンニュートラルを実現するための課題と道筋、そしてどのように「経済と環境の好循環」につなげていくのかを説明します。