第2節 適正な事業規律の確保

FIT制度開始から7年以上が経過しましたが、FIT制度により参入が急速に拡大した太陽光発電のプレーヤーを中心に、設置工事・メンテナンスの不備等による安全面での不安や、景観や環境への影響等をめぐる地元との調整における課題などが顕在化してきています。

再エネの「主力電源化」に向け、持続的にその導入を拡大していくためには、再エネが地域で信頼を獲得し、地域社会と一体となりつつ、責任ある長期安定的な事業運営が確保されることが不可欠です。こうした問題意識の下、これまでも、安全の確保、地域との共生、太陽光発電設備の廃棄対策等に取り組んできており、一部の再エネ発電事業者には地域に根差した事業運営の重要性が認識されつつあります。

他方、FIT制度の導入を契機に急速に拡大してきた太陽光発電事業に対するものを中心に、再エネ発電事業の実施に対する地域の懸念は依然として存在しており、こうした懸念を払拭し、責任ある長期安定的な事業運営が確保される環境を構築する必要があります。

また、太陽光発電に偏重した導入が進む中、エネルギー安定供給の観点からは、洋上風力発電や地熱発電など立地制約による事業リスクが高い電源も含め、バランスの取れた導入を促進することも重要です。特に、我が国にとって洋上風力発電は、大きな導入ポテンシャルとコスト競争力をあわせ持ち、再エネの最大限の導入拡大と国民負担の抑制の両立において重要な電源として位置づけられます。洋上風力発電のための海域利用ルールの整備として、2019年4月に再エネ海域利用法を施行し、先行利用者との調整の枠組を明確にするとともに、事業予見性の確保及び事業者間の競争を促してコストを低減する仕組みを創設しました。今後も、適切な法律の運用を通じて、洋上風力発電の導入促進を図っていきます。

1.事業規律の確保

(1)安全の確保

①技術基準が定めた「性能」を満たす「仕様」の設定・原則化

現状、「電気事業法(昭和39年法律第170号)」が定めた電気設備の技術基準は、安全上必要な「性能」を国が定めるものであり、これを満たす設備を、事業者の責任で設計・工事・確認し、設置することとなっています。

出力50kW未満の太陽電池発電設備については、その多くがFIT制度の創設以降、発電事業に参入した事業者により設置された設備であり、一部の事業者は、電気保安に関する専門性を有していないため、構造強度が不十分な設備を設置するおそれがあります。技術基準への適合を分かりやすく判別するため、電気事業法に基づく技術基準が定めた「性能」を満たすために必要な部材・設計・設置方法等の「仕様」を定め、これを原則化しました。

②斜面等に設置する際の技術基準の見直し

傾斜地や土地改変された場所への太陽電池発電設備の設置は、平地への設置と比べてリスクが高く、十分な技術的検討を行った上で実施する必要があります。このため、電気事業法の技術基準においても、太陽電池発電設備を、「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)」(以下、「急傾斜地法」という。)の指定する斜面(周辺に一定規模以上の人家や病院等の施設が存在するなど特別な要件を満たす場合)に設置する際には、当該区域内の急傾斜地の崩壊を助長するおそれがないように施設することが定められています。しかし、急傾斜地法の指定を受けていない斜面については、相対的にリスクが低いと考えられていたため、技術基準上特段の定めがありませんでした1

そのため最近の豪雨災害時に、急傾斜地法の指定を受けていない斜面や切土、盛土等の土地改変された場所に設置された太陽電池発電設備が崩落したことを踏まえ、太陽電池発電設備に関する技術基準の見直しを行い、土砂流出を防止する措置を講じることを規定しました。

③小出力発電設備の事後規制の在り方

再エネ発電設備のうち、小出力発電設備(出力50kW未満の太陽電池発電設備、出力20kW未満の風力発電設備等)について、設備件数が飛躍的に増加し、その事故が社会的影響を及ぼした事案も発生している中、安全の確保が不可欠です。一方で、現在、小出力発電設備は報告徴収・事故報告の対象外であり、事故情報をしっかり収集した上で事故原因の究明や再発防止策の実施を行うことが困難であるため、他の発電設備との違いには留意しつつ、新たに報告徴収・事故報告の対象とすることを検討しています。

(2)地域との共生

①FIT認定基準に基づく標識・柵塀設置義務違反案件の取締り

2017年4月に施行された改正再エネ特措法では、FIT認定事業者に対し、発電設備への標識及び柵塀等の設置を義務付けたところであり、これを設置していない事業者に対し、これまで、必要に応じて口頭指導を行ってきました。しかしながら、改正再エネ特措法の経過措置期間(標識及び柵塀等の設置について、改正再エネ特措法施行以前(2017年3月31日以前)に旧認定を受けた発電設備については、改正後の再エネ特措法の認定を受けたものとみなされた日から1年以内に設置することとされています。)を超過した2018年度においても、標識や柵塀等が未設置の設備や柵塀の設置が不適切な設備の情報が引き続き寄せられていました。このため、FIT認定事業者に対し、標識及び柵塀等の設置義務について2018年11月に改めて注意喚起を実施しました。なお、注意喚起後も引き続き標識や柵塀等が未設置との情報が寄せられた案件については、必要に応じ口頭指導を実施しており、今後も、必要に応じて現場確認も行った上で、認定基準違反として、報告徴収、立入検査、指導、改善命令、認定取消し等の厳格な対応を速やかに行っていきます。

②自治体の先進事例を共有する情報連絡会の設置

全国の各地域でトラブルになる再エネ発電設備が増加したことから、改正再エネ特措法においては、条例も含めた関係法令の遵守を義務付け、関係法令遵守違反の場合には、指導及び助言、改善命令、認定取消し等の対応を行うこととしています。この仕組みを実効性あるものとするためには、自治体による条例策定等の自律的な制度整備が必要となりますが、国もそれを支援することが求められています。このため、条例策定など地域での再エネに係る理解促進のための先進的な取組を進めている自治体の事例等を全国に共有する場として、自治体と関係省庁を参加者とする連絡会を2018年10月に新たに設置し、2019度中に計4回実施しております。地域の声に耳を傾け、より実態に応じた事例の展開を行っていくため、地域別の連絡会開催も検討していきます。

(3)太陽光発電設備の廃棄対策

2012年に導入されたFIT制度により導入が急速に拡大した太陽光発電設備は、太陽光パネルの製品寿命(25~ 30年程度)を経て、2040年頃、大量に廃棄される見込みです。こうした将来の太陽光パネルの大量廃棄をめぐって、様々な懸念が広がっており、特に事業の終了後に太陽光発電事業者の資力が不十分な場合や事業者が廃業してしまった場合、太陽光パネルが放置されてしまう、あるいは不法投棄されてしまうのではないかという懸念があります。こうした懸念を払拭するため、2018年度には、これまでは努力義務となっていた廃棄等費用の積立てをFIT認定における遵守事項とし、事業計画策定時に廃棄等費用の算定額とその積立計画を記載することを求めるとともに、認定事業者に毎年提出を義務付けている発電コスト等の定期報告において、廃棄等費用の積立進捗状況の報告を義務化しました。

しかし、それでもなお、積立水準や時期は事業者の判断に委ねられていることもあり、2019年1月末時点で積立てを実施している事業者は2割以下となっています。

こうした状況を踏まえ、FIT制度の対象となっている太陽光発電設備の廃棄等費用を確保するための制度について、原則として外部積立てを求め、長期安定発電の責任・能力を担うことが可能と認められる事業者に対しては内部積立てを認めることも検討するという方向性の下、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会新エネルギー小委員会太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループにおいて、専門的視点から具体的な制度設計について議論を行いました。中間整理の中では、①10kW以上の全ての太陽光発電のFIT認定案件を対象とすること、②原則、認定事業者が受け取る売電収入の中から廃棄等費用を源泉徴収的に差し引き、積立金の管理機関に積み立てること、③積み立てる金額水準を、既に調達価格が決定されている認定案件についてはその調達価格の算定において想定されている廃棄等費用の水準とすること、④積み立てる時期については、一律に調達期間終了前10年間とすること、⑤2022年7月までの適切な時期に制度を施行することなどが取りまとめられました。今後、制度の施行に向けて、必要な法整備等を進めていきます。

他方、前述の「太陽光発電設備の廃棄等費用の積立てを確保するための制度」は、FIT制度の下での発電事業終了後の放置・不法投棄対策を主眼としており、災害等により早期の事業廃止や修繕が発生する場合には、各太陽光発電事業者による独自の積立てや保険加入により手当てされることが期待されます。こうした中で、現行の事業計画策定ガイドラインでは、適切に保守点検・維持管理を実施する体制の構築を求めていますが、特に50kW未満の太陽光発電設備を中心に、保険に加入していない事業者が一定程度存在する状況です。

こうした状況を踏まえ、太陽光発電事業者に災害時の備えを促すため、主力電源化小委員会での議論を踏まえ、新規認定案件・既認定案件ともに、火災保険・地震保険等への加入を努力義務とし、保険料の水準を含めた努力義務化の影響を見極めながら、今後、遵守義務化も検討していきます。さらに、太陽光発電事業者による独自の積立てや保険加入といった自主的な取組を公表対象に加えることを検討していきます。

2.立地制約のある電源の導入促進(洋上風力のための海域利用ルールの整備)

(1)洋上風力をめぐる世界の動き

洋上風力発電には陸上風力発電と比較して次の特徴があります。まずは、陸上と比較して風況が優れているため設備利用率を高めることが可能(世界平均では陸上約30%、洋上約40%)で、また輸送制約等が小さいため大型風車の設置が可能であり建設コスト等を抑えることができるので、コスト競争力のある再エネ電源と言えます。さらに、事業規模は数千億円に至る場合もあり、また1 ~ 2万点と部品数が多いため、部品調達・建設・保守点検等を通じて地元産業を含めた関連産業への波及効果が期待できます。

このような洋上風力発電は、現在世界で最も飛躍的に導入が拡大している再エネ電源の一つです。国際エネルギー機関(IEA)によると、2017年は世界全体で再エネの導入容量は前年比約8%増加しましたが、洋上風力発電だけを見ると前年比約30%も増加しています。また、2017年末時点で洋上風力発電の累積導入量の多い上位5か国は、イギリス、ドイツ、中国、デンマーク、オランダ、となっており、欧州を中心に導入が進んできたことがわかります。

欧州では、1990年にスウェーデンで世界初の洋上風力発電所の実証試験が開始されたのを皮切りに、デンマークやオランダ等で次々に実証試験が行われました。2000年頃からデンマークを中心として事業化を目指した洋上ウィンドファームの建設が始まり、2000年代半ば頃からはイギリス、ベルギー、ドイツ等の参入が進み、欧州全体の導入量は2018年末時点で1,849万kWにまで達しています。このように欧州で洋上風力発電の導入が進んだ背景にはいくつか要因があります。

まず、北海などの欧州の海は風況が良く、また海岸から100kmにわたって水深20 ~ 40mの遠浅の軟弱地盤の地形が続くなど自然的条件に恵まれているのです。加えて、2000年代後半以降、洋上風力発電についてのルール整備が進められ、設置のための調査や、事業を実施する区域の選定、電力系統の確保などについて政府の役割が増しており、これによって事業者の開発リスクが低減されてきたことも大きな要因です。また、入札制度も導入され、事業者間の競争が促されることで、コストが急速に低下している点も重要です。例えば、2015年以降の入札では、落札額が10円/kWhを切る事例や市場価格(補助金ゼロ)の事例も生まれています。

アジアでも、例えば中国は2020年に累積導入量を500万kWにする目標を設定しており、2017年末時点で導入量は280万kWに達しています。また、2018年には台湾で洋上風力発電の大規模な入札が行われ、2025年までに稼働予定の550万kWが落札される等、洋上風力発電の導入拡大に向けた動きが活発化しています。

【第332-2-1】欧州における最近の洋上風力発電の入札の動向

【第332-2-1】欧州における最近の洋上風力発電の入札の動向(ppt/pptx形式:162KB)

出典:
資源エネルギー庁作成

(2)日本の状況と再エネ海域利用法の運用

周囲を海に囲まれた日本にとって洋上風力発電の導入は重要です。2018年に閣議決定されたエネルギー基本計画の中でも「陸上風力の導入可能な適地が限定的な我が国において、洋上風力発電の導入拡大は不可欠である」と位置付けられています。

2000年代後半から、海底地形が急峻で、また台風や地震が多いといった厳しい自然環境への適応やコスト削減を図るための実証事業が国主導のもと行われており、現在の導入量約2万kWはすべて国による実証事業です。こうした実証事業の成果の蓄積やFIT制度の導入、世界の導入実績の増加等を背景に、現在日本でも積極的に商用運転を目指す事業者の動きが活発化しており、例えば、2019年8月末時点の環境アセスメント手続中の案件は約1,260万kWに達しています。こうした中で、次の2つの課題が事業化への大きな障害として顕在化しました。

1つは、「海域の占用に関する統一的なルールがない」ことです。従来、海域の大半を占める一般海域は占用の統一ルールがなく、都道府県が条例に基づき通常3 ~ 5年の占用許可を出す運用がなされていました。FIT制度の調達期間の20年と比較して短期の占用許可しか得ることができないため、中長期的な事業予見性が低くなり、資金調達が困難になっていました。もう1つは、「先行利用者との調整の枠組みが不明確」という課題です。海域を新たに利用するに当たっては、海運業や漁業等の地域の先行利用者との調整が不可欠ですが、調整のための枠組みが存在せず、事業者には大きな負担となっていました。

これらの課題の解決に向けて、2019年4月に再エネ海域利用法が施行されました。

本法律により、図【第332-2-3】で示す手続の流れに基づき、経済産業大臣及び国土交通大臣が、自然的条件が適当であること、漁業や海運業などの先行利用に支障を及ぼさないこと、系統接続が適切に確保されること、等の要件に適合した区域を促進区域として指定し、公募による事業者選定を行います。選定された事業者は、区域内で最大30年間の占用許可を受けるとともに、FIT制度に基づく認定を得ることができます。公募による事業者選定では、長期的・安定的・効率的な事業実施の観点から最も優れた事業者を選定することで、コスト効率的かつ長期安定的な洋上風力発電の導入を促進する仕組みとなっています。

制度運用を進めるため、2019年5月に法律に基づく基本方針(海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針)を策定するとともに、2019年6月には関係審議会での議論を踏まえて、2つのガイドライン(海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン・一般海域における占用公募制度の運用指針)を定めました。

上記の法令・ガイドラインに基づき、2019年7月に、今後の促進区域の指定に向けて、既に一定の準備段階に進んでいる区域として、11区域を整理しました。このうち4区域(「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖(北側・南側)」「千葉県銚子市沖」「長崎県五島市沖」)については、有望な区域として、協議会が立ち上がっており、促進区域の指定及び発電事業の実施等にあたっての利害関係者の合意形成を目指した議論を進めているところです。2019年12月には長崎県五島市沖について、初の促進区域の指定を行いました。当該促進区域においては、今後、事業者選定のための公募が進められることとなります。

また、適切な法律の運用以外にも、浮体式をはじめとした技術開発、系統制約の克服、環境アセスメントの短縮化、基地港湾の整備、等に関係省庁一丸となって取り組み、洋上風力発電の導入拡大を推進していくことが重要になります。

【第332-2-2】日本における洋上風力発電の導入状況及び計画

出典:
資源エネルギー庁作成

【第332-2-3】再エネ海域利用法の手続の流れ

出典:
資源エネルギー庁作成

(3)洋上風力発電の導入促進に向けた港湾法の改正

洋上風力発電設備の設置及び維持管理に利用される基地港湾においては、重厚長大な資機材を扱うことが可能な耐荷重・広さを備えた埠頭が必要であり、高度な維持管理のほか、広域に展開し、参入時期の異なる複数の発電事業者間の利用調整も必要となります。このため、2019年12月に「港湾法の一部を改正する法律(平成29年法律第55号)」が公布され、国が基地港湾を指定し、当該基地港湾の特定の埠頭を構成する行政財産について、国から再エネ海域利用法等に基づく許可事業者に対し、長期的かつ安定的に貸し付ける制度を創設しました。これらの措置を講じることにより、事業の見込みが立ちやすくなり、洋上風力発電事業のより一層の円滑な導入に資することになります。

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ガイドラインに基づき自社Webサイトに情報提供を行っている旨を太陽光発電協会宛に連絡した企業数(2019年2月時点)。